クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2019/05/26
APSN/KSN CME 2019 2/2
5. 膜性腎症アップデート2019
スライドのタイトルは"bane of nephrologists"、「ベイン」とはジレンマや悩みを意味する(破滅という意味もあるそうだが)。確かに診断、治療ともに「こうすればいい」と決まっていない部分が多いので、悩ましいのが膜性腎症だ。
まず診断では、抗PLA2R抗体と抗THSD7A抗体があれば腎生検しなくてもよいのかという悩みが(検査できる地域では)ある。実際、血中の抗PLA2R抗体陽性なら腎生検もせず、悪性腫瘍検索も年齢相応でよいというアルゴリズムも提案されている(JASN 2017 28 421、図)。
メタアナリシスは抗PLA抗体陽性が原発性膜性腎症の感度75%、特異度99%という(Plos One 2014 9 e104936)。しかし、既存データにセレクションバイアスが多く、鵜呑みには出来ないのが現状だ。
治療のジレンマも「治療(免疫抑制)するか、しないか」「何で免疫抑制するか」「再発したらどうするか」など数多い。
膜性腎症はよく「1/3病(自然寛解、不変、進行が同程度)」と呼ばれ、進行リスクの層別化が鍵になる(Nat Rev Nephrol 2013 9 443)。しかし、たとえ進行高リスクでも、高齢で悪性腫瘍による可能性を否定できない場合は免疫抑制のリスク(易感染性や腫瘍増殖)も考慮しなければならない。
免疫抑制の種類は、ポンティチェリ・レジメンは隔世の感で、世界的にはCNI(ポンティチェリと比較されているのはタクロリムス、Nephrology 2016 21 139)、RTX(シクロスポリンと比較したMENTORトライアルが進行中;2017年のASNではRTXの優位性を示す中間報告がなされた)のどちらかを選択する施設が多いようだ。
そして再発については、再発時に何を選択するかの道しるべはないが、再発リスクの評価には抗PLA2R抗体価の推移(陽性例にかぎられるが)が有効なようだ(抗体価がさがっていると再発しにくいデータはKI 2013 83 940、さがっていないと再発しやすいデータはCJASN 2011 6 1285)。
6. CKDのPEW
世界中で蔓延しており、20-50%とも言われる。血液検査でBMIが25を切ると死亡率と負の相関がある(Mayo Clin Proc 2013 88 479)というのは、いわゆる「肥満パラドクス」を裏付けるものであるが、ではどうすればよいか、答えは出ていない。
食事ではタンパクをとってリンを取らない工夫をする(ケト酸の使用も考慮)、運動は機能とQOLを上げるが大規模で死亡率低下を示したデータまではない、薬物療法もミオスタチン阻害薬(FASEB J 2011 25 1653)は実験段階、同化ステロイドは機能向上にはつながらず心血管系リスク上昇が懸念され、食欲刺激薬(megastrol、dronabinol、cyproheptadine、melatonin、ghrelinなど)も効果はさまざまだ。
尿毒素を除けば食欲が改善するのでは?と期待したいが、まだ確実な方法がない(こちらも参照)。
7. HD中の低血圧予防についての進歩
このトークも前項とおなじで、とてもコモンな問題だが"one fits all solution"はない(写真)。定義が単なる血圧低下(収縮期20mmHg以上)ではなく「症状があり何らかの看護介入を必要とするもの」なことは知っておいてよいかもしれない。
8. ADPKDに対する新規治療
新規治療といいつつも、お話はトルバプタンだった。ADPKD患者の割合は日本なら新規透析患者全体の2%程度で一定しているが、「それは数としては年々増えているということだ」という指摘にハッとした。
また、根治療法がないことと、透析開始年齢が62歳(全体だと68歳、いずれも日本のデータ)なことを考えると、数年(eGFR 60ml/min/1.73m2群で6年、45で4年、30で2年)透析を遅らせることに大きな意義があるという主張も頷けた。
REPRISEトライアルのサブ解析では55歳以上で有意差がなかったこと、TEMPOでドロップアウトが30%だったことなどから、とくに海外からは価格に見合った効果があるのかという質問がつきもののトルバプタン。しかしレクチャ翌日、ADPKDが専門の米国医師と個人的に話すと、やはり「とにかく今は他にないから」という結論だった。
現時点で次の候補はソマトスタチンアナログだが、Octreotide-LARはeGFR15-40の群で腎容積増大を遅らせた(ALADIN2、PLoS Med 2019 16 e1002777)ものの、Lanreotideは効果ないばかりか腹部症状と肝のう胞感染リスクが上昇していた(JAMA 2018 320 2010)など、道は遠い。
おそらく演者や座長でなければ、日本からしかも全8レクチャに参加したのは筆者だけと思われる。ノートは全部とったが、分かりやすさ・興味・体力などの問題で、質と量にばらつきがあることをご了承されたい。理解の助け、話題提供など、何かの役に立てば幸いである。
(写真は日本でも韓国でもみかける、サギの仲間。ソウル大公園で筆者撮影)
2017/12/05
甘い水はお好き?中心静脈栄養と腎臓内科
「あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ」という言葉をご存知だろうか。『ホタル取り』という唄の歌詞だそうだ(わたしはてっきり、おばあさんのこの言葉で川を流れていた桃太郎の桃が寄ってきたのかと勘違いしていた)。実際にホタルが甘い水を好むかは知らないが、いかにも風雅な慣習だ。
日本ではあまり見られなくなったホタルだが、米国ではfirefly(lightning bugとも)と呼ばれ、初夏のちょっとした芝生や木立にたくさんいる(写真)。風物詩として、Rodney Atkinsの"It's America"にもfireflies in June and kids sellin' lemonadeという歌詞がでてくる。こちらは軽快な愛国カントリーだ。
日本ではあまり見られなくなったホタルだが、米国ではfirefly(lightning bugとも)と呼ばれ、初夏のちょっとした芝生や木立にたくさんいる(写真)。風物詩として、Rodney Atkinsの"It's America"にもfireflies in June and kids sellin' lemonadeという歌詞がでてくる。こちらは軽快な愛国カントリーだ。
さて、腎臓内科の輸液といえば電解質ばかり考えているイメージかもしれないが、じっさいには糖とか他のものも入っている。というわけで、そんな輸液の代表である中心静脈栄養をオーダーしていたら、組成のところにこう書いてあるのに気づいた。
・1000mlあたりの電解質
Na+ 50mEq
K+ 22mEq
Mg2+ 4mEq
Ca2+ 4mEq
Cl- 50mEq
SO42- 4mEq
Acetate- 41mEq
L-Lactate- 12mEq
Citrate3- 8mEq
P 5mmol
陽イオンの和は80mEq。陰イオンの和は、115mEqだから、あわない。どういうことか?これについて添付文書は明示していないが、おそらく差である「陽イオン・ギャップ」はunmeasured cationで、その多くはアミノ酸と思われる。アミノ酸は陽性荷電するアミノ基と陰性荷電するカルボキシル基をもっているけれど、輸液のpHがひくいので多くが陽性に荷電していると考えられるからだ。
以前は、アミノ酸の陽性荷電にマッチする陰イオンの多くはCl-で、身体に入るとアミノ酸が分解されるのにCl-が残って高Clアシドーシスの原因になっていた。しかし、酢酸やクエン酸などの有機酸イオンにしてアシドーシスが避けられたという論文(Nutrition 2000 16 260、日本の研究)もでて、Cl-でマッチさせる製剤はあまり見なくなった。
ほかにも中心静脈栄養には、アシドーシスを起こしうるメカニズムがいくつかあるので参考文献(Indian J Crit Care Med 2015 19 270)なども参考にしてほしい。私は上室と下室というように隔てて保存され、直前に混ぜるようになっている理由すら知らなかった(知らない人がもしいたら、メイラード反応を避けるため)ので、反省だ。腎臓内科に関係ないもんねと思っていた。
「蛍の光」といえば日本では卒業式(英国では大晦日で、蛍は関係ない)だが、腎臓内科の卒業は遠い。苦手分野の克服しながら一歩一歩学んでいきたい。
・1000mlあたりの電解質
Na+ 50mEq
K+ 22mEq
Mg2+ 4mEq
Ca2+ 4mEq
Cl- 50mEq
SO42- 4mEq
Acetate- 41mEq
L-Lactate- 12mEq
Citrate3- 8mEq
P 5mmol
陽イオンの和は80mEq。陰イオンの和は、115mEqだから、あわない。どういうことか?これについて添付文書は明示していないが、おそらく差である「陽イオン・ギャップ」はunmeasured cationで、その多くはアミノ酸と思われる。アミノ酸は陽性荷電するアミノ基と陰性荷電するカルボキシル基をもっているけれど、輸液のpHがひくいので多くが陽性に荷電していると考えられるからだ。
以前は、アミノ酸の陽性荷電にマッチする陰イオンの多くはCl-で、身体に入るとアミノ酸が分解されるのにCl-が残って高Clアシドーシスの原因になっていた。しかし、酢酸やクエン酸などの有機酸イオンにしてアシドーシスが避けられたという論文(Nutrition 2000 16 260、日本の研究)もでて、Cl-でマッチさせる製剤はあまり見なくなった。
ほかにも中心静脈栄養には、アシドーシスを起こしうるメカニズムがいくつかあるので参考文献(Indian J Crit Care Med 2015 19 270)なども参考にしてほしい。私は上室と下室というように隔てて保存され、直前に混ぜるようになっている理由すら知らなかった(知らない人がもしいたら、メイラード反応を避けるため)ので、反省だ。腎臓内科に関係ないもんねと思っていた。
「蛍の光」といえば日本では卒業式(英国では大晦日で、蛍は関係ない)だが、腎臓内科の卒業は遠い。苦手分野の克服しながら一歩一歩学んでいきたい。
2017/05/12
残腎機能で補正したnPCR
透析前HCO3濃度が低い群は、しっかりタンパクを摂っているからMICSになりにくく結局予後がよいのではないか、という米透析施設大手DaVitaコホートをつかった論文(以前にふれた)を2006年にだすなど、いわゆるreverse epidemiologyやMICSについて調べ続けているグループからまた論文がでた(doi:10.2215/CJN.13141216)。
やはり対象はDaVitaのコホート、約3万6000人。以前にふれたタンパク摂取量の指標であるnPCRを、spKt/Vをもちいた透析分だけでなく残腎機能の分(rCLurea)も補正しnPCRdial+renalとした。これとアルブミンの値や死亡率との相関をみたところ、導入時のnPCRdial+renalが高い群(1.0g/kg/d以上)ほどアルブミン3.8g/dl以上を維持する割合が高く、死亡率も低かった。
残腎機能を補正したnPCRdial+renalが高い群は低い群よりもspKt/Vがたかく(1.53にたいして1.66)、残腎機能がおおく(尿素クリアランス2.62に対して4.38ml/min/1.73m2)、タンパク摂取がおおいためかHCO3が低め(22.7に対して23.7mEq/l)でリンやHgbが高めだったが、これらを補正しても上記は有意だった。さらに透析開始6ヵ月後のnPCRdial+renal変化をみると、下がった群で死亡率がたかく上がった群で死亡率は低かった。
きれいな結果だが、あらたな疑問がいろいろでてくる。
残腎機能が残っているほどよい、という考えはCANUSAスタディとも通じる(以前にふれた)。利尿薬を使い続けたり、造影剤やNSAIDsを引き続き避けたほうがよいのだろうか。腎機能が残っているうちに透析したほうがいいのだろうか?KDIGOは透析患者さんに1.2g/kg/dのタンパク摂取を推奨するが、それでいいのか?食べられない人が食べるにはどうすれば?その原因(炎症をふくむ)をみつけて治してあげられれば一番だが…。
栄養のお話は、ほんとうに、これからだ。楽しみでもある。
やはり対象はDaVitaのコホート、約3万6000人。以前にふれたタンパク摂取量の指標であるnPCRを、spKt/Vをもちいた透析分だけでなく残腎機能の分(rCLurea)も補正しnPCRdial+renalとした。これとアルブミンの値や死亡率との相関をみたところ、導入時のnPCRdial+renalが高い群(1.0g/kg/d以上)ほどアルブミン3.8g/dl以上を維持する割合が高く、死亡率も低かった。
残腎機能を補正したnPCRdial+renalが高い群は低い群よりもspKt/Vがたかく(1.53にたいして1.66)、残腎機能がおおく(尿素クリアランス2.62に対して4.38ml/min/1.73m2)、タンパク摂取がおおいためかHCO3が低め(22.7に対して23.7mEq/l)でリンやHgbが高めだったが、これらを補正しても上記は有意だった。さらに透析開始6ヵ月後のnPCRdial+renal変化をみると、下がった群で死亡率がたかく上がった群で死亡率は低かった。
きれいな結果だが、あらたな疑問がいろいろでてくる。
残腎機能が残っているほどよい、という考えはCANUSAスタディとも通じる(以前にふれた)。利尿薬を使い続けたり、造影剤やNSAIDsを引き続き避けたほうがよいのだろうか。腎機能が残っているうちに透析したほうがいいのだろうか?KDIGOは透析患者さんに1.2g/kg/dのタンパク摂取を推奨するが、それでいいのか?食べられない人が食べるにはどうすれば?その原因(炎症をふくむ)をみつけて治してあげられれば一番だが…。
栄養のお話は、ほんとうに、これからだ。楽しみでもある。
2017/05/04
アシドーシスの裏テーマ 4(治療)
酸負荷がおおく酸排泄がすくなければ酸がたまる。ならば酸負荷のすくない食事をとってはどうか?と考えるのは、まあ理にかなっている。みてきたように酸はタンパクに、アルカリは野菜と果物におおいので、ひとつはタンパクを減らすこと、もうひとつは野菜や果物を増やすことだ。
たんぱく制限はMDRDスタディの頃から長い歴史があって、最近VLPD(very-low protein diet) がふたたび注目されていることは以前書いたが、たんぱく制限は以前からおこなわれてきたし、最近プロテイン消耗(PEW)の問題がわかってきたこともありなかなか難しい。
いっぽうの野菜と果物を多く摂るほうはどうか。以前にも書いたが、酸負荷を50%に減らすように計算して野菜と果物を貧しい高血圧性CKD患者さんにただで配るテキサスのGoyara先生らのグループがCKD1-2、3、4それぞれについての「3部作」を発表した(KI 2012 81 86、CJASN 2013 8 371、KI 2014 86 1031)。野菜と果物を摂ると重曹と同様に酸負荷がへり腎障害マーカーがへり腎機能低下が抑えられ、カリウムは増えなかった。
これを受けて、「新しい腎臓病食」をつくろう、という論説を海外雑誌でたくさんみかける。タイトルも「お皿になにを盛ればいい?」(AJKD 2017 69 436)、「食事の酸負荷をへらすには」(J Ren Nutrition、doi:10.1053/j.jrn.2016.11.006)、「食の西洋化・産業化と腎臓病」(AJKD、doi:10.1053/j.ajkd.2016.11.012、こんな口絵まで)、「CKD患者さんの食事、見直すべき?」(BMC Nephrology 2016 17 80)など刺激的だ。
もっともすべての野菜と果物がアルカリなわけでもすべてのたんぱく質が酸なわけでもない。上に書いたようにタンパク不足にはPEWの心配もある。ほかにも塩分にリンに、考えることはたくさんあるから、総合的に考えるには栄養師さんとの協力が不可欠だ。これらの動きでCKD患者さんの利益になればいいと思う。たとえば、透析があまり普及していない東ネパールで政府とISNがコラボして、減塩と野菜摂取励行などによりCKD進行を予防する試みも行われている(Lancet Global Health 2014 2 e506、写真はDharan Hill Station)。
たんぱく制限はMDRDスタディの頃から長い歴史があって、最近VLPD(very-low protein diet) がふたたび注目されていることは以前書いたが、たんぱく制限は以前からおこなわれてきたし、最近プロテイン消耗(PEW)の問題がわかってきたこともありなかなか難しい。
いっぽうの野菜と果物を多く摂るほうはどうか。以前にも書いたが、酸負荷を50%に減らすように計算して野菜と果物を貧しい高血圧性CKD患者さんにただで配るテキサスのGoyara先生らのグループがCKD1-2、3、4それぞれについての「3部作」を発表した(KI 2012 81 86、CJASN 2013 8 371、KI 2014 86 1031)。野菜と果物を摂ると重曹と同様に酸負荷がへり腎障害マーカーがへり腎機能低下が抑えられ、カリウムは増えなかった。
これを受けて、「新しい腎臓病食」をつくろう、という論説を海外雑誌でたくさんみかける。タイトルも「お皿になにを盛ればいい?」(AJKD 2017 69 436)、「食事の酸負荷をへらすには」(J Ren Nutrition、doi:10.1053/j.jrn.2016.11.006)、「食の西洋化・産業化と腎臓病」(AJKD、doi:10.1053/j.ajkd.2016.11.012、こんな口絵まで)、「CKD患者さんの食事、見直すべき?」(BMC Nephrology 2016 17 80)など刺激的だ。
もっともすべての野菜と果物がアルカリなわけでもすべてのたんぱく質が酸なわけでもない。上に書いたようにタンパク不足にはPEWの心配もある。ほかにも塩分にリンに、考えることはたくさんあるから、総合的に考えるには栄養師さんとの協力が不可欠だ。これらの動きでCKD患者さんの利益になればいいと思う。たとえば、透析があまり普及していない東ネパールで政府とISNがコラボして、減塩と野菜摂取励行などによりCKD進行を予防する試みも行われている(Lancet Global Health 2014 2 e506、写真はDharan Hill Station)。
2017/05/02
アシドーシスの裏テーマ 2(PRAL、NEAP、NAE)
動物の食餌にふくまれる酸を見積るDCADについて書いたが、人間の食事ではどうか?よく用いられる式がいくつかある。ひとつは、食事そのものの成分をみるRemerの式(J Am Diet Assoc 1995 95 791)だ。
0.49 x たんぱく[g/d] + 0.03 x リン[mg/d] - 0.021 x カリウム[mg/d] - 0.026 x マグネシウム[mg/d] - 0.013 x カルシウム[mg/d]
で、S(たんぱく)・Pは酸でK・Mg・Caはアルカリという動物のDCADと同様の考え方だ。これをPRAL(Potential Renal Acid Load)と呼び、これを元にさまざまな食品がどれくらい身体に酸性、アルカリ性かをしらべることができる(ACKD 2013 20 141)。
ただし、どのミネラルとタンパクをどれだけ食べたかを推計するのは手間で不正確だし、どれだけ吸収されているかもわからない。身体のなかで新たにつくられる酸もある(おもに有機酸)。じっさいにほしいのは、身体で1日につくられる(捨てなければならない)酸の量だ。
そこで、ベルナールがいうように恒常性が保たれるならば「身体に入ってきた+身体のなかで新たにつくられた有機酸の量」と「排泄された酸の量」は同じでしょ、という前提を導入する。前者をNEAP(Net Endogenous Acid Production)、後者をNAE(Net Acid Excretion)と呼ぶ。健常人ならNEAPとNAEは同じで、身体に酸はたまらないはずである。
NEAPをさきほどのPRALから求めるには、体表面積や体重で推定した有機酸(organic acid、OA)の量を足す。OA[mEq/d]は
41 x 体表面積[m2] / 1.73m2 または 体重[kg] x 0.66
だ。あるいは、ふたつめのFrassettoの式(Am J Clin Nutr 1998 68 576)で食事のたんぱく量とカリウム量から以下のように推計する。
54.5 x たんぱく[g/d] / カリウム[mEq/d] - 10.2
いっぽうNAEは、尿からもとめる。
NH4+ + 滴定酸 - HCO3-
しかし、24時間蓄尿しなければならず、またアンモニアやCO2が揮発しないよう工夫(油の膜を表面にはるとか)するのも手間だ。
このように酸の1日摂取量・産生量・排泄量はそれぞれPRAL、NEAP、NAEとよばれ、体格と食事量、蓄尿などで算出できる。腎臓が正常な例で、いくつもの仮定をたててつくられた式ではあるけれど、最近はこれらの式と概念がCKD領域の疫学研究に用いられ、治療への応用も示唆されるようになってきた。つづく。
0.49 x たんぱく[g/d] + 0.03 x リン[mg/d] - 0.021 x カリウム[mg/d] - 0.026 x マグネシウム[mg/d] - 0.013 x カルシウム[mg/d]
で、S(たんぱく)・Pは酸でK・Mg・Caはアルカリという動物のDCADと同様の考え方だ。これをPRAL(Potential Renal Acid Load)と呼び、これを元にさまざまな食品がどれくらい身体に酸性、アルカリ性かをしらべることができる(ACKD 2013 20 141)。
ただし、どのミネラルとタンパクをどれだけ食べたかを推計するのは手間で不正確だし、どれだけ吸収されているかもわからない。身体のなかで新たにつくられる酸もある(おもに有機酸)。じっさいにほしいのは、身体で1日につくられる(捨てなければならない)酸の量だ。
そこで、ベルナールがいうように恒常性が保たれるならば「身体に入ってきた+身体のなかで新たにつくられた有機酸の量」と「排泄された酸の量」は同じでしょ、という前提を導入する。前者をNEAP(Net Endogenous Acid Production)、後者をNAE(Net Acid Excretion)と呼ぶ。健常人ならNEAPとNAEは同じで、身体に酸はたまらないはずである。
NEAPをさきほどのPRALから求めるには、体表面積や体重で推定した有機酸(organic acid、OA)の量を足す。OA[mEq/d]は
41 x 体表面積[m2] / 1.73m2 または 体重[kg] x 0.66
だ。あるいは、ふたつめのFrassettoの式(Am J Clin Nutr 1998 68 576)で食事のたんぱく量とカリウム量から以下のように推計する。
54.5 x たんぱく[g/d] / カリウム[mEq/d] - 10.2
NH4+ + 滴定酸 - HCO3-
しかし、24時間蓄尿しなければならず、またアンモニアやCO2が揮発しないよう工夫(油の膜を表面にはるとか)するのも手間だ。
このように酸の1日摂取量・産生量・排泄量はそれぞれPRAL、NEAP、NAEとよばれ、体格と食事量、蓄尿などで算出できる。腎臓が正常な例で、いくつもの仮定をたててつくられた式ではあるけれど、最近はこれらの式と概念がCKD領域の疫学研究に用いられ、治療への応用も示唆されるようになってきた。つづく。
2017/02/16
チキン?それともビーフ?
病院の医局にいけばだいたい本棚があって、ふるい雑誌が並んでいる。背表紙が日に焼けていることもあるが、それを背にして話すとなんとなく権威的だ(テレビの取材などでみかける)。紙媒体はかさばるし、資源と輸送の手間の無駄だし、捨てるたびに気が咎めるが、何にでもいい面はある。きょう届いたJASN紙媒体にでた赤身肉とESRDリスクの論文は(JASN 2017 28 304)半年以上前にオンラインで発表されていたが、紙で遅れて来たので読み直すきっかけになった。
45-74歳の中国系シンガポール成人コホートをフォローし、165項目の半定量的な食事質問票をもとにさまざまな蛋白源の摂取量別にESRDリスクを解析すると、赤身肉、鶏肉、魚介、卵、豆類などを調べると、赤身肉に有意に用量依存性の相関がみられた。赤身摂取量が多い群は野菜とくだものの摂取量がすくなく、運動量も少なかったが、それらを加味した多変数解析でも、もっとも多い群は少ない群よりESRDリスクが40%たかかった(CI 1.15-1.71)。
Singapore Chinese Health Studyは生活習慣とさまざまな疾患の関係を調べるために1993年から1998年まで行われた。シンガポールは都市国家で、対象の中国系は遺伝的社会的に均質性が高く、疫学研究が行いやすかったのかもしれない。質問票の正確さについて検証が不十分などの批判的吟味は必要だが、結果には一定の説得力がある。またたんぱく摂取量があまり多くない日本で、量を減らすより質をかえるほうが有効ならば治療改善の余地があるから、スタディする価値があると思う。つづく。
45-74歳の中国系シンガポール成人コホートをフォローし、165項目の半定量的な食事質問票をもとにさまざまな蛋白源の摂取量別にESRDリスクを解析すると、赤身肉、鶏肉、魚介、卵、豆類などを調べると、赤身肉に有意に用量依存性の相関がみられた。赤身摂取量が多い群は野菜とくだものの摂取量がすくなく、運動量も少なかったが、それらを加味した多変数解析でも、もっとも多い群は少ない群よりESRDリスクが40%たかかった(CI 1.15-1.71)。
Singapore Chinese Health Studyは生活習慣とさまざまな疾患の関係を調べるために1993年から1998年まで行われた。シンガポールは都市国家で、対象の中国系は遺伝的社会的に均質性が高く、疫学研究が行いやすかったのかもしれない。質問票の正確さについて検証が不十分などの批判的吟味は必要だが、結果には一定の説得力がある。またたんぱく摂取量があまり多くない日本で、量を減らすより質をかえるほうが有効ならば治療改善の余地があるから、スタディする価値があると思う。つづく。
2016/10/25
薄切り肉を圧力鍋で茹でる
東洋医学で医食同源とか身土不二(신토불이、シントブリ)とかいうし、西洋はyou are what you eatとか言うけれども、腎臓内科ほど栄養・食事と深く関わる科もそうないのかなと思う。なかでもリンは、透析であまり除けないのに多くの食品に入っているので、その人ごとにあわせた工夫が必要だ(最近は大手コンビニでもパンや加工食品のリンを減らしているところがある)。
それで腎臓系で栄養系の雑誌というのもたくさんあって、以前に肉をさまざまな方法で調理することでリン残量が変わるかをみた論文(J of Renal Nutrition 2015 25 504)があった。結果、薄切りした肉を圧力鍋で茹でるとリンがもっとも落ちたという。煮汁は捨てなければならないだろうから、どう味を保つかは別問題だが(フルで論文を読めば提案してあるかもしれない)。
なお、これは日本の研究だ。見なくてもわかる。薄切り生肉は東アジアの食文化だと思われるからだ。米国のスーパーや肉屋にいっても薄切りした生肉はみない(ハムなどの塩漬け肉、ローストビーフのような調理済みの肉は除く)。東アジア食材店にいけば、ある。どうしてだろう。
2016/07/09
Renal Supplements
2008年に冬眠するクマ(図)が尿毒症にならない仕組みにアミノ酸リサイクリングが考えられていると聴いて腎臓に興味を持っていたら、2013年にクマの論文が腎臓内科雑誌にでて、腎臓内科医は動物好きだなと改めて思った。しかしアミノ酸リサイクリングをしているのはクマだけではないらしい。アイソトープで標識したアミノ酸を用いた実験などで、じつは60kgのヒトで毎日250−300gのたんぱく質が入れ替わっており、そのうち100−120gが筋肉だという(CJASN 2016 11 1131)。しかし、それだけのたんぱくを全部CO2まで異化分解して1から作りなおすのは大変なのでアミノ酸リサイクリングをしており、結局1日に補うたんぱく必要量は50-80gで済んでいる。
さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。
ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。
ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。
カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。
一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。
こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。
なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。
さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。
ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。
ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。
カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。
一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。
こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。
なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。
2016/06/23
MIS, GNRI, %CGR and nPCR
透析患者ではBMIが高いほど生存率にアドバンテージがある現象はreverse epidemiologyとかobesity paradoxとか呼ばれて何十年も前から知られている(いまはUC IrvineにいるDr. Kamyar Kalantar-Zadehがたくさん論文を書いている)。他にもCOPD、心不全、関節リウマチ、担癌患者、80才以上などで調べられて、これらの群では肥満の害よりも低栄養・炎症・消耗の害が先に予後規定因子になると考えられ、MICS(malnutrition inflammation complex syndrome)という言葉が生まれた。
で、何を今更という気もするがヨーロッパ各国の透析患者コホートを炎症(CRP 1mg/dl以上 and/or Alb 3.5g/dl以下)の要素で分け3年フォローすると炎症群にobesity paradoxがみられ非炎症群ではobesity paradoxが消えた(JASN 2016 27 1479)。いままで調べられていなかったのだろうか。
MICSの指標として、一般的なSGA(subject global assessment)と透析患者用のDMS(dialysis malnutrition score)を参照した10項目30点満点のMIS(malnutrition inflammation score)がつくられた(AJKD 2001 38 1251)。その後validateされ(AJKD 2009 53 298)MISはいまでもスタンダードとされているので簡単にあげると(カッコ内は順に0点、1点、2点、3点)、
①体重減少
(3−6ヶ月に0.5kg以内、1kg以内、体重5%以内、体重5%以上)
②食事摂取
(変化なし、軽度低下、中等度低下〜流動食、カロリー不足〜飢餓)
③消化器症状
(なし、食思不振〜悪心、たまの嘔吐〜中等度症状、頻回の下痢や嘔吐・重度の食思不振)
④身体機能
(異常なし、たまの歩行障害〜頻回のだるさ、ADL半介助、ADLほぼ介助)
⑤合併症・透析年数
(合併症なし+透析1年以下、MCC*以外の軽度合併症または透析1−4年、MCC1個ないし中等の合併症または透析4年以上、MCC2個以上ないし重度合併症)
*major comorbid conditions:重度心不全、重症AIDS、重症冠動脈疾患、中等〜重症COPD、重度神経合併症、転移がん、化学療法後
⑥脂肪減少←脂肪貯蔵量、目の下・三頭筋・二頭筋・胸部の皮下脂肪
(正常、軽度、中等度、重度)
⑦筋肉消耗←こめかみ・鎖骨まわり・肩甲骨まわり・肋間・四頭筋・膝まわり・手の骨間筋
(正常、軽度、中等度、重度)
⑧BMI
(20kg/m2以上、18以上、16以上、16未満)
⑨アルブミン
(4g/dl以上、3.5以上、3以上、3未満)
⑩TIBC
(250mg/dl以上、200以上、150以上、150未満)
このときすでにCRP(ただし10ng/ml以上の増加だから高感度か)も入れてはどうかという議論があったが、アルブミンに換えていれるよりはよい、とか11個にしても変わらない、いう話でたとえばTIBCと換えるという話はなかった(というのも、TIBCのほうが先に研究されていたから;AJKD 1998 31 263)。
ところでMISはSGAをひきずっているので脂肪減少や筋肉消耗の評価に少しの経験を要するし、10項目は多い。それで簡便なものはないかと日本の医師と栄養学の研究者の先生方がお調べになって(Am J Clin Nutr 2008 87 106)、フランスうまれのGNRI(geriatric nutritional risk index)が透析患者でMISによく相関するとわかった。これは体重(透析後体重すなわちDW)と理想体重(BMI 22で計算)とアルブミンしか使わない簡便な下式で、体重と理想体重の比が1以上のときは1とする。GNRIは91.2以下で低栄養をよくスクリーニングする。
…ということは日本で透析を勉強するまで知らなかったが、日本でもまだ全国的に用いられているわけではないようだ。また透析患者の筋肉量を推定する%CGR(creatinine generation rate;性別・年齢をマッチさせた非糖尿病患者に対する比)はfrail、sarcopenia、protein energy wasting、ADLなどいろいろ相関する。
これを出すには本当は透析後Crと次回透析前Crがほしいのだが、その手間を省くためクレアチニンのKt/Vを応用したりして計算式を追加している。また内因性クレアチニン産生をみるためには外因性クレアチニン(食事由来)の分を差し引く必要があり、それにnPCR(normalized protein catabolic ratio;本来はBUNをもとにたんぱく摂取量を推定するもの)を応用した式を使う。Logがたくさん出てきたりかなり複雑な式だから、ソフトを導入するなど積極的に取り組んでいる施設で用いられている印象だ。
で、何を今更という気もするがヨーロッパ各国の透析患者コホートを炎症(CRP 1mg/dl以上 and/or Alb 3.5g/dl以下)の要素で分け3年フォローすると炎症群にobesity paradoxがみられ非炎症群ではobesity paradoxが消えた(JASN 2016 27 1479)。いままで調べられていなかったのだろうか。
MICSの指標として、一般的なSGA(subject global assessment)と透析患者用のDMS(dialysis malnutrition score)を参照した10項目30点満点のMIS(malnutrition inflammation score)がつくられた(AJKD 2001 38 1251)。その後validateされ(AJKD 2009 53 298)MISはいまでもスタンダードとされているので簡単にあげると(カッコ内は順に0点、1点、2点、3点)、
①体重減少
(3−6ヶ月に0.5kg以内、1kg以内、体重5%以内、体重5%以上)
②食事摂取
(変化なし、軽度低下、中等度低下〜流動食、カロリー不足〜飢餓)
③消化器症状
(なし、食思不振〜悪心、たまの嘔吐〜中等度症状、頻回の下痢や嘔吐・重度の食思不振)
④身体機能
(異常なし、たまの歩行障害〜頻回のだるさ、ADL半介助、ADLほぼ介助)
⑤合併症・透析年数
(合併症なし+透析1年以下、MCC*以外の軽度合併症または透析1−4年、MCC1個ないし中等の合併症または透析4年以上、MCC2個以上ないし重度合併症)
*major comorbid conditions:重度心不全、重症AIDS、重症冠動脈疾患、中等〜重症COPD、重度神経合併症、転移がん、化学療法後
⑥脂肪減少←脂肪貯蔵量、目の下・三頭筋・二頭筋・胸部の皮下脂肪
(正常、軽度、中等度、重度)
⑦筋肉消耗←こめかみ・鎖骨まわり・肩甲骨まわり・肋間・四頭筋・膝まわり・手の骨間筋
(正常、軽度、中等度、重度)
⑧BMI
(20kg/m2以上、18以上、16以上、16未満)
⑨アルブミン
(4g/dl以上、3.5以上、3以上、3未満)
⑩TIBC
(250mg/dl以上、200以上、150以上、150未満)
このときすでにCRP(ただし10ng/ml以上の増加だから高感度か)も入れてはどうかという議論があったが、アルブミンに換えていれるよりはよい、とか11個にしても変わらない、いう話でたとえばTIBCと換えるという話はなかった(というのも、TIBCのほうが先に研究されていたから;AJKD 1998 31 263)。
ところでMISはSGAをひきずっているので脂肪減少や筋肉消耗の評価に少しの経験を要するし、10項目は多い。それで簡便なものはないかと日本の医師と栄養学の研究者の先生方がお調べになって(Am J Clin Nutr 2008 87 106)、フランスうまれのGNRI(geriatric nutritional risk index)が透析患者でMISによく相関するとわかった。これは体重(透析後体重すなわちDW)と理想体重(BMI 22で計算)とアルブミンしか使わない簡便な下式で、体重と理想体重の比が1以上のときは1とする。GNRIは91.2以下で低栄養をよくスクリーニングする。
1.489 x albumin (g/dl) + 41.7 x 体重 / 理想体重
これを出すには本当は透析後Crと次回透析前Crがほしいのだが、その手間を省くためクレアチニンのKt/Vを応用したりして計算式を追加している。また内因性クレアチニン産生をみるためには外因性クレアチニン(食事由来)の分を差し引く必要があり、それにnPCR(normalized protein catabolic ratio;本来はBUNをもとにたんぱく摂取量を推定するもの)を応用した式を使う。Logがたくさん出てきたりかなり複雑な式だから、ソフトを導入するなど積極的に取り組んでいる施設で用いられている印象だ。
2016/05/21
KA/EAA supplements
Ketoanalogue/essenial amino acid(KA/EAA)サプリメントと超低たんぱく食の論文(doi: 10.1681/ASN.2015040369)は、ぽっとでたわけではない。SVLPD(supplemented very-low protein diet)は、何十年も前から窒素バランスを改善すると提唱され、MDRD-Bをはじめ数十のスタディがでている。最近レビューもでた(AJKD 2015 65 659)。それもこれも、CKD pandemicに対して少しでも進行を遅らせるにはどうしたらいいか世界中が考えているからだと思う。日本でも今年3月に腎臓学会が『生活習慣病からの新規透析導入患者の減少に向けた提言』を出した。
日本でketoanalogueの大きなスタディが出たとは聞かない;ポスター抄録(日腎会誌 2001 43 3 295)が見つかったが、硫黄を含むので臭気があり、不味く、内服後に消化器症状がでるので頓挫したらしい。必須アミノ酸製剤はあるが、経口のアミユー®はほとんどみない(上記難点の他にアシドーシス増悪や高アンモニア血症などもあったと聞く;静注製剤はネオアミユー®とキドミン®の2つがあるが透析患者に用いられている)。
かわりに日本で透析導入を遅らせるために認可されているのはAST-120(Kremezin®)だが、日本のCAP-KDスタディ(AJKD 2009 54 459)につづいて最近韓国でスタディされたのが発表され(doi: 10.2215/CJN.12011214、genericではなく韓国の財閥CJの健康部門と第一三共が本物のKremezin®で試したようだが)、36ヶ月のフォローアップでeGFR低下、primary end-points(Cr doubling、eGFR 50%上昇、RRT)、indoxyl sulfate濃度、QOL、all-cause mortality、hospitalizationいずれも有意差が出なかった(数字上よく見えてもrandomization x time pが0.6とか高い)。
KA/EAAサプリメントは、タンパクを摂りたくないので仕方ないからできるだけ必須なものを最低限にしようというのと、ketoanalogueは必須アミノ酸を脱アミノ化したものなので、身体のなかでアミノ基を受け取り、その分アミノ基が尿路回路などにまわり尿毒素になるのを防ぐ。また4-methyl-2-oxovaleric acid(ketoleucine)はアミノ酸分解を防ぎ代謝をたんぱく同化に傾けると言われている。必須アミノ酸はわからないがケト酸はCa塩で存在するので、共役塩基としてH+を受け取りうる。またCa2+はリン吸着にも働く。トリプトファンはindoxyl sulfateに代謝されうるので入れないpreparationもあるし入れたのもある。
CKDの進行を遅らせた、尿毒症を緩和した、透析を遅らせた、などのスタディが出ている。MDRD-BのフォローアップでKA/EAAサプリメント使用に死亡リスクがあるという結果が出たが、追試では否定されたらしい。冒頭で紹介した今年のスタディも、4期以上の非糖尿病CKDを対象にvegetarian very-low protein diet+KA/EAAサプリメント内服の群と0.6g/kg/dの群を比較しESRD/deathのイベントが有意に低かった。アドヒアランスは記載がないがサプリメントによる副作用はなかったとある。KA/EAAサプリメントを0.6−0.8g/kg/dの群に追加してもadded benefitがあるかもしれないが、まだ小さなスタディがあるくらいだ。
そんなKA/EAAサプリメントは日本にないし、米国にもない。ドイツの透析メーカーFreseniusの子会社が作ったKetosteril®というのがある(写真、冒頭のスタディもこれを使っている;場所はルーマニア)が、ドイツで売られているかも確認できない。検索するとインド、タイ、ウクライナ、メキシコ、ブラジル、エジプトなどで売られているようだ。レビューの著者はその理由にMDRDの「失敗」の影響、protein malnutritionの心配などを挙げ、その後にこう書いている。
In many parts of the world, maintenance dialysis is readily available and, from the perspective of the physician, may be less time consuming and potentially more lucrative than dietary therapy. KA/EAA supplements may not be inexpensive, but they are less expensive than maintenance dialysis therapy. KA/ EAA-supplemented VLPDs appear to be used more widely in developing countries where patients with CKD may not have free access to dialysis treatments.
透析になればたんぱく要求量は増える。透析したくて透析導入になる人はいないわけだが、かといって修行僧のような食事をしながら臭くて不味い(かどうか知らないがたぶん)薬を飲みつづけるのは飽食の先進国では大変なことだろう。でも尿毒症が進行しても透析が受けられないかもしれない環境なら話は別だ。本当に臭くてまずいのか。Ketosteril®は工夫しているのかもしれない。しかしまあ透析メーカーが透析の不十分な(認可もすぐ降りそうな)国でPlan Bとして売っているというのは複雑だ。効果があって副作用が少なく安いならいいのかもしれない。
日本でketoanalogueの大きなスタディが出たとは聞かない;ポスター抄録(日腎会誌 2001 43 3 295)が見つかったが、硫黄を含むので臭気があり、不味く、内服後に消化器症状がでるので頓挫したらしい。必須アミノ酸製剤はあるが、経口のアミユー®はほとんどみない(上記難点の他にアシドーシス増悪や高アンモニア血症などもあったと聞く;静注製剤はネオアミユー®とキドミン®の2つがあるが透析患者に用いられている)。
かわりに日本で透析導入を遅らせるために認可されているのはAST-120(Kremezin®)だが、日本のCAP-KDスタディ(AJKD 2009 54 459)につづいて最近韓国でスタディされたのが発表され(doi: 10.2215/CJN.12011214、genericではなく韓国の財閥CJの健康部門と第一三共が本物のKremezin®で試したようだが)、36ヶ月のフォローアップでeGFR低下、primary end-points(Cr doubling、eGFR 50%上昇、RRT)、indoxyl sulfate濃度、QOL、all-cause mortality、hospitalizationいずれも有意差が出なかった(数字上よく見えてもrandomization x time pが0.6とか高い)。
KA/EAAサプリメントは、タンパクを摂りたくないので仕方ないからできるだけ必須なものを最低限にしようというのと、ketoanalogueは必須アミノ酸を脱アミノ化したものなので、身体のなかでアミノ基を受け取り、その分アミノ基が尿路回路などにまわり尿毒素になるのを防ぐ。また4-methyl-2-oxovaleric acid(ketoleucine)はアミノ酸分解を防ぎ代謝をたんぱく同化に傾けると言われている。必須アミノ酸はわからないがケト酸はCa塩で存在するので、共役塩基としてH+を受け取りうる。またCa2+はリン吸着にも働く。トリプトファンはindoxyl sulfateに代謝されうるので入れないpreparationもあるし入れたのもある。
CKDの進行を遅らせた、尿毒症を緩和した、透析を遅らせた、などのスタディが出ている。MDRD-BのフォローアップでKA/EAAサプリメント使用に死亡リスクがあるという結果が出たが、追試では否定されたらしい。冒頭で紹介した今年のスタディも、4期以上の非糖尿病CKDを対象にvegetarian very-low protein diet+KA/EAAサプリメント内服の群と0.6g/kg/dの群を比較しESRD/deathのイベントが有意に低かった。アドヒアランスは記載がないがサプリメントによる副作用はなかったとある。KA/EAAサプリメントを0.6−0.8g/kg/dの群に追加してもadded benefitがあるかもしれないが、まだ小さなスタディがあるくらいだ。
そんなKA/EAAサプリメントは日本にないし、米国にもない。ドイツの透析メーカーFreseniusの子会社が作ったKetosteril®というのがある(写真、冒頭のスタディもこれを使っている;場所はルーマニア)が、ドイツで売られているかも確認できない。検索するとインド、タイ、ウクライナ、メキシコ、ブラジル、エジプトなどで売られているようだ。レビューの著者はその理由にMDRDの「失敗」の影響、protein malnutritionの心配などを挙げ、その後にこう書いている。
In many parts of the world, maintenance dialysis is readily available and, from the perspective of the physician, may be less time consuming and potentially more lucrative than dietary therapy. KA/EAA supplements may not be inexpensive, but they are less expensive than maintenance dialysis therapy. KA/ EAA-supplemented VLPDs appear to be used more widely in developing countries where patients with CKD may not have free access to dialysis treatments.
透析になればたんぱく要求量は増える。透析したくて透析導入になる人はいないわけだが、かといって修行僧のような食事をしながら臭くて不味い(かどうか知らないがたぶん)薬を飲みつづけるのは飽食の先進国では大変なことだろう。でも尿毒症が進行しても透析が受けられないかもしれない環境なら話は別だ。本当に臭くてまずいのか。Ketosteril®は工夫しているのかもしれない。しかしまあ透析メーカーが透析の不十分な(認可もすぐ降りそうな)国でPlan Bとして売っているというのは複雑だ。効果があって副作用が少なく安いならいいのかもしれない。
2016/05/20
Protein Restriction
さてMDRDといえばeGFRの式のことがまず出てくるが、じつはオリジナルのスタディはmodification of diet in renal disease、つまりたんぱく制限食がCKD進行に与える影響を調べたものだと教わった。Nitrogen-free ketoanalogueと超低たんぱく食の論文(doi: 10.1681/ASN.2015040369)についてお友達と話していた時のことだ。
これほどインパクトを与えた論文を知らなかったのは奇妙だ、とくに主要著者の一人がフェロー時代の最高齢ボスだったのに(この先生はMinneapolisにあるUNOS officeで主に移植患者の臨床研究をしていると思っていた)。とにかくフェロー時代にタンパク制限のタの字もで聞かなかったのはなぜか。
米国食生活でたんぱく制限することが無謀だからか(米国のたんぱく摂取量は90-100g/dといわれる)。Nurses' Health Studyを解析したスタディでMDRD eGFR 55-80ml/min/1.73m2の群はたんぱく、とくに動物たんぱくの摂取量に相関してeGFRが低下したことがわかっている(Ann Intern Med 2003 138 460)。ちなみに植物たんぱく摂取では有意差はなかったがeGFRが上がった。クレアチニンの原料を摂るか摂らないかの違いなだけな気もするが、KDIGOではこのスタディを高たんぱく摂取はCKD進行に相関という典拠に用いている。
そのKDIGOガイドラインは、糖尿病・非糖尿病CKDでeGFRが30ml/min/1.73m2以下の患者に0.8g/kg/dのタンパク制限を栄養指導とともに行うことを推奨して(2B、2C)、最大のRCTとしてMDRD、それから2009年のCochraneメタアナリシス(DOI: 10.1002/14651858.CD001892.pub3、非糖尿病CKDにおいてたんぱく制限は非制限にくらべて腎死を低下させるが制限の程度は決めかねるという結論)を紹介している。0.8g/kg/dというのは、妊娠も授乳もしていない健康成人のたんぱく需要が0.6g/kg/dとされ、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)/WHOが33%の安全マージンをとって0.8としたのに習っているのかもしれない。
MDRDの結果は一般にfailureと捉えられているが、その解釈は正しくないという弁明も出てるくらいだから(JASN 1999 10 2426)、一度は原著に目を通さなければならない。知られているから書くまでもないだろうがMDRDスタディはたんぱく制限と降圧のCKD進行、ESRD、死に及ぼす影響を調べたものだ。インスリン依存糖尿病患者は除外され、インスリン非依存糖尿病患者は全体の3%だった(25%が腎炎、20%がADPKD)。
たんぱく制限はGFRが25〜55ml/min/1.73m2の群は1.3g/kg/dと0.58g/kg/d(MDRD-A;実際は約1.1g/kg/dと0.7g/kg/d)、13〜24ml/min/1.73m2の群は0.58g/kg/dと0.28g/kg/d(MDRD-B;実際は約0.7g/kg/dと0.4g/kg/d)で比較した。Bスタディの超低たんぱく群ではketoacid/amino acid supplementも用いられている(から約0.2g/kg/d分が加わる)。介入前のたんぱく摂取量は尿中窒素から計算してMDRD-Aで約1.1g/kg/d、Bで約0.9g/kg/dだった。
MDRD-Aでは最初の4ヶ月は低たんぱく群のほうがGFRが下がってしまい、最終的に逆転するがいずれも有意差はなかった。ただしたんぱく尿1g/d以上(10g/d以上は除外されているが)群とAfrican AmericanではGFR低下を緩徐にする効果が認められた。また原著には載っていないが、延長フォローアップをすると(JASN 1994 5 336 Abstract)ESRD/deathのcummulative riskは低たんぱく群で低下している(RR 0.63、ただしp=0.056)。
MDRD-Bでは総じて4ml/min/yearのGFR低下がみられ、38%が透析になったが、超低たんぱく群と低たんぱく群でESRD/deathのcumulative riskに有意差はなかった(グラフの見た目には差があるが、p=0.60)。また超低たんぱく群で-0.7ml/min/yearの効果があったが95%CIは+0.1から-1.8、p=0.07で有意差はなかった。ただ、A同様にたんぱく尿1g/d以上の群では有意差があった。
B群も延長されて(AJKD 1999 27 652)、介入群間のdichotomousな評価ではなく全サンプルをたんぱく摂取量でグラフにするとたんぱく摂取量の減少はESRDに至る時間をのばし死亡を減少させた。ただしketoacid/amino acid supplement摂取群は非摂取群に比してイベントRRが1.86(CI 1.05-3.28)だった。
ここまできて疑問なのは、糖・尿・病・C・K・DすなわちDKDにおけるタンパク制限の役割だ。ADAガイドライン 2016も0.8g/kg/d、それ以下はダメ、1.3g/kg/dではCKDが進行すると言っている(エビデンスレベルA;典拠なし、GFRの記載なし)。インスリン依存糖尿病性腎症を対象にした(〜0.6g/kg/d)小さなスタディでmixed resultsがでている(Lancet 1989 2 1411、NEJM 1991 324 78、J Clin Endocrinol Metab 1992 75 351)。大きな長期間スタディがない訳がないと思うが、意外と少ないらしい(Am J Clin Nutr 2013 98 266)。
デンマークの1型患者を対象にしたスタディ(KI 2002 62 220)では0.6g/kg/dをprescribeされたが実際には0.89g/kg/dの群が、1.02g/kg/dの対照群と比して51Cr-EDTA clearanceの低下に差はなかった(両群とも3.8−9ml/min/yearとスタディ前に比して改善した)が、4年のフォローアップでESRD発症率が27% versus 10%だった(p=0.04)。たんぱく量にはほとんど差がないのにである。
Blindされていない(栄養士さんも診察医師も一人で全員を診る)のも考慮しなければならないか。あと、アルブミン尿が2g/d以上の低たんぱく群患者には同量のたんぱくを補充したとある。現在は推奨されていない、ネフローゼであっても基本は0.8-1g/kg/dだと思うけど、protein energy wasting(PEW)予防のためにはたとえ腎障害が悪化しても補充すべきと言っている栄養界の人もいるみたいだ(Am J Clin Nutr 2013 97 6 1163)。PEWの観点からは、高齢者には1.5g/kg/dで異化を予防しよう(Clin Nutr 2008 27 675)とかいろんな意見があるらしいが検証はされていない。
かと思うと、オーストラリアとNZのスタディ(Am J Clin Nutr 2013 98 494)では、珍しく2型患者(mean eGFR 90ml/min/1.73m2でアルブミン尿ある早期の群)を対象に、たんぱく90−120g/dと55−70g/dの群(実際は1.2g/kg/dと0.9g/kg/d)で比較しても12ヶ月のフォローアップで99mTc-DTPA GFR([125I] iothalamateと相関)、Cistatin C eGFR、MDRD eGFRに差はなく、24時間尿中アルブミンは低たんぱく群のほうが多かった。
このスタディの食事は総カロリー(6000J/d = 約1400kcal、男性は7000J/dまで許容)と脂質の割合を一緒にしてたんぱく質が減った分(30%→20%)炭水化物を増やした(40%→50%)。高たんぱく群は9kg、低たんぱく群は6kg減量し(もとが100kgなためか有意差なし)、血糖コントロールに差はなく、血圧は高たんぱく群で低めだった(拡張期血圧にtime-by-treatment interactionな有意差;ふつうに高たんぱく食を摂ると塩分が多くなるが、減塩もきちんとおこなったのかもしれない)。
古典的な糖尿病性腎症の発症機序として知られる残存糸球体の肥大は高たんぱくで増悪することが動物実験で60年前から知られている(Am J Physiol 1951 165 491)。それでたんぱく制限は自明に行われてきたが、早期糖尿病腎症でたんぱく摂取量と相関しないスタディもある。一方CKDが進行すればたんぱくに含まれる窒素、リン、有機酸、尿酸などが問題になるので制限は賢明と思われる(ただし、PEWや異化亢進には気をつけなければならないから難しいところだ)。結局0.8g/kg/dという世界共通・年齢・性別に関係のない推奨値がわからないまま使われているのか。
これほどインパクトを与えた論文を知らなかったのは奇妙だ、とくに主要著者の一人がフェロー時代の最高齢ボスだったのに(この先生はMinneapolisにあるUNOS officeで主に移植患者の臨床研究をしていると思っていた)。とにかくフェロー時代にタンパク制限のタの字もで聞かなかったのはなぜか。
米国食生活でたんぱく制限することが無謀だからか(米国のたんぱく摂取量は90-100g/dといわれる)。Nurses' Health Studyを解析したスタディでMDRD eGFR 55-80ml/min/1.73m2の群はたんぱく、とくに動物たんぱくの摂取量に相関してeGFRが低下したことがわかっている(Ann Intern Med 2003 138 460)。ちなみに植物たんぱく摂取では有意差はなかったがeGFRが上がった。クレアチニンの原料を摂るか摂らないかの違いなだけな気もするが、KDIGOではこのスタディを高たんぱく摂取はCKD進行に相関という典拠に用いている。
そのKDIGOガイドラインは、糖尿病・非糖尿病CKDでeGFRが30ml/min/1.73m2以下の患者に0.8g/kg/dのタンパク制限を栄養指導とともに行うことを推奨して(2B、2C)、最大のRCTとしてMDRD、それから2009年のCochraneメタアナリシス(DOI: 10.1002/14651858.CD001892.pub3、非糖尿病CKDにおいてたんぱく制限は非制限にくらべて腎死を低下させるが制限の程度は決めかねるという結論)を紹介している。0.8g/kg/dというのは、妊娠も授乳もしていない健康成人のたんぱく需要が0.6g/kg/dとされ、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)/WHOが33%の安全マージンをとって0.8としたのに習っているのかもしれない。
MDRDの結果は一般にfailureと捉えられているが、その解釈は正しくないという弁明も出てるくらいだから(JASN 1999 10 2426)、一度は原著に目を通さなければならない。知られているから書くまでもないだろうがMDRDスタディはたんぱく制限と降圧のCKD進行、ESRD、死に及ぼす影響を調べたものだ。インスリン依存糖尿病患者は除外され、インスリン非依存糖尿病患者は全体の3%だった(25%が腎炎、20%がADPKD)。
たんぱく制限はGFRが25〜55ml/min/1.73m2の群は1.3g/kg/dと0.58g/kg/d(MDRD-A;実際は約1.1g/kg/dと0.7g/kg/d)、13〜24ml/min/1.73m2の群は0.58g/kg/dと0.28g/kg/d(MDRD-B;実際は約0.7g/kg/dと0.4g/kg/d)で比較した。Bスタディの超低たんぱく群ではketoacid/amino acid supplementも用いられている(から約0.2g/kg/d分が加わる)。介入前のたんぱく摂取量は尿中窒素から計算してMDRD-Aで約1.1g/kg/d、Bで約0.9g/kg/dだった。
MDRD-Aでは最初の4ヶ月は低たんぱく群のほうがGFRが下がってしまい、最終的に逆転するがいずれも有意差はなかった。ただしたんぱく尿1g/d以上(10g/d以上は除外されているが)群とAfrican AmericanではGFR低下を緩徐にする効果が認められた。また原著には載っていないが、延長フォローアップをすると(JASN 1994 5 336 Abstract)ESRD/deathのcummulative riskは低たんぱく群で低下している(RR 0.63、ただしp=0.056)。
MDRD-Bでは総じて4ml/min/yearのGFR低下がみられ、38%が透析になったが、超低たんぱく群と低たんぱく群でESRD/deathのcumulative riskに有意差はなかった(グラフの見た目には差があるが、p=0.60)。また超低たんぱく群で-0.7ml/min/yearの効果があったが95%CIは+0.1から-1.8、p=0.07で有意差はなかった。ただ、A同様にたんぱく尿1g/d以上の群では有意差があった。
B群も延長されて(AJKD 1999 27 652)、介入群間のdichotomousな評価ではなく全サンプルをたんぱく摂取量でグラフにするとたんぱく摂取量の減少はESRDに至る時間をのばし死亡を減少させた。ただしketoacid/amino acid supplement摂取群は非摂取群に比してイベントRRが1.86(CI 1.05-3.28)だった。
ここまできて疑問なのは、糖・尿・病・C・K・DすなわちDKDにおけるタンパク制限の役割だ。ADAガイドライン 2016も0.8g/kg/d、それ以下はダメ、1.3g/kg/dではCKDが進行すると言っている(エビデンスレベルA;典拠なし、GFRの記載なし)。インスリン依存糖尿病性腎症を対象にした(〜0.6g/kg/d)小さなスタディでmixed resultsがでている(Lancet 1989 2 1411、NEJM 1991 324 78、J Clin Endocrinol Metab 1992 75 351)。大きな長期間スタディがない訳がないと思うが、意外と少ないらしい(Am J Clin Nutr 2013 98 266)。
デンマークの1型患者を対象にしたスタディ(KI 2002 62 220)では0.6g/kg/dをprescribeされたが実際には0.89g/kg/dの群が、1.02g/kg/dの対照群と比して51Cr-EDTA clearanceの低下に差はなかった(両群とも3.8−9ml/min/yearとスタディ前に比して改善した)が、4年のフォローアップでESRD発症率が27% versus 10%だった(p=0.04)。たんぱく量にはほとんど差がないのにである。
Blindされていない(栄養士さんも診察医師も一人で全員を診る)のも考慮しなければならないか。あと、アルブミン尿が2g/d以上の低たんぱく群患者には同量のたんぱくを補充したとある。現在は推奨されていない、ネフローゼであっても基本は0.8-1g/kg/dだと思うけど、protein energy wasting(PEW)予防のためにはたとえ腎障害が悪化しても補充すべきと言っている栄養界の人もいるみたいだ(Am J Clin Nutr 2013 97 6 1163)。PEWの観点からは、高齢者には1.5g/kg/dで異化を予防しよう(Clin Nutr 2008 27 675)とかいろんな意見があるらしいが検証はされていない。
かと思うと、オーストラリアとNZのスタディ(Am J Clin Nutr 2013 98 494)では、珍しく2型患者(mean eGFR 90ml/min/1.73m2でアルブミン尿ある早期の群)を対象に、たんぱく90−120g/dと55−70g/dの群(実際は1.2g/kg/dと0.9g/kg/d)で比較しても12ヶ月のフォローアップで99mTc-DTPA GFR([125I] iothalamateと相関)、Cistatin C eGFR、MDRD eGFRに差はなく、24時間尿中アルブミンは低たんぱく群のほうが多かった。
このスタディの食事は総カロリー(6000J/d = 約1400kcal、男性は7000J/dまで許容)と脂質の割合を一緒にしてたんぱく質が減った分(30%→20%)炭水化物を増やした(40%→50%)。高たんぱく群は9kg、低たんぱく群は6kg減量し(もとが100kgなためか有意差なし)、血糖コントロールに差はなく、血圧は高たんぱく群で低めだった(拡張期血圧にtime-by-treatment interactionな有意差;ふつうに高たんぱく食を摂ると塩分が多くなるが、減塩もきちんとおこなったのかもしれない)。
古典的な糖尿病性腎症の発症機序として知られる残存糸球体の肥大は高たんぱくで増悪することが動物実験で60年前から知られている(Am J Physiol 1951 165 491)。それでたんぱく制限は自明に行われてきたが、早期糖尿病腎症でたんぱく摂取量と相関しないスタディもある。一方CKDが進行すればたんぱくに含まれる窒素、リン、有機酸、尿酸などが問題になるので制限は賢明と思われる(ただし、PEWや異化亢進には気をつけなければならないから難しいところだ)。結局0.8g/kg/dという世界共通・年齢・性別に関係のない推奨値がわからないまま使われているのか。
2012/10/10
野菜や果物を摂ろう
今週のJournal Clubは、重曹より野菜や果物を摂ろうという、一風変わったトピックだった(KI 2012 81 86)。同じ号のエディトリアル(KI 2012 81 7)の題名も「CKD(慢性腎不全)の進行を止める鍵は薬局ではなく市場にあるかもしれない」と刺激的だ。どういうことか。
重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。
重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。
酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。
逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。
Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。
研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。
[2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。
[2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。
重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。
重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。
酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。
逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。
Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。
研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。
[2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。
[2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。
2012/09/06
スーパーの辺縁
コンサルト業務が再開して、患者さんがそこまで多くないこともあり、教育により多くの時間を割けてやりがいを感じる。二年目になって、遭遇する臨床上の問題がだいたいどれも経験済みなので(重要な知識、原理、論文はだいたい手にしているので)自信を持って教えられるせいもある。
しかし、まだまだ知らないことはある。今日は指導医の先生から新しい論文(NEJM 2010 362 2102)を紹介された。これは、dietary therapy in hypertensionについてのclinical therapeutics(clinical practiceの姉妹記事)だ。要は、健康な食事をしよう、塩分を減らそう、野菜や果物を食べよう、と言っている。よく研究されているDASH dietがとくに取り上げられていた。
しかし言うは易し行うは難し、ポイントは、患者さんが食生活を変えるのをどうサポートできるかだ。論文の結論は、「食事療法士に会おう」と丸投げしている感が否めない。
しかし、この話をチームでしていたら、内科レジデントが印象的なことを言った。彼は、「簡単さ、スーパーにいったら辺縁で買い物をして、中心部には行かないように指示すればいいんだ」と言った。確かに、米国のスーパーは辺縁に野菜、果物、肉、魚などがあり、中心部に缶詰、コカコーラ、お菓子、冷凍食品などがある。思わず手を打って感心した。
しかし、まだまだ知らないことはある。今日は指導医の先生から新しい論文(NEJM 2010 362 2102)を紹介された。これは、dietary therapy in hypertensionについてのclinical therapeutics(clinical practiceの姉妹記事)だ。要は、健康な食事をしよう、塩分を減らそう、野菜や果物を食べよう、と言っている。よく研究されているDASH dietがとくに取り上げられていた。
しかし言うは易し行うは難し、ポイントは、患者さんが食生活を変えるのをどうサポートできるかだ。論文の結論は、「食事療法士に会おう」と丸投げしている感が否めない。
しかし、この話をチームでしていたら、内科レジデントが印象的なことを言った。彼は、「簡単さ、スーパーにいったら辺縁で買い物をして、中心部には行かないように指示すればいいんだ」と言った。確かに、米国のスーパーは辺縁に野菜、果物、肉、魚などがあり、中心部に缶詰、コカコーラ、お菓子、冷凍食品などがある。思わず手を打って感心した。
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