2012/07/31

Top Five

私がレクチャの質において最も尊敬している先生が、ひさしぶりにJournal Clubで発表した。現在の診療がいかに問題で、新しい診療がいかに重要で必要かを明確に示し、それを支持するエビデンスとして論文を丁寧に考察していく。途中にTurning Pointという、参加者が無記名で投票するクイズが入り、内容理解がより定着する。この人は、プレゼンのプロだ。
 さて彼の話はAKIに対する腎臓超音波検査の必要性について(Arch Int Med 2010 170 1900)だ。どうして彼はこれを取り上げたのか?それは日々の診療で脊髄反射のように超音波検査が行われているのを憂いていたからだ。そしてそれは、全国的な流れに沿うものだという。
 2010年、UT GalvestonのDr. Brodyが、エビデンスに基づいて各科ごとに無駄な診療Top Fiveをリストアップしようと提案した(NEJM 2010 362 283)。その提案はABIMとConsumer Reportが共同で始めたChoose Wiselyキャンペーンにつながり、このほど腎臓内科学会を含む内科の9学会が同調した(JAMA 2012 307 1801)。秋にはさらに60数学会が同調するらしい。
 腎臓内科のTop Fiveは、①余命が限られた透析患者さんに症状もないのにがん検診をしない、②CKD患者さんで症状のないHgb 10g/dl以上の貧血をエリスロポイエチン製剤で治療しない、③高血圧、心不全、CKD、糖尿病患者さんにNSAIDsを避ける、④CKD stage 3-4の患者さんに腎臓内科医の許可なくPICCラインを入れない、⑤患者、家族、各科医師のあいだで十分な意思決定の話し合いなしに透析を始めない、だ。

2012/07/28

FEMgふたたび

一年前にFEMgなるものを初めて知り、それからCNI(calcineurin inhibitors)やGitelman症候群で遠位尿細管のMgチャネルTRPV5によるMg再吸収が阻害されることなどを学んだが、「FEMgの正常値は?」と問われて知らないことに気づき、実験データを調べた。

 このMg好きによるMg好きのための論文(Magnesium Research 1997 10 315)によれば、extra-renal wastingによる低Mg血症患者さんではFEMgが1.4%(0.5-2.7%)、renal wastingによる患者さんでは15%(4-48%)だった。Control群では1.8%(0.5-4%)だった。

 腎機能が悪ければFEMgも下がるのではないか?と思われたが、彼らのデータによればrenal wasting群のクレアチニンは1.2mg/dl(0.7-1.4)で、血中Cr濃度とFEMgには相関は見られなかった。

 低Mg血症は利尿剤(renal wasting)、下痢、PPI(extra-renal wasting)によっても起こるし、通常は病歴でrenal wastingかextra-renal wastingか分かるはずだが、FEMgが助けてくれるかもしれない。やっと正常値が分かったので、これからもっと使ってみよう。


Ganciclovir

 個々の抗ウイルス剤の腎毒性など、到底覚えられるものではない。有名なのはacyclovir(結晶になって尿細管が詰まる)、cidofovir、tenofovirなどだが、「じゃあgancyclovirは?」とか言われると(よく使う薬なのに)ぱっと答えられなかったりする。実際、急性腎障害の患者さんで他に明確な原因がないときもある。

 Ganciclovir(とそのesterであるvalganciclovir)は、腎毒性がないとされている(JASN 1991 1 1061)。しかし、MicromedexもUpToDateも副作用に「クレアチニン上昇」を挙げている。直接の腎毒性なのか、服用群は移植後患者さん達で他の腎毒性物質(cyclosporineとか)を飲んでいたからなのかは、分からない。

Cardiorenal syndrome

Cardiorenal syndromeという概念が、私はあまり好きではない。概念はたしかに存在し、ご丁寧に分類している人までいる(J Am Coll Cardiol 2008 52 1527)が、「これはcardiorenal syndromeです」といっても全く治療方針の役に立たないからだ。Volumeの評価、心機能の評価、腎血流の評価、それに腎うっ血の評価次第で、治療はどうにも変わる。
 そして厄介なのは、腎臓内科と循環器内科でその評価が時としてまったく異なることだ。まあ、それを楽しんで議論・診療できる(基本的にどこにいってもコンサルタントなので)のが腎臓内科のいいところなのだが。いずれにせよ、循環器内科の同僚は循環器雑誌のレビュー(Circulation 2010 121 2592)を読み主張の根拠にしてくるだろうから、私も読んでおこう。

2012/07/26

MDPV

"bath salt"というのは、入浴剤のことではない。ガソリンスタンドなどで殺虫剤などの名目で売られていて、"not for human consumption"とラベルが付いているが、鼻・口・静脈から摂取すると3,4-methylenedioxopyrrovaerone(MDPV)など覚醒作用のある物質が"legal high"を起こすデザイナードラッグのことだ。ようやく38州で違法になったが、その使用は増加傾向にある。
 静脈から摂取する人は感染性心内膜炎を起こして腎障害を起こすかもしれない(post-infectious GN、腎梗塞、抗生剤などによるAINやATN)。さらに、薬物摂取そのものが急性障害を起こした例も報告されている(AJKD 2012 59 273)。コカインのような血管収縮作用、尿細管毒性等が示唆されているが、CK上昇(6000U/L)、尿酸値上昇(22mg/dL)なども一緒に見られた。

2012/07/24

JCV

JCウイルスは、BKウイルスと同じポリオーマウイルスの一族だ。例によって、子供の頃に初感染してからは、腎臓・骨髄・リンパ組織などでアリエッティのようにこっそり暮している。しかしAIDSや移植後の免疫抑制下では、まれに悪さすることがある。主に問題になるのはPML(progressive multifocal leukoencephalopathy)だが、JC nephropathyというのも存在する。
 移植後のPMLはまだ数十件しか報告されていない(Ann Neurol 2011 70 305)が、腎臓は最も多く移植される臓器なので件数としては骨髄移植後に次いで二番目に多い。移植後半年がもっとも発症リスクが高く、このコホートでは臓器移植後のPMLのほうが骨髄移植後のPMLよりも予後が悪かった。
 確立された治療はない。BKに用いられるcidofovirは効かない上に副作用が多く、改良したCMX001がin vitroで効果があった(Antimicrob Agents Chemother 2010 54 4723)。抗マラリア薬のmefloquineもin vitroでいくらかの効果があった(Antimicrob Agents Chemother 2009 53 1840)。さらに、免疫抑制剤を減らせばIRIS(immune reconstitution inflammatory syndrome)を引き起こすこともあるから注意が必要だ。
 要するに、一旦なると治せないので、予防が重要だ。ある人にとっては必要十分な免疫抑制が、べつの人には多すぎて感染症を起こし、べつの人には少なすぎて拒絶反応を起こすわけだから、どうしたらちょうどよい量の免疫抑制をかけられるかという話だ。拒絶のリスク因子はだいぶん分かってきたが、これくらいのリスクにはこれくらいの免疫抑制という治療はまだ行われていない。

2012/07/19

How turtles survive lactic acidosis

先日、カンファレンスで誰かが「亀とアシドーシス」がどうのこうのというのを聴いて調べてみたら、すばらしい亀の知恵についての研究に出会うことができた。さっそく英語でコラムにしたら、もう他の人が発表していた(論文は2000年だし、無理もない)。残念だが、せっかくだからここに書いておく。

  Can you imagine a patient with lactic acid level of 1800mg/dl and pH of 7? Don’t worry, I am not talking about a human being. It’s about a turtle.
  The painted turtle (Chrysemys picta), a freshwater species in North America, spends the whole winter in an ice-covered pond. Lactic acid inevitably accumulates as a byproduct of anaerobic metabolism, even though its metabolic rate is at minimum in a cold temperature (its heart rate can go down to 1 beat per 5-10 minutes!). 
  The lactic acid is an acid with pKa of 4, stronger than the acetic acid. Yet the pH of a turtle still remains at 7. A turtle doesn’t breathe or urinate when hibernating. How could it be possible? This article (News Physiol Sci 2000 15 181) explains the 2 surprising mechanisms of this natural wonder. 
  First, it has a body fluid buffering. Its plasma bicarbonate concentration (normally) is 40mEq/l! It also has large amount of peritoneal fluid and pericardial fluid that are very high in bicarbonate (80mEq/l and 120mEq/l, respectively). 
  Second, it uses its shell as a buffer! It’s not just a protective armor. When the pH goes down, its shell releases carbonate with calcium and magnesium. Protons are buffered with carbonate and CO2 diffuses out into the water. The shell also sequesters lactic acid (both lactate and proton).
  The endogenous buffering system is seen across species. In a case of Homo sapiens, the bone is our biggest buffer. However, it is obviously not large enough to compensate this extremely high lactic acid level! 
  A turtle is a symbol of longevity in many cultures. In Japan it is said to live 10,000 years. Maybe what doesn’t kill you makes you stronger.

2012/07/17

Cathelicidin

CKD-associated bone metabolism disorder(CKD-BMD)は次から次に論文が出るホットなエリアだが、こないだのmini-review(CJASN 2012 7 358)で25-OH vitamin Dのautocrine作用について知った。これを信じる人は、慢性腎不全の患者では1,25-OH (active) vitamin Dのみならず、25-OH (nutritional) vitamin Dも大事だという。
 25-OH vitamin Dのautocrine作用とは、25-OH vitamin Dが単球に入り、細胞の中で1,25-OH vitamin Dになってcathelicidinをupregulateするというものだ。Cathelicidinとはinnate immunityを司るタンパク質のひとつで、MGHのグループによれば透析を始められた患者さんでこの血中濃度が低かった人は、感染症による一年死亡率が高かった(CID 2009 48 418)。
 それでは、cathelicidinレベルを上昇させるためにはどんなvitamin Dをどれだけあげればいいのだろうか?In vitroでは1,25-OH vitamin Dによりcathelicidinレベルが上昇した(Science 2006 311 1770)。臨床試験では、MGHのグループが60人の被験者で25-OH vitamin Dとcathelicidinの血中レベルを測定したところvitamin Dレベルが低い(<32)場合にのみ相関がみられた。
 そしてvitamin Dレベルが低い例に五日間で150,000単位のergocalciferolを投与して10日後にcathelicidinレベルをチェックしたところ、vitamin Dレベルが大きく変化した例(Δが32-64)でcathelicidinレベルが有意に上昇した(J Allergy Clin Immunol 2011 127 1302 e1)。小人数で短期間のスタディで、数字しか見ていないが、追試があるだろうから楽しみだ。

2012/07/11

伝説は真であった

昨年、抗高脂血症の薬による腎障害を疑った。当時、患者さんの話を聴くとタイミングが合致するので(それに高脂血症もなかったので)、薬を止めることにしたのだ。それが、半年経って、この薬は本当に腎障害をきたすことが分かった(Ann Int Med 2012 156 560)。

 これは、あちらこちらで症例報告が出されてからカナダのオンタリオ州で組まれた大規模スタディだ。Fibrate(主にfenofibrate)とezetimibeを新規に始められた数万人の群どうしを比較すると、90日以内に入院を必要とする急性腎障害が前者で多く(0.4% v. 0.2%)、50%以上のクレアチニン上昇も前者で多かった(9% v. 0.3%)。

 どうしてfibrateが急性腎障害が起こるのかは分かっていないが、腎生検までした症例報告(AJKD 2004 44 504)によれば尿細管障害が中心のようだ。そのためか、尿量にさしたる変化もなく、数年間つかわれていた薬を中止しても腎機能が戻ることがある。

2012/07/10

on-line HDF

アメリカにいると、ヨーロッパのものがなんとなく優雅で素晴らしいものに思える。単なるあこがれだが、そんなわけで欧州が取り入れているhemodiafiltration(HDF)も何となく普通の透析に比べて優れているに違いないと思っていた。

 HDFの魅力はUFによってmiddle molecule(分子量1000~10000)を除去できることだ。透析液と別に大量のreplacement fluidが要るが、on-line HDF(on-lineと言ってもインターネットのことではない)は透析液の一部を加工してreplacement fluidを作るので手間が少ない。

 原理はさておき、HDFは普通の透析に比べてどう優れているのだろうか。データによれば透析中の低血圧が少ない、高リン血症がコントロールしやすい、ESA(erythropoiesis stimulating agent、エリスロポイエチンのこと)が少なくて済む、残存腎機能をより維持するなどが知られていた。

 しかし、透析治療にとって一番のゴール、生存率の向上は得られるのか?移植と頻回透析を除き、いままで透析機械を向上して透析患者さんが長生き出来るというデータが得られたことはない。米国のHEMOスタディ(NEJM 2002 347 2010)、欧州のMPOスタディ(JASN 2009 20 654)がhigh KT/Vとhigh-flux filterを試したがだめだった。

 それで、HDFは透析屋に残された数少ない希望の一つであった。Middle moleculeを除去して患者さんの命を救うべくCONTRASTスタディ(contrastといっても造影剤は使わない)が行われ、その結果が最近発表された(JASN 2012 23 967)。結果はいかに?その前にどんなスタディだったのか見てみよう。

 これはオランダ、カナダ、ノルウェイの三か国で約700人の患者さんを対象にon-line HDFとlow-flux HDを比較したスタディだ。なぜlow-flux filterを対照群にしたのかは定かでない。middle moleculeはhigh-fluxでもある程度除けるので、結果を強調するためにlow-fluxと比較したのかもしれない。あるいは、HEMOスタディとMPOスタディでhigh-fluxとlow-fluxで生存率に差がなかったので、どちらでもいいと思ったのかもしれない。

 HDF群では透析時間がやや短く、血液流量が多く、KT/Vが少し高く(1.6 v. 1.4)、リンが少し低かった(4.9 v. 4.8)。Middle moleculeはどうか。beta2 microglobulinの血中濃度は、HDF群で統計学的に有意に低かった(25 v. 35)。しかし基準値が1以下なことを考えると、臨床的にどこまで有意かは謎だ。

 さて、肝腎の生存率はどうか。6年間の追跡で両者に差は見られなかった。それで皆、「HDFは優れているはずなのにどうして?」と残念がっている。残念がったあとに行うのがsub-group analysisだ。なにか一つでもDHFで長生きしたpopulationがないか探すのだ。しかし性別、糖尿病の有無、残存腎機能の有無、どれをとっても差が見られなかった。

 唯一差が見られたのは、convection volumeが上位25%の群だった。それで、HDFを信じる人にとっては「HDFのdoseが少なかったから差が出なかったのか。やっぱりHDFはちゃんとやれば長生きできるんだ!」という希望が残された。現在他にもヨーロッパでいくつかのHDFスタディが進行中なので、それらに希望を託して論文は終わっている。

 middle molecule theoryは美しいが、限界があるのだろう。そもそも透析患者さんの命を救うには心臓を守らなければならない。そして患者さんの心臓を守るには、volumeをコントロールして血圧を下げることと、死のホルモンFGF23を下げるのが先と思う。もしHDFがFGF23でも除けるなら素晴らしいが、残念ながらFGF23の分子量は33000でHDFでも除けない。


 [2013年3月追加]スペインのESHOLスタディ(doi: 10.1681/ASN.2012080875)が出て、ついにall-cause mortalityの有意差が出た(cardiovascular deathには差がなかったが)。middle molecule hypothesisを徹底的に信じない米国の透析文化だが、こういったスタディを受けてon-line HDFが徐々に普及するかもしれない。



2012/07/03

KLHL3 and CUL3

Journal clubで、Gordon syndrome(FHH、familial hyperkalemic hypertension)の原因遺伝子を新たに二つ突き止めたという論文が紹介された(Nature 2012 482 98)。オーストラリアのGordon医師がまとめて発表(Aust Ann Med 1970 19 287)したのでこの名がある(レビューはHypertension 1986 8 93)。原因は遠位尿細管のNCCT(Na-Cl co-transporter)が過剰に働くためと考えられている。

 しかしNCCT自体への遺伝子異常はみつかっていない。この病気をずっと研究しているのはYale大学遺伝学教室のLifton先生と言って、彼のグループはlinkage analysisをしてWNK1を同定し(Science 2001 293 1107)、さらにWNK1のparalogを探してWNK4を同定した。正常なWNK4は遠位尿細管のNCCT、集合管でのK排泄、集合管でのCl再吸収を抑制する。

 しかしWNK1、WNK4の変異は症例の13%にしか見つからない。それで、他の遺伝子異常を探すべく彼のグループはexome sequenceを始めた。これはタンパク質をエンコードしている部分のDNA、約9000万塩基をsequenceして変異を見つける作業だ。これによって見つかったのがKLHL3とCUL3だ。

 KLHL3は、index caseの24/52(46%)に見つかり、うち16例はheterozygous(つまり常染色体優性遺伝)、8例はhomozygous(常染色体劣性遺伝)だった。異常なKLHL3タンパクが半分作られるだけでphenotypeがでるのだ。こういうのを"negative dominant"という。KLHLは遠位尿細管と集合管にみられ、正常であればNCCTを細胞のapical surfaceに動かす働きがある(Nat Genetics 2012 44 456)。

 一方、CUL3はindex caseの33%(17/52)に見つかり、どれも異常はskipping exon 9であった。こちらで注目すべきなのは8例がde novo変異であったこと(親兄弟に同じ変異が見つからない)と、CUL3変異例はいずれも発症が若く、高血圧も重度だったことだ。つまり自然選択を受けるので代々受け継がれている家系は少なく、従ってde novoが多いのかもしれない。

 CUL3もKLHL3も、CRL(Culin-RING E3 ubiquitin ligase)と呼ばれるubiquitin ligaseの一部だ。それで、CRLがNCCTをubiquitin化する→(不明)→NCCTが細胞のapical surfaceに動かす、という機序が想定されるが、まだそこまでは分かっていない。でも、遺伝子変異を見つけて発表されたのが2月、正常なKLHL3の働き(NCCTへの作用)がわかって発表されたのが4月だから、わりとすぐ突き止められるかもしれない。