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2018/06/22

夢を信じる iRAD治験、まもなく開始!

 来週はいよいよ透析学会。米国にはASNのKidney Weekと、NKFのスプリング・ミーティングというのはあるが、「透析学会」というのはあまり聞かない。まさに、世界に冠たる透析医療の最先端を学べる素晴らしい機会だ。

 米国では目だった透析学会を聞かないが、英国にはUK Annual Dialysis Conferenceというのがある。今年で11回目と歴史は浅いようだが、9月にマンチェスターで開催されるその大会を、私はひそかに心待ちにしている。

 なぜか?

 人工腎臓(写真はUCSFウェブサイトより)治験の途中経過が発表されることになっているからだ(記事はこちら)!




 試されるのは、以前にも解説した人工腎臓、iRAD(開発しているUCSFの動画サイトはこちら)。シリコンポア膜によるフィルター、尿細管細胞をいれたバイオリアクター、そして膜には血栓形成やファウリングを防ぐため食虫植物の原理を応用したSLIPSコーティング技術を用いた、腎アシストデバイス。なんてクールな(写真はUCSFとサンフランシスコを掛けた)!



 ブログ紹介の当時はproof of conceptを終え治験の準備に改良をすすめていたが、ついに英国でその治験が始まる見通しだ。こういう規制緩和も、Brexitと関係あるのだろうか。英国医療はNHSといって国営化されているのに、米国より先にこんなことができるなんてすごい。さすが、産業革命とダイソンを生んだ国は技術革新に積極的なのだろうか?あるいは医療費削減につながることを期待しているのか?

 人工腎臓なんて、夢だと思っていた。iRADだって、ブタで成果が出たといっても、治験をはじめれば血栓とか感染とかいろいろ不具合がでてくるかもしれない。でもよくかんがえれば、透析だって移植だって始める前はみんな夢だと思っていたに違いない。

 いまある技術を安全に提供し改善していくことも大切で、ブレイクスルー・革新への確信も必要なのだなと、あらためて感じた。




[2018年11月追加]上記の英国カンファレンスでは、めだった発表はなかったようだ。最近の報道によれば、今年終わりから来年はじめまでに治験が認可されるのを待っており、被験者に埋め込まれるのは早くても2020年という。2020年を楽しみに待つ理由がもうひとつ増えた(Implantable artificial kidneyでニュース検索すれば、投機熱がじわり高まっていることもわかる)。



 


2018/04/28

待てないSMART、SALT-ED 2

 さて、SMARTもSALT-EDもプラグマティック・スタディ(pragmatic trial)と銘打っているが、これはどんなものか?2016年のNEJMに"Pragmatic Trials"という論文(NEJM 2016 375 454)がでているくらいだが、じつは意外と知られていないかもしれない。かく言う私も、最近まで知らなかった。

 ただ、「リアル・ワールド」という言葉は、よく耳にするようになったのではないだろうか。プラグマティック・スタディもその流れにある。いままで、立派なRCTスタディ(プラグマティックに対して、explanatoryと呼ばれる)を組んで立派な論文に載せても、実際の患者さんに当てはめるのには多くの問題があった。

 実際に診ている患者さんは、何かしらの問題があって治験では除外されていたり、治療のセッティングが違ったりするかもしれない。これは統計用語ではvalidity(妥当性、または整合性)と呼ばれ、スタディの条件を整えるほど内的妥当性は上がるが、外的妥当性がさがってスタディ外への適応が難しくなることも多い。

 そこで、もっとリアル・ワールドに近い設定でスタディを組んだほうが、簡単にできて結論も一般に受け入れられやすいのではないか?という考え方から登場したのがプラグマティック・スタディだ。概念じたいは以前からあったが(J Chronic Dis 1967 20 637)、具体的な項目が確立してきたのは最近だ。

 その特徴は、「プラグマティックさ」の相対的な基準をまとめたPRECIS-2(BMJ 2015 350 h2147)に、①治験参加施設と患者のリクルート、②治療介入、③フォローアップ、④アウトカムに分けてまとめられている。が、抽象的でわかりにくいので、それぞれ簡単に説明していこう(統計が好きな人は、前掲NEJM論文の表1を読んでほしい)。

 まずリクルートだが、理想的にはall-inだ。そのために幾つかの工夫があって、たとえばできるだけ強制力のある(国とか、保険とか)形で地域全体、病院全体での参加を求める。SMART、SALT-EDはバンダービルト大学病院にある5つのICU、すべての患者が参加している。患者への説明や同意は、多くの場合不要だ(びっくりするかもしれないが、介入Aも介入Bもすでに医学的に認められているなら可能という)。

 介入はどうか?Explanatoryのように丁寧なランダム化は手間が多いので、これも工夫する。よくあるのは施設と期間で分ける方法で、cluster randomization、stepped-wedged cluster randomized designなど様々ある(図はBMJ 2015 350 h391より)。SMART、SALT-EDも、ICUごと、月ごとに輸液を分けている。またNHANESのような一般的なコホートと比較するのも簡単な方法だ。




 もうひとつ介入で留意すべきは、多くのプラグマティック・スタディはブラインドされないということだ。So what?とまでは言わないが、実際には、言っている(NephJCでのSMART、SALT-EDの考察でも、「生食群と生理的輸液群がブラインドされていないのは確かだが、それがいったいどんな影響をおよぼすだろうか?」と書いてある)。

 そしてフォローアップとアウトカムだが、まずフォローアップは、しないのが一番簡単だ。正式には何週後、何ヶ月後と外来に来てもらうが、引っ越したり忙しかったり面倒くさかったり、なんだかんだでフォローアップ率は下がる宿命にある。メールやウェブ上のアンケートもよいが、いっそフォローアップしなくても得られるアウトカムを設定してしまえばよい、というわけだ。

 では、どんなアウトカムを立てるのか?患者にとって重要で、調べるのが容易なもの。一番は、比較的短期の死亡率だ。電子カルテやレセプトのネットワークがあれば抽出しやすいし、そもそも病気とちがって出生と死亡は公的記録だから調べやすい。なおSMART、SALT-EDは、死亡率と透析と持続する腎障害を合わせたアウトカムを使用している。

 このような、まったく新しいスタディが、これからたくさんでてくるだろう。簡単にできて、同意も要らず、実効的に臨床や政策決定にインパクトを与える「ゲーム・チェンジャー」と歓迎すべきなのかもしれない。ただ、やっぱり鵜呑み(英語ではswallow、図はオスカー・ワイルド『幸福な王子』とツバメ)にはできないから、批判的吟味(critical appraisal)をできるようになりたい。日本も含めて世界中の医学部、研修病院、Journal Clubなどでどう教えられているか、興味深い。





 ここまで、背景を話した。最後に、SMART、SALT-EDの結果について論じたい。つづく。

2017/06/05

HIF-PH阻害薬アップデート

 貧血で輸血依存で大変だった透析患者さんが、EPOの発見・単離・合成で救われた。けれどもEPO(ESA)抵抗性というのはあって、ESAだけでは治らない貧血も多い(いくつかの原因について以前にふれた;図はそこで取り上げた論文より)。そして、ESA必要量が多くなる患者さんほど予後がよくない。




 ESA抵抗性のひとつに、機能的鉄欠乏(functional iron deficiency、FID)がある。端的に言うと鉄利用障害で、2003年に発見されたヘプシジンなどが重要な責任分子だ。この状態に陥ると、鉄を補充しても却って貯蔵鉄の利用ができなくなり、悪循環になる。

 FIDを解決しようと開発されているのがHIF-PH阻害薬だ。以前にこのブログでも取り上げられた(こことここ)が、HIF-PHを阻害するとHIFが分解されずに安定し、造血と鉄利用障害が改善する。

 そのHIF-PH阻害薬のレビュー論文(AJKD 2017 69 815)がでたから紹介する。「あと少しで市場にでてくるから、MRさんがきれいな動画とパンフレットをもって説明に来る前に、自分達でも準備しておきましょう」ということなのかもしれない(HIFは高地への適応と関係あるから、パンフレットはこんな表紙かも)。




 いまのところ、治験中なのは4種類だ。

 Roxadustat(FG-4592):週3回飲むお薬で、第3相。日本では透析患者さんを対象にしたオープンレーベルの試験(NCT01888445)、透析非依存の患者さんを対象にした二重盲検試験(NCT01964196)がおこなわれている。下痢、悪心、高血圧が副作用に挙げられる。

 Vadadustat(AKB-6548):毎日飲むお薬で、第3相。Roxadustatも下痢、悪心、高血圧を起こすことがある。透析患者さんを対象にしたINNO2VATE、透析非依存患者さんを対象にしたPRO2TECTプログラムが治験中だ。なお、Akebia社が開発した6548番目の分子なだけで、AKB48とは関係ないはずである。

 Daprodustat(GSK-1278863):毎日のむお薬。米国で第2相、日本では第3相(JASN 2015 Suppl 26 818Aというポスター発表もされている)。悪心が知られる。

 Molidustat(BAY85-3934):毎日のむお薬。第2相。ほかのに比べて、高血圧になりにくいかもしれない。動物実験で血圧をさげるデータがあるそうだ。

 なおDPP4阻害薬がラットである種の腫瘍をおこしたように、HIF-PH阻害薬もVEGFの活性化により悪性腫瘍や糖尿病性網膜症を悪化させる可能性がある。いままでの治験ではVEGFレベルに変化はないらしいが、注意は必要だ。

 腎性貧血はEPO欠乏とFIDどちらもが関与しているからESAはESAで重要だ。HIF-PH阻害薬は、ESA抵抗例から用いられていくのかなと思う。そのように用いられながら長期の安全性が確かめられ、「使い勝手」もわかってきて、適応や使用例がだんだん広がっていくのかもしれない。

 治療の武器はたくさんあったほうがいいので、このクラスも慎重に広まって根付いてくれたらいいなと思う。



 [2019年10月4日追記]上記のRoxadustatが、ついに日本でも透析患者に認可された!




 しかも、上図のように高山を意識した宣伝になっていた(商品名:エベレンゾ®)!このクラスで世界初なので、最高峰のエベレストにあやかったのだろうか?




 Roxadustatは、じつは昨年12月には中国で透析患者にまず認可され(商品名は爱瑞卓、Ai Rui Zhuo®;エポエチンアルファとの非劣勢を示したスタディはNEJM 2019 381 1011)、今年4月には非透析依存患者にも拡大していた(プラセボと比較したスタディはNEJM 2019 381 1001)。今後世界で認可が広がるだろう。

 内服なので注射が要らない(冷蔵保存なども要らない)利点がある一方、透析患者では「飲み薬がまた増える」という面もあるだろう。週3回なので、まだ少ないとも言えるし、飲み忘れやすいとも言える。

 また、上に挙げた消化器系副作用や理論上のVEGF活性化だけでなく、前掲論文では高カリウム血症・代謝性アシドーシスが多かったので、これらには引き続き注意が必要だろう(保存期CKD患者では重曹量が増えるかもしれない)。

 非EPOのESAではPegisenatideで残念な思いをしたが(こちらも参照)、HIF-PH阻害薬はHIF-PHという別の軸で効くお薬でもあり、日の目を見ることを期待していた。スタートラインに立ったこのクラスが、腎臓内科領域で大事な位置を占めるといいなと思う。


(写真は、ハイチのことわざ「山を越えればまた山がある」をタイトルにした、ポール・ファーマー医師の話。ピュリッツァー賞を受賞し、『国境を越えた医師』として2004年に訳書が刊行されている)




2017/05/31

シナカルセトとエテルカルセチド

 「勝るとも劣らない」と言う言葉は、劣らないとは言っているが勝るかどうかについてはお茶を濁している。「BはAに勝る」と言ってしまうとAに角が立つ。「BはAにも勝るとも劣らない」と言えば、Bを褒めつつAにも気を遣うことができる。そう考えると「ペンは剣より強し」いう慶応大学のモットーが宣言のように力強く感じられるかもしれない。

 さて、薬Aと薬Bで有効性を比べる試験で最近よく聞くのが非劣性(non-inferiority)という言葉だ。従来の薬Aに対して、あたらしい薬Bが非劣勢なら、わざわざ薬Bに替えなくていい気がする。でもそういうときは、効きは劣らないのにBのほうがAより副作用が少ないとか安いとか便利とか、ほかの要素を売りにしている。

 CaSRを刺激しPTHを減らすお薬をcalcimimeticsというが、シナカルセトが先にでて、それに対するエテルカルセチドの非劣勢を示そうとした論文が1月にJAMAにでた(JAMA 2017 317 156)。いままで耳に入ってこなかったのは不思議だ…もっと勉強しなければ。シナカルセトもエテルカルセチドも開発したのはAmgenだが、販売する会社は違うから、おたがいこれに触れない「紳士協定」でもあるのか(写真は1947年公開映画、Gentleman's Agreement)。




 スタディでは欧米、ニュージーランドなどで二次性副甲状腺亢進症(PTH 500pg/ml以上)の透析患者さん600人あまりに対してシナカルセト、経口プラセボ、エテルカルセチド、静注プラセボを26週間投与してPTHの下がりをみた。用量はシナカルセトで30-180mg/d、エテルカルセチドで2.5-15mg/週3回の範囲で5、9、13、17週目にどちらも調節できた。

 結果、30%以上さがった割合はエテルカルセチド群で高かった(68%、シナカルセトは57%)。よく効くぶん、Ca値も低めになる(Alb補正Caが8.3mg/dl以下になる割合は68%、シナカルセトは59%)。シナカルセトで有名な消化器症状は、エテルカルセチドでも同様にみられた(悪心はシナカルセトで22%、エテルカルセチドで18%;嘔吐はいずれも13%)。

 PTHが目標まで降下した割合は、非劣勢なだけでなく、優勢かどうか(superiority)でも有意差がでた。じゃあ優勢なんだから、二次性副甲状腺機能亢進症のcalcimimetics第一選択はシナカルセトからエテルカルセチドに代替わりだろうか?AにもBにも気を遣わなくてよい立場からいくつか考察してみたい。

 エテルカルセチドは、PTHの先にある心血管系イベントや骨粗しょう症予防に実質的に効くかもしれない。エテルカルセチド群はシナカルセト群よりもFGF23の前値がたかかった(4033pg/ml、シナカルセトは2984pg/ml)が、介入後はシナカルセト群より低くなった。骨粗しょう症マーカーも、介入後シナカルセト群より低くなった。マーカーとハード・エンドポイントは違うので再検は必要だが、示唆はされる。

 また透析患者さんはお薬の数がおおいから、注射になって飲む数がへるのは朗報かもしれない。同様のことは、腎性貧血で開発中のHIF阻害薬についてもいえるかもしれない、ESAとちがい経口だから逆に敬遠される可能性がある。

 いっぽう、サブ解析を見るとエテルカルセチドが優勢なのは65歳以下、透析年数5年以上の群だった(65歳以上、透析年数5年以内では有意差がなかった)。透析年数が浅いと残腎機能があってエテルカルセチドが尿中にうしなわれるのかもしれない。また注射製剤は透析室スタッフの手間になる。プリフィルドシリンジでないので、針刺しや用量間違いの元かもしれない。価格も含め、こういった「使い勝手」は透析現場にきいてみないとわからない。

 しかし結局、透析患者さんのPTHをどこまで下げるとどう良いのかには、議論の余地があるかもしれない。シナカルセトとプラセボで透析患者さんにおける心血管系イベントと死亡率を比較したEVOLVE試験(NEJM 2012 367 2482)では介入で有意差がなかった。データが少ないのでPTHゴールは各国ガイドラインで異なる。せっかくエテルカルセチドがよく効くなら、死亡率や心血管系イベント、骨折予防のデータも出るといいなと思う。


2017/05/16

速報 ANCA血管炎とアバコパン

 ACPのメンバーシップは日本内科学会より高い、とくに海外会員だと高い。それでも、その価値があるとおもうから払う。ACP JournalWiseという最新論文お知らせ機能からメールがとどき、JASNにANCA血管炎とアバコパンの論文がでたことをしらせてくれた(doi: 10.1681/ASN.2016111179)。

 インパクトあるので、速報する(火星だよりは後日お送りします)。アバコパン(Avacopan)は経口のおくすりで、C5a受容体の選択的な阻害薬だ。モノクローナル抗体ではない、小分子だ(図)。




 アバコパンは、以前からMPO-ANCA血管炎をおさえることが動物実験でわかっていた。今回の対象はMPOとPR3がだいたい半々、平均年齢50歳、BVASスコア13-14(63が最重症)、平均eGFRは40-50ml/min/1.73m2。薬を作ったのはカリフォルニアのバイオベンチャーChemoCentryx社だが、患者さんはヨーロッパだ。規制がゆるかったのだろうか。

 導入療法にサイクロフォスファマイドないしリツキシマブをもちい、それにくわえて①ステロイド60mg/d、②アバコパン30mg2T2x+ステロイド20mg/d、③アバコパン30mg2T2xのみ、の3群にわけた。どうやらステロイドパルスはしなかったようだ。12週フォローした結果、BVASスコアはこうなった。ステロイド単独より併用がよく、併用とアバコパン単独はあまりかわらない。




 肝腎のeGFRには差がなかった。比較的eGFRが高い群で、フォロー週数も短いからなんともいえない。蛋白尿の低下は併用群でステロイド単独より有意にさがった(アバコパン単独もさがったが有意ではなかった)。

 いっぽう副作用はどうか。どの群も有害事象の割合はおなじだが、アバコパン単独で多かった副作用には高血圧(ステロイド群より割合が多い)、血管炎(定義は?)、リンパ球減少があった。同じくC5を押さえるエクリズマブは髄膜炎菌予防などが必須だが、この薬はどうなのだろう。

 ステロイドを置き換える薬となると、ANCA血管炎だけでなく幅広く使えるかもしれない。まだ選ばれた軽症の患者層で短期間つかっただけなので、これからの研究に期待したい。







 

2017/03/14

新しい高リン血症の治療

 以前にふれた、NHE3阻害薬tenapanorが透析患者さんの高リン血症をさげるかを調べた治験の結果が発表された(doi: 10.1681/ASN.2016080855)。4週間の内服で用量依存性にリン濃度低下がみられ、10mg1日2回と30mg1日2回でプラセボに対して有意差があった(1.7-1.8mg/dlの効果)。ただし下痢の副作用が多く、30mg1日2回の群では半分が途中で薬をやめていた。TenapanorはLubiprostone(アミティーザ®)のように便秘薬として開発された薬だから無理もなく、著者は「便が硬く通過時間のながい透析患者さんにとっては有益かもしれない」と考えている。

 腸管のNHE3を阻害すると便中のリン含有量が増えることは事実だが、ナトリウムイオンと水素イオンの交換輸送体であるNHE3がどうリンに関係するかはまだわかっていない。腸管にはリン吸収にかかわるナトリウム依存のリン輸送体NPT2bというのがあるから、ナトリウムイオンの再吸収が阻害され腸管内にナトリウムがたまることと関係がありそうに思われる(tenapanorにNPT2bに対する阻害作用はないが;JASN 2015 26 1138)。腸管で塩素イオンの再吸収を阻害するlubiprostoneでも、リンはさがるようだ(コントロールのない一施設スタディはRRT 2016 2 50)。

  このスタディは、いままで「いかに摂取をへらすか」「いかに吸着するか」が基本だった高リン血症治療に新たな考え方をもたらす可能性があると思う。これから研究が進んで、遠位ネフロンのように腸管の溶質吸収とその制御にかかわるさまざまな治療標的がみつかるかもしれない。みつかれば、いまは阻害薬を探す方法は high throughput screeningとかいろいろある。ただ下痢をおこす薬が多そうで、アドヒアランスをたかめるためにも腎臓内科医や透析医は尿量コントロールと同じように便の回数、ブリストル・スケール(図)などもみて調節しながら診療する必要が出てくるかもしれない。




 [2017年6月追加]この薬が日本人の健康被験者を対象に1相治験された(Clin Exp Nephrol 2017 21 407)。両親、父方母方の両親が日本人で、日本で生まれ、5年間以上日本以外に住んでいない20-45歳の被験者83人をカリフォルニア州の治験センターWCCT Globalに連れていきTenapanorないしプラセボを飲んでもらった。

 結果、予測されたように介入群では便Na排泄がふえた。プラセボが4mmol/dに対して30-40mmol/d、食塩換算で2グラムくらいだから、利尿薬ならぬ「利便薬」としても使えるのかも知れない。便リン排泄は、0.8-8.0mol/dふえたとあるが、統計学的有意差や信頼区間は明記されていない。第1相で安全性を示すのが目的だからだろうか。

 安全性といえば、便の回数は180mg1日1回投与群で約6回、15-90mg1日2回投与群で約2回、プラセボで約1回だった。180mg1回投与は、大変そうだ。便の性状は投与群でBristolスケール約5、プラセボで3だった(上の写真)。副作用は下痢が2回嘔吐が1回。白人被験者では頭痛や腹痛もあったが、国民性ゆえ軽微なら訴えなかったのだろうか。

 それにしても、WCCT Globalなんてしらなかった。日本語ホームページによれば、最高約10000ドルの報酬を提供するらしい。それでも元が取れるのだろう。日本市場に入るためには日本人データがあったほうが有利だから、外資企業がこうやって外国で日本人を対象に治験する時代なのだなと驚いた。

2016/11/18

慢性の高カリウム血症の治療

外来患者でも高カリウム血症の人によく会うと思う。
特に慢性腎不全の人などは高カリウム血症できて、「また、たくさんカリウム多いもの食べたでしょ〜?」って会話を外来で繰り広げるかもしれない。

まず、高カリウムの主なリスクはなんなのだろう?
・eGFR低下、男性、RAS阻害薬(特にdual RAS 阻害薬)、糖尿病
上記は主なリスク(am j nephrol 2015 41 456-463)になる。

特にdualでの高カリウム血症はNEJMのNEPHRON-Dというものであり、覚えておくといいかと思う。

僕らは急性の高カリウム血症の治療はグルコン酸カルシウムを投与して、GI療法をして、利尿薬を使用してなどとするが、慢性的な高カリウム血症の治療はどうするのがいいのか?

例えば、尿からのカリウム排泄増加として利尿薬やフロリネフなどのミネラルコルチコイド刺激薬などが言われている(kidney Int2009 Oct;76(8):877-84)。
しかし、体液量が低下している人にとっては使用しづらい。

そこで、やはり僕らが使っている陽イオン交換樹脂が一つは出てくる。
一つはカルシウム型でもう一つがナトリウム型である。
カルシウム型は商品名:カリメート、アーガメイトであり、ナトリウム型は商品名:ケイキサレートである。違いは交換がNaとCaで違い、ケイキサレートの方が下痢しやすいなどとも言われるがどうであろう?
イオン交換樹脂でいい点としては正常Kの人には利点はないということである。つまり低カリウムにはしない(J Am. Soc Nephrol 9: 1924-1930. 1998)

新たに薬が出ているのもおさえるべきである。
PatiromertとZirconium cyclosilicateである。
この二つに関しては、様々なRCTが出ているが、それぞれNEJMのは押さえておくと良い。

また、副作用に関してはPatiromerは便秘や低マグネシウム血症があり、Zirconium cyclosilicateは浮腫の副作用があるということは押さえておくといいと思う。

日本には2016年現在認可されていないものではあるが、慢性期の高カリウムの治療も変わると感じる。



2015/05/20

FDA warning!

 糖尿病薬市場を席巻する勢いで各社が雨後の竹の子のように開発し宣伝する(ので同じような説明を何度も何度もお弁当を食わされて聞かされる羽目になり辟易している)SGLT2阻害薬だが、残念なお知らせが届いた。FDAが5月15日にcanagliflozin、dapagliflozin、empagliflozinでDKAとケトアシドーシスの報告が相次いでいるという警告を出し、引き続き調査を行っていくからうえの三剤に限らずすべてのSGLT2阻害剤を処方する(内服する)際には慎重に、と発表した。

 その4日後、昨日のお薬屋さんの説明会もSGLT2阻害薬についてだったのに、そんなこと一言も言ってくれなかった。ただ「長期処方が可能になりますので是非ご検討ください」としか言われなかった。私が毎日受け取る米国腎臓内科学会のニュースレターのトップニュースだったから初めて知った…。ここまでくると、お薬屋さんが怖い。売れさえすればいいのか?各担当者ごとにノルマとかがあるから仕方ないのか?患者さんのためには「効く」というよい情報も「危険」という悪い情報も包み隠さず教えてくれるのがフェアプレーじゃないのか?調査中だからまだなんとも分からない、濡れ衣だったということもありえる訳だし。

 [追加]この報告は、SGLT2阻害剤内服によってつくられるグルカゴン過剰状態(先日書いた)と符合するかもしれない。グルカゴン過剰はDKAにcontributory(if not essential)で、この環境下では肝細胞でアシルCoAがcarnitine palmityl transferase reactionsによってどんどんミトコンドリア内に入り、β酸化によりどんどんアセチルCoAができ、これがTCA回路に入りきれずに、アセト酢酸(ケトン体)に代謝される。

 [2016年6月追加]CanagliflozinのCANVASトライアルで投与群には脚、趾の切断が有意に多いという途中経過の安全報告が出たと5月18日にFDAが発表し、調査中だ。またその数週間後にFDAがCanagliflozin、DapagliflozinにAKIの注意喚起をつけた。Empagliflozinはアメリカで処方が少ないのためか報告が少なくラベルはつかなかった。



2015/05/01

Patiromer

 日本に帰って来て気づいたことのひとつが、日本のほうが圧倒的に多くK吸着剤が処方されていることだった。私はK吸着剤は効果が余りない、また腸管の壁に貼り付いて壊死を起こす副作用があると習って、処方することはほとんどなかった。CKD患者さんでRAAS inhibitorを増やしたいが高K血症があるときにはK制限の栄養指導をしたり利尿剤を追加したりすることが多かったし、透析患者さんで高K血症になりやすい場合は透析液のK濃度を変えることもあった。

 今日、今年はじめのNEJMにK吸着剤の有効性を示すスタディが出たと知った(NEJM 2015 372 211)。新薬はRelypsa社のpatiromerといい、Ca2+をcounterionとする非吸収性のK+吸着剤で、腸管からのK+排泄が最も行われる(内腔K+濃度の最も高い)遠位結腸で主に働くという。また、osmotic diarrheaのもとになるsorbitolの含有量が既存のsodium polystylene sulphonateにくらべ少ないそうだ。

 で、このpatiromerを1日2回内服すると、eGFRが15-60ml/min/1.73m2(ステージ3-4CKD)でRAAS inhibitorを内服している99%白人の高K血症患者さん(約半数が利尿剤も内服している)のカリウムが用量依存的に下がる。すなわち、下がりすぎたら減量する;止めると上がる。11%で便秘の副作用が出たが内服継続を忍容できたという(ただし対象患者さんの約10%が最初の4週間でloss of follow-upになっているからその分はわからないが)。1人が腸間膜静脈塞栓症で死亡したが薬との因果関係はないという。RAAS inhibitorを増やしたいが高K血症のためにできないような症例でよい適応かもしれない。

 しかし個人的にこのスタディで最も驚いたことは、対象患者さん243人のうち151人が「中等度から重症の」高K血症(5.5-6.5mEq/l)でありながら、その値でも何も起こらないなら構わないというわけか普通にフォローされていたことだ。確かに腎臓内科医になると6.5mEq/l以下の高K血症がそう怖くはなくなるが、個人的にはここまでカリウムを「高め安定」で外来フォローしたことはない(このスタディはアメリカ、EU、東欧で行われた)。

 患者の約4割はRAAS inhibitorを「maximal dose」内服していたことから、これくらいカリウムが高くなっても、そのリスクよりもRAAS inhibitionによるCKD進行予防のメリットを優先するプラクティスがなされているということなのだろうか。因みに高K血症による心電図変化がみられた患者さんはスタディから除外されているが、それは別の治療を受けたということなのか、それとも多少の心電図変化があっても病状とK値が安定していれば平然とフォローされているのか。

 次に驚いたのは、COI開示だ。このスタディ自体が薬を作ったRelypsa社のお金で行われたことは当然としても、investigator達が同社の株式を保有していたり、同社のみならずありとあらゆる製薬会社からfeeを貰っていたことだ。Akebia Therapeutics、Janssen、AstraZeneca、Otsuka、Amgen、Merck Sharp、Dohme、AbbVie、Novartis、Sandoz、Boston Scientific、Medtronic、Daiichi-Sankyo、Bayer、Johnson and Johnson、Oxygen Biotherapeutics、Pfizer、Tricida、scPharmatheuticals…、でるわでるわ。スタディに関わるとお金になるんだなと実感した。