2014/12/19

まずここから…

 ICUで働いているが、AKIに対しての認識(mortalityのindependent risk factor)が甘くアセスメントが曖昧(なんとなく輸液)と感じる。どうして尿沈査をみないんだろう、簡便で非侵襲的で有用な情報が得られるのに…と他人事のようにぼーっと思案していたが、それを広めるのが私の役目だろうが!と頭を金槌でなぐられたような気分になった。私がこの病院にいる限り、この病院の研修医は少なくともこの写真をみて所見を言えて、臨床的意義を理解し、どうマネジメントするかを知らなくてはならない。




 私からしたら基本的なことだが、それは私がそういう訓練を受けたからだ。逆に、まだこれを見て研修医が「円柱は円柱だけど…うーん…よく分からないです…何か小っさくてワサワサしたのがいっぱい入ってるけど…」とか自信なさげに答えるのは、そういう訓練を受けてこなかったからだ。私からしたら尿沈査などよりよほど煩雑で面倒くさい(服が汚れる)Gram染色を研修医が嬉々としてやるのは、そういうふうに動機づけられているわけで、尿沈査も「布教」しなければならない。そしてその主唱者は、私だ。

 でも、ひとりでやるのは、大変だなあ…。いつのまにか遠心分離機が倉庫にしまわれてしまったように、うちの腎臓内科では腎臓病のアセスメントに尿沈査を活用することが慣習化しなかった。半年自分なりに「布教」したのに誰も「改宗」してくれなかったのは残念だが、慣習はそう簡単には変わらないから仕方のないことで、これから少しずつやっていけばいい。とりあえず、ICUのAKIは尿沈査を研修医(場合によっては後期研修医)に見せるようにしよう。


2014/03/03

レクチャリレー

 1月、2月と仲間が協力してくれたおかげで初期研修医対象の腎臓内科コアレクチャリレーが実現した。以下にリストを示す。重複しているのは、月によってまわってくるローテーターが違うからだ。腹膜透析、移植のレクチャは、4月から今いる病院に帰ってきてくれる先生方にお願いしようと思っている。また、ここに挙げていないがクラウド上にはあるレクチャスライドもある(血尿、蛋白尿、横紋筋融解症など)。クラウド上にあるということは、院外にいてもダウンロードして勉強できるということだ。

1/6 TMA
1/9 酸塩基平衡
1/10 CKD総論
1/13 AKI
1/15 骨髄腫と腎臓
1/16 ステロイド
1/17 高K血症
1/20 CKDと貧血
1/23 血液透析
1/31 ループス腎炎
2/3 CRRT
2/5 AKI
2/6 IgA腎症
2/7 CKD総論
2/10 腎生検・腎病理
2/12 高Na血症
2/13 血液透析
2/14 ANCA関連腎炎
2/17 免疫抑制剤(腎臓内科・腎移植でつかうものについて)
2/19 低Na血症
2/20 急性間質性腎炎
2/24 腎移植の基礎
2/26 酸塩基平衡
2/27 高K血症
2/28 高Ca血症

 これを始める前、懸念がいくつかあった。一つ目は外野が「こんなことして何になる」と言うこと、二つ目は「質をどうやって担保するのか」ということ、そして三つ目は初期研修医が「こんなことしてくれなくてもいい」と言うことだった。一つ目は無視すればいいし、「何かになる」と信じる仲間がいれば問題はない。二つ目は、まずとりあえず作ってから徐々に質を高める戦略だが、これからの課題だ。三つ目もいまのところ大丈夫だが、面白いスライド作り、インタラクティブなレクチャの仕方などをフェローたちに教えるのも私の仕事かなと思う。

2014/02/28

最近の透析経験 2

 ある日、透析患者さんのシャント不全で透析室からPTA依頼があった。しかし入院時の血圧が70mmHg台で、PTAどころではない。普通の(敗血症やら出血やら降圧剤やらの)低血圧になる原因がないが、カルテを見直すと2週間前までは160mmHg台あった人だ。おかしい、とは思ったが、頭の中には「あれかな」という診断があった。

 というのも、透析患者さんの血圧が降圧剤が増えたわけでもないのにあるときから急に下がってしまっ時に心のう液貯留を疑うというのは、米国では腎臓内科専門医試験にも出るくらい有名だからだ。日本でも有名かも知れないが、ともかく透析室ではこの二週間血圧がさがってもターゲット体重を上げて降圧剤を切るばかりで、心エコーなどはなされていなかった。

 そこで「心タンポナーデを疑う」と院外から修行に来てくれたフェローに伝えると、行動力のある彼がICUからすぐさま心エコーを持ってきてくれた。みると、心のう液貯留があるし心臓の動きも悪そうだ。しかし、うちで拡張障害を判断なさるのは心エコー技師さんと循環器科の先生方。透析患者さんに心のう液がたまること自体はよくあるから、慢性貯留と言われて何もしてくれないかな…。

 こういうとき私は、人任せにせず議論できるように心エコー室まで患者さんについていく。画像を見ながら心エコー技師さんは「右室は拡張してるから大丈夫そうです」と第一印象をおっしゃったが、私には右心房が凹んでいるように見えた。循環器内科の先生とも相談して、たしかに拡張障害はあるし右室圧も高いが、心タンポナーデとまでは言えなさそうな結論になった。

 ここでわかったのは、循環器内科医の先生にとって「心タンポナーデ」には「STEMI(ST上昇の急性心筋梗塞)」と同じくらい緊急な響きがあることだ。だから今回のような「慢性心のう液貯留」と「心タンポナーデ」の間の病態は、「亜急性の心のう液貯留により拡張が軽度不全になり、血圧が低下している」と表現することで「じゃあ(心のう液を)抜こう」となった。

 というわけで心のう穿刺となった。しかも、tamponade physiologyがあるかどうかを検証するために右心カテを入れ、穿刺前後の値をチェックすることに。ちょっとドキドキしながら心カテ室の脇から観察していると、約500ml穿刺したあとで右室拡張圧も下がり、90mmHg台だった血圧も130mmHg台、40mmHg以下だった脈圧も正常化した(から本例はタンポナーデだったわけだが、まあ患者さんがよくなれば何と呼ぼうがたいした問題ではない)。

 心のう液の排液後にどんどん上がる血圧を見たときの充実感を私が忘れることはないだろう。よほど朗らかな表情をしていたのか、循環器科の先生も「満足?」と冷やかし混じりに励ましてくれた。米国で学んだことは日本でも使える。それは日本の先生方にも伝わる。そして、それがひいてはチームプレイで人の命を助けることが出来るんだ、と嬉しくなった瞬間だった。


2014/02/25

最近の透析経験 1

 米国から帰って透析患者さんを診るとき耐えなければならないのは「米国透析医療の成績は悪い」という統計的事実だ。しかし患者さんの成績はさておき、「米国透析医療のトレーニングの質」は「日本の透析医療トレーニングの質」に比べてそんなに悪いのだろうか。私はそんなことはないと思う。

 たしかに米国には日本腎臓財団が30年以上前からやって延べ3万人以上を送り出してきた「透析療法従事職員研修」はないし、日本のように透析回診を月水金(または火木土)やったりもしない(「透析療法従事職員研修」は、今いるところに実習に来る人がどんなことをするかは知っているが、集中講義には出ていないのでコメントは控えたい)。

 しかし、日本に「透析バイト」のような診療機会がある一方、私が腎臓内科フェローシップの間にした透析回診では、フェローひとりとスタッフひとりがペアになって、経験豊かなスタッフから透析に関する様々な臨床上の問題を対応する術を学んだ。日本では毎回の透析ごとちがう医師が回診するところもあるそうだが、米国では同じ患者さんを半年担当することでラポールも生まれた。

 だから、自分としては「いくら透析患者さんの生存成績の悪い国からやってきたとはいえ、自分の受けた透析のトレーニングは決して悪くない」と思っている。しかし学び続けなければならないことに変わりはないと日々診療にあたっているが、最近「やっぱりそうだ」と自信になる経験と「それでも甘い」と痛感する経験をした。

 「甘い」経験は、透析患者のシャント関連菌血症。「シャント部の発赤は感度が低い」とはいえ、注意深い観察をすればうっすら紅いことはある。蜂窩織炎ではないので、たとえ紅くなってもうっすらだ。透析患者の発熱でフォーカスが不明なら、たとえ感度が低くてもシャント部は注意深く診察しなければならないし、たとえシャント部が普通に見えてもVANCを始めたい。自信になった経験は、次に書く。


2014/02/18

Peerの重要性

 一緒に働いている先生方に言われるまで、IgA腎症のレビュー(NEJM 2013 368 2402)も、横紋筋融解症のレビュー(NEJM 2009 361 62)も、知らなかった。Peerの重要性はここにある。自分ひとりでは出来ない。こうやって高めあえる相手がいることが大事だ。

2014/02/11

電極法 (aka HCO3- measurement)

 腎臓内科に限らず多くの人が生化学でオーダーしている電解質だが、これがどんなふうに測定されているかをこないだ初めて知った。Na+、K+、Cl-については電極法という方法で測定するそうだ。要は検体とレファレンス溶液の電位差を測定するわけだが、検体にはいろんなイオンが入っているので個々のイオン濃度を測定するには個々のイオンに選択的な電極膜が必要だ。そこでNa+、K+についてはクラウンエーテルと呼ばれる王冠の形をしたエーテル化合物の膜が用いられ、Cl-には超積層固定化分子配向膜が用いられる。クラウンエーテルの構造式はほんとうに王冠みたいで美しいし、「超積層固定化分子配向膜」なんて、そんな高度な技術を用いてCl-濃度を測定していたとは驚いた。

 さて、日本はCl-を測るがHCO3-はガス分析でpHとpCO2から計算した値を用いるので、生化学だけでは酸塩基平衡もアニオンギャップも分からない(それならいっそCl-も測らなければいいという考えもあろうが)。「住めば都」、米国でCRPなしで診療できたように(もっとも私は日本にいたときからCRPは非特異的だし余り使わなかったが)、日本でHCO3-が基本生化学に入っていなくても診療ができないことはない。ただ疑問なのは、米国でCRPは「測らない」だけで「測れない」ことはない(膵炎などでは使ったし、高感度CRPは冠動脈疾患のリスク因子として研究もされている)のに、どうしてHCO3-は日本の病院で「測れない」のだろうかということだ。

 その謎に迫るために、まずHCO3-の測定がどのようになされているのか調べてみた。すると、私が生まれる前の1976年に発表された方法(Clin Chem 1976 22 243)がいまでも使用されていることが分かった。その方法とは、まずHCO3-をphosphoenolpyruvateとともにphosphoenolpyruvate carboxylaseという酵素で反応させoxaloacetateをつくり、oxaloacetateをNADHとともにmalate dehydrogenaseという酵素で反応させmalateとNAD+をつくる。NADHが酸化され減少すると、340nm波長のスペクトルが減少する。このスペクトルの減少幅が検体のHCO3-濃度に比例することから、HCO3-濃度を定量できる。

 ということで、おそらく日本にもphosphoenolpyruvate、NADH、phosphoenolpyruvate carboxylase、malate dehydrogenaseは存在し、スペクトロメターも存在するだろうから、日本でこの方法を用いてHCO3-を測定しないのは単純に慣習の問題なのだろう(あるいは、これらの基質が日本には希少ということもまったくあり得なくはないが)。まあ、静脈サンプルから直接測定したHCO3-濃度とABGから計算したHCO3-濃度にはほとんど差がなかったという報告(Clin Chem 2008 54 1586)もあるし、日本にも血液ガス分析装置ならたいていの病院にはあるのでそこまで不便はないが、この酵素法が日本にもあるのか、もう少し調べてみたい。


 [2016年6月追加]酵素法はシーメンスのディメンション®シリーズ(日本にはEXL®、Vista®があるが最高スペックのRxL Max®を使っているところもあるようだ)で測定できる。また最近、東洋紡がダイヤカラーCO2®を売っている。補酵素にMg2+を使うことと、吸光度計では波長405nm(青紫)と505nm(緑)における吸光度の差を精製水を対照に光路長10mmで測定し、インキュベーション後の吸光度からインキュベーション開始時のを差し引いた値を求めるらしい。またベックマン・コールター社がシンクロンシステム®用の試薬を売っていたがシンクロンじたいが日本にはないようだ(UA®、Unicel DxC®;これらは電極法で緊急時測定項目としてCO2を測れるらしい)。


2014/02/04

HD for hypothermia

 映画『BRAVE HEARTS 海猿』(2012年)は、故障した飛行機を海上着水させて乗客乗員をレスキューする感動的な話だが、季節は触れられていない。低体温の話がでなかったので、おそらく夏だったのだろう(話は東京湾だが、ロケ地は福岡のようだ)。
 さて、今いる場所は北緯26度、冬でも最低気温は平均14~16℃だが、それでも体温よりは低い。だから、事と次第によっては(たとえ普段着で海に飛び込むとかそういう奇想天外なことをしなくても)低体温症は起こる。
 それで血液透析患者さんの低体温症を診ることもあるわけだが、ここで少し問題がある。というのも、暖かい毛布はいいとして、温生食は体液過剰になってしまうし、膀胱洗浄は膀胱が萎縮しているので出来ない。ECMOも腹腔洗浄も侵襲的だ。
 そこで誰しも考えるのが、血液透析による復温だろう。実際、腎機能が正常でも異常でも血液透析が試された報告例はある(CJEM 2009 11 174)し、NEJMの低体温レビュー(NEJM 2012 367 1930)にも、アルゴリズムには載ってないが紹介されている。
 透析液の温度は?HDよりHDF/HFのほうが置換液を直接身体にいれるからいいの?CVVHDFは?チュービングも温めたほうがいいの?質問は尽きないが、前述の症例報告をしたカナダのグループがliterature reviewしてもあまり引っかからなかったようだ。

2014/01/24

血漿交換 4

 ここまで自分が経験した血漿交換例を手がかりに勉強してきた。ところで、ASFAガイドラインは140ページもある。だから必要なときに必要な部分を読めばよいが、最後にASFAがGrade Iで適応を推奨している疾患一覧を並べる。

AIDP
age-related macular degeneration, dry (rheopheresis)
ANCA-associated RPGN, dialysis dependent
ANCA-associated RPGN, with diffuse alveolar hemorrhage
anti-GBM disease, with alveolar hemorrhage
anti-GBM disease, dialysis independent
babesiosis, severe
CIDP
cryoglobulinemia, severe
cutaneous T-cell lymphoma, erythrodermic (ECP)
familial hypercholesterolemia, homozygotes (LDL-apheresis)
FSGS, recurrent in transplanted kidney
atypical HUS, factor H antibody
hereditary hemachromatosis (erythrocytapheresis)
hyperleukocytosis (leukocytapheresis)
hyperviscosity in monoclonal gammopathies, symptomatic
hyperviscosity in monocloncal gammopathies, prophylaxis for rituximab
ABOi liver transplantation, desensitization
myasthenia gravis, moderate-to-severe
myasthenia gravis, pre-thymectomy
paraproteinemic demyelinating polyneuropathies
PANDAS (sydenham's chorea)
polycythemia vera (erythrocytapheresis)
ABO compatible renal transplant, AMR
ABO compatible renal transplant, desensitization
sickle cell disease, acute stroke (RBC exchange)
TMA, ticlopidine-induced
Wilson's disease, fulminant

 RheopheresisはDFPP(double-filtration plasmapheresis)のことで、血漿のうち高分子量の成分を選択的に除去する治療だ。Age-related macular degenerationでは、fibrinogen、LDL-C、fibronectin、vWFなどを除去して血液の粘稠度を下げ、網膜の血流を改善することが期待される。

 ECPはextracorporeal photopheresisの略で、血液のある成分を体外に取ってきて、光で焼く治療だ。たとえばcutaneous T-cell lymphomaでは、CD4+のT細胞を選択的に取ってきて、8-methoxypsoralenで処理してから紫外線Aで焼き体内に戻すそうだ。


2014/01/22

血漿交換 3 (aka TTP)

 さらにASFAガイドラインのTTPのところを読み、まずはADAMTS13がA disintegrin and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif, member 13の略であることを知った(十年一昔というが、私が学生のときはこれを単にvWFのcleaving enzymeと習った)。そして、現在では診断はpentad(発熱、溶血性貧血、血小板減少、腎機能障害、意識障害)が揃わなくても、説明のつかない急性発症のMAHA(microangiopathic hemolytic anemia)と血小板減少で、他のTMA(DIC、悪性高血圧、HUS、幹細胞移植後など)が考えにくければ十分と学んだ。つまり、TTPはいまだ臨床診断ということだ(Br J Haematol 2012 158 323も参照)。

 後天性TTPは多くの場合自己免疫で、抗ADAMTS13抗体(IgG4サブクラスが最も多い)があれば再発リスクというデータもあるようだが、いまだこの抗体を測定することは一般的ではない。膠原病、感染症、悪性腫瘍、薬剤、妊娠、骨髄移植などさまざまな病態が誘因になる。先天性TTPはADAMTS13欠損をもたらさうさまざまな遺伝子変異と関連している。

 ASFAガイドラインは、TTPはほぼ致死的な病気だったのが、血漿交換によって致死率が10%以下にさがったと、治療の勝利を誇っている。もっともこれは後天性の場合(抗ADAMTS13抗体を除去する)で、先天性の場合は単にADAMTS13を補う意味で血漿、cryopricipitate、濃縮ADAMTS13などが投与されることもある。

 どれだけの量で、いつまで血漿交換を続けるべきか?ASFAガイドラインはTPVの1-1.5倍量で毎日、血小板が15万/mm3を越え、LDHが基準値内で2-3日安定するまで行われることが多いと書いてある。UKガイドラインはTPVの1.5倍量を3日間、そのあとはTPVの1倍量と書いている。教科書には7日間とあった(が、日本は保険の都合で週3日なのだとか)。

 抗ADAMTS13抗体産生を抑えるためにもっともよく用いられる補助治療はステロイドで、ASFAガイドラインは1mg/kg/dayと言う(UKガイドラインは1g/day methylprednisolone三日間を併記、また別の教科書には200mgから始めろと書いてある)が、有効性はどのみち確立していない。

 再発例には血漿交換のdoseを増やしてさらにrituximabが用いられ、あるスタディでは375mg/m2/weekを4回(Blood 2011 118 1746)。しかし、最近はrituximabがfirst-lineとしても用いられるようになってきた(J Thromb Thrombolysis 2012 34 347)。CNI、vincrisineなども文献はあるようだ。つづく。


2014/01/20

血漿交換 2 (aka TPV)

 ABO不適合の脱感作で薦められる血漿交換の量と回数は?これも、施設によって異なる(交換量はTPVの1-1.5倍、交換はアルブミンまたはFFP、毎日または隔日で数回と書いてある)。TPVとはtotal plasma volumeの略で、Total blood volume×(1-Hct)だ。Total blood volumeは、Nadlerの方程式というのが最も正確だそうで、男性は0.3669 * Ht(in meter)^3 + 0.03219 * Wt(in kg)+ 0.6041、女性は0.3561 * Ht(in meter)^3 + 0.03308 x Wt(in kg)+ 0.1833。

 しかし、さらに調べると近似したGilcher’s Rule of Fivesというのがあった。これは性別と体格で大体total blood volumeがわかるという優れものだ。男性なら60ml/kg(太り体型)、65ml/kg(やせ体型)、70ml/kg(普通体型)、75ml/kg(筋肉質体型)。女性なら55ml/kg(太り体型)、60ml/kg(やせ体型)、65ml/kg(普通体型)、70ml/kg(筋肉質体型)。

 だから、たとえば普通体型でHctが40%の男性の1-1.5倍のTPV量は36-54ml/kgだが、実際にはこの計算をしている人はほとんどいないと思われる。これを交換するのに必要なFFPを、今度は単位に変換するのだが、これが紛らわしい。というのも、FFP一単位が120ml(全血200mlから取れる血漿量)と思ったら、480mlのことを慣習的に「5単位」というらしいからだ。だから、当座は単位よりmlで表現したほうがよさそうだ。


2014/01/17

血漿交換 1 (aka ABOi kidney transplant)

 じつは、私が前にいた施設では血漿交換を病理部がやっていた。病理部というか、輸血部・検査部という感じだったが、とにかく腎臓内科は(血漿交換に使うカテーテルの挿入も含めて)タッチしなかった。これは改善されるべき問題で、さもなければフェローシップを卒業してから自分で学ばなければならない。

 そんなわけで、ABO不適合の移植前血漿交換はAB型のFFPで置換する、とか聞いても最初は「何のことやら」だった(抗A、抗B抗体をふくまない血漿を選択するといわれれば納得だが;そもそもABO不適合移植じたい、前いた施設では少なくとも私がいた2年間では1件もなかった…レクチャは受けたが)。それで、いま勉強している。

 たとえばABO不適合移植の場合、昔は脾摘していたがRituximabを使うようになってからはしないという歴史的な背景、Rituximabは200mg投与が多い(が人により100mgだったり500-1000mgだったり、1回だったり複数回だったりする)、血漿交換は抗A・抗B抗体が16倍以下を目標にしている、などについて論文で読んだ(Transplantation 2011 91 853)。

  またASFA(American Society for Apheresis)によるガイドライン(J Clin Apher 2013 28 145)も入手した。この文献は、ABO不適合の移植前脱感作をRecommendation Grade 1B、Category Iに分類しているのみならず、教科書的記述もあって分かりやすい。

 まずABO不適合にはmajor incompatibility(レシピエントの抗A・抗B抗体によりドナー臓器の内皮細胞にあるA抗原・B抗原が攻撃され超急性・急性の体液性拒絶を起こす)、minor incompatibility(ドナー臓器に含まれるリンパ球が抗A・抗B抗体を産生してレシピエントに溶血性貧血を起こす)がある。

 Rituximabが主流だがbortezomibなどほかの免疫抑制剤が用いられることもあるし、これらの他にステロイド・MMF・CNIなども用いられるが、universalなレジメンはない。移植後に抗体価があがってくることはあるが、それらが全てAMR(antibody-mediated rejection)なわけではない(PPVは低いがNPVは高いということ)。腎生検でのC4d positivityについても同様で、それすなわちAMRなわけではない。つづく。

2014/01/11

UMOD

 Tamm-HorsfallタンパクをRockfellerにいたTamm先生とHorsfall先生が発表したのは1952年(J Exp Med 1952 95 71)。当時の論文を読むと、インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、New Castle Diseaseウイルスによってこのタンパクが構造を変えることが主に示されている。

 T-Hタンパクが尿路感染症予防の役割を果たしているとかいうまことしやかな噂は、ここから来たのだろうか?根拠はないが、少なくともこのタンパクの異常でおこるMCKD2(medullary cystic kidney disease 2)やHNJF1(familial juvenile hyperuricemic nephropathy 1)で尿路感染症が多いという話は聴かない。

 このタンパクは今ではuromodulinと呼ばれ、UMOD遺伝子がコードしている。その発現はループ上行脚に限定的で(J Clin Path 1969 22 334)、膜タンパクと水溶性(尿中に放出される)のが存在する。Uromodulinが何をしているかずっと謎だったが、GWASをしてUMOD遺伝子のpromoter部位にあるSNPがCKD患者で最も集積していることが分かった(Nat Genet 2010 42 376)。

 では、UMOD遺伝子のpromotorに異常があるとどうしてCKDになりやすいのだろうか?それを動物実験と腎がん患者さんの腎摘標本で調べた論文が最近でた(Nat Med 2013 19 1655)。UMODのtransgenic miceは尿細管円柱が多い(そりゃそうだ)のみならず、salt-sensitive hypertensionになった。

 活性化NKCC2の表在が増えたことと高血圧がフロセミドで相殺されたことから、高血圧の原因はNKCC2によるNa(Clも)再吸収を介したものと考えられた。NKCC2を活性化するSPAK(kidney-specific SPAK)もOSR1も発現が増えていた。

 この論文を読むと、腎前性腎不全でガラス円柱が多いのは、単に尿が濃縮されているだけでなく、腎(ループ上行脚)でuromodulinの発現が増えて体液保持を助けているのではないか?という考えが浮かぶ。実際UMODのプロモーター領域にはglucocorticoid response elementという部位があるから、UMOD遺伝子のストレスホルモンによる制御があるのかもしれない。

2014/01/08

こういうレベルの学び

 今月の目標は、教育をチーム内で充実させることだ。それでさっそく「私達のチームは患者さんによいケアを提供することだけでなく、私達一人ひとりが成長することをも使命にしています」という意思表示をして、平日昼の3つを研修医向けミニレクチャ、1つをフェロー成長の時間に割り当てることにした。

 研修医向けミニレクチャは、ローテーターがせっかく一ヶ月まわっても「酸塩基平衡が読めない」とか抜けてしまってはいけないので、重要なテーマをリストして一つ一つはじめた。二人のフェローと私でやれば、週1回で済む(フェローの分は、私が助けてあげる)。最初は簡素でも、二ヶ月・三ヶ月とやれば質も高められるはずだ。

 フェロー成長の時間は、なんと言っても論文を読むことだ。専門内科医は(少なくとも腎臓は)論文を読むことなしには育てられないし、成長もできない。週1回論文を読むことを習慣にしている(私が以前いた尊敬すべき)病院に倣って、それを始めることにした。うちだってJASN、CJASN、KI、AJKDが毎月送られてくるのだから、読むネタには困らない。

 そこでさっそく本棚にあったCJASNを手にとってパラパラめくるとAttending Roundsというコーナーが。見るとあのMayo ClinicのFervenza先生が自験例をもとにレクチャしている(CJASN 2013 8 1979)。これはよいと読み進めると、例の「nephrotic-range proteinuriaとnephrotic syndromeは違う病態」というコメント(以前も聞いた)に始まり、primaryとsecondary FSGSの違い、FSGSの分類について解説してくれた(参照していたNEJM 2011 365 2398もよいレビューだ)。

 さらにnephrotic-range proteinuria(アルブミン3.8g/dl)とhypercalciuriaを発症した若い男性の腎生検を紹介し、糸球体がglobal glomerularsclerosisを呈しつつ電顕で足突起が保たれていることからMCD、FSGS以外の病態を考えていた。

 見直すと蛋白尿の多くはアルブミンではなかったこと、H+Eで紫・von Kossa染色で黒・偏光レンズで極性のないcalcium phosphate crystalを含有していることなどから近位尿細管障害を疑い、しかしFanconi症候群がないことからDent病を疑い、遺伝子診断で診断を確定した。

 Dent病については以前にも書いたので病態は省略するが、ここで興味深いのは尿細管の病気だと思われていたDent病も(nephrocalcinosis以外の機序で)糸球体の病気を起こすことだ。詳細は不明だが、足細胞にもCLC5はあるそうだ(PLoS ONE 2012 7 e45605)から、CLC5が異常だとTGF-βなどが作られ糸球体がしぼむのかもしれない(doi:10.5414/CN107429)。

 そのあといろんな先生からFervenza先生が質問を受け答えていたが、最後の質問は「あなたはglomerular hyperfiltrationはadaptive FSGSの原因になる(obesityなど)というが、腎提供したliving donorはどうか?」というものだった。まあ「ドナーの長期成績は(日本では知らないが少なくとも米国では)一般の人たちよりずっと良い」という答えが来るとは思ったが、そのあとでドナー以外のデータ(NEJM 1991 325 1058)を紹介しており興味深かった。

 これは片腎(片方が低形成あるいは腎摘後)の腎癌患者さんに部分腎摘をした後の長期データだ。血圧や蛋白尿だけでなく、なんと4例にはopen biopsyまでしている。これによれば、蛋白尿の程度は残腎量に逆相関し、0.9-6.7g/dl出ていた群は残腎が38±16%だった。腎臓が2個から1個になったくらいではreserveがあるが、1個から0.3個になるとさすがに影響がでるということか。

 考えてみれば、フェローシップをしていた2年間はこういうレベルの学びが毎週(しかも2回以上)あった。だから(研修医教育もよいが)専門医教育にこそ情熱を感じていまの仕事を選んだ私は、いまの環境でいまのフェロー達にこういう学びを提供せねばならない。そしてそれは、他人に何といわれようと動かない決意であるべきだと思っている。