2013/12/16

Dipstick

 米国で腎臓内科を勉強すると、尿定性検査の意義を軽く感じるようになるかもしれない。もちろん入院中のAKIであれ外来のCKDであれ尿沈査とセットで尿定性はやる。しかし、血尿なら沈査でいくつ見えたか・形態はどうかのほうが重要(色素尿症をうたがっているときは別だが)だし、蛋白尿の半定量的な検査よりもグラムクレアチニン比を重視する。
 しかし日本に帰ってきて、尿定性検査の「簡便で、安価で、どこでもでき、半定量的」という強みも意識するようになった。血尿でも蛋白尿でも(-)→(±)→(+)→(++)→(+++)と量が増える(試験紙の色が濃くなる)につれて腎予後が悪いというスタディはいくらもある。最近では、お隣カナダでそのスクリーニングとしての有効性を示すスタディが出た(JASN 2011 22 1729)。

2013/12/12

米国腎臓内科専門医として

 米国腎臓内科専門医試験に合格した。いままでの努力が報われて嬉しいし、米国腎臓内科専門医試験を取得した日本人の先生はまだそんなに多くないからおいしい。米国腎臓内科専門医試験を取得して、しかも日本に帰ってきた者としてできる最も重要なことはなんだろうか?それは、じつは米国医療を広めたり教えたりすることよりも、高度に専門化された職業ギルドの一員として質を高め続ける姿勢を周囲に示すことだと、私は考える。

2013/12/09

Bardoxoloneの次はこれか?

 Bardoxoloneの大規模トライアルBEACONが中止になって、がっかりした2012-2013年。しかし、糖尿病性腎症は世界でおそらく最も多い腎臓病で、人類の敵だから、その予防・治療薬を開発すべくさまざまな研究がなされている。このあいだ勉強会に参加して、さまざまに研究されているお薬のなかにGLP-1アナログがあると知った。

 GLP-1アナログといえば最近開発がすすむsecretogoguesのひとつ(むかし勉強したのを思い出した)だが、論文によれば(doi:10.1038/ki.2013.427)、腎症の動物モデルで腎内皮細胞のGLP-1受容体が確認され、GLP-1アナログ投与が蛋白尿を抑え、その作用は拮抗薬で相殺された。

 GLP-1受容体の下流シグナルはNADPH oxidaseを阻害して抗酸化作用を示すと考えられているので、このクスリの腎保護作用も機序的にはBardoxoloneに近い。しかしGLP-1アナログはすでに糖尿病治療薬として承認され出回っているから、安全性がより確立されているかもしれない。このあとの大規模スタディで、hard end pointで結果がでることを期待したい。

2013/12/05

無尿の尿も尿は尿

 「無尿透析患者さんの尿路感染症」という言葉は一見矛盾している。しかし、pyocystisといって(pyonephritisの姉妹語)膀胱が溶けるほどの感染で死亡にいたることは、あるそうだ。私は経験ないが、実際、報告もある(J Urol 1985 134 716)。
 では、無尿患者さんの膿尿は、すべて感染症なのだろうか?これについてはレビュー論文(KI 2006 70 2035)があって、いくつかある小スタディをまとめると、膿尿が尿路感染症かについてはPPVが11-70%(当てにならない)、NPVは90%を越えていた。
 では膿尿+細菌尿(で培養まで陽性)だったら?症状があれば、感染と取るのがリーズナブルだ。症状がない場合、実際の臨床では治療しないこともあるが、それで膀胱が溶けたということもあるようだ(Int Urol Nephrol 2002 34 415)。
 いままで正直あまり気に留めなかった無尿患者さんの尿だが、「無尿の尿も尿は尿」なようだ。感染のフォーカスを絞れないときなど、NPVが高いので膿尿がなければ除外に使えるし、あって培養まで陽性なら注意しなければならない。

2013/12/02

ある論文

 ある論文(JASN 2005 16 3711)を、とても興味深く読んだ。これはカリフォルニア州北部、ハワイ、アメリカ領サモア、グアム、サイパン地域(Network 17)のUSRDSデータから、Asians and Pacific islandersのサブグループについて生存率と移植率を白人と比べたものだ。わたしがとくに注目したのは、日系米国人の成績だ。

 日系人は白人に比べて(ほかのアジア系やPacific islandersに比べても)高齢で、医療保険をもち、仕事をしていた。ESRDの原因は白人に比べて圧倒的に糖尿病が多かった(61.5%)が、高血圧の有病率は白人より高かった(88.5%)。透析開始時の血液検査データは白人に比べて低アルブミン(3g/dl)、低eGFR(5.9ml/min/1.73m2)だった。

 透析の死亡率はどうか?白人より低い0.64であった(信頼区間0.57-0.72)。年齢、性別、保険の有無、仕事の有無、ESRDの原疾患、既往症、クレアチニン、アルブミン、ヘモグロビン、透析前ESAの有無、BMI、喫煙の有無を調整した後での値だ。それから移植を受ける率は同様の調整をかけても白人より有意に低かった(0.34、信頼区間は0.24 to 0.46)。

 この論文は「日本の透析診療の成績が世界で一番なのはなぜか?」という大きな質問に対しての、「日本人の遺伝子と文化習慣そのものがESRD患者さんの生存率を高めているのだろうか?」という問いを想起させる。私はこの問いに「そうだ(あるいは、それもある)」と思ってその仮説を検証すべく探していたところに、この論文に出会った。

 もちろん、この論文は後ろ向きの観察研究だから相関は言えても因果関係は言えない。もし因果関係があったとしても、日系人の患者さん達で透析間の体重増がどうだったか、透析時間は、などのデータがないので「日系人群の何がいいのか」は分からない。というわけで、確実なことはいえないが、示唆的な論文だった。