2020/09/27

SIADの治療、水制限?追加治療は何がいい?

 今年になって、SIADの治療のRCTの論文が3つも出ている。どれも、power自体は小さな研究ではあるが、非常参考になるので少し紹介したい。

2019年に出された、SIADの最新治療と展望はぜひ読んでもらいたい。

本邦のガイドラインでは、治療の手引きでは下記のように記載されている。

次のいずれか(組み合わせも含む)の治療法を選択する。

1:原疾患の治療を行う。

2:1日の総水分摂取量を体重1 kg当り15~20 mlに制限する。 

3:食塩を経口的または非経口的に1日200 mEq以上投与する。

4:重症低ナトリウム血症(120 mEq/L以下)で中枢神経系症状を伴うなど速やかな治療を必要とする場合はフロセミドを随時10~20 mg静脈内に投与し、尿中ナトリ ウム排泄量に相当する3%食塩水を投与する。その際、橋中心髄鞘崩壊を防止す るために1日の血清ナトリウム濃度上昇は10 mEq/L以下とする。

5:異所性バゾプレシン産生腫瘍に原因し、既存の治療で効果不十分な場合に限り、 成人にはモザバプタン塩酸塩錠(30 mg)を1日1回1錠食後に経口投与する。投与開 始3日間で有効性が認められた場合に限り、引き続き7日間まで継続投与するこ とができる。

6:デメクロサイクリンを1日600~1,200 mg経口投与する。


SIADに伴うものでも、重症低Na血症であれば治療は3%生理食塩水などの高張食塩水を用いて治療するが、Naが125や130mEq/L程度のSIADに対しての治療はかなり統一されていないと感じる。水制限をして、塩分負荷をする治療を行うが、患者さんによっては塩分負荷がかなり苦痛に感じる人も多い。

では、ここから3本の結果を説明していく。

・まず、タイで行われたRCT(EFFUSE-FLUID Trial)で92人のSIAD患者さん(腎機能はeGFR>60mL/min/1.73m2)に対して、水分制限群(500-1000ml/day未満)、水分制限+フロセミド群(20-40mg/day)、水分制限+塩分負荷(3g/day)+フロセミド群で比較を行っている。

primary outcomeは4、7、14、28日目の血清Naの変化をみている。


この試験は、open-label試験であり、バイアスの混入は否定できないこと、powerが足りないというlimitationはあるが、水分制限とその他の治療にNa変化の上では大きな変化は認めず、フロセミド投与群では急性腎不全と低カリウム血症の発症の割合が高かった。



ここで、SIADの低Na血症の治療のときにまずは水制限。そして必要があれば追加の治療を検討する。その際にフロセミドや塩分負荷以外の方法はないのか?ということが疑問として出てくる。

追加治療という点でよくトルバプタンを使用することが多くなってきている。しかし、トルバプタンは高価な治療薬であり、また過度に補正されすぎることがある。

そこで、2020年の報告で出てきたものが、エンパグリフロジンのRCTである。


・これは、スイスからの報告であり二重盲検でのRCTで87人のSIAD患者に対して、水分制限(<1000mL/day)に1日1回のエンパグリフロジン群とプラセボ群で4日間投与して比較したものである。primary endpointは4日投与してのNa変化である。

そもそも、SGLT2が用いられている理由は、近位尿細管からのグルコースの再吸収阻害により、尿糖を増加させ、浸透圧利尿により自由水排泄が促されるためである。



エンパグリフロジン投与群ではNa改善においてプラセボに比較して有意に改善を認めていた。

                                  


そして、飲水制限が治療の前提で話していたけど、本当に飲水制限はいい治療なの?というのがアイルランドからの報告で出ている。


この報告は非割り付けのRCTでSIAD患者(46人)に対して水制限群(1L/day未満)と水制限をしない群で比較したものである。primary endpointは4日目と30日目の血清Naの変化である。



水制限群では、11日目の早期にNaは速やかに増加していることがわかる。しかし、その後はそこまで血清Naは動いていない。しかし、非飲水制限群と比較して血清Na濃度は有意に改善していることがわかる。

また、上記の表が、飲水制限群と非制限群の飲水量の違いになる。


この研究から、飲水制限は有用な治療であるが、飲水制限群でも何人かの患者はNa上昇が不十分で飲水制限に追加の治療が必要になっていた。その際の追加治療に関しては、費用・効果などを考えての治療になってくる。今後はSGLT2も一つの選択肢になるかもしれない。


SIADは意外に出会う機会は多い。その中で、最新の知識をupdateしながら管理する必要がある。




2020/09/24

食後の腎生理

 食欲の秋に、ビックリ?な発見だ。JASN・8月号の表紙をご覧になった方はもうご存知だろうが、アルカリン・タイド(食事摂取時に胃酸が放出される分、身体にアルカリがたまる現象)後に腎がどのようにして過剰なアルカリを排泄しているかが明らかになった(JASN 2020 31 1711)。


(ビックリ・・ならぬ、栃の実)


 なんと、食後に小腸粘膜細胞から分泌されるセクレチンが、腸液や膵液の分泌を促進させるだけでなく、β介在細胞(acidではなくbaseを排泄するため、αではなくβ)にも作用することがわかったのである。

 β介在細胞にセクレチン受容体があるだけでも驚きだが、この受容体の刺激により活性化された細胞内のホスホキナーゼA(PKA)は、Cl-チャネルCFTRを活性化する。そして、活性化されたCFTRがHCO3-/Cl-交換輸送体のベンドリンを活性化・安定化させるのだという。


(図は前掲論文より)


 CFTRといえば嚢胞線維症(Cystic Fibrosis、CF)の責任遺伝子であるが、そもそもこの発見はCF患者さんの観察から得られたもの。CF患者さんは腸液や膵液だけでなく尿中アルカリ排泄も障害されており、セクレチンに対する反応が乏しいことが知られていた。それで、その仕組みを調べたわけだ。 

 なお、実験にはCFに対する新薬も使われている。海外のCFTR遺伝子異常で多いのはΔF508であるが、この病型に対しては既にシャペロンやポテンシエイター(elexacaftor、ivacaftor、tezacaftor)が存在する。実験ではこれらの薬によってCFTR発現を調節し、セクレチンによる反応がどう変わるかを調べている。

 β介在細胞はCl-と交換にHCO3-を排泄するので、尿細管内腔にCl-がないと働くことができない(それが、Cl-欠乏時に代謝性アルカローシスが維持される仕組みなことは、以前も紹介した)。しかし、CFTRチャネルがあると、細胞内から尿細管内腔にCl-を供給してペンドリンを回せるので、何かと都合がよさそうだ。

 CFTRチャネル・・セクレチン・・今まで「素通り(腎臓には関係ない?と思っていた)」してきた筆者としては、反省しきりである。とくにCFTRチャネルは、腎臓内科の「裏テーマ」とも言うべきCl-の腎ハンドリングで大きな役割を果たしているかもしれず、今後に期待したい。



(Biophys Rev 2009 1 3より)



 

 

2020/09/17

BLISS-LNスタディ

 シクロフォスファミド(CYC)+アザチオプリン(AZA)にMMFにと増えてきたループス腎炎の治療選択肢(こちらも参照)に、仲間が追加されるかもしれない。BAFF(B細胞活性化因子)を阻害するモノクローナル抗体、ベリムマブの有効性を調べたBLISS-LNスタディがニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告された(NEJM 2020 383 1117)。

 スタディは中国・欧州・米国など21カ国の107施設で、ループス腎炎患者448人を対象に行われた。患者の平均年齢は33歳、女性が88%、アジア系が約50%。スタディ開始時にSLE発症から約3年、ループス腎炎発症から約0.2年が経過していた。

 腎炎については、全例が腎生検をうけ、クラスIII・IVが約6割、III+V・IV+Vが約3割、残りがVであった。平均尿蛋白クレアチニン比は3.4(41%が3以上)、平均eGFRは100ml/min/1.73m2(83%が60以上)で、eGFRが30ml/min/1.73m2未満・1年以内に透析をうけたなどの患者は除外されている。

 彼らに対して標準治療を行ったうえでベリムマブまたはプラセボを追加したわけだが、標準治療は人種を反映し「CYC(500mg点滴、2週おき6回)+AZA(目標2mg/kg/d、ただし200mg/d未満)」または「MMF(目標3g/d)」であった。また、ACEI/ARB・ヒドロキシクロロキンは約7割に処方されていた。

 ステロイドはどうか?こちらは医師の裁量で、mPSLの500-100mgパルスを1-3回おこなってもよく、PSL経口を0.5-1.0mg/kg/dではじめてもよかった。ただし、24週までに10mg/d以下に減量し、そこからの増量は不可。これを破った場合はtreatment failureと見なされた(24-76週は、SLEの腎外症状についてのみ例外的に短期間の増量がゆるされた)。

 そのうえで、ベリムマブ(またはプラセボ)が、1・15・29日目・以後は28日おき100週まで10mg/kg点滴投与された。
 
 プライマリ・エンドポイントは、104週後のPERR(primary efficacy renal response)で、尿蛋白クレアチニン比が0.7未満、eGFRの急性増悪前のベースからの低下が20%未満(または、60ml/min/1.73m2以上)と定義された。

 セカンダリ・エンドポイントはいくつかあるが、104週後のCRR(complete renal response)など。こちらは尿蛋白クレアチニン比0.5未満、eGFRの急性増悪前のベースからの低下が10%未満(または、90ml/min/1.73m2以上)と定義された。

 すると結果は、以下のようだった。

       介入群 対照群
104週PERR  43% 32%
       オッズ比1.6
 (信頼区間1.0-2.3、p=0.03) 
104週CRR   30%   20%
       オッズ比1.7
 (信頼区間1.1-2.7、p=0.02)

 さらに、腎関連イベント・死亡は以下のようだった。

        介入群 対照群
死亡       1    2
末期腎不全    0    1
Cr値の倍増       1       1
蛋白尿↑・腎機能↓ 17   39
腎関連の治療中止 16   20

 サブ解析では、CYC+AZA群・黒人群でプライマリ、セカンダリともに有意差はでず(ただしオッズ比は1以上)。MMF群・非黒人では有意差がでた。AZA・MMFは、下痢や骨髄抑制などにより「目標用量」に達しない症例がいたのかもしれないが、実際用量のデータは入手できなかった。

 また安全性は、治療関連の重度有害事象は介入群23件、プラセボ群25件だった。点滴薬にありがちな点滴後反応は、介入群26件・プラセボ群29件だった。数字上介入群のほうが多かったのは、「呼吸器、胸郭、縦隔の異常(5件)」と、がん(非メラノーマ皮膚がんを除き2件、含み3件)などだった。

 個人的には、9年前米国内科研修中にこの薬の存在を知り(こちらも参照)、できれば腎炎にも効くといいなあと思っていたので、まずはblissful(幸せに満ち溢れた)とまでは行かずともポジティブな結果でよかった。

 しかし位置づけとなると、どう使われるかは微妙と言わざるを得ない。そもそもベリムマブは、(論文著者も記しているように)腎炎を除外したSLEに試され認可された薬であり、よりハードコアな腎炎にも効くかには疑問もあったようだ。

 それもあってか、本スタディもかなり軽症の腎炎患者を集めてなんとか結果を出した感は否めない。CYC+AZA群や黒人患者で有意差が出なかったのは、治療抵抗性の腎炎が多かったからなのかもしれない(こちらも、論文著者が認めている)。

 筆者には、「腎外ループスにリウマチ内科でヒドロキシクロロキンなどと同様に使われて、腎炎を合併してもそのまま継続される」感じが想像しやすい。「初発のループス腎炎で、腎臓内科医がCYC・MMFに追加して使う」ならCNI(タクロリムス・シクロスポリン)が多いかもしれない。あくまで想像であるが・・。

 とはいえ、ステロイドでなんとかなる場合も多い腎炎領域でこうした論文に触れると、気持ちがいいのも事実である。IgA腎症ではベリムマブの仲間blisibimodが試みられ(こちらも参照;ただし治験は中止された)、今後「BAFF阻害薬(BLyS阻害薬とも)」を耳にする機会は増えるかもしれない。



ギルトフリーなお菓子、Bliss Balls
(引用元はこちら



2020/09/14

IMPROVE-CKDとドミノ倒し

 CKD4期(eGFR 26ml/min/1.73m2)の63歳男性。内服にACEI/ARB、βブロッカー、スタチンなど。血圧140/76mmHg、頚動脈‐大腿動脈間PWV 10.8m/秒、腹部大動脈の石灰化スコア1535。血液検査結果は以下のようであった。

T-Chol 173mg/dl
Ca 9.2mg/dl
IP 3.9mg/dl
ALP 89U/l
25(OH)VitD 28ng/ml
1,25(OH)2VitD 30pg/ml
Intact PTH 112pg/ml
Intact FGF23 133pg/ml

Q:IMPROVE-CKDスタディを踏まえて、どうしますか?


 IMPROVE-CKDスタディ(doi:10.1681/ASN.2020040411)といえば、CKD3B・4期の278人を、炭酸ランタン群(500mg1日3回から開始、リン値が4.9mg/dlを越えたら増量)とプラセボ群にランダム化した多国籍(オーストラリア・マレーシア・ニュージーランド)スタディだ。

 コレステロールを「下げれば下げるほど」心血管系イベントを抑制できることを示したIMPROVE-ITスタディ(NEJM 2015 372 2387)にあやかったのか、96ヶ月フォローしてのプライマリ・エンドポイントは、頚動脈‐大腿動脈PMV。石灰化スコア・PTH・FGF23なども調べられた。


 しかし結果は・・


 そもそも「リンが下がらなかった」!グラフを見てわかるように、介入群でリンは低めなのであるが、すべてのデータをあわせてもその差は0.28mg/dlにすぎなかった(信頼区間0.03~0.4mg/dl、p=0.03)。


(前掲論文より)

 
 これでは、「リンをさげる→石灰化を抑制する→PMV・石灰化スコア・FGF23などの数値が改善する」のドミノ倒しが始まらない。それでか、PMV・石灰化スコア・FGF23などにも有意差は見られなかった(石灰化スコアは、介入群のほうが治療前から高かったのだが)。

 なぜリンが下がらなかったのか?アドヒアランスは74%の患者で80%以上と悪くなかったが、介入群の93.5%が炭酸ランタン500mg3錠/日であり、用量を増やす閾値(前述の4.9mg/dl)を越えなかったようだ。

 もしこの閾値を低くして薬を増やしておけば、下図のようにもっとクッキリしたリン値の差がでたのかもしれない。しかし、CKD3B・4期で3台mg/dlの患者に、炭酸ランタン500mg6錠/日を処方しようと思う方は少ないだろう。 消化器系副作用・薬の量・コストなどが馬鹿にならないからだ。


クッキリとした差(模式図)


 それもあってか、JASN同月号のエディトリアルは題名からして「吸着薬の失敗(Binder Blunder)」と手厳しい(doi:10.1681/ASN.202081182)。しかし理論上は、リン値をクッキリと(2台mg/dlとかのレベルまで)さげると石灰化をキッチリと抑制できる(できない)かが証明されておらず、ドミノ倒し仮説は完全には否定できない。

 だからこそ、NHE3阻害薬・NPT2a阻害薬など新規リン吸着薬が数々治験されている(こちらも参照)のだし、その文脈でFGF23とそのモノクローナル抗体が注目されてもいる(こちらも参照)。ドミノ倒しの研究は、まだまだ続くだろう。

 
 

(引用元はこちら

 
 
 


2020/09/04

速報 IN.PACT AVスタディ

 バスキュラーアクセス領域に、ビッグ・ニュースだ。パクリタキセル被覆バルーンIN.PACT AV®による内シャント狭窄への効果が示され、先週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告された(NEJM 2020 383 733)。二部構成で紹介したい。


引用元はこちら


1. 概要


 このスタディは米国・日本・ニュージーランド29施設で(日本からは4市中病院と2大学病院)おこなわれ、血液透析患者330人(日本からは112人)の、内シャント狭窄(狭窄率50%以上、新規か再狭窄かは問わない)が対象だった。

 シャントの内訳は:

前腕(橈骨動脈-橈側皮静脈)166人
肘(上腕動脈-橈側皮静脈)120人
肘(上腕動脈-穿通枝)32人
その他 12人

 標的となった狭窄の部位は:

吻合部 84人
動脈流入路 11人
橈側皮静脈本幹 66人
穿刺部 37人
吻合部静脈側* 26人
(*swing point、周囲組織から剥離し「ぶらぶら」させた皮静脈の基点)
静脈流出路 106人

 とある。論文には国ごとのシャント種類・狭窄部位の内訳はないが、肘シャントの多くは「上腕・ファースト(こちらも参照)」の米国で、その多くが静脈流出路の狭窄であったろうと推察される(狭窄前後の静脈径は、平均7.2ミリもある)。


肘シャント(引用元はこちら


 こうしたシャント狭窄に対し、介入群・対照群のいずれもpre-dilationで拡張を行い(平均バルーン径:7.2ミリ、平均拡張回数:2.1回、平均最高拡張圧:18気圧)、両群ともに狭窄率は10%程度に改善した。

 そのうえで、介入群は0.035インチガイドワイヤー対応の薬剤被覆バルーンで、対照群は標準バルーンで、それぞれ追加拡張をおこなった(平均バルーン径:7.3ミリ、平均バルーン長:54ミリ、平均拡張回数:1.3回、平均最高拡張圧:10気圧)。

 なお、スタディの性質上どうしようもないことだが、標準バルーンと薬剤被覆バルーンは見た目が異なるため、バイアスを排除できない。それでなのかは分からないが、介入群は全例が180秒以上拡張していたのに対し、対照群は64%しかしていなかった。いずれにせよ、両群とも申し分なく狭窄を解消し、手技を終えた。


 それで、どうなったか?


 プライマリエンドポイントは、手技後6ヶ月間の開存率。つまり、再手技(①シャント不全徴候をともなう50%以上の再狭窄、または②シャント不全徴候を伴わない70%以上の再狭窄があった場合)がなく、シャント流路内に血栓もできないことだった。

 その結果、対照群の6ヶ月開存率は59.5%だったのに対し、介入群は82.2%だった(p<0.001)。ワースト・ケース・シナリオ解析(フォローできなかった介入群は全例再手技となり、フォローできなかった対照群は全例開存していたと仮定)でも、充分に有意差がでた(62.5% v. 73.5%、p=0.02)。


再手技減少の宣伝(引用元はこちら


 なお、国ごとや病変部位ごとのサブ解析データは入手できなかったが、「米国」と「米国以外(ニュージーランドは4症例なので、ほぼ日本)」のサブ解析ではどちらも遜色ない結果だった(米国の開存率は介入群で81%・対照群で65%、米国以外は介入群で83%・対照群で50.8%)。

 安全性は、手技後30日以内のシャント関連有害事象に有意差はなく(介入群4.2%、対照群4.4%、p=0.002)、12ヶ月後の死亡率にも有意差はなかった(介入群9.4%、対照群9.6%)。ただし、あえて挙げると手技後12ヶ月以内の肺炎が介入群で高かった(介入群7.1%、対照群3.1%、有意差データはなし)。


2. 感想


 パクリタキセル被覆バルーンといえば、末梢動脈疾患にはすでにLUTONIX®(こちらも参照)とINPACT®が用いられ、どちらも遜色ない印象で用いられているようだ(ドイツのリアルワールドなデータ・インタビューはこちら)。

 バスキュラーアクセス治療ではまずLUTONIX®が認可されたが、その根拠となる報告がやや残念(こちらも参照)で、「やっぱりシャントは別なのか・・」というペシミズムが拭えなかった。だから、今回申し分のない結果がでて、よかった。

 なお安全性については、末梢動脈疾患では被覆バルーン群で死亡率が対照群よりたかく心配された。しかし因果関係は明らかでなく、少なくともバスキュラー・アクセス領域のメタ・アナリシスでは有意差がみられなかった(J Endovasc Ther 2019 26 600)。
  
 ひきつづき短期・長期の有害事象には留意が必要なのはもちろんだが、バスキュラーアクセスの場合、論文著者もいうようにシャントの頻回狭窄や早期再閉塞による害(入院、再手術、不十分な透析、カテーテル関連合併症など)との兼ね合いも考慮すべきなのだろう。

 また本スタディは、日本の施設も参加しているので親しみやすいだろう。実臨床では得てして、「遠くのhigh-qualityスタディ」よりも「近くのnot-so-high-qualityスタディ」のほうが結果を受け入れやすいものだ。「近くてhigh-qualityスタディ」の今回、日本側の詳細な情報がわかると、より参考になるだろう。


  そのうえで、どうするか?


 日本のシャントPTA医療は、今年の医療報酬改定で点数が引き下げられる以前から「1処置1バルーン」の原則で成り立っている。よって、被覆バルーンを追加するのは、いまのところは頻回狭窄のケースなどに限定されるだろう。

 その意味では今回、新規より再狭窄病変で有意に開存率がすぐれていたのは、朗報かもしれない(新規病変は介入群90.7%・対照群75.6%で信頼区間[-0.1%~30.4%]、再狭窄病変は介入群78.9%・対照群52.4%で信頼区間[14.2%~38.8%])。

 今後、その有効性がリアル・ワールドで確認されれば、「被覆バルーンを追加すればPTA1回分(+再手術、入院、カテーテル・・・)が節約できる」といった議論が進むかもしれない。

 医療費の問題は複雑だが、いわゆる「ステークホルダー」それぞれが納得できるとよいだろう。なおその際には、「患者」という大切なステークホルダーのことも忘れてはならない。PTAの痛みに耐えるのも、新しい機器の関連有害事象を被りうるのも、結局は患者だからだ。