陸に初めて上がった両生類。彼らのネフロンには、近位尿細管の先に水を通さずNaClを通す管が新たに取り付けられた(後のヘンレ係蹄上行脚)。しかしこれだけでは尿希釈はできても尿濃縮はできない。つまり彼らの腎はまだ淡水適応時代の流れを継承しており、陸上で水と塩の吸収と再吸収を司るのは主に皮膚と膀胱だ(これらがアルドステロンに依存していることは前に述べた)。
爬虫類もまた両生類同様の水排泄を得意とするネフロンを持っているが、水から離れて生きるには必要ない。それで海水魚と同じように尿細管分泌の役割に多くを依存している(Am J Physiol Renal Physiol 2002 282 F1)。その証拠に、彼らはrenal portal system(腎門脈システム)をもっている。これは腎が静脈還流を受け、尿細管分泌により老廃物を排泄してから心臓に返すシステムだ。さらに彼らは腎だけでなく、salt gland、lower GI tract、膀胱などでも水と塩類を調節している(Seminars in Avian and Exotic Pet Medicine 1998 7 62)。
爬虫類から進化した鳥類はどうか。彼らは温血動物だから代謝レベルが圧倒的に高まり、老廃物をごっそり捨てるのに糸球体は欠かせない。しかし既存のネフロンでは水排泄過多で干上がってしまう。そんな彼らに、脊椎動物で初めての尿濃縮システムが取り付けられた。尿管芽(ureteral bud)由来の集合管と、vasa recta、ループ係蹄が腎髄質(medullary cone)を縦に並んで走る、哺乳類型のネフロンだ。
しかしネフロンの70-90%はいまだループのない爬虫類型だし、鳥類は尿素でなく水に溶けない尿酸を窒素排泄に用いているから哺乳類ほどosmotic gradientがでない。だから濃縮力は哺乳類に比べてずっと弱いが、彼らにはそれでいいのである。というのも尿濃縮は主に直腸で浸透圧勾配にしたがい行われる(余り腎で濃縮したら、逆に直腸内腔へ水が失われてしまう)し、鳥類も爬虫類同様にsalt glandを持っている。
温血で生じる大量の老廃物をろ過しつつ水を保持する難題は、哺乳類に至って解決された。ここでは全てのネフロンが尿濃縮機構を持し、窒素排泄に水溶性の尿素を用いることで得た高いosmotic gradientにより尿濃縮能は飛躍的に上がった(それはAVPの支配下にあるurea recyclingによって維持されている、JASN 2007 18 679)。これらによって、体液調節のほぼ全てを腎が引き受けるようになった。
幾多の試みの果てに、哺乳類は淡水で生まれた糸球体ろ過/尿細管再吸収システムに、陸上に適したループ係蹄/vasa recta/集合管システムを融合して最強のネフロンを作り上げた。しかしその間に、5億年前から伝わる糸球体分泌機能が捨てられることはなかった。現に哺乳類のネフロンにもそれは残されているし、私達が思っている以上に大きな役割を果たしているかもしれないのだ。その役割とは一体?それは別のコラムに書く。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2013/03/31
2013/03/27
ネフロンの大冒険 1/3
19世紀後半から20世紀前半にかけて続いた、糸球体ろ過/再吸収と尿細管分泌の論争。しかし、糸球体と尿細管の間で揺れ動いてきたのは研究者だけではない。じつは生命そのものが、進化と適応の過程で両者の間を行ったり来たりしているのだ。どういうことか?ここで、5億年の間にネフロンが遂げた変化を追いかけてみよう。
糸球体があるとどう良いのか?例として淡水魚を考えてみよう。浸透圧が1mOsm/kgH2O未満の淡水では、浸透圧の高い体内に水がどんどん浸透してくる。その一方で、拡散により溶質は体外に出て行く。そんな環境で生きていくには、大量の水を捨ててしかも塩を保つ仕組みが必要だ。
糸球体で体液をごっそりろ過すれば、水をじゃんじゃん捨てることができる。しかし体液をじゃんじゃん捨てたら死んでしまうので、貴重な溶質は尿細管(正確には遠位尿細管と膀胱上皮)でほとんど再吸収している。最終的な尿は40mOsm/kgH2O以下まで溶質フリーにできる(Am J Physiol Renal Physiol 2004 286 F811)。
糸球体により淡水でも内部環境を維持することができるようになった脊椎動物。このあと彼らはネフロンの頭に糸球体を載せて岸から上陸し進化を遂げる一方、海水にも戻っていく。まず海の話をしよう。浸透圧が1000mOsm/kgH2O以上ある海水では体外に水がどんどん逃げ、塩が体に入ってくる。さて今度はどうやって体内環境を維持しよう?つづく。
原始生物の腎臓には糸球体はなく、尿細管分泌による毒や老廃物の排泄を行っていたと考えられている(Am J Physiol Renal Physiol 2002 282 F1)。原始脊椎動物である円口類の腎はいまでもそうだし、amniotes(有羊膜類:爬虫類、鳥類、哺乳類の総称)が胎生期に利用するpronephros(前腎)も尿細管だけで糸球体はない(Dev Biol 1997 188 189)。
糸球体があるとどう良いのか?例として淡水魚を考えてみよう。浸透圧が1mOsm/kgH2O未満の淡水では、浸透圧の高い体内に水がどんどん浸透してくる。その一方で、拡散により溶質は体外に出て行く。そんな環境で生きていくには、大量の水を捨ててしかも塩を保つ仕組みが必要だ。
糸球体で体液をごっそりろ過すれば、水をじゃんじゃん捨てることができる。しかし体液をじゃんじゃん捨てたら死んでしまうので、貴重な溶質は尿細管(正確には遠位尿細管と膀胱上皮)でほとんど再吸収している。最終的な尿は40mOsm/kgH2O以下まで溶質フリーにできる(Am J Physiol Renal Physiol 2004 286 F811)。
糸球体により淡水でも内部環境を維持することができるようになった脊椎動物。このあと彼らはネフロンの頭に糸球体を載せて岸から上陸し進化を遂げる一方、海水にも戻っていく。まず海の話をしよう。浸透圧が1000mOsm/kgH2O以上ある海水では体外に水がどんどん逃げ、塩が体に入ってくる。さて今度はどうやって体内環境を維持しよう?つづく。
登録:
投稿 (Atom)