2017/07/10

素敵な論文との出会い

 尿検査項目でまず見るのはなにか。ERで研修医をしていたころは、まず白血球エステラーゼと亜硝酸塩で尿路感染症かを見たものだ。あるいは、ケトンをみてケトアシドーシスか見る(Ketostix®でないとβOH酪酸は測れないが)かもしれない。ほかにも潜血、蛋白、糖、比重などそれぞれ情報がおおいけれど、尿pHについてはどうだろう。

 尿pHは、RTA結石で問題になるけれど、注目度はあまり高くないかもしれない。しかし、クロード・ベルナール先生が恒常性をみつけたきっかけはウサギが「酸を食べれば尿に酸を捨て、アルカリを食べればアルカリを捨てる」観察だし、食事の酸負荷が腎にあたえる影響という「裏テーマ」は最近腎臓内科で注目をあつめてもいる。

 さらにこのテーマは、糖尿病領域でも注目されている。フランスのE3N-EPICコホートで高いPRALとNEAPが糖尿病発症のリスクだと示され(Diabetologia 2014 57 313)、日本のコホートでも若い男性についてのみ示された(J Nutr 2016 146 1076)。糖質だけでなく酸も独立した糖尿病リスク因子のようで、RAA系とか、(バルドキソロンがターゲットにする)Nrf2とか、いろいろ機序が推察されている。

 …という文脈で、この論文(Diabetes Res Clin Pract 2017 130 9)に出会った。ニュースになっているから知っている人も多いかもしれない。京都の先生が出しておられるが、NAGALAという岐阜のNAFLD(非アルコール性脂肪肝;酒は飲んでいてもいいらしい)コホート男性、平均40歳代の約3000人を5年フォローしたものだ(写真は長良川)。




 で、個人的に「いいね(英語はLike、図)」と思ったのは、酸負荷の指標に尿pHを用いたことだ。




 食事の酸負荷を尿で調べるとき、24時間油壺に蓄尿したりアンモニア濃度を測ったりするのは手間だ。食事内容の詳細なアンケートをとる方法もあるが、これも手間だし正確かわからない。いい方法はないかな?と誰もが思う。尿AGもひとつだが、素直に尿のpHで代用したら?というストレートな発想がグッドデザイン(図)と思う。



 結果、尿pHが5.0の群は、5.5、6.0、6.5以上の群のくらべて糖尿病の発症率がたかかった(統計的なパワーは測られていないが、有意差あり)。尿pHが低い群は、高い群にくらべて尿酸値がたかく、BMIがたかく、高脂血症がたかく、飲酒量がおおかった。言い換えると肉食でメタボな感じだが、これらを考慮して多変量解析しても、有意差がでた。

 なお、eGFRが60ml/min/1.73m2未満は除外され、内服薬のない人を対象にしているので、CKDや利尿薬・RAA系阻害薬など酸塩基平衡に影響する要素はあまり考えなくてよさそうだ。血中のHCO3-を測っていないことは筆者も認めている。

 しかし、そもそもこの論文の趣旨は、尿pHのように健診でやるような基本的な項目から糖尿病という大事な危険を予測できるかもしれないということにあると思う。ときに半定量的で不正確なマーカーと切ってしまうこともある尿pHだが、そう言わずに調べてみたらちゃんと結果がでた。腎臓内科医としては少し反省し、謙虚な拍手を送りたい。

 次の方向は、3つだろうか。ひとつは尿pHが酸負荷のよいマーカーかを検証すること。さらに、もうひとつは酸負荷が糖尿病を起こす仕組み(あるいは、尿pH低下そのものが糖尿病を起こすのかもしれないが…それは、腎臓内科の仕事かもしれない)。さいごに、尿pHをほかのこと(とくに腎予後)についても調べて結果が出るか。

 楽しみなことをいろいろ考えさせてくれる、素敵な論文に出会えた。