この論文のインパクトはさまざまで、もちろん難病の内分泌疾患であるXLH(X-linked hypophosphatemia)にたいする新しい治療がみつかった(子供の成長発育が改善した)という感動は計り知れない。まさにキセキだ。同様に、FGF23産生腫瘍によるTIO(Tumor-induced osteomalacia)に対してもこの治療が有効かもしれない。内分泌領域ではそのようなレビューが既に出ている(Endocrine Reviews 2018 39 274)。
この話題を、腎臓内科医はどのように受け止めればよいだろうか(図はKidney Health Australiaのキャラクター、キドニー・マン)?
ひとつは、「電解質異常をモノクローナル抗体で治療する」というカテゴリーでの感想だろう。といってもまだ他には高Ca血症に対するデノスマブ(抗RANKLモノクローナル抗体)くらいしか知らないが、同じような考え方をすれば細胞表面にあるたんぱく質ならなんでもターゲットになりうる。
腎臓内科は伝統的には利尿薬の分野で分子標的治療をリードしていたはずだが、最近はSGLT2阻害薬もURAT1阻害薬(こちらに触れた)も他科主導でつかわれているし、尿細管よりむしろ腸管の分子標的治療薬のほうが耳目を集めてもいる(腎臓領域ではTenapanorがあるが、むしろIBS治療薬が多い)。
今後、電解質治療だけでなくても、モノクローナル抗体による降圧薬とか、でてくるかもしれない。と、2015年に予想していたことが少しずつ現実化しているのだろうか。あるいは、巡り巡って元いたところに戻ってきたのだろうか(図)。今後に注目していきたい。
もうひとつ考えるべきは、もちろんCKD-MBD領域への応用だ。
FGF23が心肥大をおこすことは、2011年から分かっていた。その論文(JCI 2011 121 4393)では動物モデルだがFGFR阻害薬PD174074で心肥大が抑制されていた。しかし、いまのところ臨床へのトランスレーションは「リンを下げましょう」という、セクシーさに欠ける(コーラはやめましょうとか、患者さんにあまり評判のよくない)ものに限られているのが実情だ。
抗FGF23モノクローナルも、もちろんそれを意識して開発されているし、もしかしたら既にどこかでCKD患者の心肥大・心血管系イベント予防についての治験が行なわれているかもしれない。あるいは、同じ軸のFGFR4(受容体サブクラスのひとつで、これがとくに心肥大と関係するという)抗体も試験されているかもしれない。
NEJM論文の勝利が、これからCKD領域でのさらなる成果につながったらすごい。でももしかすると、サッカー日本代表がワールドカップで優勝するよりも、こちらのほうが現実的で見込みがあってインパクトの大きなことかもしれない。どの国がそのような治療法を見つけても素晴らしいことに違いはないが、こっちのサムライブルーにも期待したい。