2024/09/12

輸血とHLA感作

  HLA抗原に感作される機会の代表は、移植、妊娠、輸血である。そして、HLA抗原への感作は移植の障害になる。

 たとえば、家族があなたに移植したくても、あなたが家族のもつHLA抗原に感作されていたら、血漿交換やリツキシマブなどで脱感作しなければならない。あるいは、あなたと適合する別のドナーを探すか、他の患者に対するドナーとのスワップを計画するかだ。

 さらに、献腎移植を待っている場合には、感作されているほど適合ドナーは見つかりにくい。もし感作されたHLA抗原が国民の99%にあるなら、適合ドナーが見つかる確率は100人に1人である。99.99%なら、1万人に1人の確率で、ただ待っていてはとても見つからないので脱感作を行う(99%以下になることはまずないが、それでも確率は何倍以上になる)。

 上にあげた三つのうち、避けられるものなら避けたいのが輸血である。しかし、そもそも輸血にはどれくらい感作への影響があるのか?製剤ごとの違いはあるのか?移植や妊娠に比べてどれくらいリスクがあるのか?輸血時の感作を減らす工夫はないか?・・など、わからずにいた。

 そこへ来て、先日Kidney Internationalにレビューが出た(doi:org/10.1016/j.kint.2024.07.030)。ニッチな領域ではあるが、移植前=保存期CKD+透析医療においても大切な内容であるため、要約して紹介したい。

 1.輸血によるHLA感作のメカニズム

 細胞なのか細胞ではないのか微妙な赤血球だが、HLAクラスI抗原は低レベルながら表面に存在する。また、白血球除去や放射線照射を行った赤血球輸血であっても抗原提示細胞が100%除けるわけではないので、HLAクラスII抗原が含まれる可能性はある。また、白血球には赤血球よりも多くのHLAクラスI抗原が含まれる。

(出典は前掲KIレビュー)

 2.HLAセレクション

 輸血が避けられないなら、HLAを適合させた製剤を選ぶのはどうか?というわけで、輸血製剤のHLAクラスI(腎移植で問題になるA、B)、HLAクラスII(腎移植で問題になるDRと、グラフト予後に影響するとされるDQ)を調べる方法がある。

 国民に多く共有されているHLA抗原ほど感作されたくないので、そうしたHLA抗原ほど避けたい。フルマッチの製剤を見つけるのは難しいが、それでもHLA抗原への感作を減らすことができたという報告がある(NDT 2009 24 2559※)。

 ※移植前にさかんに輸血をおこなっていた時代に、それを戒める目的で行われたスタディである。なお、腎移植ドナーとHLAを合わせたdonor-specific transfusionを行った群では、25%でクロスマッチが陽性になり、移植ができなくなった・・。

 コストとロジスティクスが問題だが、そもそも輸血を行う人たちというのはHLAのプロであり(日本でも、移植施設の多くは赤十字病院である)、high throughputなどのゲノム解析を統一して行うことは可能になってきているという(Blood Adv 2020 4 3495)。

 3.赤血球以外の血液製剤

 ①血小板 

 HLAクラスI抗原を赤血球よりも効率に表出し(12万 v. 550個/細胞)、HLAクラスII抗原を持つ細胞が混入している可能性があるのは赤血球製剤と同じである。血小板輸血を繰り返すことで産生された抗HLAクラスI抗体が血小板を破壊するようになる現象(血小板輸血不応)は血液内科でよく知られているが、腎移植患者に関するデータはない。

 ②血漿

 脱感作の血漿交換時に投与するくらいだし、細胞がないのだからHLA抗原もないのでは?と思われるが、都合の悪いことに可溶性HLA抗原は血漿や血漿由来の血液製剤にも含まれる。その意義はあまり分かっていないが、フロー・クロス・マッチを行った際にはHLA抗体が検出用のビーズ抗原に結合するのを阻害するため、判定量的な抗体値(MFI)が低くなるらしい(Bloos Res 2020 55 91-98)。

 ③免疫グロブリン

 IVIGの抗体のなかには、抗HLA抗体(抗原ではなく)が含まれる可能性がある。しかし、IVIGを脱感作目的に使用したNIH IG02試験(JASN 2004 15 3256)では、IVIG使用による新規抗HLA抗体の報告はなかった。安心してよいだろう。

 4.輸血によるHLA感作の臨床的インパクト

 UNOSの解析によれば(NDT 2016 31 1746)、98%以上感作された患者7145人のうち輸血だけが原因だったのは5%だけだった。前回移植や妊娠の方が影響が大きいのは納得だが、「輸血だけで移植ができなくなる(かなりできにくくなる)」患者がそれだけいるのは大変なことである。

(出典はNDT 2016 31 1746)

  そこまでいかなくても、輸血によるHLA感作は約20%に起きるとされ、そのリスクは経産女性で高く、HLA抗体が陰性の男性で低い(以前は感作されないとすら言われていたがそんなことはないらしい)。

 また、感作後しばらくすれば抗体は検出されなくなるだろうが、記憶に残るので、移植後に出現するドナー特異抗体(DSA)の対象が、じつは何年も前の輸血で感作されたHLA抗原と同じだった・・などということもあり得る。

 5.移植後の輸血

 移植後1年で40%の患者が輸血を受けるというデータもあり(Front Transplant 2023 21215130)、歴史的には、術直後は免疫抑制をしっかり効かせるので、移植腎由来であれ輸血由来であれHLA感作は起きにくいと考えられてきた。しかし、近年そうではないとするエビデンスが蓄積している。

 たとえば、86人の英国移植患者が受けた輸血を提供したドナー244人のHLAを調べたところ、レシピエントの50%に輸血ドナー特異抗体がみつかり、その61%は臓器ドナー特異抗体と共有されていた。

 そして、臓器ドナー特異抗体と輸血ドナー特異抗体が共有された群は、抗体関連拒絶の発症が有意に高く腎予後も不良であった(Am J Transplant 2019 19 1720)。同じ抗原に二度感作されれば、それだけ抗体もできやすいだろう。

出典はAm J transplant 2019 19 1720
(青:共有された群、緑:共有されない群)

 6.解決策

 まず肝心なことは、輸血の必要性を減らすことである。外科領域ではPatient Blood Management(PBM)というイニシアチブが2000年代から提唱され、それは①貧血を見つけて治療する、②失血を最低限にする、③貧血に耐えられるよう患者の生理機能を高める、の3本柱からなる。
 
 腎移植においては、①術前に貧血治療を最適化し、周術期にもしっかり鉄・ESA(HIF-PH阻害薬)を使用する、②セルセーバーを考慮し、抗凝固のバランスを取り、漫然とした採血検査を避ける、③血液希釈を避ける体液管理を行う、などが考えられる。
 
 そのうえで、輸血をするなら必要最小限にとどめ、白血球除去や放射線照射を行い、できればHLAをマッチする。そして、HLAを追跡し、輸血ドナー特異抗体を臓器ドナー特異抗体のように把握できるようにする。


 「輸血も移植」とよく言われるが、ふだんそれをあまり意識することはない。しかし、血液製剤は誰かの献血から作られ、「ドナー」の細胞や体液を受け取っている(IVIGに至っては、海外の誰かであることがほとんどだ)。それを改めて認識した。