タクロリムス減量・代替レジメンの代表で、7月に(導入、維持それぞれ)紹介したベラタセプトとともに忘れてはいけないのが、mTOR阻害薬である。第一世代のシロリムスはイースター島(現地語でRapa Nui)の土壌から発見されたためRapamycin(商品名Rapamune®)とも呼ばれ、第二世代のエベロリムスはその誘導体である。
出典はWikipedia ”Rapamycin" |
シロリムスが1999年に腎移植に認可された当初は、CNIに取って代わるのではという期待もあったらしい。
しかし、免疫抑制の有効性においてCNIに劣ることや、蛋白尿(尿細管再吸収の抑制、足細胞傷害、VEGF産生による内皮細胞透過性の亢進などによるとされる)、創傷治癒の遅延(や腎グラフト周囲の液貯留)などの問題がみられたことから、現在その使用は限定的だ。
とはいえ日本をはじめ地域・施設によってはCNI減量レジメンの第一選択薬であり、その代表的なエビデンスが2018・2019年に発表されたTRANSFORM試験である(それぞれ、JASN 2018 29 1979、Am J Transplant 2019 19 3018)。日本の試験も参加している。PICOは、以下の通りだ。
P:18歳以上で新規腎移植(生体腎ないし脳死献腎)を受けた42か国の患者2037人。主な除外基準はHLA完全マッチ(双子)、CIT 30時間以上、高拒絶リスク(既知のDSAや高率のHLA抗体)、ドナー・レシピエントのHCV感染※など。
※DAAの普及により、現在では問題にならなくなっている。代表的なスタディはTHINKER試験(NEJM 2017 376 2394)。
I:エベロリムス1.5mg1日2回(目標トラフ3-8ng/ml)+低用量タクロリムス※(目標トラフは移植後0-2か月で4-7、3-6ヵ月で2-5、6か月以降で2-4ng/ml)。
※シクロスポリン用のレジメンもあるが、全体の10%程度であったため省略。
C:MPA/MMF※(0-2週で1440/2000mg分2、それ以降で1080/1500mg分2)+標準タクロリムス(目標トラフは移植後0-2か月で8-12、3-6ヵ月で6-10、6か月以降で5-8ng/ml)。
※720/1000mg分2にすることが多いと思われ、少し多い。
なお、両群ともステロイドを併用し(最低維持量はプレドニゾン5mg/d)、導入免疫抑制は約80%でバシリキシマブ、約15%で抗胸腺免疫グロブリンであった。
O:主要アウトカムは①生検で証明され治療も要した拒絶、または②eGFR 50ml/min/1.73m2未満。12/24か月の観察期間で、いずれもエベロリムス+低用量タクロリムス群はMPA/MMF+標準タクロリムス群に対して非劣性であった。
安全性においては、介入群でCMV感染とBK感染が有意に少なかったほか、振戦・不眠(タクロリムス関連)、嘔吐・下痢・白血球減少(MPA/MMF関連)なども少なかった。
いっぽう、介入群で多かった有害事象は蛋白尿(3.1%の患者が12か月時点で3g/gCr以上)、創傷治癒の遅延、口腔内潰瘍、浮腫など。薬の中断は介入群のほうが多かった。
というわけで、残念ながらTRANSFORMというほど移植診療を変えるまでには至っていない。
ただ、創傷治癒の遅延がそこまで多くなかった(リスク比1.22、信頼区間1.01-1.47)ことは移植外科医達への後押しになり、この試験を行った施設(UCSFなど)ではCNI減量レジメンに用いられているようだ。また、CMV・BK感染例においても、目にすることがある。
筆者はmTOR阻害薬をほぼ使わない施設にいるので、今はBela(ベラタセプト)派であるが、施設が移ったら「エベロリムスを使いましょう、ウイルスに対しては効果があるかもしません。ただし、蛋白尿に注意が必要です」などと説明しているかもしれない。
それにしても、タクロリムスが筑波の土壌、シロリムスがイースター島の土壌から見つかったというのは興味深い。この二つの土地が特別なのかもしれないし、あなたの地域の土壌にも未知の菌と化合物が眠っているのかもしれない・・?