2024/09/07

BKウイルス

 つい先日、BKウイルスの診断と治療についての国際コンセンサスが19年ぶりに改訂された(Transplantation 2024 108 1834)!・・と言われても、「何のことやら?」と思う方も多いかもしれない。しかし、腎移植においては一大テーマであるから、少し紹介したい。

 BKウイルスは、JCウイルスなどと同じポリオ―マ・ウイルスの仲間である。なおJCもBKも最初にウイルスが分離された患者のイニシャルで、JCはJohn Cunningham氏であるが、BKの素性はいまだに伏せられている(腎移植患者であったことは分かっている)。

出典はViruses 2017 9 327

 BKウイルスは小児期に不顕性に感染したのち、泌尿器系臓器に潜伏する。しかし、免疫抑制下では再活性化し、出血性膀胱炎、尿管狭窄、BKウイルス関連腎症(BKVAN)などを起こす。ひどい場合、グラフト廃絶に至る。

 BKウイルスの再活性化は、BKウイルス尿症(viuria)→BKウイルス血症(viremiaまたはDNAemia)→腎症の順に起きるとされ、とくにウイルス量が多い(1万copies/ml以上)と腎症のリスクが高い。

出典はCJASN 2007 2(S1) S36

 ウイルス尿症のほうが感度は高いが、特異度は低い。よって極論すれば血液PCR検査で十分である。ただし、PCR検査が困難な場合は、尿中のウイルス感染上皮細胞(decoy cells)を指標にして、それが診られた場合に限りPCR検査を行う方法もある。

出典はWikipedia
 
 BKウイルスについては分かったとして、何が問題なのか?
 
 まずは、診断の困難さである。まず、腎生検でBKVANと拒絶の見分けがつきにくい。ウイルス感染細胞を染色するSV-40抗原はあるが、陽性率は高くない。そのため、染色が陰性でもBKVANを除外できない。逆に、染色が陽性でも拒絶が混在している可能性を否定できない。

 次に、治療の困難さである。BKウイルス感染は免疫抑制の過剰を意味するため、本来ならば免疫抑制を減らさなければならない。しかし、拒絶が混在している(あるいはBKVANではなく拒絶である)場合、治療は免疫抑制薬の増量である!

 減量の方法は施設によって異なるが、antimetablolites(MMFやAZA)を減量する戦略と、CNI(cyclosporineやtacrolimus)を減量する戦略の二つに分かれる。より新しいmTOR阻害薬とbelataceptのレジメンについては、対応は手探りで、十分なデータはない。

 ウイルスは抗ウイルス薬で治療しつつ、拒絶は免疫抑制薬で治療する・・が理想であるが、残念ながらBKウイルスに対する有効性が確立された薬はない。Leflunomide、Cidofovir、Fluoroquinoloneなどは今回の改訂で使わないよう推奨された。

 ただし、中和抗体であるIVIGについては、ないよりはましということで使われることが多く(拒絶にも少し効くかもしれないので)、今回も考慮することが提案された(推奨度はweak、エビデンスレベルはD)。

 他には、新規のposoleucelという細胞薬が開発されている。これはBKV・JCV・アデノウイルス・CMV・EBV・HHV6に免疫を持つ複数ドナーから集めたT細胞をウイルスに感作させて戦う力を高めたものだ。

AlloVirウェブサイトより

 骨髄移植など血液内科領域で開発されたが、腎移植患者にも試され(JASN 2024 35 618)、第2相ではBKVANの発症を予防し、他人のT細胞ながらDSA(ドナー特異抗体)の発症は1例だけであった。第3相でがっかりする可能性もあるが、結果が待たれる。

 今回の改訂はコンセンサスというだけあって、現状の診療を肯定し、未解決な問題を認識し、将来の研究方向性を展望する内容になっている。19年ぶりの改訂のわりに未解決な問題が多いのは残念だが、次はもう少し早く新しい診断と治療のツールが確認されるといいなと思う。