つい先日、BKウイルスの診断と治療についての国際コンセンサスが19年ぶりに改訂された(Transplantation 2024 108 1834)!・・と言われても、「何のことやら?」と思う方も多いかもしれない。しかし、腎移植においては一大テーマであるから、少し紹介したい。
BKウイルスは、JCウイルスなどと同じポリオ―マ・ウイルスの仲間である。なおJCもBKも最初にウイルスが分離された患者のイニシャルで、JCはJohn Cunningham氏であるが、BKの素性はいまだに伏せられている(腎移植患者であったことは分かっている)。
出典はViruses 2017 9 327 |
BKウイルスは小児期に不顕性に感染したのち、泌尿器系臓器に潜伏する。しかし、免疫抑制下では再活性化し、出血性膀胱炎、尿管狭窄、BKウイルス関連腎症(BKVAN)などを起こす。ひどい場合、グラフト廃絶に至る。
BKウイルスの再活性化は、BKウイルス尿症(viuria)→BKウイルス血症(viremiaまたはDNAemia)→腎症の順に起きるとされ、とくにウイルス量が多い(1万copies/ml以上)と腎症のリスクが高い。
出典はCJASN 2007 2(S1) S36 |
ウイルス尿症のほうが感度は高いが、特異度は低い。よって極論すれば血液PCR検査で十分である。ただし、PCR検査が困難な場合は、尿中のウイルス感染上皮細胞(decoy cells)を指標にして、それが診られた場合に限りPCR検査を行う方法もある。
出典はWikipedia |
BKウイルスについては分かったとして、何が問題なのか?
次に、治療の困難さである。BKウイルス感染は免疫抑制の過剰を意味するため、本来ならば免疫抑制を減らさなければならない。しかし、拒絶が混在している(あるいはBKVANではなく拒絶である)場合、治療は免疫抑制薬の増量である!
減量の方法は施設によって異なるが、antimetablolites(MMFやAZA)を減量する戦略と、CNI(cyclosporineやtacrolimus)を減量する戦略の二つに分かれる。より新しいmTOR阻害薬とbelataceptのレジメンについては、対応は手探りで、十分なデータはない。
ウイルスは抗ウイルス薬で治療しつつ、拒絶は免疫抑制薬で治療する・・が理想であるが、残念ながらBKウイルスに対する有効性が確立された薬はない。Leflunomide、Cidofovir、Fluoroquinoloneなどは今回の改訂で使わないよう推奨された。
ただし、中和抗体であるIVIGについては、ないよりはましということで使われることが多く(拒絶にも少し効くかもしれないので)、今回も考慮することが提案された(推奨度はweak、エビデンスレベルはD)。
他には、新規のposoleucelという細胞薬が開発されている。これはBKV・JCV・アデノウイルス・CMV・EBV・HHV6に免疫を持つ複数ドナーから集めたT細胞をウイルスに感作させて戦う力を高めたものだ。
AlloVirウェブサイトより |
今回の改訂はコンセンサスというだけあって、現状の診療を肯定し、未解決な問題を認識し、将来の研究方向性を展望する内容になっている。19年ぶりの改訂のわりに未解決な問題が多いのは残念だが、次はもう少し早く新しい診断と治療のツールが確認されるといいなと思う。