2018年にバンダービルト大学病院が発表したSMART、SALT-ED試験を覚えているだろうか?0.9%NaCl液(生理食塩水)が腎予後に与える害を生理的輸液と比較した、プラグマティック・スタディである。
大学病院の電子カルテを利用して日常的に行われ、個々の患者に同意をとる必要はなく、臨床上の質問を電子カルテ(Epic®)に「ぽい」と入れれば、何千人という患者を対象にした試験が行える。いやはや、すごいやり方である(もちろん、専門スタッフの助けがあってのことであるが)。
(米国最大手の電子カルテ、Epicのロゴ) |
あれから5年、同じ施設からACORN試験が発表されていた(JAMA 2023 330 1557)!・・今度は、PIPC/TAZ(ゾシン)とCFPM(セフェピム)の腎障害と神経・意識障害を比較した試験である。筆頭著者は当時集中治療科のフェロー(とApplied Clinical Informaticsのマスター)だった。
PIPC/TAZとVCM(バンコ)の組み合わせでAKIが起りやすいことが多くの後方視観察で示され(メタアナリシスはClin Infect Diss 2017 64 666)、以後少なくとも米国では初期治療の広域スペクトラム抗菌薬がだいたいCFPMになった。
しかし、動物実験で再現性がないことや、PIPC/TAZはOAT1・OAT3によるクレアチニンの尿細管排泄を抑制することなどから、真の急性腎障害がどれくらいあるかには疑問もあった。いっぽう、CFPMには脳症(神経・意識障害)の心配もある。腎機能低下例でリスクが高いので、経験ある方もいるかもしれない。
そこで、ACORN試験が行われた。PICOで説明すると:
P:来院後12時間以内にPIPC/TAZまたはCFPMを処方された救急外来・内科ICUの成人患者。オーダーすると、eligibleな患者は自動的に電子カルテ上でスタディに登録される。
I:CFPM 2g(5分で静注)8時間ごと※
※セフェピムの意識障害はゆっくり点滴した方が起りにくいとされる。
C:PIPC/TAZ 3.375g(4時間で点滴)8時間ごと※
※標準とされる3.375g-4.5g 6時間ごとより少なめである。
O:14日以内のAKI(レベル1、2、3)または死亡は、CFPM群でPIPC/TAZ群に対してオッズ比0.95(信頼区間0.8-1.1)。腎予後と神経予後については下記(%)で、せん妄または昏睡はCFPM群で有意に多かった。
※両群とも約80%の患者がVCMを併用された。
CFPM群 PIPC/TAZ群
死亡 7.6 6.0
新規腎代替療法 3.3 2.3
Crの倍加 1.3 2.4
せん妄または昏睡 20.8 17.3
問題:オープン・レーベルであったこと、約半数が感染症ではなかったこと、両群とも3日程度しか抗菌薬を投与されていないこと(よいことではあるが!)、クロスオーバーが約20%あること、尿細管排泄の影響を受けないシスタチンCを用いていないこと、CFPM群はベースから数字上せん妄・昏睡患者が少し多かったこと、などがあげられる。
また、感染症雑誌のエディトリアル(doi.org/10.1093/ofid/ofad645)が注目したsupplement結果によれば、投与期間が72時間以上、96時間以上に限ったdeath-censored(死亡例を除外した)AKIステージ2は、PIPC/TAZ群でCFPM群の2倍近くみられた。ただし、サブ解析でありランダム化などが保たれているかは保証できない。
いわゆる「セフェピム脳症」で困ったことのある筆者としては、このスタディで少しでもCFPM一辺倒の傾向が変わるといいなと思ってしまうが、試験名の通り「どんぐり(acorn)の背比べ」の感は否めない。大事なことは、どちらを使うにしても適切なde-escalationを行って曝露を必要最小限にすることだろう。
(出典はこちら) |