一次性FSGSはcirculating factorが足細胞を傷害すると考えられており、その如実な例が移植後の再発FSGSである。2012年に、移植直後からFSGSを再発した腎グラフトを別の患者に移植しなおすことで腎グラフトを救ったケースが話題になったことは、以前にも述べた。
もちろん、FSGSの患者が腎移植を受けられないわけではなく、再発率は高いものの報告された文献をまとめると成人で約16%、小児で約40%である(KI 2024 105 450)。移植後は頻回に蛋白尿をモニターし、腎生検を行う。病名通りの硬化が診られるまでには何週間もかかるため、治療を遅らせてはならない。
※電顕レベルでは広汎に足細胞の病変が診られるため、Focalという呼称は誤解を招きがちである。また、光顕病変は髄質付近の糸球体に好発するため、サンプリング・エラー(MCDと誤診される)も起こりがちである。
しかし、血漿交換、免疫吸着、リツキシマブなどを行っても、治療成績はあまりよくない。新規抗CD20抗体(ofatumumab、obinutuzumabなど)、間葉系幹細胞なども、試行段階である。また、二度目の移植では再発率がさらに高くなる。それで、circulating factorを含む、病態の解明が待たれていた。
そんななか、2022年にハーバード大学らのグループがMCD患者の血中に抗ネフリン抗体を確認し、それが治療効果・病勢と同期することと、抗ネフリンIgGが腎生検の組織上でネフリンに局在することを発表した(JASN 2022 33 238)。
MCDもFSGSも肉眼的な病理の呼称であり両者は足細胞病のスペクトラムと考えられるため、抗ネフリン抗体がcirculating factorなのでは?という期待が高まった。
そして2023年、日本の多施設グループが移植後に再発した一次性FSGS小児患者で抗ネフリン抗体が著明に高値で、病理組織で抗ネフリンIgGがネフリンに局在し、治療効果・病勢と同期することを示した(KI 2024 105 608)。
それだけでなく、ネフリンのチロシン残基がリン酸化され、ネフリンの細胞内への移動に関わるShcA蛋白などの発現が増加していた。また、抗体のサブクラスは複数であったこと(polyclonal)、補体の沈着はわずかしか見られなかったことなどがわかり、病態への理解も進んだ。
さらに昨日、ヨーロッパ各国のグループが537例(成人患者357、小児患者182)、対照117例に対して抗ネフリン抗体を調べた結果を発表した(NEJM 2024 391 422)。ランドマーク・スタディと考えられるため、急遽取り上げることにした。
結果、小児の低Alb血症や高度蛋白尿を伴う特発性ネフローゼ症候群の79%、免疫抑制薬の未使用例に限れば89%に抗ネフリン抗体が見られた。やはり病勢に同期し、リツキシマブ・シクロスポリン・ステロイドなどで蛋白尿が改善すると抗体量も減っていた。
さらに、抗ネフリン抗体の動物モデルも検証し、ヒトのネフリン1176チロシン残基に相当する1191チロシン残基のリン酸化、Shc1やClathrinの発現増加、slit-diagramに関わる蛋白の発現低下を示した。
ただし、成人の一次性FSGSでは、抗ネフリン抗体の陽性率は9%にとどまった(MCDでは43%)。小児の特発性ネフローゼのなかには、MCDもFSGSも入っているため、成人よりも陽性率は高いかもしれない。
まだ話は途中であるが、少なくとも小児領域では腎生検の代替になりうる他、陽性率が高ければ一次性FSGSや移植後再発の病勢マーカーとして使用できる。
また、病態に関連して言えば、補体関連の治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブなど)よりも、抗体産生を抑制するB細胞・形質細胞をターゲットにした治療(抗CD28、抗CD38など)に照準を合わせられる。
さらに、チロシン残基のリン酸化まで分かったのであれば、世の中にはチロシンキナーゼ阻害薬がたくさんある。もう少し「どこにどのように効かせればよいか」の確証が得られれば、せっかく薬もあるのだから、試される日が来るかもしれない。
何事も、病態理解がカギである(下図はKI 2024 105 440)。