75歳の患者さん、CKD-EPIのeGFR 50 ml/min/1.73m2、U-alb/U-Cr 25 mg/g。彼女はCKD3期ですか?
事の発端は、CKDが導入されて生じた患者さんへの不安にある。上記患者さんのような人が米国だけで800万人いるだろうが、今後の腎機能低下の進行は最小限と思われるし、平均寿命にもほとんど影響はみられないと思われる。
しかし、かかりつけ医が患者さんに「あなたはCKD(慢性腎臓病)3期です、腎臓内科を受診してください」というものだから「え!?腎臓が病気なの?しかも5期までの3期ってことは、あと少しで透析ってこと?」ととても心配してしまう。
これについて賛成と反対それぞれの立場で主張があった(実際この議論はKDIGOガイドラインを決めるときにもexpert同士であったらしい)。賛成側は、以下の点を指摘した:
①加齢によるGFR低下だけにしては低めなわけだし(JCI 1950 29 496)、そういう状態として名前をつけるのは許されるのではないか
②たとえ進行しなくても、腎機能正常群に対して死亡率・心血管系イベント・ESRDのリスクは2倍程度上がる
③目に見えない腎機能低下とそのもたらす危険について啓蒙活動は必要
④腎機能低下を防ぐためにクスリを避けたり調節したりする注意を喚起できる
などの点を指摘した。それに対して反対側は以下の点を指摘した:
①Oxford辞典の定義からいってもdiseaseではない
②患者さんに不要な不安を与える、不要な検査を強いることになる
③死亡率・心血管系イベント・ESRDのリスクは、年齢で層化するとごくわずかに下がる(JAMA 2012 308 2349)
④上記リスクは、GFRよりもアルブミン尿がより相関している
それから測定方法についての話も少し出た。KDIGOにはクレアチニンベースのeGFRが信頼できなければCystatin CあるいはCystatin C + Crで確認せよとある。Cystatin Cは予後予測により有効だが、反対の立場の演者によればそれはeGFR以外の因子を反映しているからで、eGFRをより正確に測定するからではないのだという(JASN 2013 22 147)。
両者の主張を聞いた後、rebuttalがあり(水掛け論になるのを防ごうのに、Can we move on?とより本質的な問題点を指摘したりこれからすべきことに話を移すのが自然な様子だった)、フロアからのコメントや質問があり、最終的にフロアの投票を行った(debate前と比較した)。結果はさておき、こんな試みは初めてでとても興奮した。