2020/11/23

先生!尿の色が変です! 〜Pink urine syndromeについて〜

 尿の色というのは非常に興味深いと思う(そう思うのは腎臓内科医だけなのかもしれないが、、)

以前にRainbow urineの記事を投稿している。今回は、Pink urineを症例をとおしてみていこうと思う。

一般的には疾患では血尿、溶血性貧血、ミオグロビン尿(横紋筋融解症)、ポルフィリア症、食べ物ではビーツ、ルバーブ、ブラックベリーなどで見られることが多い。


下記に各種の尿の色ごとの鑑別のをのせる。上は薬剤にともなうもの、下は疾患や薬剤に伴うものの鑑別になる。

薬剤によって尿の色の変化


尿の色に伴う鑑別

症例:

21歳男性がヘロイン使用に伴う急性の呼吸不全と急性腎不全と敗血症でICUに入院。検査の結果黄色ブドウ球菌による肺炎が判明。呼吸状態の悪化と低酸素、呼吸性アシドーシスのため挿管管理となった。鎮静にはプロポフォールが用いられた。

翌日患者は血清Crが1.1mg/dlから1.8mg/dlに上昇し、尿沈渣で下図のようなピンク色のが出現。


これを酸性と塩基性にして偏光顕微鏡で確認してみると酸性下では多染性の尿酸結晶を認め、塩基性下ではまとまりのない結晶を認めた。



患者は、その後補液により腎機能は改善し、3日後に抜管もでき退院することができている。


■Pink urine syndromeとは?

尿がピンクで、尿沈渣でピンクの沈殿物がある場合とない場合があり、原因が溶血、薬剤、食事によるものでないものになる。主な原因は尿中尿酸増加やプロポフォール投与の影響を受けることによって生じる。

・どんな人に起こりやすいのか?

観察研究で、肥満男性、プロポフォール下で手術を行われた人、尿pH低下がある人で多く起こることがわかっている。その際に急性腎不全がある人は必須の条件ではない。

つまり、Pink urine syndromeのリスクに関しては、BMIが多い、男性、尿中pH低下があり、特に腎機能低下には左右されない(KI 2004, Urol res 2006,  AJP 2018)。

・尿中pH低下はどのように起こる?

そもそも、尿中pHは尿中の水素イオンとアンモニア分泌によって決定される。アンモニア分泌が減少し遊離水素イオンが増えることで尿中pHは低下する。

尿中pH低下は尿酸排泄低下と尿酸結晶の生成を起こす。また、尿酸結晶の生成においてインスリン抵抗性が併存している場合が多い(Sci rep2018)。

・インスリン抵抗性と尿pH低下について

インスリン抵抗性は尿のアンモニア産生を抑制させ、尿中の遊離水素イオンの上昇とともに尿の酸性化を起こす。尿中pH低下は尿酸結晶産生に傾かせる。

・インスリン抵抗性と尿中尿酸排泄低下について

インスリン抵抗性によって尿細管のURAT1が亢進し尿酸の腎排泄が低下し、ABCG2トランスポーターの活性化低下で尿酸排泄が低下する。



・外因性・環境因子とpink urine syndrome
そのほか、外因性や環境因子のものとしてはこの症例でもあったようにプロポフォール投与や外科手術(尿酸排泄増加)、術中のADH(抗利尿ホルモン)増加がある。
ADHはGLUT9トランスポーター活性を低下させ、尿酸の再吸収低下させ、ABCG2、NPT1などの尿酸分泌を起こすトランスポーターの活性化を抑制させる。
しかし、Pink urine syndromeを引き起こす関連性が強いのは、プロポフォール投与が最も強く、ADH分泌も関連がある。外科手術に関しては、先行研究からも必ず必要な条件ではない。

Anesthesia 1998より



まとめると、Pink urine syndromeが起こるには、1〜5が必要になる。まとめたものが、下の表のようになる。
1:慢性的な高尿酸血症:尿中に尿酸が排泄されるため
2:尿酸排泄が亢進している:プロポフォールなどで生じる、ADH分泌でも生じる
3:尿の酸性化:尿酸結晶生成に必要
4:適切な腎機能:尿酸クリアランス維持に必要
5:慢性的な酸化ストレス:酸化ストレスがビリルビン産生が増加し、ビリルビン代謝に伴いピンクの尿が上昇。




NHE3(renal tubular sodium-hydrogen exchanger)
Nrf2 (nuclear factor-erythroid 2 related factor2)
KI 2018を改変

今回、この記事を書いていて色々と勉強になった。そもそも、尿がピンク色になることが、ここまで複雑だとは思わなかった。



2020/11/11

腎機能障害下における疼痛管理

 腎障害と疼痛管理は、いつも悩む分野である。今回は、少し症例を通しながらその部分を復習できればと思う。


症例:65歳男性、糖尿病性腎症による末期腎不全で血液透析導入後。導入後に食欲など改善したが全身の痛みが持続し、透析中や就寝中に下肢の焼けるような痛みが悪化することを訴えていた。変形性関節症があり、アセトアミノフェンの服薬はしている。

Q:この患者さんの痛みの原因として考えられるものは?

1:下肢虚血による疼痛

2:神経性疼痛(糖尿病による)

3:骨の痛み(MBDによる変化)

4:筋骨格系の痛み(透析の際に椅子に座ることなど)

5:透析開始に伴う不安やうつからの痛み

6:すべて

この場合は6の全てになる。

腎不全患者の疼痛は非常に多く40-60%が経験し、その中の半数が中等度から重度の痛みがると報告されている(Semin Dial 2014)。しかし、腎臓内科医はこの疼痛の評価や管理などには長けている人は少ない。そのため、我々は全身の疼痛評価をしっかりと行い管理を考えるということはとても重要になる。

腎不全患者は、原疾患(PKDなど)、骨代謝異常、尿毒症性神経症、併存疾患(血管虚血に伴うPADなど)による疼痛を経験する。その中で、慢性疼痛は両膝の非外傷性の骨関節症による侵害受容性疼痛、糖尿病や尿毒症による神経性疼痛によるもの、また不安や気分障害によるものも相乗して生じるとされている。

疼痛の治療目標としては、しっかり眠れることと、我慢できない痛みがなく動けることである。そのために、この患者さんではどのように管理をしていく必要性があるだろうか?

ここから、少し質問形式で知識を深めていこう。


Q:まず、この症例で神経性疼痛の治療でのオプションとして考えられるものは?

1:オピオイド

2:アセトアミノフェン

3:ガバペンチン/プレガバリン

4:NSAIDs

この場合は3:ガバペンチン/プレガバリンになる。

抗けいれん薬や三環形抗うつ薬は糖尿病性神経症に対しての最もエビデンスのある治療オプションになる。

ガバペンチンとプレガバリンは中枢神経系において電位依存性カルシウムチャネルと結合することによって興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することによって効果を発する。ガバペンチンに関しては本邦では鎮痛薬としての承認は得られてはいないが海外では第一選択薬として位置づけられている。下記は本邦の神経障害性疼痛の薬物療法ガイドラインである。

プレガバリンやガバペンチンは眠気やふらつき、浮動性めまい、転倒、骨折などの副作用のリスクが有り、腎機能低下患者や高齢者などには慎重に量を調整して投与する必要がある。プレガバリンやガバペンチンで疼痛の改善が乏しい場合には、三環系抗うつ薬やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)を少量併用して管理を行う(本邦のガイドラインも参照)。

他の選択肢をみてみると、オピオイドは神経障害性疼痛を管理する場合に、効果が乏しく過量投与になる可能性がある。また、オピオイドは透析患者では死亡、透析の中断、入院の増加につながることがわかっているので、リスクとベネフィットをよく検討した上で投与を考える必要がある。

また、ガバペンとオピオイドの併用でオピオイド関連死が増加する事がわかっている(PLOS ONE)。

NSAIDsに関しては、透析患者とNSAIDsは神経障害性疼痛には効果は乏しく、頓服の使用は副作用も少なく安全ではあるが、常用にすることで、体液や電解質異常、高血圧、腎機能悪化、心血管イベントの増加、出血リスクの増加との関連が示唆される。


Q:もし、オピオイドを疼痛管理に使用する場合には何を用いたらいいのだろうか?

1:モルヒネ

2:トラマドール

3:オキシコドン/ヒドロコドン

4:ヒドロモルフォン

この場合の選択肢は4が正解となる。

ヒドロモルフォンは代謝されて、ヒドロモルフォン-6-グルクロニドに代謝され、腎排泄されるが、この代謝物は生物学的活性を持たず、また透析でも除去されやすい。そのため、代謝物に活性がないため、これが選択される。

モルヒネの場合は体内で代謝されM3G(モルヒネ-3-グルクロニド)とM6G(モルヒネ-6-グルクロニド)に変換される。M3Gは鎮痛効果はなく、M6Gはモルヒネの3倍の鎮痛効果を持ち、モルヒネによる中枢神経毒性(せん妄、眠気、悪心、呼吸困難)の原因となる。M3G、M6Gともに腎排泄なので、腎不全の症例や透析例では蓄積しやすい特徴がある。モルヒネやコデインは透析で除去される。オキシコドンは透析除去されにくい。

東北大学緩和医療科資料より抜粋


腎障害の人と痛みはやはり関連性が強く、我々も薬だけでなくコミュニケーションなどの上でも引き出しを多くしておかなくてはならないと感じた。

東北大学緩和医療科資料より抜粋


2020/11/10

造影剤腎症におけるBNP、NT-proBNPの役割

 最近全然投稿できずで申し訳有りません。少しずつ記載していこうと思います!

今回は心臓血管造影検査と造影剤腎症についてふれていきたいと思います。

まず、本邦の造影剤ガイドライン2018(https://cdn.jsn.or.jp/data/guideline-201911.pdf)の知識は抑えておく必要があります。詳細は読んでいただきたいのですが、Chapter5の経動脈的造影剤投与における検査・治療の項目で今回のCAGに関する項目が触れられています。この中で、造影剤の量が少ないほうが造影剤腎症発症のリスクが少なくなる可能性があること、CKD患者では造影剤腎症発症の発症リスクが増加する可能性があること、造影剤腎症の発症した患者では心血管イベント発生率が多いことが記載してある。

造影剤腎症の発症は悪い結果につながるため、早期に造影剤腎症のリスクを判断するということは非常に重要になる。

今回急性冠症候群に対して冠動脈造影を行った患者たちのAKI発症の予測にBNPやNT-proBNPが用いられるかを検討したMeta-analysisが出ていたので報告していく。

そもそも、BNPとNT-proBNPとは何なのか?臨床現場でも混同することが多いと思う。その部分をまずは解説していく。

心臓に負担がかかると、まずpre-proBNPが合成される。pre-proBNPは、その後にproBNPになり、生物学的活性をもつBNPと生物学的活性を持たないNT-proBNPに切断される。基本的にはBNPとNT-proBNPは1:1の割合で生成される(下図参照)。


BNPは昇圧系ホルモンに拮抗し、利尿、降圧作用を介して心筋のリモデリングを防ぐ。

BNPとNT-proBNPの半減期はBNPが20分、NT-proBNPが約120分で、加齢、女性、腎機能障害、心機能低下で上昇し、肥満で低下するという特徴がある。BNPは腎臓以外でも代謝されるが、NT-proBNPはほぼ腎臓での排泄のため、腎機能障害時にはNT-proBNPは高値となる。BNPは血漿採血で、採血後早期に血漿分離、凍結保存を行わないと測定値が低下する。NT-proBNPは血清採血で検体が安定化しているので検査の外注を行う診療所や在宅医療などで実施しやすい特徴がある。


BNPとNT-proBNPは心不全の除外に主に用いる。その際のカットオフを下記に提示する。



ここまで、話が脱線してしたが、BNPとNT-proBNPが冠動脈造影を行った場合の造影剤腎症の良好な予想マーカーになるかもしれないとことが報告された。

現時点では、造影剤腎症の診断は造影剤使用後の血清Crの上昇で判断する。しかし、健康な人では糸球体濾過量(GFR)の約50%が低下しないと血清Crの変化として認識されないことから考えると疾患の拾い上げには弱い可能性がある。そのため、別の早期の診断のツールが非常に重要であった。今回そこで注目されたのが、BNPとNT-proBNPである。

では、なぜBNPと造影剤腎症の関係があるのか?に関しては、完全にはわかっていないが、下記の理由が言われている。

・冠血管症候群による腎臓の循環不全によってBNPの腎排泄が低下するため

・BNPが先行研究でも全身炎症において上昇することが知られており、冠血管症候群における炎症や免疫反応の状況を反映している

これらの理由から、造影剤腎症においてBNPとNT-proBNPは上昇することが予想され、今回のMetaanalysisでもBNPとNT-proBNPの上昇が造影剤腎症の診断ツールとして有用であるという報告が出た。

この研究では、limitation(造影剤腎症の定義が明確化されていない、研究での基準値の違い、異質性の存在)はあるが、BNPやNT-proBNPの上昇が造影剤腎症の診断ツールとして有用であるということは、臨床現場での選択肢が広がるため、非常に参考になる。



2020/10/08

PHP関連疾患 後編

前回からの続き)


3. ゲノム・インプリンティング


 「DNAメチル化」や「エピ・ジネティクス」のほうが馴染みがある言葉かもしれない。要は、同じDNA配列でも、メチル化などの修飾の違いによって転写の向きやスプライシング・パターンが異なるということだ。

 GNAS遺伝子は、その上流に母方由来か父方由来かによって異なるメチル化を受けたプロモーター領域(differently methylated region、DMR)がある。


上段が母方、下段が父方、+++がDMR
(前掲J Mol Endocrinolより)


 そのため、ふたつのアレルからはそれぞれ異なる転写産物が得られる。


左段が父方、右段が母方
(前掲J Mol Endocrinolより)


 じつはGNAS遺伝子は、インプリンティングを受けた遺伝子の代表例として、その道では有名である(Genes 2020 11 355、もちろん筆者は知らなかったが!)。

 
4. 組織特異的なインプリンティング


 さらにGNAS遺伝子は、近位尿細管(・甲状腺・副甲状腺・卵巣など)では母方アレルしか転写されないという特徴がある。詳細は未解明であるが、こうした組織では、父方アレルの転写を抑制する因子(下図のR、repressor)があると考えられている。


左段が近位尿細管
(Endocrinology 2004 145 5459より)


 抑制因子は父方アレルのプロモーター領域に結合すると考えられ、こうした組織では(メチル化によってRの結合を受けない)母方アレルからしかGsα蛋白を作れない。

 したがって、母方アレルのGNAS遺伝子に異常があると、こうした組織ではGsα蛋白がまったく作れない(PTH抵抗性+)。骨などでも、父方アレルからの半分しか作れない(AHO徴候+)。これが、PHPIa型である。


(上述論文の図を元に作成)


 母方アレルのGNAS遺伝子プロモーターに異常があると、メチル化がないため近位尿細管では父方だけでなく母方アレルにも抑制因子が結合してしまう(PTH抵抗性+)。しかし、抑制因子のない骨などには関係ない(AHO徴候ー)。これが、PHPIb型である。


(上述論文より)


 父方アレルのGNAS遺伝子に異常があっても、そもそも腎には影響しない(PTH抵抗性ー)。しかし、骨などでは母方アレルのみが半分しかGsα蛋白を作れない。もうお分かりだろうが、これがPPHPである。


(上述論文をもとに作成)


5. 感想


 2020年のノーベル化学賞が遺伝子編集技術CRISPR/Cas9に(順当に)贈られ、エピ・ジネティクス分野も解明と応用が進む(全ゲノムのメチル化情報を調べるwhole genome bisulfite sequencing、WGBSはすでに実用化)。こうした話は、いずれ臨床にも関係してくるだろう。

 また、遺伝疾患といえば新生児や小児患者が対象と思いがちであるが、成人患者で、しかも内科疾患との関連が報告された例もある(60代PPHP患者の、動脈石灰化をともなう急性心筋梗塞;心臓 2007 39 918)。


 やはり、診察は手先・足先までしたいものである。



(ノーベル財団ウェブサイトより)


PHP関連疾患 前編

 「腎臓内科医たるもの、全身を診るべし!」とよく言われる。実際にはそんな大層な心がけではなく、「(診断がつかないので)何かヒントはないか・・?」と診察している筆者であるが、診察から得られる情報は多い。

 なかでも手先・足先は、橈骨動脈の拍動左右差から鎖骨下動脈狭窄が見つかったり、病歴で疑えなかったコレステロール結晶塞栓が見つかったりするので、忙しくても外せない(こちらも参照)。

 しかし、せっかく見つけても診断を知らないと素通りしてしまう。たとえば、中足骨や中手骨の短縮を見つけても、偽性副甲状腺機能低下症(pseudohypoparathyroidism、PHP)関連疾患を知らなければ疑えない。

 そこで今回、自戒も込めてPHP関連疾患を簡単に紹介する。なお詳細はレビュー(日内会誌 2002 91 197)や国際コンセンサス・ステートメント(Nat Rev Endocrinol 2018 14 476)も参照されたい。

 
1. PTH抵抗性とAHO徴候


 PTH抵抗性とは、PTHが分泌されているのにPTHの標的細胞が働かないことを言う。そのため血中カルシウム濃度は(骨吸収の低下、VitD活性化障害による吸収低下)などにより低下し、血中リン濃度は(尿中排泄の低下などで)上昇する。

 いっぽう、AHO(Albright's Hereditary Osteodystrophy)は、骨格・外見(中足骨・中手骨短縮、低身長、ずんぐりした体型(stocky build)、丸顔、異所性骨化、肥満など)の身体的な特徴を示す言葉である。「AHO徴候」ともいわれる。

 これらの2つの有無によって、PHPと名のつく5疾患は以下のように分類できる。




 PTH抵抗性とAHO徴候のどちらもあるのは、PHPIa型・PHPIc型。PTH抵抗性はあるがAHO徴候がないのは、PHPIb型・II型。そして、PTH抵抗性がないがAHO徴候のあるものに、PPHP(pseudo-pseudohypoparathyroidism、偽性偽性副甲状腺機能低下症)がある。

 注:指の短縮は2q37欠失症候群(AHO-like syndromeとも)、Turner症候群、TRPS1・HOXD13・PTHLH遺伝子異常などさまざまな疾患でみられる。また皮下骨化はACVR1・FGF23・GALNT3遺伝子異常などだけでなく、外傷や尋常性ざ瘡などでも見られる。


2. PTH-PTHrPシグナリング


 PTH(PTHrP)は、尿細管細胞であれ骨芽細胞であれ、G蛋白共役受容体ファミリーBに属する受容体PTH1Rに結合し、G蛋白を介して作用する(下図はJ Mol Endocrinol 2017 58 R203より)。




 なかでも中心的な役割を果たしている(というか、もっともよく調べられている)のが、G蛋白のアルファサブユニットの一つ、Gsαである。PTH刺激をうけたGsα蛋白はアデニルシクラーゼを活性化し細胞内のcAMPを増やす。

 すると、cAMPがホスホキナーゼA(PKA)のRサブユニットに結合し、酵素活性を持つCサブユニットを解放する。それにより、各種反応がはじまり遺伝子転写・発現といった標的細胞の作用が起きる(図はNat Rev Endocrinol 2018 14 476)。




 PTH抵抗性は、このシグナルが伝わらないために起きると考えられている。すなわち、IaはGsα蛋白をコードするGNAS遺伝子の異常、Ib型はGNAS遺伝子プロモーター領域の異常、Ic型はIa型とおなじ表現型だがGNAS遺伝子異常のないもの(未同定)、II型はcAMP産生よりも下流の遺伝子異常(未同定)である。
 
 では、PTA抵抗性のないPPHPはどうかというと、なんとこちらもGNAS遺伝子異常なのである。どういうことか?それを知るには、下記の「ゲノム・インプリンティング」という概念を知らなければならない。

 つづく。




 
 

 

2020/10/02

(EMPEROR Reducedと)DAPA-CKDスタディ

 2019年4月にCREDENCE(こちらも参照)により「糖尿病のある」CKD患者に示されたSGLT2阻害薬の腎保護作用。しかし、当時から同薬は「糖尿病のない」CKDに対しても有効であろうと推察されていた。

 そしてついに、EMPEROR Reduced(doi:10.1056/NEJMoa2022190)、DAPA-CKD(doi:10.1056/NEJMoa2024816)スタディが発表されたので、順を追って説明したい。


1. EMPEROR-Reducedスタディ


 EMPEROR-Reducedは、EFの低下した心不全(HFrEF)患者を対象にエンパグリフロジン(以下、エンパ)の有効性を調べた日本を含む他国籍RCTだ。ダパグリフロジン(以下、ダパ)の有効性を示した前年のDAPA-HF(NEJM 2019 381 1995)よりも左室収縮能が低い患者を対象にしたことを強調した命名である(平均EF 27%、NT-proBNPは1900pg/ml)。

 両群あわせて3730人の患者が「その国の標準的な」心不全治療を受け、介入群にはエンパ(10mg/d)、対照群にはプラセボが投与された。利尿薬がどのように使われたかは不明だが(ARNIとMRAのみ記載がある)、参考までに日本の心不全ガイドラインに挙げられた利尿薬の推奨用量を以下に載せる。


急性・慢性心不全診療ガイドライン
(2017年改訂版)


 その結果、プライマリ・アウトカムの心血管系死亡と(初回)心不全入院で有意差がみられた(介入群15.8/100人・年、対照群21.0/100人・年、p<0.001)。DAPA-HFと同様、糖尿病の有無に関わらず有効性が示された(糖尿病患者・非糖尿病患者のハザード比は0.72・0.78)。

 それだけでなく、セカンダリ・アウトカムの一つ、eGFRの低下率を調べると、有意差がみられた(介入群-0.55ml/min/1.73m2/年、対照群-2.28ml/min/1.73m2/年、p<0.001)。そして、図にあるように、RAA系阻害薬に見られるような「eGFRが開始直後下がって維持される」パターンも示された。


(赤太線は筆者)


 ただし、本スタディは次に挙げるCKD-DAPAと違い、心不全患者を対象にしたものである。よって、患者の平均eGFRは約61ml/min/1.73m2(約半数が60未満だが、20未満は除外)で、蛋白尿などのデータはなかった(除外基準にも含まれてはいない)。

 なお、SGLT2阻害薬は原理的には低血糖を起こしにくいはずであるが、血糖70mg/dl未満で誰かの助けを必要とした低血糖イベントは、非糖尿病患者の介入群で7件(0.7%)報告があった。ただし、対照群でも6件(0.6%)報告されていた。


2. DAPA-CKD


 DAPA-CKDは、DAPA-HFで(糖尿病の有無に関わらず)心不全患者に対する有効性が確認されたダパ10mg/dを、(これまた糖尿病の有無に関わらず)CKD患者に対して用い、腎保護作用がみられるかを確かめたものだ。腎臓内科としては、EMPEROR Reducedよりもこちらのほうが重要であり、詳しめに解説したい。


■対象患者は?


 日本を含む21カ国386施設で、eGFRが25-75ml/min/1.73m2で尿Alb/Cr比が0.2-5.0の成人CKD患者(4週以上ACEI/ARBを内服している)をリクルート。除外基準にADPKD・ARPKD・ANCA関連腎炎・ループス腎炎・NYHA4度の心不全、12週以内の心血管系イベント/治療などが含まれた。

 その結果、両群あわせて4304人があつまった。平均年齢は約61歳、男性約2/3、アジア系約1/3。平均eGFRは約43ml/min/1.73m2(60以上が約10%、45-60が約30%、30-45が約40%、25-30が約15%)、平均尿Alb/Cr比は約0.9(約半数が1.0以上)だった。

 糖尿病かどうかは問わなかった(ただし1型糖尿病は除外された)が、2型糖尿病患者は全体の約2/3を占めた。平均血圧は約130/70台mmHg、ACEI/ARBに加えて約4割が利尿薬を内服し、カリウム値は平均4.6mEq/lであった。


■アウトカムは?


 プライマリ・アウトカムは、①eGFR低下(50%以上の低下が28日以上あけた再検でも持続)、②末期腎不全(28日以上の維持透析依存、腎移植、またはeGFR15%未満が28日以上あけた再検でも持続)、③腎・心血管系による死亡、のいずれかが最初に起きるまでの時間。

 セカンダリ・アウトカムは、以下の3つ。A:上記①-③(③は、腎による死亡のみ)すべてを複合した時間(①のあと②になって③になる患者もいるので)、B:心血管系アウトカム(心血管系による死亡、心不全入院)すべてを複合した時間、C:総死亡だった。

 また、安全性については、一般的な副作用のみならず、体液貯留・低血糖・骨折・足切断・ケトアシドーシス・フルニエ壊疽などSGLT2阻害薬との関連が懸念されるものも特に調べられた(フルニエ壊疽は、全例を内部安全調査グループが検証した)。


■結果は?


 まず、結果が明らかすぎて、早期中止になった。

 平均2.4年の観察期間で、プライマリ・アウトカムに挙げたイベント①~③が対照群の14%にみられたのに対し、介入群では9%。ハザード比は0.61(信頼区間0.51-0.72)、p<0.001、NNT(1人をイベントから救うために何人の患者に薬を飲ませればよいか)は19だった(信頼区間15-27)。

 ①②③の内訳は下記(*をつけた項目はハザード比の信頼区間が1未満、+をつけた項目は1をまたいだ)。


          介入群  対照群
eGFR低下*     5.2% 9.3%
末期腎不全*  5.1%  7.5%
腎関連死亡    <0.1%   0.3% 
心血管系死亡+  3.0%    3.7%

 
 eGFRの低下傾向をグラフにすると、やはり「最初さがって維持される(低下率が緩徐になる)」傾向がみられた。


表3を元に作成
(青:介入群、赤:対照群)


 また、セカンダリ・アウトカムも、下に示したようにA・B・Cのいずれも介入群で有意に低かった。


  ハザード比(信頼区間) 
A   0.56(0.45-0.68)
B   0.71(0.55-0.92)
C   0.69(0.52-0.88)


■サブ解析は?


 プライマリ・アウトカムのハザード比は糖尿病の有無にかかわらず低かった(糖尿病群で0.64、非糖尿病群で0.50;信頼区間はそれぞれ0.52-0.79、0.35-0.72)。また、eGFRでも差はなく(45ml/min/1.73m2以上で0.63、以上で0.49;信頼区間はそれぞれ0.51-0.78、0.34-0.69)、蛋白尿の多寡でも差はなかった(尿Alb/Cr比1以下で0.54、1以上で0.62;信頼区間はそれぞれ0.37-077、0.50-0.76)。

 年齢(65歳以下・以上)・性別・血圧(収縮期血圧130mmHg以下・以上)などでも有意差はなかったが、地域では唯一「アジア」がハザード比の有意差がギリギリ(0.70、信頼区間0.48-1.0)であった。ただ、人種の「アジア系」は、それほどではなかった(0.66、信頼区間0.46-0.93)。


■安全性は?

 
 有害事象による内服中止、重度有害事象、上述のSGLT2阻害薬で懸念される有害事象の発生率は以下の通りであった。とくに懸念されたフルニエ壊疽は、介入群では0件で、むしろ対照群で1件みられた。


          介入群 対照群 
内服中止          5.5%   5.7%
重度有害事象  29.5%   33.9%
足切断      1.6%  1.8%
DKA(確定+疑い) 0.0%  <0.1%
骨折       4%   3.2%
腎関連有害事象  7.2%  8.7%
重度の低血糖   0.7%  1.3%
体液欠乏     5.9%  4.2%


3. 感想


 冒頭にも触れたように、SGLT2阻害薬は以前から「糖尿病の有無に関わらず心不全・CKD患者で有益であろう」と憶測されていたので、これらのスタディ結果は納得といえる。

 米国FDAは、DAPA-HF発表から約半年後の今年5月にダパを心不全に認可している(こちらも参照)。エンパが心不全に、ダパがCKDに認可されるのは時間の問題だろう。その後、日本をふくむ各国でも使用は広がると思われる。

 個人的には、2013年に「こんな薬があるのか!」と驚いてから(こちらも参照)、糖尿病→糖尿病のあるCKD→心不全→CKDと適応がひろがっていくのを同時代に見られていることをエキサイティングに感じる。

 ・・というのも、そうではなかったかもしれないからである。

 SGLT2阻害薬は19世紀フランスでリンゴの樹皮から抽出された(Annales Academie Science 1835 15 178)フロリジンを祖にもち、〇〇フロジンと呼ばれるのもそのためである。

 しかし、尿糖を起こすことはすぐにわかったが、SGLT阻害作用が示されるまで100年以上かかった(Am J Physiol 1973 224 552)。この発見がなかったら、T-1095(日本の製薬会社がつくったプロトタイプ)などの試行錯誤を経て現在に至ることはなかっただろう。

 今後も、こうした「科学的な本草学」ともいうべき方法で(できれば自分とその患者が生きているあいだに)サクセス・ストーリーがたくさん起きるといいなと思う。


 


 

2020/10/01

速報 The 2020 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease

 腎臓内科医にとって重要な診療指針の1つであるKDIGOの新しいガイドラインが発表された. CKDと糖尿病の関係はこれまでも, そしてこれからもきっと続いていくだろう.

 ガイドラインは5つのチャプター, 3つのポイント(エビデンスはないが概念的に重要),  12個の推奨(エビデンスあり)より構成されており, 昨今話題のSGLT2阻害薬の使用についても当然に言及されている. 

 下記, 一部抜粋 

 CKDとDMが認められる患者さんへ集学的治療を行う理由は, CKDの悪化の進展の抑制と心血管イベントの抑制のためである.

 集学的治療とは具体的には下記である.

 ・全例:血糖管理, 血圧管理, 脂質異常症への対応, 運動, 栄養, 禁煙

 ・大部分の患者:SGLT2阻害薬, RAS阻害薬

 ・ごく一部の患者:抗血小板薬

 ではさらに一部を細かくみてみる. 

 RAS阻害薬は, DM+高血圧+アルブミン尿が認められる場合は可能な限り最大量を投与する. 特に初回投与後2-4週間後に血清K値とCr値を確認しCr上昇とK値の変動がないか確認する. また, アルブミン尿のみでも投与を検討して良い. しかし, 高血圧もアルブミン尿もなければ投与の意味合いは薄いだろう. RAS阻害薬の開始量, 調整すべき点が具体的に記載された表があり参考にする(下記参照).

 血糖管理に関しては, HbA1cは年2回ないし血糖管理が悪い時はその都度行う. 目標値は<6.5-8.0%で個別化して対応する. HbA1cは腎機能障害の進行と共に正確性が低下する為, 注意する. よって腎機能が高度低下した症例ではHbA1cの代わりにCGMを行うことが血糖コントロールに有効となりうる.

 食事運動に関しては, タンパク摂取は0.8g/日, 透析始まれば1.0-1.2g/kgである. 塩分はNaClで5g<日. 中等度の運動を≧150分/週行う.

 具体的な治療に関しては, 食事運動で体重を落とすことに加えて, 2型糖尿尿の場合は薬剤ではメトフォルミン, SGLT2阻害薬が第1選択である. どちらの薬を最初に投与するかは決まっていないが, メトフォルミンが多いようだ. さらに, メトフォルミン単剤で治療が達成されてもSGLT2阻害薬の投与の余地を検討しても良いようだ. 

 なお上記2剤の使用に関してだが, メトフォルミンの投与はeGFR<45で減量, eGFR<30または透析開始では中止であり, SGLT2阻害薬はeGFR<30では開始せず, 透析開始で中止となっている. 

 その次の薬剤は患者の好み, 合併症, eGFR, 費用までを考慮するがGLP1受容体作動薬が好まれるようである(ここでのeGFR cut offは30であるが, SGLT2阻害薬に関しては, DAPA-CKDの結果を受けて引き下げられる可能性もある.). 他の薬剤の組み合わせについても図がガイドラインの中に記載されている.

 これだけでもまだ抜粋である. 情報量がとても多い. 

 個人的な意見としては, 今回の改定は本文を読まなくてもかなり理解が進むよう図が多様されている点と, 具体性を重視した記載をされている点が素晴らしいと思った. 例えば, RAS阻害薬という括りだけでなく具体的なACEI阻害薬の中での薬剤別の使い方まで詳細に記載されているのが印象的であった. どこから読んでも勉強になるようなガイドラインだなと思うので皆様も是非一読をされると良いだろう.


図:ARB/ ACEIの薬剤別の投与量と注意点(日本の保険用量との差異に注意)