ラベル 浮腫 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 浮腫 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/12/24

静脈還流障害

 すべてのCKD患者の貧血が腎性貧血ではないように、すべてのCKD患者の浮腫が腎疾患によるわけではない。そこで本稿では、浮腫の原因の一つである静脈還流障害について少し紹介したい。

 まず、静脈還流は下図のようになっている。泌尿器科医には常識だろうが、みぎ性腺静脈はIVCに直接注ぐのに対して、ひだり性腺静脈はひだり腎静脈に注ぐ。また、尿管周囲には尿管自身を栄養する静脈叢がある(ので、剥離しすぎに要注意である)。


(こちらから引用)


 ただし、IVCには稀ながらさまざまな奇形が知られている。放射線科医には常識だろうが、たとえば腎静脈より尾側のIVCが無形成だと、静脈還流は下図のように体表静脈・奇静脈・半奇静脈などの側副路を通る。


(Insights Imaging 2015 6 631より)


 また、肝部下大静脈が閉塞したものはBudd-Chiari、ひだり総腸骨静脈がみぎ総腸骨動脈の下を通るところが閉塞したものはMay-Thurnerとよばれる。いずれも症候群であり、先天的な血管奇形だけでなく、後天的な血栓などによっても起きる。


(左はこちら、右はこちらから引用)

 さらに後天的な要因としては、妊娠、IVCフィルターのような医原性(9年前にも紹介した)、腫瘍(胃・肝・膵・腎などがおおい)による浸潤や圧排もある。これらをまとめて、「SVC症候群」ならぬ「IVC症候群」と呼ぶこともあるようだ(こちらも参照)。

 このように静脈還流障害はさまざまな部位と原因によって起こる。そこで、血管外科医には常識であろうが、CEAP分類がある(1994年作成され2004年改訂された、J Vasc Surg 2004 40 1248)。まずCは臨床徴候で、


C0:視診や触診ではわからない
C1:毛細血管拡張や網目状静脈瘤
C2:静脈瘤
C3:浮腫
C4a:色素沈着や湿疹
C4b:脂肪皮膚効果や白色萎縮
C5:治癒した静脈潰瘍
C6:活動性の静脈潰瘍


 疼痛、緊満、皮膚刺激、重だるさ、足つりなどの症状があるとS、ないとAがつく(C6, Sなど)。つづいてEは原因で、


Ec:先天性
Ep:原発性
Es:二次性(結果ではなく原因としての血栓症)
En:静脈に原因を同定できない


 Aは解剖で、


As:表在静脈
Ap:穿通枝
Ad:深部静脈
 
 
 であるが、Advanced CEAP分類ではさらに以下の18カテゴリーに分類している。

  1. 毛細血管拡張・網目状静脈瘤
  2. 膝上の大伏在静脈
  3. 膝下の大伏在静脈
  4. 小伏在静脈
  5. 伏在静脈以外の表在静脈
  6. 下大静脈
  7. 総腸骨静脈
  8. 内腸骨静脈
  9. 外腸骨静脈
  10. 骨盤内静脈(性腺静脈、広間膜静脈、その他)
  11. 総大腿静脈
  12. 深大腿静脈
  13. 大腿静脈
  14. 膝窩静脈
  15. 下腿以遠の静脈(前脛骨静脈、後脛骨静脈、腓骨静脈)
  16. 筋間静脈(腓腹静脈、ひらめ静脈、その他)
  17. 大腿の穿通枝
  18. 下腿の穿通枝

 最後にPは病態で、以下のように分類される。


Pr:静脈逆流
Po:静脈閉塞
Pr,o:静脈逆流と静脈閉塞
Pn:静脈に病態を同定できない

 
 「ハンマーを持っていると全てがクギにみえる」ように、CKD外来で浮腫を診れば反射的に利尿薬を処方したくなるかもしれない。しかし実際にはこうした静脈還流異常をもつ患者もいると思われ、自戒を込めて紹介した。お役に立てれば幸いである。


★ ★ ★


 じつは、今年最初の投稿も浮腫でした(こちらも参照)。それから色々ありましたが、年末も同じように「この患者さんの浮腫はなんだろう?」と考えることができています。

 とても、有難いことだと思います。ほんとうに、何気ない日常こそが「キセキ」だと痛感させられた一年でした。

 そんななか不要不急の本ブログを読んでくださっている皆さまには、感謝の気持ちでいっぱいです。どうぞ、お元気で!来年も、よろしくお願いいたします。



(こちらより引用)



2020/01/08

人を指差すときは 3

 読者のなかには、昨年10月の投稿を覚えておられる方もいるかもしれない。浮腫の鑑別診断で、教科書的なもの(心・肝・腎・甲状腺・低栄養・DVT・還流障害・・)を除外して残るのは、全身ないし局所の血管透過性亢進くらいだというお話だった。

 このカテゴリーは腎臓内科以外の科(とくにリウマチ内科)で主に扱う疾患なことが多く、腎臓内科外来にきても紹介することが多い。それでも、できれば「〇〇と考えたのですが、いかがでしょうか・・?」くらいは言いたい。

 そんなわけで、この疾患を紹介する。以前の日本腎臓学会誌にも「稀な疾患ではあるが、特に浮腫性疾患を数多く診療する腎臓内科では鑑別疾患の一つとして常に念頭におくことが正確な診断・治療に重要であると考え」報告され(日腎会誌 2001 43 44)、最近筆者も経験したものだ。


 ずばり、好酸球性血管浮腫(angioedema with eosinophilia)。


 反復的に(episodic)起こるものはGleich症候群とも呼ばれ、基礎に血液の異常(CD3-CD4+のT細胞など、Haematologica 2015 100 300)があると考えられている。こちらは、日本にはあまり多くないようだ。

 いっぽう、日本では反復しない(non-episodic)タイプが多い。典型的には20-30歳代の女性で蕁麻疹や両下肢・上肢の浮腫が出現し、血液検査で著明な好中球増多(1万/mm3以上、白血球分画としても60%以上)がみられる。

 ただし、実際には男性なこともあるし、蕁麻疹や掻痒を伴わないこともある。浮腫を「関節痛」と訴えることもある。好酸球増多も、病初期であればマイルド(2000/mm3未満、白血球分画としても20%未満)なこともあり、注意が必要だ。

 遺伝性血管浮腫などの関連疾患も除外したうえ、診断がついたら治療は経口ステロイドが第一選択で、反応は良好だ。もっとも、ステロイドなしで自然軽快することもあるという。周辺疾患もふくめた詳細は、こちらもご参照されたい。

 

 ご存知の方も多いかもしれないが、筆者は正直これを知らなかった。腎臓専門医試験には出ないだろうが、「腎の中の蛙(写真は、セサミ・ストリートに登場するKermit)」にならぬよう、浮腫の鑑別疾患として念頭におこうと思った。



(出典はこちら)


2019/10/07

人を指差す時は 2

 75歳男性。高血圧・高脂血症などの既往あり前医の診療を受けていたが、2ヶ月前から下肢に浮腫がみられた。前医で腎機能正常、尿蛋白・潜血なし、心電図・胸部X線に異常なし(低栄養・肝硬変・甲状腺機能低下症もみられず)。体重の増加はないが、症状持続するためフロセミド処方されるも、改善なし。精査加療目的に、腎臓内科を紹介受診。


Q:診断は?


 腎機能正常、蛋白尿・潜血尿もない(非アルブミン尿の除外はするにしても)となると、正直「腎臓じゃないと思いますけど・・」と言いたくなる。しかし、自分達も総合内科医だと思っている腎臓内科医(こちらも参照)が、よりによって浮腫の症例で総合診療科にスルーパスするわけにもいかない。

 じつは、ここまで浮腫の鑑別疾患が除外されていると、残りはそんなに多くない。主なものは、全身ないし局所の血管透過性亢進か、リンパ還流の障害だ。そう思って問診・診察・検査所見を見直すと、以下が分かった。


  • 浮腫は下腿だけでなく手指にもある
  • 以前から、手指の関節がつっぱって動かしにくい
  • 両手指PIP関節が左右対称に軽度発赤
  • 下腿には圧痕浮腫
  • CRP高値
  • リウマチ因子陰性


 ここまでくれば、RS3PE(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema)症候群を最も疑うだろう。しかし恥ずかしながら、筆者は以前にもこの疾患を診た(本ブログにもまとめた)にも関わらず、知識がアヤフヤで、自分で診断を確定する勇気がなかった。

 そこでリウマチ内科にご相談したところ、典型例だったのだろう、すぐさま診断を確定して治療を開始していただけて、とてもありがたかった。人を指差すときには、相手への敬意を忘れないようにしようと思った。

 

(元は、Aretha Franklinの1967年ヒット曲、"RESPECT")