2012/10/19

Klotho

 F1000というwebsiteがある。医学生物学分野で、その道のエキスパートが、読む価値ある論文についてレビューし評価するpeer-reviewだ。本社はロンドンにある。彼らが星の数ほどある論文のなかから注目すべきものをピックアップしてくれ、さらに内容とそのimplicationを短く要約してくれるので、自分ひとりでkeep upしなくてもよいというわけだ。

 エキスパートは主に米国、英国、欧州、アジアなどから選ばれているが、うちの腎臓内科にも二人のfaculty memberとひとりassociate faculty memberがいる。それで、そのひとりの先生が九月に「論文(JASN 2012 23 1641)をレビューするので手伝ってみないか?」と声をかけてくれ、その執筆・編集作業がやっと終わった。

 これは単なる論文の要約ではなく、この論文が現行の理解においてどの位置にあり、どのような新しい発見があり、どのような今後の研究方向性を示唆するかを、エキスパートの目で評価するものだ。だから、その分野について勉強する必要があり、レビューや研究論文を(ひとつはCurr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 362)をいくつか読んだ。

 論文はKlothoについて。Klothoは当時日本の神経研究所におられた(現在はUT Southwestern)黒尾誠先生が抗老化と抗動脈石灰化の遺伝子として発表(Nature 1997 390 45)。主に腎遠位尿細管で産生され、腎ではFGF23と一緒に近位尿細管のリン再吸収トランスポータ(NPT2a、2c)を制御してリン利尿をおこす。その仕組みは完全には証明されていないが、Klothoの細胞外部分が切り取られて流れ、近位尿細管に届くとして矛盾しない。

 Klothoを初めて知った時は「腎臓ってerythropoietin、1,25-OH vitamin D、reninとかいろいろ分泌するけど、老化にも関与しているなんてすごい!」と思った。しかしこの論文では、腎(遠位尿細管)のKlothoを選択的にブロックしてもマウスは異常な老化をしなかった。ブロック具合が不十分だったためか、身体の他の部分からでるKlothoが抗老化作用を補っているためかは分からない。