2012/10/11

起死回生

 こんな風になりたいな、と思うスタッフの言葉があった。Renal Grand Roundでのこと。テーマはMARS(Molecular Absorbent Recirculating System、俗に言う"肝臓透析"の一つ)。テクノロジーについて解説した前編と代わり、後編は質の低い臨床データと結論のないメタアナリシスをさんざん見せられ、しかもみな欧州のスタディ(米国では薬物中毒にのみ適用)だ。

 演者の声も暗く単調だし、みんな退屈した。さらに「こんなデータもないものを実験的に使うんじゃない」「ECMOと一緒だ、2~3の生存例があるだけで、それが有効性の証拠になり、以後効いているか効いていないか分からないのに使われ続けている」と不満を口にする人も。私も「今日は収穫なかったな、うたた寝すればよかった」と思っていた。

 すると、一人のスタッフが「Amanita(テングタケの一種)の治療にはMARSの他にもあるよね、Milk Thistle(マリアアザミ)の種から抽出した、あれなんだっけ?」と発言した。演者も「ありますね、えっとあれは…」と名前を思い出そうとした。先生によればこの薬はキノコ毒素(amatoxin)による肝障害を予防する効果があるという。あとで調べるとSibilininと分かった。

 キノコ摂取から24時間以内までOK。米国では治験を行っているPI(primary investigator)に電話するとまるでマジックのように(FEDEXよりも速く)届けてくれるらしい。そこで少し笑いが起き、さらに別の先生が「tubing systemでもあるのかな?」と冗談をいい、みんな大笑いしてお開きとなった。私も、会の内容がイマイチで雰囲気が悪くても、さりげなく学びを提供し、笑いを取りたいものだ。