2012/10/23

Hypomagnesemia and hypokalemia

 電解質異常・酸塩基平衡は腎臓内科の専売特許ではない。こないだ総合内科の診療チームの部屋で共有する患者さんの治療方針について議論していたら、ふとホワイトボードをみると細胞とイオンチャネルの図が描いてある。聞けば、チームについている医学生が「どうして低Mg血症があると低K血症は治りにくいのか」について論文を調べて講義したのだという。

 正直この質問については「まだ良くわかっていない」という答えに安住していたので、感心して彼の見つけた論文(JASN 2007 18 2649)を読んだ。著者によれば低Mg血症は低K血症の半数以上にみられ、低Mg血症が低K血症の治療を困難にする理由は"remains unexplained"としつつもどうやらそれが遠位尿細管での尿K排泄の亢進によるらしいと主張し説明している。

 というのも、Bartter症候群の患者やHCTZ服用の患者にMgを補うと尿K排泄が減り、健常な人にMgを静注するとに尿K排泄が減り、Gitelman症候群の患者にMgを静注するとTTKGが減るからだ。遠位尿細管でのK排泄はROMK(non-flow stimulated)とmaxi-K channels(flow stimulated)が司るが、MgはROMKを通じたK排泄を抑制しているらしい。

 ROMKはチャネル(ポンプではない)なのでKは自由に出入りできる。ただmembrane potential(細胞内が陰性チャージ)による内向きK流とカリウムのgradient(細胞内にKがたくさん)による外向きK流が平衡して、通常はKが外に排泄されている。しかし細胞内にfree Mgがあると、これが内側からチャネルの孔をふさいでK排泄を抑制するのだ(Science 1994 371 243)!

 では低Mg血症のとき、尿細管細胞内のfree Mg濃度もやはり低いのだろうか。実は、これを直接証明した人はまだいない。まずMgは60%が骨、38%が細胞内、2%がplasmaなど細胞外液にある。細胞内Mg濃度は10-20mMだが、free Mg濃度は0.5-1mM。細胞内外のMgは3-4時間で100%入れ替わる(Biometals 2002 15 203)ので、おそらく低Mg血症なら細胞内 free Mgも低いだろうと著者は推測している。

 OK、では低Mg血症だが低K血症を起こさない疾患(TRPM6変異など)はどう説明する?著者は、いくらROMKの滑りが良くなっても、流れを起こすdriving forceがなければK排泄は変わらないだろうと主張し、driving forceの例に遠位尿細管へのNa delivery、アルドステロンなどを挙げている。この論文はextremely interestingだった、関連論文も読みたい。