腎臓内科外来では慢性腎不全を主に診るので緊急性はまずないのであるが、ときに腎臓以外の緊急疾患に対応することがある。昨年はHgb 6g/dlと言われて、診察すると下血と低血圧で即入院となった。今年は、Hgb 5.8g/dlというから診察すると、こちらは慢性の経過で、重度の鉄欠乏性貧血だった例がある。
さてこの症例、鉄欠乏性貧血と聞いてボスがまず患者さんにした質問が「お茶は好き?」だった。お茶?こんな時にシュールな…と思って聞いていると、タンニンが食事中の鉄と結合して腸管での吸収を阻害するそうだ。彼は茶による重度の慢性鉄欠乏を少なくとも2例は診たことがあるという(いずれも、茶をやめたら直った)。
このボスの私が尊敬しているところは、裏付けとなる論文を紹介してくれる(か、彼の経験に基づく意見なら正直にそういってくれる)ところだ。それで、後日ふたつの論文が送られてきた。ひとつは南アフリカの論文(Gut 1975 16 193)で、19世紀に英領アジア(主にインド)から移住してきた人達を対象にした実験だ。彼らはしばしば鉄欠乏であったためという。
放射性Feで標識した鉄をさまざまな食べ物に混ぜ、水、茶、ミルクティーなどと一緒に摂取してもらい鉄吸収の程度を調べたところ、パン・米・ポテトなどと茶の組み合わせでは鉄吸収が落ちた(ミルクティーでも同じ)。ウサギの血液から抽出したヘム鉄は、生では茶により吸収が落ち、加熱したら吸収は変わらなかった。
もう一つはネスレの協力で行われたスイスとアメリカの研究グループによる論文(British J Nutrition 1999 81 289)だ。1999年までには、茶のみならずフェノール基の豊富な飲料はいずれも鉄吸収を阻害することが分かっていた。それで、茶、ココア(ネスレだからミロかな)、ハーブティーなどの鉄吸収の程度を調べたら、茶(black tea)が最もpotentだった。
[2013年3月追加]茶と元素の関係でもう一つ。NEJMのimages in clinical medicine(NEJM 2013 368 1140)に、茶の過剰摂取による骨格のフッ化(skeletal fluorosis)が載った。フッ素は飲み水だけでなく茶にも微量含まれている。だからこの例のように過剰に摂取(ティーバッグ100-150個で淹れた一瓶の茶を毎日飲む)すると、体内にフッ素がたまるそうだ。