さて、この実験が興味深いのは、PGC-1-alphaの二つの働きが想定されるからだ。ひとつは、AKI障害時に抑制されることで酸化的リン酸化のスイッチを切り、酸化ストレスを最小限にして細胞・ミトコンドリアがsepsisの嵐の中を生き延びられるようにしているという仮説だ。だから治療への応用でいえば、いくら回復に関係しているからと言ってsepsis真っ盛りの時期にPGC-1-alphaのスイッチを入れるのは得策ではない。
もう一つは、PGC-1-alphaがAKIの回復に際しては発現がup-regulateされ酸化的リン酸化やミトコンドリアの若返りに関わる遺伝子群を一斉にオンにするということだ。ここでの質問は、いったい何がPGC-1-alphaをupregulateしているのかということだ。それが見つかれば、治療に応用できるかもしれない。
この実験ではマウスにenxotoxinを注射し、注射後18時間後に10ml/kgの生理食塩水を注射することで42時間後にはAKIの回復が図られるというモデルを用いた。では、この生理食塩水が何かしているのか?でも生理食塩水なんて所詮は塩と水、できることはvolumeを増やすことだけだ。10ml/kgという量がマウスにとってどれくらいなのか分からないが、人間なら700-1000mlにすぎない。これっぽっちの塩水でsepsis AKIが回復するなら苦労はいらない。
おそらく食塩水はみせかけで、42時間という時間が鍵なのだろう。このモデルはendotoxinを注射しているので、実際のsepsisとは違いendotoxemiaはほんの短時間にすぎない。だからendotoxinとそれによる一連のcytokine、炎症カスケードも時がたてば過ぎ去り、そこから回復期に入るというわけなのだろう。結局感染症を治さないとAKIも治らない。でもPGC-1-alphaのターゲットPPAR-alphaがsepsis AKIを予防するかもしれないという論文もある(KI 2009, 76, 1049)から、このあとどんなことが分かるか期待しよう。
あたかも長い小説を読んだあとのような感じだ。最後の考察はファカルティーの前で発表しなければならなかったのだが、Toastmasters効果もあって皆をかなり好意的に印象付けることができた。元来私はJounal clubが苦手であるのにも関わらずだ。Toastmasters clubには最近行けていないが、前の街で学び経験したことが知となり肉となっているのを感じることは喜びだ。10個のスピーチを終え手にしたCC(competent comunicator)というタイトルは伊達じゃない。またToastmastersに自信を持った。