さっそく紹介したい・・が、最初に、このニュースリリースが論文ではないことをお断りしておく(製薬会社がみずから発表しているのだから、当然ながら記事にはよいニュースしか書かれていない)。なお、筆者はこれら製薬企業に利益の相反を持たない。
まず、治験情報によれば、ADVOCATEは、ANCA抗体はMPOかPR3かを問わず、BVASスコア(下表も参照)で①大項目1つ以上、②小項目3つ以上、③腎項目2つ(蛋白尿・潜血尿)のいずれかがあり、eGFRが15ml/min/1.73m2以上の患者が登録された(日本でも行われた)。速報は「20カ国の331人」というが、実際の年齢やANCA抗体・国の内訳、ベースのBVASスコア・腎機能などは未公開だ。
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プロトコルは、いずれの群も①RTX4週間または②シクロフォスファミド12週間→アザチオプリンが入ったうえ、介入群はアバコパン(30mg1日2回)とプレドニゾンのプラセボ、コントロールの標準治療群はプレドニゾン(60mg/dから20週で漸減)とアバコパンのプラセボを投与された。プレドニン開始量は多めだが、パルスはせず、30mg/dから年単位で漫然と使うよりも累積量は少ないだろう。
結果であるが、「BVASスコア0」と「4週以上ステロイドOFF」で定義されたプライマリ・エンドポイントは、26週で標準治療群と非劣性(介入群72.3%、標準治療群70.1%、非劣性についてp<0.0001)、52週では、有意に優性すぐれていた(介入群64.7%、標準治療群54.9%、優性についてp=0.0066)。
さらに、セカンダリ・エンドポイントのひとつであるeGFRは、26週・52週ともに介入群のほうが有意に上昇していた(26週では介入群5.8ml/min/1.73m2、標準治療群2.8ml/min/1.73m2、p=0.04;52週では介入群7.3ml/min/1.73m2、標準治療群4.0ml/min/1.73m2、p=0.02)。eGFRが15ml/min/1.73m2未満の患者が除外されているとはいえ、期待させるデータである。
それだけでなく、ステロイドによる副作用をまとめた毒性指数(Glucocorticoid Toxicity Index、追記も参照)を両群で調べてみると、介入群で有意に低かった(増悪のみをカウントするCummulative Worsening Scoreは介入群で39.7、標準治療群で56.6、p=0.0002)。また、患者のQOLも介入群で高かった(SF-36とEuroQOL-5D-5Lが用いられた、数値は未公開)。
ステロイドを使わないアバコパンのレジメンで、ステロイドの害を避けてしかもより有効に寛解できるなら、いいことづくめだ。あとは、アバコパン長期投与の安全性と、この試験の適応範囲を確認しておくことだろう。
まず安全性であるが、プロトコル上、アバコパンのレジメンにはアバコパンを「何年続けたらやめる」といった期限が見当たらない(製薬会社にとってはいい話だろうが)。GTIが低く患者QOLが高いのはよいが、当然ながら副作用のない薬はないので、確認が必要だ。
たとえば、おなじ補体阻害薬のエクリズマブで有名な、髄膜炎菌などナイセリア属への易感染性はどうか?アバコパンはmembrane attack complexの形成を阻害しないとされるが、これについてのデータは未公開だ。実際にどうだったかは来年論文が出るのを待たねばならない。
次に適応範囲であるが、まずはスタディどおり「(GFRが15ml/min/1.73m2以上の例で)RTXまたはシクロフォスファミド後の維持として、ステロイドの代わりに、アザチオプリンと併用する」に限定されるだろう。しかしスタディでみられたGTIの低さとQOLの高さを考えると、ゆくゆくは「なんとなく(しかたなく)ステロイド」という使用を置き換える可能性もある。
腎臓内科領域は自己免疫疾患を扱う他科に比べてステロイド依存が強い感もあるが、実際には「他の免疫抑制薬で恐ろしい感染症を起こすよりはまし」というネガティブな使用も多い。また、「ステロイドでなんとかなってる」と言いながら、じんわり確実に累積する毒性で多くの患者が命を落としているのかもしれない。
今回の結果は、そこからやっと脱却できるチャンスにつながる可能性がある。
なお補体阻害薬は、じつはアバコパンの他にもさまざまな創薬が試みられており、先日もその一つであるCRIg/FHがループス腎炎のMRL/lprモデルマウスでステロイドより優れた効果を示したと発表される(doi:10.1186/s12882-019-1599-0)など、ホットな領域だ。この新しいパラダイムで、これからより一層安全で有効な薬が登場することを期待したい。
[2019年12月11日追記]上記のステロイド毒性指数、GTIとは何か?調べてみると、ステロイド量を減らす(ステロイドに代わる)薬の治験での使用を意図してごく最近生まれたものだった(Ann Rheum Dis 2017 76 543)。GTI composite scoreは下記のように、9つの領域について31の項目からあてはまるものを選び、点数を総計する。項目や点数の重み付けは、19人のエキスパートによるコンセンサスで決められた。
感染のグレードとは聞きなれないが、米国の国立がん研究所が出しているCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)グレードだとすれば、以下のようになる。
また、下記のリストはSpecific Listと呼ばれ、スコアと別に特記される(アステリスクをつけたものに関しては、上記Composite Scoreの最高点にもなる)。
BMI上昇*
糖尿病性網膜症*
糖尿病性腎症*
糖尿病性神経障害*
高血圧性緊急症*
PRES*
骨密度低下*
脆弱性骨折*
重度のステロイド筋症*
重度の皮膚症状*
サイコーシス*
ステロイドに起因する暴力行動*
その他の重症な神経・精神症状*
グレードIVの感染*
グレードVの感染*
副腎不全
消化管穿孔
消化性潰瘍
骨頭壊死
腱断裂
中心性漿液性脈絡網膜症
眼内圧上昇
水晶体嚢後部の白内障
上記Composite Scoreを加点・減点したものは、改善分も加味するためAggregate Improvement Scoreと呼ばれ、マイナス36点から439点の値をとる。いっぽう増悪した加点のみ総計するのが、Cummulative Worsening Scoreだ。
・・・とまあ、極めて複雑だが、幸い計算アプリが開発中だ(デモをこちらから入手できる)。ADVOCATEにおける20点程度の両群間の有意差が臨床的にどれくらいなのか(どの領域にどのような差があったか、など)は、論文も待ちたい。
それにしても、ステロイド毒性を客観的に評価する一般的なツールがいまだ存在しないというのは、驚くべきことだ。論文著者は、ステロイド毒性が「仕方のないこと(fact of life)」と諦められている現状を問題視してこの指数を作ったという。それだけでも、大事な一歩だろう。