プログラム二個目は、critical care update(集中治療)だった。演者は三人ともcritical care nephrologistで、この分野がすでに確立していることを感じさせた。まずは血糖コントロールについて。ストレス下に血糖があがるのは生理的反応であるが、高血糖が炎症サイトカインを誘導するのは確かだ。それでベルギーの医師Van Den Berghのグループが2001年に「インスリンの使い方ひとつでこんなに命が助かる」という衝撃的な論文を発表した。その後さまざまな再試験が行われたが同じ結果にはならず、tight glycemic controlが本当によいかは議論され続けている。いまのところ学会が勧める内科ICU患者のターゲット血糖は140-180mg/dl、「100と180のあいだをとって」という感じである。
つぎに輸血の適応や是非について。Hgb 7g/dlという線はTRICCという1999年発表された論文に拠るが、exclusion criteriaで対象から外された患者群についてはこれは当てはまらない。ただこの論文は冠動脈疾患を持つ患者群にもあてはまり、急性虚血がない限りはたとえ冠動脈疾患の既往があっても輸血は7g/dlからでよい。Hgbが減っても、isovolemic anemiaであれば血行動態にはさほど影響を与えない。これはUCSFで学生から血を抜いてその分生理食塩水を注射するという実験が行われて実証されたらしい。TRALIのほかにもTACO(circulatory overload)、TRIM(immuno-modulation)、Transfusion-associated kidney injuryなど様々な合併症が知られてきている。また、保存期間が15日を過ぎた輸血赤血球は機能に劣るという迷惑な論文(そんなことを言ったらもっとたくさん献血が必要になる)もあった。
そのあとは、septic shock時のステロイドについてだった。(ストレスホルモンを産生できない)副腎摘出した動物はストレスに適応できず生き残れない。だから人間でもストレスに適応できない状況ではストレスホルモンを補充したほうがよかろうという考えからステロイド治療が行われるようになった。2002年にJAMAに発表されたDr. Annaneの論文で、hydrocortisone静注とfludrocortisone経口を併用したものだった。その後CORTICUSという追試では静注のみで行われたが有意なsurvival benefitが出なかった。その後いくつもの追試が行われ、結果はバラバラだった。それで2009年JAMAにmeta-analysisが載ったが結論は「どちらともいえない」だった。ただし、CORTICUS studyではステロイド群でショックからの回復が有意に早かったことが示された。vasopressinとの相互作用を示唆する論文もあり、今後もステロイドの有効な使い道を探すべく研究が続けられそうだ。
なお最後の演者が「主要論文にメタアナリシスがでるということは『誰もよくわからない』ということの高尚な言い換えだ」と言っていたのが面白かった。この演者はDCの人で、シーク教徒でターバンにスーツを着ていたがおそらくIndian Americanで、物凄く雄弁かつ自信に満ちていた。この人は翌日もICU患者のfluid managementについて講演し、身体所見やCVP、CVOPはもはや優れたpreloadのpredictorとはいえず、LVEDVI(体表面積で調整した左室末期拡張期容積)、Li Dilution CO、Impedance cardiography(PWVと近い)、pulse contour CO(動脈ライン波形から計算する)、など新しい機械が次々生まれているらしいことも教えてくれた。