2012/02/27

renal lymph

腎移植して約一年半たった人に、腹水が数週間から一か月の経過で溜まって入院になった。肝臓も門脈圧も問題なさそうなのに、移植腎がパンパンに膨れている。のみならず、移植腎の腎盂と尿管の壁もとても膨れている。不思議なのは、腎機能は正常で、血管と尿管に詰まりはなさそうだ。
 そこで疑われるのがrenal lymph(腎のリンパ)の異常、すなわち腎のリンパがどこかで堰き止められて、腎のcapsuleからジワジワ滲み出てくるという仮説だ。ただこのタイミングで、どんな理由で患者さんの移植腎のリンパが堰きとめられなければならないのか、まったく見当もつかない。
 そもそも腎のリンパ、ことにヒトのそれについて詳しいことは分かっていない。Brennerなど読んでもアヤフヤで、研究データはどれも古い。たとえば羊の実験(J physiol 1971: 214 365、羊なだけあってオーストラリアの研究グループ)では、renal capsuleからのリンパドレナージはないという。しかし犬ではあるという。
 例の羊の実験では、subcapsular lymphがネットワークを作りながら合流し腎門部のリンパ節に注ぎ、流量は0.5-3ml/h、アルブミン濃度は1.6g/dlと足のリンパのそれより高かった。これがヒトでも当てはまるなら、患者さんの腹水アルブミン濃度は腎リンパとしてもつじつまが合う。腎リンパ中のリンパ球の割合、数については調べた限りデータがなく、なんとも言えない。
 仮説を直接証明するには移植腎の腎リンパを造影する方法を考えねばならないが、これまたどうしてよいやら分からない。通常のリンパ管造影は四肢、とくに脚のリンパ管→乳び→胸管を造影するものであり、これが腎リンパを映しだすとは思えない。例の羊の実験では、腎capsuleの直下にindia inkなどの色素を注射していたが、これは実験動物だからできることだ。
 腹水を抜くだけなら簡単だし、定期的に抜かねばならないのかもしれない。あるいはDenver shunt(腹水を静脈内に返すデバイス)の適応になるかもしれない。しかしどちらも対症的なアプローチだし、感染症をintroduceしてしまう恐れもある。なんとか知恵を絞って根本的な検査と治療を考えねばならない。