2011/07/30

ピンチ

 緊急透析するには透析カテーテルを挿入する必要がある。そして私は透析カテーテルを挿入することが困難な状況など余り考えたことがなかったが、きょう困難な症例に出会った。それは虚血性心筋症による心不全でLVAD(左室補助デバイス)が挿入されている患者さんの急性腎不全だった。

 無尿になって、わずかな尿を鏡検すると典型的なbrown granular castが見える。透析カテーテルが必要だなと思いながら何気なく胸部X線を見ると、上大静脈がラインで既に一杯だ。よく見ると、右から挿入された両室ペーシングのリード(二本)、AICD(二本)、それに左鎖骨下静脈から挿入されたHickman Catheter(home milrinon infusionのため)の計五本でごった返している。

 こんなところに太い透析カテーテルが入るわけがない。たとえ入っても良いフローが得られるか判らないし、突っ込んで抜けなくなったら大変だ。INRは3.9(血液が固まりにくくなっているということ。僧帽弁置換後で抗凝固剤を飲んでいる)だし、大きな穴を内頚静脈に開けてラインを入れてからオメオメ引き抜くわけにもいかない。

 「なら大腿静脈に挿入すれば?」と言いたいところだが、患者さんの状況から言って腎不全はそう簡単に治りそうもないし、大腿動脈カテーテルから持続透析を行うと患者さんは24時間臥位のまま全く動くことができない。「IR(放射線科医)に透視下にやってもらえば?」と言おうにも時は金曜日の午後、週末にIRを動かすのは至難の業だ。

 この状態は、挿管困難などで気道確保が保証されない状況におかれた集中治療医のピンチに通じるものがあるだろう。腎機能がシャットダウンして透析ができなければ、早晩に(他の臓器がシャットダウンした時に比べればゆっくりだが)万事は休する。結局、INRはビタミンKでリバースして、へパリン持続静注を開始し、大腿静脈カテーテルを挿入することになりそうだ。