2011/08/25

suPAR

今週のjournal clubは二本の興味深い基礎研究の論文が紹介された。一つ目はカリウムチャネル遺伝子のひとつ(KCNJ5)の変異が細胞内へのカルシウム流入を介してアルドステロン産生と細胞増殖を起こすことを示した、アルドステロン産生副腎腫瘍の病態生理の一部を明らかにする論文(Science 331, 768-772, 2011)。

 この研究者は、遺伝性アルドステロン産生副腎腫瘍の家系を探し出し、腫瘍の遺伝子(exome)をくまなく調べた。そして共通するsomatic mutationを見つけ、その部位が生物種を越えて保存されていることを示した(進化の過程で保存されているということは、それだけ生存に重要と考えられる)。さらにたんぱく質構造解析により変異部位はチャネルの透過特異性に重要ということも示した。

 もう一つの論文は、FSGS(原因不明のネフローゼ症候群、治療法も確立していない)の原因に、circulating urokinase receptorが関与しているというもの(Nature medicine 17, 952-960, 2011)。FSGSは移植した腎臓にも起こるぐらいだから、この病気を起こす何らかの"circulating factor"(血中を流れる未特定の物質)があるに違いないと考えられていた。

 この研究者はすでに腎臓糸球体の足細胞の細胞膜にあるurokinase receptorが、細胞間器質のbeta-3 integrinなどを介して足突起のeffacementを起こすことを知っていた。さらに研究を進めて、urokinase receptorは細胞膜を離れて血中を循環することを突き止めた。

 そこで、①FSGSはcirculating factorによると考えられている、②urokinase receptorは糸球体病変を起こす、③urokinase receptorはserum soluble urokinase receptor(略してsuPAR)として血中を漂っている、という考えを総合して、④suPARがcirculating factorなのではないか?という推論を立てそれを証明しにかかった。

 調べてみると、FSGS患者の血漿には、原疾患を問わずsuPARの濃度が高いことが分かった。また患者血清を健康なヒトの足細胞に振りかけるとbeta-3 integrinが誘導されることが分かった。この効果はrecurrent FSGS患者の血清でより大きく、患者血清に抗suPAR抗体を混ぜると打ち消された。

 さらにsuPAR遺伝子(plaur)ノックアウトマウスを作製し、このマウスにsuPARを大量静注したり、wild typeのマウスにノックアウトマウスの腎臓を移植したり、さらにはwild typeのマウスにplaur遺伝子入りのプラスミドを組み込んでsuPARを異常発現させたマウスを作ったりして、suPARがFSGSを起こすことを美しく論理的に示した。

 これは、膜性腎症にPLA2Rが関与していることが判ったのに続き、難病であるネフローゼ症候群の病態解明につながる重要な論文だ。これからさらに、suPARがなぜFSGS患者で異常に発現しているのか、suPARを除去すれば病気は元に戻るのか(残念ながら今のところ血漿交換はFSGSには効かない)、など研究が進んでいくことだろう。

2011/08/21

jade and dab

 最近学んだ英単語は、jadeとdabだ。Jadeとは翡翠(ヒスイ)のことだけど、「へとへとに疲れさせる」という意味があるので、主にjadedという過去分詞形で「疲れ切った」、転じて「飽き飽きした、うんざりした」という風に使われる。Tiredに近い表現だ。移植コーディネータが「私たちはこの仕事が長いから、患者さんのさまざまなトラブルにjadedなこともあるけどねー…でもおおむねこの仕事は楽しくてやりがいがあるわよ☆」と言っていた。

 Dabは、to strike or hit lightly、to tap gently; pat、という意味だ。腎生検ではまず小さく十字に切れ目を入れた皮膚に針の先端を少しだけ入れて、そこから超音波ガイド下に針を進める。この最初に針を進める動きをdab the needleと言っていた。なおdabにはto apply with short poking strokes、to cover lightly with or as if with a moist substanceという意味もある。筆で絵具をカンバスに少しつける、お化粧を頬に少しつける、という感じだ。

2011/08/19

I can only do so much

 各方面から仕事ややるべきことが積もると、一時的に自分の力ではどうにも出来ない状況に陥ることがある。この時の無力感を打ち破るのには、"I can only do so much"と言い聞かせるのがよい。"There is only so much I can do"と言ってもよい。とにかく、自分に出来ることを自分のペースでやるしかない。ただこれを相手に言っても、それで納得してくれる場合は少ないだろうから、あくまで自分に言い聞かせている。

XO inhibitor

 慢性腎不全の患者さんは心血管系疾患とそれによる死亡率が高い(AJKD 32, S112-119, 1998)。それで、いかに慢性腎不全の患者さんを心血管疾患から守り長生きさせるかが腎臓内科医の最大の課題の一つだ。この課題を解くために、①どの患者さんがハイリスクなのかを見つける、②どうしたらそのリスクを減らすことができるか考える、という二つの問いを立てて多くの人達が研究している。

 リスク因子の一つに、endothelial dysfunctionというのがある。血管内皮細胞には防御機構が備わっていて、狭窄や閉塞などで虚血に陥った場合に代償的に拡張しようとする。しかし腎不全の患者ではその働きが弱くなる。endothelial dysfunctionを計るひとつの方法がFMD(flow-mediated dilatation)だが、FMDが弱い腎不全患者さんは、そうでない患者さんに比べて心血管疾患で死亡する確率がとても高い。

 別のリスク因子は高尿酸血症だ。尿酸は血管肥大、高血圧、RAA(renin-angiotensin-aldosterone、私の好きな生物を陸上で生活できるようにしたシステム)の亢進などにより心血管疾患リスクをあげることが知られている。また移植患者では、CNI(calcineurin inhibitor、すなわちtacrolimusとcyclosporineのこと)により尿酸値が上がるらしい。

 では、尿酸値を下げると心血管リスクは減るの?という話になる。それで調べてみると、xantine oxydase阻害剤(allopurinol)はリスクを下げるが、尿酸排泄促進剤(probenecid)はリスクを下げないことがわかった。さらにallopurinolは、血中の尿酸濃度に関わらず腎不全患者の心疾患を予防するかもしれないという論文がでた(JASN 22, 1382-1389, 2011)。

 しかしNephrology Grand Roundで聞いた話では、LV mass indexのさがり幅が1g/m2と少なく、フォローアップ期間も9か月と短いので、これだけでは何とも言えないようだ。今度読んでみようと思う。Allopurinolと言えば腎不全患者にはdose reductionが必要とか、Acute interstitial nephritisを起こすとか、腎臓内科医には使いにくい薬だが、思わぬメリットがあるようで見直さなければならない。

2011/08/16

7 - K or 8 - K

 透析液のカリウム濃度は「7 - 患者さんのカリウム濃度」にせよという不文律がある。しかし今日のJournal clubで紹介された論文(Kidney International 79 218 2011)を知って、「8 - 患者さんのカリウム濃度」にしといたほうが患者さんが突然死せずに済むかもしれないと思った。この論文は、大手透析会社DeVitaがもつ膨大な患者さんと透析情報を解析した、case-control studyだ。読んでみて、これは結果よりも解釈が重要だなと感じた。

 たとえば「患者さんのカリウム濃度が5.1より1以上高ければ突然死のリスクは46%あがり、1以上低ければ55%あがる」と言われても、このカリウム濃度はイベントが起こった日のカリウム濃度ではなく、月一回計る血液検査時のものだ。カリウム濃度が高い患者には、低いK濃度の透析液を使うために不整脈が起こり突然死するのか。カリウムが低い患者は、日頃から透析をアグレッシブにやりすぎているからいけないのか。カリウムが低い患者は栄養状態が悪いのか。考えられることが色々ある。

[2019年2月追記]上記の透析前カリウムと突然死リスクの相関は下図のようなUカーブで表現されていた。


 透析患者さんは透析前の高カリウム血症もさることながら、透析中の低カリウム血症も心配で、透析前のカリウムは5mEq/l程度でよいのかもしれないというメッセージだった。

 そしてこれを振り返るきっかけになったのが、ahead of printのお知らせメールが昨日届いた(腎臓内科学会メーリングリストでも話題の)CJASNの論文だ(doi.org/10.2215/CJN.08580718)。

 欧州各国とアルゼンチンのDIET-HDコホートから約8000人の血液透析患者さんについて野菜と果物の摂取量をアンケートし、1日5.5以下、5.6-10、10 servings以上の三群にわけると、平均2.7年のフォローで摂取が多いほど総死亡・非心血管系死亡が有意に低かった。




 心血管系死亡は有意差が出なかったが、じっさいの数字(1000人・年あたりの死亡率)は心血管系のみで下がり、感染・がんなどの非心血管系死亡はどの群の数字も同じだった。

 なにがよかったのか?ということで、「ビタミンとか繊維とかがよかったのでしょう」といういつものお話が(相関と因果関係に注意しながら)各所ではじまっていると思われる。カロリー摂取が3群で1700、2000、2400kcal/日と大きく違うのが気になるが、著者は多変量解析でその影響を排除したといっている。

 また透析前カリウムの値はいずれも5-5.1mEq/lで変わらなかった。カリウム吸着薬についての記載はないのでわからないが、「カリウム吸着薬をのんで野菜と果物のいいとこどりをしましょう」という提案も(新規K吸着薬の登場とあわせて)これからなされるかもしれない。

 ただ、「果物の美味しい季節はカリウムに気をつけよう」というわけで、梨でも柿でもイチゴでも旬に高カリウム血症で運ばれる患者さんを診た経験がどの透析施設にもあると思われる(わたしのいた米国施設では「夏はトマトに気をつけろ」といわれていた)。

 せっかく患者さんの食生活と予後を改善しうる結果がでたのだから、慎重に前向きに採用して検証したい。


Anti-HLA antibody

 ドナーがなかなか見つからない患者さんは、desensitizationをしてでもHLA不適合移植をしたほうが、移植せずに透析をして待ち続けるより長生きできるという論文がJournal clubで紹介された(NEJM 365, 318-26, 2011)。

 Donor-specific anti-HLA antibodyは、妊娠や輸血、以前の移植などで作られることが多いが、そうでなくても敏感な免疫の人は元々持っている場合もある。ウイルス感染なども免疫反応を惹起する過程でこれらの抗体を作ることがある。

 この抗体がターゲットとなる抗原をもった臓器をあげたら、免疫の思う壺というか、飛んで火に入る夏の虫というか、移植臓器はdonor-specific anti-HLA antibodyの餌食になってしまう。だからドナーの免疫と移植臓器がマッチすることをあらかじめ確かめる必要がある。

 CDC(complement-dependent cytotoxicity assay)はドナーの血清とレシピエントのリンパ球を混ぜて反応するかをみる試験だ。補体とanti-human globulinをつかって反応を起こりやすくしている。さらに感度が高いのがFCXM(flow-cytometry cross-match)。

 さらに感度が高いのはbead assayで、これはレシピエントとの反応がどうこうというより、単に抗体を検出している。この試験は感度が高い半面、false positiveも高い。言い換えると、非常に抗体価の低いものまで拾ってくるが、これらの抗体がどれだけ移植後悪さをするかは分からない。

 移植にあたってはクロスマッチで反応がおこらない相手を探すのが第一だが、ドナーの30%は残念ながらdonor-specific anti-HLA antibotyを持っており、彼らに適合する臓器を見つけてくることは容易ではない。そこで、ただ待ちぼうけるのではなく、ドナーをde-sensitizeしてはどうかと言う話になる。

 De-sensitizationには大きく二つの方法があり、ひとつは高用量のIVIG、もうひとつは低用量のIVIGと血漿交換を組み合わせたものだ。これを行ってからHLA不適合移植した群は、適合移植の相手が見つかるまで待った群(どちらも移植後は免疫抑制を掛けるが)、相手が見つからずに待ち続けた群に比べて長生きした。

 しかし、どの群もloss of follow upが多く、8年間のフォローアップで得たKaplan-Meier曲線は美しく不適合輸血群の有意な長期生存を示しているものの、説得する真のパワー(計算上の統計学的なパワーでなく)は低い、と先輩フェローがこれをビシッと指摘しており、なるほどなと尊敬した。

2011/08/14

前向き

 移植チームにいると、メンタリティーが外科的というか、前向きに変わる。慢性腎不全というのは徐々に進行する病気であり、診療の根本はそのゆっくりとした下降を(患者さんもそうだし診療チームも)受け入れるところにあると思う。しかし移植をすると、どんどん腎機能がよくなり、だめになった腎臓のために患者さんが失った機能はどんどん回復していく。

 たとえば血圧もどんどんさがって飲む抗高血圧薬が減っていくし、貧血も新しい腎臓が造血ホルモンを作るので回復するし、リンやカルシウムなどの電解質をコントロールする薬を飲む必要もなくなる。腎不全(透析)患者さんは水分制限を強いられるが、移植をするとこんどは新しい腎臓に血液がふんだんに届くよう、脱水を避け一日に2-3Lは水分を取るよう勧められる。