2020/04/30

PDによるAKI治療

 AKIの腎代替療法は、「いつ始めるか」は議論になっても「どのモダリティーか」が議論されることはほとんどない(こちらも参照)。しかし先週、米国腎臓学会のKidney360という雑誌に「COVID-19パンデミックがもたらす、米国でのPDによるAKI治療」という論文がでた(doi:10.34067/KID.0002152020)。

 米国も日本と同様、成人AKI治療でPDすることはまずない。しかし、パンデミックによりHD機・CVVHDF機が不足し、ニューヨーク市などではAKIの治療にPDが使用され始めているという。信じられない事態だが、現実だ。

 論文は「(万一に備えて)PDによるAKI治療をおさらいしましょう」と言う。そこで、その効果・禁忌・アクセス・処方について以下にまとめる(参考文献は前掲論文と、国際PD学会のガイドライン;Perit Dial Int 2014 34 494)。


1. 効果


 PDによるAKI治療には、よいイメージをお持ちでない方も多いだろう。たとえば、マラリア患者と敗血症患者あわせて70例のAKIを対象にPDとHDFを比較したベトナムのRCTは、PD群で有意に死亡が高く早期中止となった(NEJM 2002 347 895)。しかし、このスタディはPD治療が不十分・不適切だったようだ。

 その後、透析量を増やし、プラスチックのカテーテルを使い、バッグ交換もサイクラーにしたスタディがいくつも行われた。その結果、2017年のCochraneレビューは「総死亡と腎機能回復にほとんど有意差なし(確証は中等度)」と結論している(doi:10.1002/14651858.CD011457.pub2)。

 とはいえ、AKI治療にPDが選ばれる最大の理由は、コストの安さと「過酷な環境(austere environment)」での威力だ。極論すれば、水道も電気も必要ない。またCOVID19パンデミックにおいては、医療スタッフと患者の接触を減らせるとも期待されている。
 

2. 禁忌


 PDによるAKI治療の絶対・相対禁忌には以下が挙げられる。

腹膜への侵襲
腹膜炎
腸管の障害
重度の高カリウム血症
薬物中毒
重度の呼吸不全・肺水腫
腹水・腹腔内圧上昇
腹臥位
ショック肝・乳酸アシドーシス
(重炭酸イオンのPD液なら可)

 懸念を挙げると、「重度の高カリウム血症」や「薬物中毒」は溶質除去の速度と量。「重度の呼吸不全・肺水腫」は、除水速度・量と、横隔膜の運動制限。「腹腔内圧上昇」は腹腔コンパートメント症候群などだ。
 
 COVID19のAKIで最も気になるのは「重度呼吸不全・肺水腫」だろう。PD液を2L貯留しても肺コンプライアンスなどの指標に有意差のなかったスタディはあるが(Clin Exp Nephrol 2018 22 1420、ただし肺炎は全患者の約20%)、呼吸管理に注意が必要だ。またCOVID19肺炎で患者を腹臥位にした場合も、PDは現実的ではないだろう。


3. アクセス


 AKIのPDといえば、昔は金属棒のようなカテーテルが使われていた(読者の中に、使っていた方もおられるかもしれない)。しかし現在は、AKIでも末期腎不全と同様に、柔らかくカフが2個ついたカテーテルが用いられる。

 ただ、緊急性と患者移動の困難さから、挿入はベッドサイドが多いようだ。腹腔に穿刺した針からガイドワイヤーを留置し、ダイレイターの外筒を「剥きながら(peeling-away)」カテーテルを挿入する。腸管損傷リスクもあるので、透視・エコーは使いたい(使ったテキサスの動画、使わないタイの動画も参照)。

 挿入後すぐに使うので、PD液リークはリスクだ。これについては、結局「うまい人が慣れた方法で(local expertise and operator experience)」やることが大切とされ、施設や報告により発症率はさまざまだ。傍正中切開・タバコ縫合(腹膜・腹直筋後鞘・前鞘の3箇所にかける方法はSemin Dial 2003 4 346)・少量PD液から開始するなどの工夫もある。


4. 処方


 AKI患者で異化が亢進していることや、PDはHDに比べ溶質除去が甘くなりがちなことから、透析量は末期腎不全より多い。PDの有効性を示したブラジルのランドマークRCT(Perit Dial Int 2007 27 277)は1日Kt/V 0.6(weekly Kt/V 4.2、こちらも参照)だったが、現在のガイドラインは1日Kt/V 0.3(weekly Kt/V 2.1)を推奨している。

 以下に、前掲Kidney360論文のサンプルを紹介する(ICU患者、APD、体重70kg以下の場合)。



 
 交換回数が多いので大量のアルブミンが喪失され、その量は前掲ブラジルRCTで1日21グラムもあった。信じられないことに低アルブミン血症の有意差は見られなかったが、別のブラジルRCTでは蛋白バランスと死亡率に負の相関がみられ(CJASN 2012 7 887)、ISPDガイドラインは蛋白摂取を1.2g/kg/dにするなどの工夫を推奨している。


★ ☆ ★


 いかがであろうか?正直、AKIにPDと言われても困るのではないだろうか。モダリティーとしてHD・CVVHDFより優れている点はほとんどないし、なにより経験がなさすぎる(論文はfamiliarityの重要性を強調するが、そんなものがある人はまずいないだろう)。

 しかし、とにかくやらないとCOVID19患者をAKIで死亡させてしまうような限界状況が、現に起きている地域がある。そしてその時、「知りません」では済まされないからこそ、急遽この論文がでたのだろう。

 そうした状況にならないことを願うのはもちろんだが、今からAKIに限らずPD一般に少しでもfamiliarityを持っておくことに、損はないだろう。





2020/04/27

膜性腎症とEXT1・EXT2・NELL1

 「抗原」や「抗体」がもはや日常語彙となっている昨今だが、膜性腎症では標的抗原候補が次々に見つかっている。PLA2R、THSD7Aに続き、昨年はEXT1・EXT2(JASN 2019 30 1123)、今年はNELL1(KI 2020 97 163)が発表された。

 いずれも、レーザー・マイクロディセクションとマス・スペクトロメトリーをもつメイヨーのグループから発表された。このグループは、同じ方法で腎に沈着するアミロイドの分析にも成功している(KI 2012 82 226)。打出の小槌みたいだ。


出典はこちら


 EXT1とEXT2は、PLA2R陰性の膜性腎症9%(21/224例)で検出された。PLA2R陽性の膜性腎症を含むコントロール群ではされなかった。検出例の多くは抗核抗体やC1q染色が陽性で、じっさいV型のループス腎炎標本のじつに44%(8/18例)でEXT1・EXT2が検出された(III/IVとVの混合型ではされず;SN/RPS分類はこちらも参照)。

 EXT1・EXT2は糸球体基底膜のヘパリン硫酸の合成に関与するといわれるが、詳細な機能はまだわかっていない。実はこれをノックアウトしてもネフローゼにはならないし、検体がEXT・EXT2陽性の症例でも血中に抗EXT1・EXT2抗体は検出されなかった(沈着IgGのなかでは、IgG1が優位だった)。

 それでも、原発性膜性腎症に「かくれV型ループス腎炎」がいる可能性が示されたし、V型ループス腎炎に固有の病態を解明するおおきな第一歩だ。そして病態理解がすすめば、疾患の再分類や治療の個別化にもつながるかもしれない。


自己免疫疾患で多い進歩の流れ


 つづいてのNELL-1は、PLA2R陰性例の23%(29/126例)に検出され、PLA2R陽性例を含むコントロールでは検出されなかった。沈着IgGはIgG1優位で、症例の血中には抗NELL-1抗体が検出された。なお欧州コホートでは5例中4例に悪性腫瘍がみつかったが、メイヨーの29例にはみられず、相関は一定していない。

 NELL-1(下図は前掲論文)は骨芽細胞での働きが主に研究されてきた分子で、腎での働きは不明な部分が多い。しかし腎細胞も細胞外基質として発現できることは知られており(Mol Biotechnol 2012 51 58)、基底膜や足細胞のスリットなどで大事な役割を果たしているのかもしれない。


TSPN:トロンボスポンディン1様N末端
CC:コイルドコイル領域
VWC:vVFタイプC領域
E:EGF様領域


 ここまでくるとまるで(抗ARS、Mi2、MDA5、TIF1抗体を測る)皮膚筋炎のようだ。今後、原発性膜性腎症が「クワッド・ネガティブ」などと表現されるようになるかは、まだ分からない。しかし、それに近い未来が待っているのかもしれない。抗原の種類は、変わるかもしれないが(日本人に多い未知の標的抗原だって、見つかるかもしれない)。
 



こちらを元に作成


 [2021年4月16日追記]中国の原発性膜性腎症コホート832人について、PLA2R・THSD7A・NELL1抗原の糸球体免疫染色と、これらの抗原にたいする血中抗体を調べた結果がCJASNに発表された(doi:10.2215/CJN.11860720)。

 まず、PLA2R陽性だったのは778人(94%)。PLA2R陰性・THSD7A陽性だったのは11人(1%)。PLA2R陰性・THSD7A陰性・NELL1陽性だったのは15人(2%)。そして、PLA2R・THSD7A・NELL1陰性のトリプル・ネガティブは28人(3%)だった。

 NELL1のみ陽性の患者15人は、女性が11人(78%)で、他群の4割程度より多かった。平均年齢・Alb値・eGFRなどは他群と同程度。治療は4人がステロイド+シクロスポリン、4人がシクロスポリン単剤、2人がステロイド+シクロフォスファミドで、4人が完全寛解・11人が不完全寛解であった。

 注目すべきはIgGサブクラスで、IgG1陽性は73%・IgG4陽性は80%であったが、IgG4が最も強陽性なのは6%にすぎなかった。また、原発性膜性腎症にはみられないとされるIgG2が20%で陽性、みられることもあるIgG3はまったくみられなかった。

 こうした結果をうけて、著者らはNELL1陽性膜性腎症が二次性の可能性(ただし全例腫瘍はみられなかった)、エディトリアルはPLA2Rと別の病態生理(補体経路など)を推察している。

 また、血中抗体が病勢に使えるPLA2Rと異なり、NELL1陽性膜性腎症15人のうち血中の抗NELL抗体が陽性だったのは2人だった。エディトリアルは抗体測定方法の問題や、症例のおおくが免疫抑制を受けていた影響などを推察している。



 

 
 
 

2020/04/24

PDとKt/V

 「r>g」といえば、フランスの経済学者トマ・ピケティ著『21世紀の資本(2014年、写真)』のコアとなる数式だ。資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回ることで経済格差が拡大するという意味で、(賛否はあれども)分かりやすい。




 一方、「Kt/V」といえば透析における小分子除去の指標であるが、こちらはとっつきにくい読者もおられるのではないだろうか。そこで今回、腹膜透析のKt/Vについて、式の説明と意義をまとめる。


1. 式の説明


 まず「Kt/V」とは、「K×t÷V」のことである(tは、Kの添え字などではない)。Kはクリアランス、PDではtはタイム(時間)、Vはボリューム(分布容積)。そしてPDでは尿素の1週間あたりのKt/Vを測り(Weekly Kt/V urea)、尿素は体内の水分すべてに分布するので、式は:

尿素クリアランス(L/日)×7(日)÷体内水分量(L)

 となる。体内水分量は「体重×0.58」が簡便であるが、肥満例などでは複雑なWatsonの式なども用いられる。そして、ここがポイントなのだが、尿素クリアランスは残腎機能によるものとPDによるものを足し合わせる。

 前者は、蓄尿して「1日の尿中尿素排泄量(U×V)÷血中尿素濃度(P)」を測る(クレアチニンクリアランスよりは低く見積もられる、こちらも参照)。そして後者は、PD排液を溜めて「1日の総PD排液中の尿素量(PD液中尿素濃度×1日PD排液量)÷血中尿素濃度(P)」を測る。

 式の要素はわかったとして、実際の演算はどうだろうか。こちらの例をみてみよう。

体内水分量 40L(体重70kg)
BUN 50mg/dl
尿UN 150mg/dl
尿量 1L/日
PD排液尿素濃度 40mg/dl
PD排液量 9L/日

 では、どうだろうか。冒頭のピケティの式ほどではないが、わりと単純な演算ではないだろうか(Steven Guest著"Handbook of Peritoneal Dialysis"に拠る)。


注1:濃度どうしを先に割って、単位を相殺しています
注2:体表面積で補正していません


2. 意義

 
 Kt/Vはどれくらいがよいかについては、紆余曲折を経て以下が言われている。

①低すぎてはいけない
②PDによるKt/Vは、高いほどよいわけではない(1.7以上にしても生命予後はかわらない)
③残腎機能のKt/Vは、高いほうがよい

 まず、1996年のCANUSAスタディ(JASN 1996 7 198)により「総Kt/Vが0.1上がるごと総死亡の相対リスクが5%下がる」ことが示された。しかし、2001年に同スタディを再検証(JASN 2001 12 2158)したところ、相関は残腎機能のGFRにのみ見られ、PDによるクリアランスには見られなかった。

 さらに2002年にはADEMEXスタディ(JASN 2002 13 1307)により、PD液の量と交換回数を増やしてKt/Vを約1.6から2.1にしても、死亡リスクに有意差はみられなかった。また2003年には香港のスタディ(KI 2003 64 649)がでて、PD処方によりKt/Vを1.5-1.7、1.7-2.0、2.0以上にしても死亡リスクに有意差は見られなかった。

 これらを受けて、Kt/Vのマジックナンバーは「1.7」である。しかしその位置づけは下がり、現在国際PD学会の推奨は以下のようになっている(doi:10.1177/0896860819895364、ただしエビデンスレベルは2Cないし2D)。

  • Weekly Kt/V(やweekly CCr)を目標以上に保つ必要性やメリットについて、質の高いエビデンスはない。
  • Weekly Kt/Vを1.7以上に増やすことで尿毒症症状が改善することはあるだろうが、QOLやPD予後(technique survival)、生命予後についてはエビデンスレベルは低い。
  • Weekly Kt/Vを1.7以上にしても症状が改善しないなら、他の原因を考慮すべきだ。

 日本も、そうでないという日本発の高いエビデンスがあるわけではないので、これをほぼ踏襲している(日本透析学会編『腹膜透析ガイドライン2019』):

PDの透析量は、総weekly Kt/Vを1.7以上が現実的な値として推奨されているが、この値だけを変化させても、生命予後は変わらない。


 こうしてみると、血液透析も腹膜透析も「透析の限界」にぶつかっている感は否めない。患者さんの残腎機能を守りながらQOLと生存改善に努めるのはもちろんだが、より腎臓に近い腎代替療法の進歩が待たれる。そしてそれは、再生腎だけとは限らないだろう。







2020/04/21

PDの除水不足

 腹膜透析患者さんが血液透析に移行する理由として、腹膜炎やカテーテルの不具合と並び挙げられる、「透析不足」。米国の統計では、HD移行患者の18%もあった(図はKI 2006 70 S21-S26)。




 透析不足には溶質除去不足と除水不足がある。しかし、前者にKt/VやWeekly CCrなどの指標があるのに対して、後者は曖昧な印象の読者も多いかもしれない。そこで以下に、腹膜透析の除水不全(PD ultrafiltration failure)について、定義・原因・検査・治療をまとめる。


1. 定義


 除水が問題になるのは、外来で診察するたびに体重や浮腫が増加してくるような場合だ。しかし、そうした際には塩分・水分摂取制限が不十分だったり、自尿が減ったりしているだけで、UF量じたいは減っていないことも多い。

 それに対して、真の除水不全は「グルコース4.25%のPD液を4時間貯留したUF量が0.4L未満」なことを言う(Blood Purif 2015 39 70)。そして、この条件でも引けない場合には、下記のように腹膜性能に問題があることが多い。


2. 原因


 前掲レビューは主な原因を4つに分類している。


①有効な腹膜面積の増加・・腹膜の血管新生亢進などでPD液中のグルコースが速やかに体内に吸収され、浸透圧差がなくなってしまう。PET検査でいう「ハイ・トランスポーター」にあたる(こちらも参照)。

 こうした腹膜変化の原因には糖や糖代謝産物への曝露のほか、PD液の酸性pHもあるとされ、現在ではPD液のpHは中性が一般的だ。

 予防には血管新生を抑制するACE阻害薬やARBが示唆され(ACE阻害薬の報告はNDT 2009 24 272)、治療には腹膜を休めること(4週休んだ報告はAdv Perit Dial 1993 9 56)で腹膜機能が回復したという報告があるようだ。


②グルコースによるコンダクタンスの低下・・グルコースによる除水の約半分は、内皮細胞のAQP1からH2O分子が移動して行われる(図はKI 2014 85 750)が、浸透圧差にもかかわらずH2Oの「抜けが悪い」こと。


AQP:アクアポリン
SP:スモール・ポア、LP:ラージ・ポア


 「抜けの悪さ」の原因はAQP1の機能不全(数は変わらなかったという報告はAJKD 1999 33 383)が通説であったが、現在は腹膜の血管新生や線維化などが主因と考えられているようだ(JASN 2010 21 1077)。

 抜けの指標には、貯留60分後のPD液Na濃度がある。AQP1から水が抜けてもNa分子は抜けない(ふるいにかけられるようなもので、Na sievingと呼ばれる)ので、貯留初期にはPDのNa濃度が下がる(図はKI 2000 57 1704)。抜けが悪いと、下がりにくい。


下2つの線がグルコースPD液
(上2つは、Na sievingのないイコデキストラン液)


 治療にはステロイドの有効性が確認されているが、この目的で投与されることはない(腎移植でステロイドを受けたPD患者の報告はNDT 2011 26 4142)。AQP1を開ける新薬でフロセミド誘導体のAqF026は、動物実験で効果が確認されている(JASN 2013 24 1045)。

 


③有効な腹膜面積の減少・・腹膜が線維化して除水ができなくなること。多くの場合、溶質除去もできなくなる。その最終形態であるEPSや、そのリスクとなりうる腹膜炎については、過去の投稿も参照されたい(EPSはこちら、腹膜炎はこちら)。


④PD液喪失速度の増加・・腹膜からPD液が「吸われて」しまうこと。従来はリンパ吸収速度(lymphatic absorption rate)と呼ばれていたが、現在ではリンパ管からの吸収は多くても全体の3割程度とわかっている(Contrib Nephrol 2006 150 28)。

 「吸われる」速度の測定は困難だ(アイソトープで標識したアルブミンを用いる)。しかし、リンパ管吸収が亢進するとイコデキストリン分子も吸収されてしまうので、イコデキストリンPD液でも除水できない時にはこの病態も考えたい。


3. 検査と治療


 真の除水不全をうたがった場合、定義に従えば4.25%PD液による除水量測定が必要になるが、行う施設は少ない。海外では、PETを4.25%PD液で行い、60分後のPD液Na濃度も測る施設もあるようだ(4.25%PD液が2.5%PD液と遜色なかった報告は、Perit Dial Int 2002 22 365)。

 しかし、真の除水不全だった場合にできることは、残念ながら余り多くない。原因①なら、PD液の糖濃度を増やしたり、貯留時間を短くしたりしてもよいだろう。しかし、血糖コントロールの悪化や、Na sievingによる高Na血症・口渇にも注意が必要だ。

 原因②ならば、除水にアクアポリンを介しないイコデキストリンPD液が考慮されるだろう。しかし、原因③や④も合併していれば、イコデキストリンPD液でも除水しにくいだろう。そうなると、やはりPDだけでは限界・・ということになる。

 しかし、冒頭で述べたように、臨床では真の除水不全よりも、塩分摂取・利尿薬アドヒアランス・残腎機能などによる浮腫や体重増加のほうがよほど多い。「体重増加→除水不足→HD」と最初から決めつけずに、これらを確認して介入することが大切だ。



上善如水
(老子)


2020/04/20

少し時代に乗って~COVID-19と腎臓 Part4~

今回は少しCOVID-19の腎病理の話に触れていきたいと思う。
主には中国からのKidney internationalの報告をまとめたいと思う。

まず、この報告ではCOVID-19の病理解剖26例を検討している
(死亡率に関しては、国ごとにも異なるが、0.3-10%程度である)。
■患者は平均69歳で、男性19人、女性7人。
■死亡は全例呼吸不全で、7症例が多臓器不全を併発(死亡時点での腎不全はわかっていないものも多い。)
病理所見としては
 ・全例で急性尿細管障害・壊死(ATI/N)が認められた(9症例は重度であった)。←これは以前の報告でも同様であった。
 ・2症例は炎症浸潤や細菌などの所見もあり、腎盂腎炎を認めた
 ・3症例に糸球体血栓症が認められた。
 ・全例に高血圧に伴う血管変化が見られた(18症例は中等度〜重度であった)。
 ・免疫複合体沈着は1症例のIgA腎症を除いては明らかなものはなかった。


上の表が26名の患者さんの左から光学顕微鏡所見、電子顕微鏡所見、蛍光抗体検査所見になっている。興味深いのは、全例にATI/Nが認められていること、年齢平均からも当然かもしれないが、動脈硬化がある症例が全例であるということである。

続いての上表が患者の採血結果や尿所見や既往歴になる。
・得られていない情報もあるがCrが正常な患者さん(単位がμmol/Lなので、mg/dlにするには88.4で割ればいい)も多い(実際に報告でAKIの割合は感染者の0.9-29%と幅広い)。
・既往歴としては、基礎疾患をもっている人が多い。
・尿所見に関しては得られているケースは少ないが、得られている中ではかなりの割合で尿異常所見をきたしている可能性がある。


では、実際の画像所見を見ていこう。


上記は光学顕微鏡所見になる。
一番上段のa,bでは近位尿細管に注目している。aでは近位尿細管のBrush borderの脱落を認めておりATI/Nの所見と判断できる。bでは、尿細管細胞の空胞化(vacuolization)を認める。これは、ATI/Nの際にも認めるが、これらの症例の場合には重症症例に対するマンニトールや免疫グロブリン製剤の投与に伴う二次性の変化が考えられる。
c,dでは炎症細胞浸潤を見ている。cでは尿細管にdでは血管への浸潤を示している。
eでは尿潜血陽性の4症例に見られた尿細管上皮内のhemodsiderinの沈着を見ている。
fでは、横紋筋融解症に伴うものと考えられるpigmented castが認められる。
gでは、3症例に認められた糸球体内血栓を示している。
hでは、7症例で、pseudocrescent(ボーマン嚢スペースに血漿の滲出物) の所見を認めている。

*ATI/Nは多種の原因で起こりうることには注意する必要がある。これは、COVID-19の別の報告でも言われている。
*COVID-19は血栓リスクも増加させ、今回の採血検査データでもあったようにD-dimerの上昇を認めることも一つの特徴である。
*また、別の報告になるが、黒人においてCOVID-19感染でAPOL1 nephropathyの増悪を起こしCollapsing glomerulopathyを起こすことが示唆されている(Toll-like receptorを介したりや樹状細胞の活性化によって全身の炎症反応を惹起し、これがAPOL1 nephropathyのsecond hitになっていると考えられている)。


続いて電顕所見を示す。
a-dはVirion(細胞外のウイルス本体)であり、大きさは65-136nmで、周囲に20-25nmの独特のspikeを認める。aは近位尿細管、bは遠位尿細管、c,dはpodocyteの部分にあることをしめしている。
TMAで認めるようなFibrin factoidsや血小板の集合体はCOVID-19の症例では認められていない。


最後は蛍光染色であるが、これで注目するのはACE2の染色である。基本的にはACE2は近位尿細管に発現しているが、COVID-19感染では過剰発現をしている。発現の主体はATIが生じる近位尿細管の部分だが、ボーマン嚢上皮やPodocyteにも染色されていた。dはCOVID-19の核蛋白に対する染色を見ているが、尿細管上皮に発現が見られていた。


まだ報告症例が26例と少ないというところ、全症例のデータが完全ではないところ、コントロールがないところなどはlimitationとしては挙げられるが、本邦でも症例は増加しており、非常に参考になるのではないだろうか?
個人的には、全身状態が悪化している症例に対して、通常通りだが過剰な輸液は避けつつ全身管理を行うことは非常に重要だなと改めて感じた。

少しずつみんながコロナに慣れてきて、甘くなるときが本当に危険である。このような腎障害は起こさないほうがベストである!


2020/04/17

PD乳び排液をみたら

 末期腎不全で腹膜透析(CAPD、こちらも参照)をうける41歳女性。1日前から透析液が白濁したため、救急外来を受診。




Q1:診断は?

 
 上記は台湾からの症例報告(KI 2009 75 868)であるが、排液の見た目はまさに「乳び」。排液検査でトリグリセリド濃度が251mg/dlとたかく、細胞・細菌はみられず、診断は容易だろう。


Q2:原因は?

 
 リンパ還流障害と考えれば、腹腔内の悪性腫瘍(リンパ腫など)、炎症(膵炎・サルコイドーシス・SLEなど)、外傷(PDカテーテル挿入など)などがまず考慮されるだろう(Semin Dial 2001 14 37、SLEの報告はJ Rheum 2002 29 1330)。
 
 また、リンパ管は左右の静脈角(内頚静脈・鎖骨下静脈の合流点)に接続するので、上大静脈の圧が高まるSVC症候群や拡張型心筋症などでも乳び排液の報告はあるようだ(SVC症候群のはNDT 2000 15 1455)。


出典はこちら


 こうして解剖生理学的に鑑別診断を編み出すのも大切だが、臨床医としては現病歴からもアプローチしたい。もしかしたら、前日脂肪の多い食事を食べすぎたのかもしれない(本例ほど真っ白にはならないだろうが、混濁することはある)。

 ・・すると本例は発症2日前、あらたにカルシウム拮抗薬(lercarnidipine)が処方されていた。


 また、カルシウム拮抗薬(こちらも参照)?

 
 ・・じつは、カルシウム拮抗薬は乳びPD排液を起こす。機序は不詳だが、どの報告も、①薬を中止して軽快し、②再開してふたたび白濁することで証明している。ジヒドロピリジン系の報告がほとんどだが、2012年にはインドからジルチアゼムによる症例が報告された(Perit Dial Int 2012 32 110)。

 
 日本で最初に報告されたのでご存知の方も多いのかもしれないが(Clin Nephrol 1993 40 114)、腹膜透析診療における緊急事態のひとつである「混濁排液」の原因として、カルシウム拮抗薬の処方歴はぜひ押さえておきたい。
 
 



[2020年8月21日追記]今月の日本内科学会雑誌に、「リピオドールリンパ管造影ならびにオクトレオチドが有効であった非外傷性乳糜胸水の1例」が報告された(日内会誌 2020 109 1585)。肝硬変と慢性腎不全を背景にした症例で、タイトル治療が有効だったとのこと。お手元に雑誌が届いた方は、ぜひご覧いただきたい。

 ・・さらに、「乳び尿」についても言及したい。聞いたことない方もおられるかもしれないが、実在する病態だ(写真はBMJ Case Reportsより、doi:10.1136/bcr.01.2012.5635)。




 報告はインドの30代男性。尿TG濃度は167mg/dl(血清は84mg/dl)。6.5g/dの蛋白尿と2.2g/dlの低アルブミン血症をともなっていたが、腎生検では異常をみとめなかった。しかし、患者はフィラリア感染地域に居住しており、尿からはバンクロフト糸状虫が観察された。

 フィラリアに典型的な下肢リンパ管異常はみられなかったが、感染にともなうものと考えられた。抗寄生虫薬ジエチルカルバマジンを投与されたが改善なく、結局(乳び尿のでてくる)右尿管側にポビドンヨードを注入して消失した。

 日本では、バンクロフト糸状虫もマレー糸状虫も根絶され、新たな感染の報告はないそうだ。しかし、乳び尿は他にも感染・悪性腫瘍・外傷などさまざまな原因で起こりうるそうだ(前掲BMJ Case Reports論文より。表自体は、沖縄からの報告論文を引用している;Lymphology 1990 23 164)。いつか、会うこともあるかもしれない。







2020/04/10

PDことはじめ

 新年度、読者の中には、初めて腹膜透析(PD)患者さんを診療することになった方もおられるかもしれない。しかし、PDのモードはアルファベットの羅列なので、それだけみても何が何だか分からない(写真は、アルファベットスープ)。




 そこで、順に説明を試みる。


1. CAPD(持続歩行腹膜透析、continuous ambulatory peritoneal dialysis)・・何の略かを知っても本質がわかりにくいが、結局これは「透析液の注液・排液をすべて手動でやる」ということである。手動とは、「患者が自分で、起きている間に」行われる。




 注液・排液操作を自分でするのは大変なようだが、全自動に比べて時間の融通が効く面もある。また非常時に備える意味でも、どの患者も手動操作ができることが望ましい(導入時はCAPDから始める)。
 
2. APD(自動腹膜透析、automated peritoneal dialysis)・・自動で注液・排液をするサイクラーを用いる場合は、すべてこれになる。その中に、NPD・CCPD・TPDなどの各種モードがある。

 A. NPD(夜間腹膜透析、nocturnal peritoneal dialysis)・・注液・排液を夜間に行うモード。朝に最後の排液をしたら、注液はしないので、日中は「からっぽ」。身体が軽いので、仕事や作業はしやすい。



 
 B. CCPD(持続サイクル腹膜透析、continuous cyclic peritoneal dialysis)・・朝に最後の排液をした後、日中も透析液をいれておくこと。夜間だけでは透析効率や除水が不十分になった場合におこなわれる。

 起きてから寝るまでずっといれておく場合と、日中に一度(手動で)排液・注液する場合があり、それぞれ「CCPD I」「CCPD II」と呼ばれることもある。






 また、入れておく透析液がBaxter社のエクストラニール®(イコデキストラン7.5%)の場合には、エクストラのEを取って「ECPD」とも呼ばれる。同社は後述するようにPDのパイオニアなので、このような「特権」も許されるのだろう。


 C. TPD(タイダル腹膜透析)・・タイダルといえば「潮の満ち引き」だが、これは自動の排液時に少し透析液を残しておくこと。腹腔内がからっぽにならないので、排液困難とそれによるアラーム(で夜中に起こされる苦しみ)を減らす利点がある。




 お役に立てれば幸いである。


 最後に、「どうしても、CAPDの命名が納得行かない!」と思った方のために、以下も紹介する(参考文献:Steven Guest先生著、"Handbook of Peritoneal Dialysis")。

 CAPDは、1977年に米国のジャック・モンクリフ(Jack Moncrief)先生、ロバート・ポポヴィッチ(Robert Popovich)博士、カール・ノルフ(Karl Nolph)先生が命名した(Ann Intern Med. 1978 88 449)。

 なぜ彼らが「持続・歩行」のPDと命名したかというと、それまでは持続も歩行もできなかったからだ。

 留置カテーテルが進化するまで、PDは血液透析の単回穿刺のように、医師が透析ごとカテーテルを挿入して間欠的に行っていた。また、透析液のボトル・カテーテルとの結合なども未熟で、患者が自分で交換などできなかった。

 そんな1970年頃、モンクリフ先生はテキサス州オースティンで血液透析を主に行っていた。しかしある患者(Peter Pilcherさんと公表されている)の内シャントが血栓閉塞し、7度のバスキュラーアクセス再作成も失敗した。

 そこで先生は患者に、当時(間欠的に院内で行う)PDを行っていたダラスに行くよう薦めたが、患者は拒否。このままでは患者さんが死んでしまうと危惧した先生は、テキサス州立大学オースティン校で腹膜生理学などを研究していたポポビッチ博士に連絡する。

 そして彼らがカテーテル・チュービング・透析液の貯留時間と交換回数などを工夫して開発したのが、CAPDシステムだった。これにより患者は自宅で自分で注・排液を行い、貯留中は歩行し、夜間も貯留しておくことで持続透析することが可能になった(患者はのちに腎移植を受けた)。

 その後研究と治験を重ね、ミズーリ大学のカール・ノルフ先生ともコラボし、1977年11月の米国腎臓学会に成果を発表。1978年にFDAの認可がおり、1979年にBaxter社が商品化して上市に至った。


 一人の患者との出会いが医師の人生を変え、世界を変えたわけだ。患者を診療できるだけありがたい今日この頃、一期一会で臨みたいものである。


出典はこちら





2020/04/08

微小変化型ネフローゼのAKI

 ステロイドが著効することが多く、おそらくステロイドでなくても治療できるであろう(こちらも参照)微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change disease, MCD)。しかし、起こると厄介なのがAKIだ。

 AKIは成人MCDの約30%に診られるとされ(日本のデータでよく引用されるのはNephrology Carlton 2015 21 887)、AKIのある群はない群に比べて予後が悪く、寛解にいたるまでの期間も長い。

 なぜMCDはAKIになりやすいのか?よく聴かれるのは、糸球体のお話だ。

 たとえば、内皮側とボウマン嚢側の膠質浸透圧差が低下すれば、糸球体のろ過圧が低下してGFRは下がる。また、足突起のeffacementによってスリット頻度が減れば、基底膜の「抜け」が悪くなるとも言われる(図は、JCI 1994 94 1187を改変)。

 


 しかしAKIとなると、話は糸球体だけで終らない。そこで、「腎前性」「腎後性」ならぬ、「糸球体前」と「糸球体後」にわけて考えてみよう。

 「糸球体前」には、血行動態や血管病変が挙げられる。血行動態に影響するリスク因子としては、利尿薬使用・NSAIDs使用・造影剤使用などが挙げられる。また、血管病変を反映してか、高齢者や高血圧既往のある群ではAKIのリスクが高い。腎生検で動脈硝子化などが診られる群でも同様だ。

 なお、低Alb血症で膠質浸透圧が保てず有効動脈血液流量が減ることでAKIや代償的なRAA系の亢進・Na再吸収の亢進が起きる、という「アンダーフィリング」仮説は、なんとなく説得力があるものの、現在では疑問視されている(KI 2018 94 861)。

 その理由として、ネフローゼでは血管内だけでなく間質の膠質浸透圧もさがる(Nephron 1985 40 391)、リンパ潅流が亢進して結果的に血管内容量が維持される、AKI合併例は非合併例より血圧が高い、ステロイド使用後はAlb値が回復するより早く尿が出始める、などが挙げられている。

 いっぽう「糸球体後」とは、主に尿細管のことである。

 「微小変化」という呼称に反して、MCDの尿細管の変化は実に多彩だ。尿細管細胞内の空胞・硝子滴形成、微絨毛の消失、尿細管内腔の円柱形成、糸球体の肥大と増殖(Nephrol Dial Transplant 1995 10 2212)などは、臨床的にAKIのない例にも観察される。

 さらに、AKIのMCD患者では、多くの場合に急性尿細管壊死(ATN)が観察される。詳しく観察すると、病変は糸球体に近い近位尿細管に目立つようだ(図はBMC Nephrol 2017 18 339)。


出典はこちら
左は尿細管傷害マーカーvimentinの染色
右は細胞増殖マーカーKi67の染色
gは糸球体、+は遠位尿細管

 近位尿細管には糸球体から漏れてきたアルブミンを再吸収する働きがあるので(こちらも参照)、大量の蛋白尿が糸球体から流れてくると疲弊してしまうのかもしれない。疫学的にも、大量の蛋白尿と著明な低Alb血症はAKIのリスク因子だ。
 
 また近年、ATN合併例は非合併例にくらべ、著明にエンドセリン1の発現が亢進している(血管・糸球体・尿細管)という報告がでた(AJKD 2005 45 818)。負荷のかかった尿細管に、エンドセリン1による虚血が重なることで、AKIになりやすいのかもしれない。

 なお、尿細管が間質浮腫によりつぶれる「腎浮腫(nephrosarca)」仮説も、そのような像が観察されることは確かにあるようだが、観察されないことも多く、どこまでAKIに関与しているかは疑問視されている(KI 2018 94 861)。

 まとめると、以下の表のようになる(上段は病態、下段はリスク因子)。


他に考慮すべきこと:
じつは別のネフローゼだった、腎静脈血栓、薬剤性腎炎など

 
 現状は、前掲KI論文著者が言うように「ステロイドが効くまで時間を稼ぐ」しかないが、AKIを合併したMCDは寛解までに時間がかかり、稀だが透析依存になることもある。今後「尿細管保護薬」などの開発が進み、尿細管のケアが充実すればなと思う。



出典はこちら



2020/04/07

少し時代に乗って~COVID-19と腎臓 Part3~

日本でもCOVID-19による影響が大きくなっている。
この記事を半年後に読んだ時にこんな大変な時があったねと振り返ることができるように僕らもがんばっていかなくてはならない。

今日は腎移植とCOVID-19について記載していこうと思う。

まずは日本の腎移植においては腎移植学会から提言が出ている。
1. 腎移植は待機可能であることより、生体、脳死、心停止の腎移植は状況が好転するまで停止することが望ましい。
2. 待機困難な例(脱感作処置などが進行中、代替療法が困難、緊急例等)については、可及的にドナー、レシピエントに感染のないことを確認し、かつ感染のリスクを説明したうえで実施する。
 3. 外来移植患者、入院移植患者の感染予防、治療については、各施設でのマニュアルに沿って実施する。 

※腎移植の実施決定は、施設の状況、患者の状況を考慮し、各施設の責任で行う。

日本では施設の判断にもよるが、現状としては移植治療をストップしている施設が多い。


では、ここからは海外のを参考にしながら、少し移植とCOVID-19を前回と同じように質問形式で診ていこうと思う。

COVID-19の症状としては、
・発熱、咳、息切れ、インフルエンザ様症状(筋肉痛、倦怠感など)、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚や味覚の障害
などがある。
移植患者では肺炎に移行しやすいと言われている。


Q:移植患者はウイルス感染のリスクが高いのか?

A:これに関しては、はっきりとしたところまでは分かっていないが、答えはYESである。

まず、健常人と比較して移植患者がCOVID-19感染において重症化するということは証明はされていない。しかし、他ウイルスでは免疫系が低くなっている移植患者では重症化しやすいことが分かっており、おそらくCOVID-19も同様と考えられる。


Q:旅行制限は移植患者では必要か?

A:現在、世界各国でウイルスのPandemicが生じている。なので、基本的には推奨はされない。
もしも行く場合にはCDCのWebsiteから行く場所のCOVID-19の感染がある状況かを確認する必要がある。
基本的にはヘルスメンテナンスを行い、不要不急の旅行を避け、人混みを避けることは非常に重要である。


Q:COVID-19の治療は?

A:これに関しては、以前に記事にした内容を参考にしていただきたい。
その中で移植患者に投与する際に気をつけなくてはいけないことは、
・薬物の相互作用に注意を払う必要がある。HIVの治療薬であるIopinavir/ritonavirに関しては、CYP34Aを阻害することによってカルシニューリン阻害薬やmTOR阻害薬の血中濃度を上昇させうる(下表を参考にしていただきたい)。
・ARBやACE-Iの継続はCOVID-19感染にとって有害であるとも言われているが、現状としてははっきりはしていなく継続は問題ないと考えられている。
・感染のリスクが高い症例では、拒絶のリスクが低ければ、免疫抑制剤の量を減量することが推奨されている。



Q:もし、移植患者が風邪様の症状や呼吸器症状を有する場合のアプローチは?

A:まずは、かかっている移植外来に電話をする。そして、診察が必要な状況であればしっかりとマスクをしてもらって診察を行う。もし、息切れなどの重篤な症状があれば救急車などを呼ぶ(ただ、東京都では救急車での受け入れはかなり制限されている。)。
下記は患者さんがCOVID-19であった場合のフローになる。
・MMFの中止、カルシニューリン阻害薬の減量、高用量ステロイドやステロイド増量の非推奨に関しては移植領域に特筆するべき内容である。



Q:定期外来の移植候補者や移植後の患者に対してのアプローチは?

A:COVID-19の感染と腎臓移植の緊急性を天秤にかけて考える必要がある。移植を延期することで先行的腎移植(PEKT)を希望している人は、叶わなくなってしまうかもしれないが、生体腎移植や緊急性が低い献腎移植は一時的に中止することが推奨されている。
移植後の患者に対しても、基本的には来院に伴う感染リスクを上げてしまうことが考えられるため遠隔診療や状態が安定している人であれば、来院間隔を伸ばすことは推奨される。

Q:もし献腎移植待機患者で、優先順位も高い人がCOVID-19にかかっていたらどうするか?

A:現段階では、COVID-19感染患者が安全に移植ができるかということは分かっていないが、おそらくは良くない結果になることが予想される。
ウイルスの排出期間は正確には分かっていないが、LANCETの報告によると20日間くらいとされている(8-37日)。またPCR検査が少なくとも2回陰性になることが推奨される。

他にも書きたい項目はあるが、またの機会でにしたいと思う。

いちばん大切なのは、これを読んでいただいている医療従事者が感染にかからないことである。
しっかり睡眠をとって、休めるときは休んで日々の診療に取り組もう。決して終わらない戦いはないので、みんなで乗り越えていこう。みんなでキセキを!