2018/12/06

PIVOTAL 前編

 62歳男性、81kg。糖尿病性腎症による末期腎不全のため血液透析をはじめて、4.9年。ヘモグロビン10.6g/dl、EPO32000単位/月(ネスプ®約40mcg/週相当)、フェリチン214mcg/l、TSAT20%。鉄補充はうけていない。

Q:何か問題ありますか?




 日本のガイドライン(透析会誌 2016 49 89)は、ESA投与下でHgbが維持できない患者であっても、「フェリチン100未満」と「TSAT20%未満」のどちらも満たさなければ鉄補充療法は推奨していない(1B)。

 これより緩和された、「フェリチン100未満」と「TSAT20%未満」のどちらかがあれば鉄補充を提案する(ただし鉄利用障害を除く)、というステートメント3.2もある。しかし、これはなんと「作成ワーキンググループ会議にて全会一致ではなく 2/3 以上の合意をもって採択された唯一の記載」だ。




 それくらい、ひとことで言うと(高ESAの害よりも)鉄過剰の害を嫌う。鉄の害とは感染症、酸化ストレス、沈着による臓器障害(要はヘモクロマトーシスのような)、などのことだ。

 それで、鉄含有リン吸着薬も「リンが減って鉄も補充できて一石二鳥!」とはならない(残念ながら鉄が少しは吸収されてしまいます・・・という売り方になる)。「補充時にフェリチンが 300を越えないように」という閾値も、世界で最も厳しい。極論すると、フェリチンが一桁でも、現場は意外とこれはまずい!ということにならない(慢性的な消化管出血の除外などは考慮するにしてもだ)。

 では実際のところ、鉄の害(以前学会ではこんな話もあった)と高ESAの害ではどちらが悪いか?という話は、日本だけでなく世界各国でされている。それで、実際に鉄補充によるESA反応性改善のメリットと、鉄過剰のデメリットをくらべたPIVOTALスタディが英国で組まれた(DOI: 10.1056/NEJMoa1810742、2018年米国腎臓学会でも注目された)。

 冒頭の患者は本スタディの平均的な症例だ。この試験にはフェリチン400未満、TSAT30%未満でESA使用中の血液透析患者が登録された。

 なお、4割が透析カテーテルで、6割が内シャントまたは人工血管で透析されていた。




 平均2.1年のフォロー中、毎月フェリチンとTSATを測り、高用量群では400mg/月のスクロース鉄をフェリチン700、TSAT40%を越えないように打った(Vifor Pharma社のVenofer®を、同社が無償提供)。

 実際の投与量は264mg/月で、フェリチンは650、TSATは28%となった。264mg/月と400より低いのは、最初の数ヶ月で鉄が一気に満たされ、以後は打たなくてよくなったからでもある(下図青線、縦軸はフェリチン)。




 いっぽう低用量群では毎月0-400mgのスクロース鉄をフェリチン200以上、TSAT20%以上を保つように加減して投与した。そして実際の投与量は121mg/月で、フェリチンは200、TSATは20-22%であった。

 それでどうなったか?つづく(写真の新型スーパーあずさを鑑賞するのは、別の「鉄」分補給。いつかできるかもしれないリニア中央新幹線よりずっと遅いが、車窓はなかなか)。