NKF(米国腎臓財団)といえば、AJKD誌、Journal of Renal Nutrition誌などをだしていて、日本からの投稿も多い。また、姉妹誌のACKDは生涯教育向けにひとつのテーマを掘り下げたレビューがまとめられ、ASN(米国腎臓学会)におけるNephSAPのような学習資源だ。どちらも隔月でとどく。
そのNKFは、名前が示すように腎臓病患者の支援団体という性格も強い。それでか、数ヶ月前にニューレターでVanessa Grubbs著“Hundreds of interlaced fingers”という本(写真)が紹介されていた。NephJC(主宰するTopf先生のことはこちらにも触れた)でもSummer Book Club特集されて話題だが、まだ日本語に訳されてはいないようだから読んでみた。
著者は人種間の医療格差をライフワークにする米国の黒人女性医師で、ある委員会で出会った運命の男性ロバートが透析を受けていた(患者として会ったわけではない)。彼女は、彼の生体腎移植ドナーとなり、彼と結婚し、もとは内科医だったが、意を決して30代後半で子供を育てながら腎臓内科フェローシップの研修を受け、腎臓内科医になる。
その物語のなかに、透析についての歴史や説明、ブラッドアクセスについての説明、CKDとその治療についての説明、蛋白尿と精査についての説明、移植についての説明、終末期医療についての説明などが織り込まれている。分かりやすい言葉で、彼女独自(一般内科医、腎臓内科医、ドナー、患者家族)の視点で。もちろん、有色人種としての視点と女性としての視点も強調されている。
たとえば表題の「何百もの組み合わさった指」は足突起のことで、そもそも腎臓生理学に興味のなかった彼女が、腎病理のレクチャを受けた時にその美しさに思わず感動して受けたイメージだ。母親のタコが、いくつもの赤ちゃんタコをその足で抱きしめているような。その指と指は組み合わさって、きつく握られている。
表紙写真のように、その組み合わさった指は彼女と夫の特別な絆をも象徴している。
美しく丸みを帯びた輪郭。難解で複雑。一度にたくさんの仕事をしている。周りを助けようと必死で自分の調子が悪くなっても声を上げない。これらの腎臓の特徴から腎臓は「まるで女性みたい」と思い、腎臓をitではなくherと呼ぶのも、彼女独特の視点で、はっとさせられる。
同時に、よくここまで書いたなと思うほど勇気ある著作だ。透析患者に対して透析機械数が圧倒的に足りなかった頃にシアトルの病院で誰を選ぶかを決めた、いわゆる「神の委員会」はよく知られているだろう。ほかにも人種間の医療格差について彼女の思いと主張がたくさん書かれている。夫のそばにいる、またこのテーマをライフワークとしているだけに切実だ。
透析をどう始めるか、どう終えるかについてのお話も真に迫る。
「腎臓内科医は水分量でもeGFRでも、推定する計算式はたくさん持っているのに、患者の予後については何も知らない」「それゆえ、透析するかは『患者と家族の判断を尊重する』といいつつ、その実は自分が責任を取りたくない」という趣旨の記述と、いまの移植腎が働くなったら(自分と息子を残しても)透析はしないと言い切る夫をまえに無力な自分とのジレンマ。
ほかにも、この本を読まなければ知ることのなかった視点がたくさん得られ、有益な読書だった。論文もいいが、こういう「文系」なテキストも、やっぱり別の部分が養われ成長するのを助けるから読みたいし、機会があればこうして紹介してゆきたい。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2017/09/12
少しアフェレシスと透析について HAの続き
前回、下記の②について話を進めさせていただいた。
①活性炭(DHP-1、ヘモソーバ、ヘモカラム)
②ポリミキシンB固定化吸着剤(トレミキシン)
③ヘキサデシル基固定化セルロースビーズ(リクセル)
今回は、③について触れたいと思う。
リクセルに関しては透析アミロイドーシスが血中のβ2MG(ミクログロブリン)と分かった後に、1996年に本邦での臨床治療に導入された比較的新しい治療である。
透析アミロイドーシスについてはアミロイドが沈着する部位によって異なるが、
・手根管症候群
・破壊性脊椎関節症
・肩関節症
などを生じる。
特に手根管症候群は多く、長期透析患者で見ることが多い。
横手根靭帯や腱鞘滑膜へのアミロイド沈着によって生じ、それらが肥厚し正中神経を圧迫し、手指の疼痛・しびれ・母指球筋麻痺・萎縮を呈する。手指の疼痛は透析中や夜間に増強する傾向が特徴である。
破壊性脊椎関節症は、脊椎関節にアミロイドが沈着することによって脊椎管腔の狭小化・椎体の骨浸食などをC4-6の下部頚椎に生じるものである。これに一致した神経根症状や脊髄圧迫症状が出現する。
この透析アミロイドーシスの予防のために様々な試みがされております。
①活性炭(DHP-1、ヘモソーバ、ヘモカラム)
②ポリミキシンB固定化吸着剤(トレミキシン)
③ヘキサデシル基固定化セルロースビーズ(リクセル)
今回は、③について触れたいと思う。
リクセルに関しては透析アミロイドーシスが血中のβ2MG(ミクログロブリン)と分かった後に、1996年に本邦での臨床治療に導入された比較的新しい治療である。
透析アミロイドーシスについてはアミロイドが沈着する部位によって異なるが、
・手根管症候群
・破壊性脊椎関節症
・肩関節症
などを生じる。
特に手根管症候群は多く、長期透析患者で見ることが多い。
横手根靭帯や腱鞘滑膜へのアミロイド沈着によって生じ、それらが肥厚し正中神経を圧迫し、手指の疼痛・しびれ・母指球筋麻痺・萎縮を呈する。手指の疼痛は透析中や夜間に増強する傾向が特徴である。
破壊性脊椎関節症は、脊椎関節にアミロイドが沈着することによって脊椎管腔の狭小化・椎体の骨浸食などをC4-6の下部頚椎に生じるものである。これに一致した神経根症状や脊髄圧迫症状が出現する。
Journal of clinical neuroscience 2016 volume 30 :155-157 |
現段階では生体適合性の良いハイパフォーマンス膜の使用やoff-line HDFやon-line HDFは通常膜によるHDに比べて予防効果があると報告されている。
今回話題に出すリクセルも、β2MGを除去する吸着療法である。リクセルに関しては、この後に適応について述べるように予防のものではなく、透析アミロイドーシス発症後にしようできるものである。
適応:下記の条件を満たせば1年間の使用が可能となる。その1年後に2.3があれば更に一年使用できる。
関節痛を伴う透析アミロイド症である。1.手術又は生検により、β2-ミクログロブリンによるアミロイド沈着が確認されている。
2.透析歴が10年以上であり、以前に手根管開放術を受けている。
3.画像診断により骨嚢胞像が認められる。
回路:下図で示すようにリクセルは単独ではなく、血液透析と同時に使用する。これは、他の吸着療法とは異なるものである。ダイアライザーの前に接続する。
カネカhomepageより引用 |
2017/09/09
少しアフェレシスと透析について HA の続き
前回から投稿の期間が空いてしまった。
今回は、前回の続きでHA(血液吸着療法)についての話を進めていきたい。
前回、下記の①について話を進めさせていただいた。
①活性炭(DHP-1、ヘモソーバ、ヘモカラム)
②ポリミキシンB固定化吸着剤(トレミキシン)
③ヘキサデシル基固定化セルロースビーズ(リクセル)
今回は、②、③について触れたいと思う。
まず、ポリミキシンB固定化吸着剤についてであるが、イメージしやすいのはPMXという言葉であると思う。
PMXに関しては、まずは一番論議されるのは有用性である。
ここで知っておくべきtrialは4つある。
1) EUPHAS trial(JAMA 2009):イタリア
2) ABDO-MIX trial(Intensive care medicine 2015):フランス
3) EUPHAS2 trial(Annals of intensive care 2016):イタリア
4) EUPHRATES trial(Enrollmentは終了:現段階で論文化未):アメリカ・カナダ
である。
現在の流れとしては、EUPHASやEUPHAS2はpositiveな結果は出たが、ABDOMIXによって死亡率悪化傾向が見られ、EUPHRATESは論文化はまだであるが、2016年のESICMで死亡率なども有意差がないことが示されている。
なので、現時点では推奨度は高くない。
日本からの最近の観察研究(Crit care 2017)で敗血症性ショックにPMXがいいという論文が出ている。ABDO-MIXやEUPHRATESがRCTであり観察研究にどれだけ打ち勝てるかは厳しいところではあるので、PMXは推奨度は低いというのは変わらないであろう。
では、PMXについての構造などを見ていきたいと思う。
PMXはカラムに抗菌物質「ポリミキシンB」がポリスチレン誘導体繊維に共有結合によって固定されているものである。ポリミキシンBにエンドキシンのリピドAがくっつきエンドトキシンを中和するのが原理である(下図)。
・保険の算定は報酬点数より引用すると、下記のようになる。
エンドトキシン選択除去用吸着式血液浄化法は、次のアからウのいずれにも該当する患者に対して行った場合に算定する。
ア)エンドトキシン血症であるもの又はグラム陰性菌感染症が疑われるもの
イ)次の(イ)~(ニ)のうち2項目以上を同時に満たすもの
(イ)体温が38度以上又は36度未満
(ロ)心拍数が90回/分以上
(ハ)呼吸数が20回/分以上又はPaCO2が32㎜Hg未満
(ニ)白血球数が12,000/㎜3以上若しくは4,000/㎜3未満又は桿状核好中球が10%以上
ウ)昇圧剤を必要とする敗血症性ショックであるもの(肝障害が重症化したもの(総ビリルビン10㎎/dL以上かつヘパプラスチンテスト40%以下であるもの)を除く。)
・トレミキシンの種類:下記の3つに分かれる(図参照)。
共通としては、治療時間は2時間。
-PMX-01R 血流:8-12ml/min
-PMX-05R 血流:20-40ml/min
-PMX-20R 血流:80-120ml/min
となる。
プライミング:これが多少めんどくさい。理由としては、充填されれている液が、pH2の強酸であり、生食をたくさん流して洗浄する必要がある。上図の膜サイズにより、洗浄に使う生理食塩水の量は異なり、PMX-20Rでは4L、PMX-05Rでは、2L、PMX-01Rでは、500ml生食で洗浄。その後、抗凝固剤を添加した、生食で洗浄する。
今回は、前回の続きでHA(血液吸着療法)についての話を進めていきたい。
前回、下記の①について話を進めさせていただいた。
①活性炭(DHP-1、ヘモソーバ、ヘモカラム)
②ポリミキシンB固定化吸着剤(トレミキシン)
③ヘキサデシル基固定化セルロースビーズ(リクセル)
今回は、②、③について触れたいと思う。
まず、ポリミキシンB固定化吸着剤についてであるが、イメージしやすいのはPMXという言葉であると思う。
PMXに関しては、まずは一番論議されるのは有用性である。
ここで知っておくべきtrialは4つある。
1) EUPHAS trial(JAMA 2009):イタリア
2) ABDO-MIX trial(Intensive care medicine 2015):フランス
3) EUPHAS2 trial(Annals of intensive care 2016):イタリア
4) EUPHRATES trial(Enrollmentは終了:現段階で論文化未):アメリカ・カナダ
である。
現在の流れとしては、EUPHASやEUPHAS2はpositiveな結果は出たが、ABDOMIXによって死亡率悪化傾向が見られ、EUPHRATESは論文化はまだであるが、2016年のESICMで死亡率なども有意差がないことが示されている。
なので、現時点では推奨度は高くない。
日本からの最近の観察研究(Crit care 2017)で敗血症性ショックにPMXがいいという論文が出ている。ABDO-MIXやEUPHRATESがRCTであり観察研究にどれだけ打ち勝てるかは厳しいところではあるので、PMXは推奨度は低いというのは変わらないであろう。
では、PMXについての構造などを見ていきたいと思う。
PMXはカラムに抗菌物質「ポリミキシンB」がポリスチレン誘導体繊維に共有結合によって固定されているものである。ポリミキシンBにエンドキシンのリピドAがくっつきエンドトキシンを中和するのが原理である(下図)。
東レメディカル トレミキシンカタログより |
エンドトキシン選択除去用吸着式血液浄化法は、次のアからウのいずれにも該当する患者に対して行った場合に算定する。
ア)エンドトキシン血症であるもの又はグラム陰性菌感染症が疑われるもの
イ)次の(イ)~(ニ)のうち2項目以上を同時に満たすもの
(イ)体温が38度以上又は36度未満
(ロ)心拍数が90回/分以上
(ハ)呼吸数が20回/分以上又はPaCO2が32㎜Hg未満
(ニ)白血球数が12,000/㎜3以上若しくは4,000/㎜3未満又は桿状核好中球が10%以上
ウ)昇圧剤を必要とする敗血症性ショックであるもの(肝障害が重症化したもの(総ビリルビン10㎎/dL以上かつヘパプラスチンテスト40%以下であるもの)を除く。)
・トレミキシンの種類:下記の3つに分かれる(図参照)。
共通としては、治療時間は2時間。
-PMX-01R 血流:8-12ml/min
-PMX-05R 血流:20-40ml/min
-PMX-20R 血流:80-120ml/min
となる。
東レメディカルより引用 |
相互作用:麻酔剤、筋弛緩薬、アミノグリコシド系抗生剤との併用で神経筋遮断作用による呼吸抑制が出ることがあるので併用薬については注意する必要がある。
2017/09/01
CB1受容体と学会に入るメリット
今朝のJASN最新論文は、近位尿細管にあるCB1受容体の腎障害における役割という刺激的な内容だった(doi:10.1681/ASN.2016101085)。CB1受容体は内因性カナビノイド受容体のひとつである。カナビノイドといえば脳に働くイメージで、肥満や禁煙治療のターゲットとしてまず注目されたが、腎臓にも働く(以前にもふれた)。炎症を惹起するCB1受容体と抑えるCB2受容体は拮抗しており、炎症をおさえるCB1拮抗薬が糖尿病や糖尿病性腎症で研究中だ。
CB1受容体は食欲だけでなく脂肪代謝じたいにも関係している。では、腎臓のCB1受容体が炎症をおこすのにも脂肪代謝が関わっているのだろうか?CB1受容体は腎臓の足細胞、メサンギウム細胞、そして近位尿細管にあるが、肥満になると近位尿細管に脂肪がたまり、炎症のもとになるらしい(これをlipotoxicityとよぶ)。
近位尿細管のCB1をノックアウトしたマウスでは、肥満にしても野生型のように近位尿細管に脂肪がたまらず、炎症もおさえられ、蛋白尿や腎機能低下などもおこらない。細胞内のメカニズムを詳しく調べると、CB1受容体にスイッチがはいると、近位尿細管細胞内で脂肪酸のβ酸化を促進するシグナル経路(AMPKなど)を抑えるので、脂肪が分解されず貯まってしまうらしい(図は前掲論文より)。
肥満にともなう尿細管障害、というものがどれくらい意義があるのかは、よくわからない。肥満といえば糸球体の障害が有名かと思う。実験動物に脂肪ばかり食べさせないとおこらない現象なのかもしれない。
でも、近位尿細管は最近のホットトピックだと思うし、これからいろいろわかってくる近位尿細管の真相に私はついていきたい。
また、この話には将来性がある。糖尿病性腎症とのかかわりもあるし、腎臓以外でもひろくメタボ世代の健康寿命をのばすかもしれない。CB1受容体は全身にあるはずなので、CB1拮抗薬、ないし、CB2受容体のアゴニストがあれば、他の組織でも脂肪分解ができず炎症や線維化がおこるのを防げるかもしれない。
それで、この論文の注目度を示すAltmetricは公開初日から32ときわめて高い(図)。この論文が紙媒体で届くのは来年だろうが、その前から読めるのだから、やっぱり、米国腎臓内科学会の会員でよかった。
[2019年9月20日追記]末梢CB1拮抗薬のJD5037(こちらにも触れた)が、近位尿細管におけるグルコース輸送体のひとつGLUT2の発現を減少させて、糖尿病性腎症モデルのマウスで腎障害を軽減することが、米国腎臓学会雑誌に報告されていた(JASN 2018 29 434)。
近位尿細管のグルコース輸送体といえばSGLT2が有名だが、GLUT2もある。通常は間質側にあり、(SGLT2などを通じて)尿細管内腔から尿細管細胞に入ってきたグルコースや、尿細管細胞内での糖新生(こちらも参照)でできるグルコースを、間質側に運ぶ役割をしている。
しかし糖尿病では、GLUT2発現が増えるだけでなく、(より多くのグルコースを汲み出すためか)局在が尿細管内腔側にまでひろがる。しかし、CB1受容体をブロックすると、こうした変化が抑制される。細胞内カルシウムイオン濃度の上昇と、それによるホスホリパーゼCβの活性化が抑えられるためだ(図は前掲論文)。
糖尿病性腎症といえば永らくRAA系阻害薬で、日本ではとくにARBであった。今後こうした研究が進めば、現在一世を風靡しているSGLT2阻害薬や、治験中のNrf2アゴニスト(バルドキソロン)などと共に、「CRB(カナビノイド受容体拮抗薬、Cannabinoid Receptor Blocker)」の出番・・となるかもしれない。
CB1受容体は食欲だけでなく脂肪代謝じたいにも関係している。では、腎臓のCB1受容体が炎症をおこすのにも脂肪代謝が関わっているのだろうか?CB1受容体は腎臓の足細胞、メサンギウム細胞、そして近位尿細管にあるが、肥満になると近位尿細管に脂肪がたまり、炎症のもとになるらしい(これをlipotoxicityとよぶ)。
近位尿細管のCB1をノックアウトしたマウスでは、肥満にしても野生型のように近位尿細管に脂肪がたまらず、炎症もおさえられ、蛋白尿や腎機能低下などもおこらない。細胞内のメカニズムを詳しく調べると、CB1受容体にスイッチがはいると、近位尿細管細胞内で脂肪酸のβ酸化を促進するシグナル経路(AMPKなど)を抑えるので、脂肪が分解されず貯まってしまうらしい(図は前掲論文より)。
肥満にともなう尿細管障害、というものがどれくらい意義があるのかは、よくわからない。肥満といえば糸球体の障害が有名かと思う。実験動物に脂肪ばかり食べさせないとおこらない現象なのかもしれない。
でも、近位尿細管は最近のホットトピックだと思うし、これからいろいろわかってくる近位尿細管の真相に私はついていきたい。
また、この話には将来性がある。糖尿病性腎症とのかかわりもあるし、腎臓以外でもひろくメタボ世代の健康寿命をのばすかもしれない。CB1受容体は全身にあるはずなので、CB1拮抗薬、ないし、CB2受容体のアゴニストがあれば、他の組織でも脂肪分解ができず炎症や線維化がおこるのを防げるかもしれない。
それで、この論文の注目度を示すAltmetricは公開初日から32ときわめて高い(図)。この論文が紙媒体で届くのは来年だろうが、その前から読めるのだから、やっぱり、米国腎臓内科学会の会員でよかった。
近位尿細管のグルコース輸送体といえばSGLT2が有名だが、GLUT2もある。通常は間質側にあり、(SGLT2などを通じて)尿細管内腔から尿細管細胞に入ってきたグルコースや、尿細管細胞内での糖新生(こちらも参照)でできるグルコースを、間質側に運ぶ役割をしている。
しかし糖尿病では、GLUT2発現が増えるだけでなく、(より多くのグルコースを汲み出すためか)局在が尿細管内腔側にまでひろがる。しかし、CB1受容体をブロックすると、こうした変化が抑制される。細胞内カルシウムイオン濃度の上昇と、それによるホスホリパーゼCβの活性化が抑えられるためだ(図は前掲論文)。
糖尿病性腎症といえば永らくRAA系阻害薬で、日本ではとくにARBであった。今後こうした研究が進めば、現在一世を風靡しているSGLT2阻害薬や、治験中のNrf2アゴニスト(バルドキソロン)などと共に、「CRB(カナビノイド受容体拮抗薬、Cannabinoid Receptor Blocker)」の出番・・となるかもしれない。
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