2017/08/29

赤ちゃんに学ぶ 4

 腎臓のFcRnとIgGについては、とくに足細胞の研究が知られている(PNAS 2008 105 967)。足細胞のFcRnは、基底膜からIgGを取り込み除去する働きがある。基底膜をすり抜けるが足細胞(のスリット)をすり抜けないIgGのような物質は、理論上基底膜を詰まらせる。透析膜の孔がつまるのと同じ考えだ。

 そしてIgGが基底膜に詰まっては、免疫複合体とか補体とかが沈着して炎症など面倒なことになる。腎生検の電子顕微鏡で腎炎・ネフローゼにみられるelectron dense deposit(高電子密度沈着物、図は日本病理学会による病理コア画像から)など、まさに基底膜に沈着した免疫複合体をみている。





 それでは困るので、足細胞が基底膜からIgGを除去していると、この論文からは考えられる。実際マウスに高濃度のIgG注射をおこなうと、(足細胞のFcRnが飽和するためか)基底膜にIgGが沈着した。またアルブミンを注射した(FcRnの飽和を意図した)マウスにネフローゼをおこす抗体を極少量注射しただけでも、蛋白尿がみられた。

 蛋白尿=基底膜の異常=基底膜の病気、というわけでは必ずしもなくて、内皮細胞や足細胞の病気(足細胞病、という言葉もある)ととらえなおされている、という枠におさまるお話だなと思う。前の投稿によれば、そこにさらに近位尿細管も加わるのかもしれない(たとえば、糖尿病性腎症やAlport症候群に治験されているバルドキソロンは糸球体の炎症を抑えるが、尿細管ではmegalin発現をさげて蛋白尿を起こす;JASN 2012 23 1663)。

 なお、その近位尿細管は足細胞を通り抜けたIgGをアルブミンのように再吸収するかと言うと、そうではないらしい(JASN 2009 20 1941)。これが、尿路の免疫として身体を守っているという説を唱える人もいる(J Immunol 2015 194 4595)が、いまだ推測の域をでていない。

・ ・ ・
 
ここまで赤ちゃんがお母さんから免疫をもらう話にはじまり、FcRnをテーマに創薬、免疫疾患、腎臓でのアルブミンやIgGのろ過や再吸収まで、領域横断的にみてきた。ワーズワースはMy Heart Leaps Upという詩の中で子供は大人の父である(The Child is the father of the Man)と言ったが、赤ちゃんから学べることはたくさんある。

 そしてこの詩はこう終る;

I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.

 (虹をみて心が躍る少年のように)自然を敬う心に満ちた日々を送れますように、というような意味だ。

 


2017/08/28

赤ちゃんに学ぶ 3

 FcRnは腎臓のどこにあるか?血管内皮、足細胞、皮質の集合管、そして近位尿細管に発現している(JASN 2000 11 632)。なかでも近位尿細管では刷子縁にあって、アルブミンを再吸収することができる。

 というのも、FcRnはIgGだけでなくアルブミンにも結合するからだ。血中に最も多く、IgGと同様に半減期のながいアルブミンも、FcRnと結合して分解を免れている(結合のしかたや場所はIgGと少しことなり、IgGのようにFcRnとのあいだに塩橋をつくったりはしないが)。

 とくにS1とよばれるより近位の部分では、clathrin-dependent endocytosisやfluid-phase endocytosis(pinocytosis、飲作用とも)によって尿細管内腔のさまざまな溶質分子が取り込まれる。このとき、リソソームによる分解からアルブミンを守り間質側に届けるのにFcRnが大事と考えられている(図はJASN 2014 25 443)。




 近位尿細管のFcRnには、糖化やカルバミル化をうけた処分すべきアルブミンをリソソームに送る働きもある。無傷のアルブミンとは内腔pHがさがるまで結合しないが、これらの不要なアルブミンとはpHが下がる前に結合し、リソソームに引っ張り込んで内腔pHがさがると離して分解させる(図は前掲論文)。




 しかし、そもそも糸球体はアルブミンを通過させないはずでは?教科書にも、陰性荷電とサイズによって糸球体はアルブミンをブロックすると書いてある。なので、前掲論文のタイトルは「近位尿細管とたんぱく尿:まじで!」だし、「このレビューには、糸球体バリアの役割が重要かどうかを議論する意図はない」と予防線を張るように前置きしている。

 FcRnから外れるから詳しくは論文を参照されたいが、アルブミンのGSC(糸球体ふるい係数)はいままで思っていたよりずっと高い(つまり漏れやすい)という研究結果もでている。近位尿細管の再吸収異常でアルブミン尿が出るのは事実だし(ラットでFcRnのない腎臓を野生型に移植するとネフローゼ様になる;JASN 2009 20 1941)、内皮細胞をコーティングするglycocalyxの関与もわかってきた。この領域は、これからも目が離せない。

 いっぽう、腎臓のFcRnとIgGの関係はどうか?つづく。




2017/08/25

赤ちゃんに学ぶ 2

 FcRnは大人にもあって、やっぱりIgGが分解されるのを防ぐ。IgGの半減期は約20日で、ふつうのたんぱくが約5日なのにくらべても長いが、その理由のひとつとして造血系の細胞や血管内皮細胞のFcRnがIgGを守るからと考えられている(J Immunol 2015 194 4595)。

 逆に言うと、FcRnがあると身体にわるいIgG(自己免疫疾患とか)がなかなか消えない。それで、これらの疾患でFcRnの働きをおさえる研究もおこなわれている。

 たとえば、FcRnに高い親和性で結合するようFc部分を加工して、本物のIgGが守られないようにするとか。これらのお薬カテゴリーをAbdegsと呼ぶらしい(Nat Rev Immunol 2007 7 715)。Ab、すなわち抗体をdegrade、分解するということか。

 ほかにも、医薬品が分解されないようFcRnに守らせたり、抗体医薬品のFc部を加工したりするのが流行っている(図はAdv Drug Deliv Rev 2015 91 109)。FcRnで検索すれば日本語でもたくさんサイトが出るし、こないだもGLP-1アゴニストのデュラグルチド(Fcを持っている)が宣伝されているのを目にした。




 そんなわけで、今後、日常臨床のなかでFcRnという言葉を聞く機会は増えてくると思われる。


 さて、そのFcRnは腎臓で何をしているか?つづく。





2017/08/23

赤ちゃんに学ぶ 1

 赤ちゃんは、うまれたら初乳・母乳にたくさんふくまれている抗体を身体に取り入れる。これは主にIgAといわれるが、IgGも受け渡される。

 IgGは、赤ちゃんがお母さんのおなかのなかにいる時から胎盤を通じて届けられる。赤ちゃんにはFcRn(直訳すると新生児型Fc受容体だが、日本では胎児性と呼ばれる)があって、お母さんのIgGが結合して取り込むことができるからだ。

 FcRnはMHCクラスI分子によく似ていて、H鎖(p51)とL鎖(β2ミクログロブリン)が非共有結合でつながっている。でも、抗原提示をおこなう部分が閉じているのでその働きはない。その代わり、FcRnは細胞内に小胞として取り込まれたIgGがリソソームによる分解をうけないように守ってくれる。

 細胞内の小胞はプロトンポンプなどによって酸性になる(以前にふれた)が、FcRnのIgGとの結合親和性はpHがひくいほど高いので、結合してIgGを守ってくれる。そして小胞が細胞内輸送でふたたび細胞のそとにでるときにはpHがあがって、IgGを無傷で解放してくれる(図はJ Immunol 2015 194 4595、青いIgGが左から右に移動する)。




 同様に、母乳に含まれるIgGは、赤ちゃんの腸管(近位小腸といわれる)にあるFcRnと結合して体内に取り込まれる。


 …と、いきなり赤ちゃんとお母さんの話を始めたのには理由がある。以前に赤ちゃんとお母さんのことを取り上げた時も、母の愛と酸塩基平衡について紹介した。今回も、ちゃんと腎臓に関係ある。どういうことか?
 
 まず、FcRnはネズミの新生児で最初にみつかったから新生児型と名づけられたが、新生児になるまえの胎児にもあるし、新生児をすぎて大人になってもずっと発現している。では大人のFcRnは何をしているのか?続く。

 


2017/08/22

少しアフェレシスと透析について。さらにさらに続き。

では、続いては少しメジャーなコンサルトではなくなるかもしれないが吸着(adsorption)の話に移行したいと思う。

吸着療法はコンサルトされる割合はどうであろうか?
個人的な印象ではかなり少ないかもしれない。一つには吸着療法を使う場面がわからず、コンサルトがかからない。コンサルトされる側もよくわからないというのは一つあるのではないかと考える。

今回、少し吸着療法になじみをもっていただいて、コンサルトされたときに胸を張ってできるようになれればと思う。

吸着に関しては取り除く場所によって二つに分かれる。
①血液吸着療法(HA:Hemoadsorption)
②血漿吸着療法(PA:Plasma adsorption)
に分かれる。

今回、まずは①のHAに関して述べたい。
まず、HAの回路に関しては下記のような回路になっている。
http://www.eonet.ne.jp/~hidarite/ce/touseki07.htmlより引用
回路自体はこのようになっているが、いつもの血液透析とは回路に違和感はないであろうか?
基本的にHAに関しては補充液や透析液などは必要がない。そのため、回路は少なくなっている。


血液吸着というからには、すべての血液(血球+血漿)の吸着をしているかというとそうでは無く、血漿の一部を吸着している(もちろん血漿吸着とは異なる)。


ここで、重要なのはやはり吸着剤である。この吸着剤によって何が吸着されるかが異なる。

①活性炭(DHP-1、ヘモソーバ、ヘモカラム)
②ポリミキシンB固定化吸着剤(トレミキシン)
③ヘキサデシル基固定化セルロースビーズ(リクセル)


この膜の名前を聞くとあーっと言われる方も多いと思う。意外と身近には存在する。


①活性炭吸着
活性炭表面の微細孔に被吸着物質が入り込むことによってなされ、分子量5,000程度の物質の可逆的な吸着で物理的な吸着法である。

ちなみにイオン交換樹脂などをもちいて吸着を行う方法を化学吸着法という。


活性炭吸着器は
・ヘモソーバTM CHS-350(旭化成メディカル)

旭化成メディカルより引用

・ メディソーバDHP(川澄化学工業)
川澄化学工業より引用
・血流量:100~200mL/minでの管理

・重要なのは吸着カラム内で凝固を起こすのを認知する事が重要
⇒吸着のカラム入口圧と出口圧の差圧をモニタリングする。(入口圧が40kPa(300mmHg)を超える場合にはカラム内凝固を疑う。)

・抗凝固薬:ヘパリンを使用。ナファモスタットメシル酸塩は吸着されるため、使用できない。

・治療時間:3~4時間を目安とする。

利点:回路が単純である点。

欠点:分子量が100未満のものや10000より大きいものは吸着されにくい。また、ブドウ糖も若干吸収するため血糖値に注意する。

・保険適応:薬物中毒、肝性昏睡

・薬物中毒で考慮するもの:
これについては以前に書いた。
バルビタールやフェニトインやアマニチンやパラコートの中毒は考慮する。

今回HAについて書こうと思ったが、活性炭で長くなってしまった。
また、次回続きは記載しようと思う。






2017/08/19

少しアフェレシスと透析について。さらに続き。

あと、数回アフェレーシスについてお話をしたいなと思う。


今回は前回の延長線上になる話である。
DFPP(Double filtration plasmapheresis : 二重膜濾過血漿交換法)について話をする。


DFPPについてはどういうイメージを持っているだろうか?おそらく
 -PE(血漿交換)で事が足りるんだからいらないんじゃないの?
 -どんな場面で使ったらいいのかわからないよ。


などの感想が多いんじゃないかなと感じる。


今回の話を読んで少しでも上記の声があー、こんな時に使えばと分かってくれたらうれしい。


まず、DFPPとPEの違いを示す。DFPPの回路は下記のようになる。
ASAHI KASEI homepage より


先にはなしたPEに比べると一つ回路が増えていることが分かる。そして、その回路には血漿成分分画器が設置されている。


★血漿成分分画器
 -カスケードフロー(旭化成)
 -エバフラックス(川澄化学工業)


膜孔径:0.01μm、0.02μm、0.03μm


この、一つ回路がある事でのメリットとしては
①置換するFFPなどの量を少なくできる。
 -下図を見て頂くとイメージしやすいが、血漿を除去して、それを血漿成分分画器で高分子量の物がのぞかれるが、それ以外は血液に変換される。




ASAHI KASEI homepage より


②アルブミンの喪失を少なく、免疫グロブリンの除去が可能
 -これも下記の図を見て頂くと分かるが選択的に除いているためである。
ASAHI KASEI homepage より


では、DFPPを使う場面はどんな場面か?
①移植領域(腎移植や肝移植など):ABO不適合移植の際に抗体除去で拒絶を防ぐために行われる。
②神経疾患;重症筋無力症、多発性硬化症、ギランバレー症候群などの抗体関連性の疾患を取り除くのに使用される。
③膠原病関連:SLE、悪性関節リウマチなど
④循環器疾患:閉塞性動脈硬化症、家族性高コレステロール血症
⑤血液疾患:マクログロブリン血症、多発性骨髄腫
⑥皮膚疾患:天疱瘡、類天疱瘡、TENなど


逆にPEを行わなくてはならないものとしては、HUS、TTP、ANCA関連血管炎などである。


処方について
 -処理量:原則、1.0-1.5×血漿量(plasma volume)とする
 
 -血漿量の計算:血漿量(L)=0.07×体重(kg)×(1-Ht) ※体重は理想体重

・血液流量:50~150mL/min
・血漿分離ポンプ流量:血液流量の30%以下
・ドレイン量(カスケードフローから排液される量):分離ポンプ流量(血漿流量)の0-20%程度


★抗凝固:原則ヘパリンを使用




合併症としては、PEより少ないとは言われるが、FFPを使用するため低カルシウム血症などは重要。


本日はDFPPについて触れた。
回路が複雑になり分かりにくい部分もあるが、メリットを考えて使用するのが重要である。




今回のがpart3なので。

2017/08/14

CJASN Attending Rounds+α 治療抵抗性高血圧

 治療抵抗性って一体何だろう? 

 降圧薬が複数種類入ってもなお、血圧高値の患者さんがおり、マネージメントに窮している状況に出会った。さてさてどうしたものか。何か患者さんをベースにしたやりとりを記されている論文はないものか探してみた。そしたら素敵なシリーズを発見した。

 
 CJASN Attending Rounds

 である。知っている方もいるかもしれないが、この特集を読んだ時、衝撃が走った。この特集の価値は単なるお勉強ではなくReal worldを意識し明快に記載されている点にある。目の前の困った患者の問題点と[CJASN Attending Rounds]というキーワードをGoogleで検索するといくつかの論文を容易に見つけることができる。


 なお、そこでも症例が紹介されており、下図の7つのステップで考えようとある(CJASN 2011 6 2301)。






治療抵抗性高血圧の7つのステップ


1 治療抵抗性であると確定させる。


 3種類以上の降圧薬を内服していても、140/90mmHgを超えること。ただ複数回血圧を測定することが望ましい。


2 「偽」治療抵抗性であるかどうかを確認する。


 適切なカフを用いて測定する。適切な休憩(静かな場所で5分以上)の後に測定する。

3 高血圧を起こしうる生活要因を同定する。


 食塩の過剰摂取、体重過多を確認する。

4 高血圧を起こしうる薬剤を可能なら中止する。


 NSAIDs、COX-2阻害薬、ステロイドやESA製剤など血圧をあげうる薬剤が含まれていないかを確認する。

5 2次性高血圧(分類:副腎、腎臓、それ以外)をスクリーニングする。


 OSASも忘れずに鑑別を行う。

6 薬剤での治療(背景にある病態を考え、副作用を最小限にする形で薬剤の併用)


 例えば利尿剤にACEIを足すことで、低K血症をある程度防ぐ。


7 高血圧治療の専門医に依頼する。


 新たな診断、マネジメントを展開できる可能性があるので、このステップまで来たら相談する。



 また以前に、Renal fellow networkでも話題になっていた。なお、追加でより深くResistant Hypertensionを学びたい方はこちら(doi: 10.2215/CJN.06180616)。
 なお, CKD患者での治療抵抗性高血圧に関する論文が、CJASNから発表されており、参考にされる方はこちらより。

少しアフェレシスと透析について。続き。

前回の投稿から期間が空いてしまった。大変申し訳ない。


では、今回は血漿に対してのアフェレーシスを説明する。
血漿に対してのアフェレーシスを依頼される場合が非常に多いと思われる。


では、血漿成分に対するアフェレーシスにはどんなものがあるだろう?
その前に血漿成分にどんなものが含まれるかを知ることが重要である。


つまり敵を知らない限りは治療ができない!


血漿成分としては下記の図が分かりやすい!
水が90%以上。
タンパクが7%程度である。タンパクのうちアルブミンが60%と一番多く、グロブリンが35%と次に多い。
その他の成分の中に電解質やBUNやクレアチニンなどが含まれている。





血漿交換で除去できるものとしては下記のようになっている。
幅広く除去することが出来る。




では、敵が知れた時点で、どれをターゲットにするかである。


★ターゲット
・その他:HDやHFなどはここをターゲットにしている。


ここから血漿交換や血漿吸着の話にうつるが、いつも何回やろう?どのくらいの頻度でやるべきなのと思ってしまう。これは、2016年のアメリカのガイドラインが出ている!
これは、非常に参考になるのでダウンロードをすることをおすすめする!


では、まずは血漿交換について話をする。まずは、単純血漿交換について話す。


◆血漿交換のターゲットは上の表にも示したが、全部ごっそりと交換する。なので、BUN
やCrも下がる。


血漿交換はまずは、下記のイメージが一番認識しやすい。Plasmafloを用いて血漿成分と血球成分を分離し行う。








★適応
保険適用:日本の保険適用(下表)を参照
医学の歩み234巻13号参照


・処方について
 -処理量:原則、1.5×血漿量(plasma volume)とする
 
 -血漿量の計算:血漿量(L)=0.07×体重(kg)×(1-Ht) ※体重は理想体重
 
 -処理速度:最大処理速度=Qb (ml/min)×0.3とする
Qb×0.3以上では、膜内が過粘稠となり膜間圧力差(TMP)が上昇。


 -血漿分離器:原則、プラズマフロー08W®(旭化成メディカル)を使用。



種類

膜型血漿分離器

品名

OP-05W

OP-08W

膜面積

0.5 m2

0.8 m2

最高使用TMP

60 mmHg

プライミングボリューム(血液側)

55 ml

80 ml

 ★置換液
ASFA
のガイドラインを参照する
FFP:
輸血室に「○○ml相当のFFPをオーダーする
アルブミン:25%アルブミン製剤をソリューゲンFで希釈しおよそ5%アルブミン溶液とする。



置換液

利点

欠点

アルブミン

感染危険性が少ない

アレルギー反応まれ

凝固因子を含まない

免疫グロブリン含まない

FFP

凝固因子を含有

免疫グロブリンを含有

“有用な”因子を含有

補体を含有

感染の可能性

アレルギー反応

クエン酸負荷
(低Ca血症のリスク)

◆FFPを使用する場合:肝不全などで凝固因子の補充が必要な場合、TTPなど血小板活性化抑制因子補充が必要な場合、抗GBM関連血管炎などで肺胞出血など臓器の持続性出血などの場合


★抗凝固薬:原則、ヘパリンを使用


★合併症対策:
置換液に対する過敏症(FFP使用時)
a)
予防
・治療1時間前にポララミン 4mg内服(内服困難な場合は、5mg静脈内投与)
・治療1時間前にプレドニン 50mg 内服(内服困難な場合は、50mg静脈内投与)


b) 重症例
・治療1時間前にポララミン 4mg内服(内服困難な場合は、5mg静脈内投与)
・治療13, 7, 1時間前にプレドニン 50mg 内服(内服困難な場合は、50mg静脈内投与)

-低カルシウム血症(FFP使用時)
1
時間ごとに血液ガスでイオン化カルシウムを評価
イオン化カルシウム<2.0 mEq/Lで、8.5%カルチコール 10 ml静脈内投与
 
-感染症(アルブミン使用時)
感染症のリスクが高い患者では、血清IgG<500 mg/dl*のときにIVIG 100-400 mg/kg*の単回投与を検討。


まずは、長くなってしまったが血漿交換についてふれてみた。
血漿交換はよく遭遇するものであり、しっかりと知っていなくてはならないものである。






2017/08/09

歴史を垣間見る

 CO2血管造影でもふれた空気塞栓だが、米国腎臓学会のオープン・フォーラム(ネット掲示板のような)に関連話題があった。内頚静脈に透析カテーテルを留置してから失語になった「ナゾの症例」がインドの先生から相談されていた。おそらく、PFOがあって空気塞栓が脳の動脈につまったのだろうという回答がでていた。

 その関係で得た、カテーテルにまつわる歴史をいくつか。


1.ショルドン・カテーテル


 いまの病院では大腿静脈から挿入する短期透析カテーテルをショルドンカテーテルと呼んでいる。略して、ショルドン。有名かもしれないが、これは英国の腎臓内科医スタンレー・ショルドン先生(写真はERA-EDTAサイトより)の名にちなむ。



 
 ショルドン先生は、透析したくてもシャントを作ってくれる外科医がたりず、外科医に依存せず透析ができるようにカテーテルを挿入して透析を行った。最初は大腿動脈と大腿静脈に挿入していたが、動脈は出血が多くV-Vがよい結論に至った。1961年のことである。その後、大腿静脈だけでなく、鎖骨下静脈をふくむさまざまな血管でためされた(NDT 2005 20 2629)。

 欧米でカテーテルによる透析が主流になったのは、ショルドン先生の影響といえるから複雑なところもある。が、とにかくシャントをできる先生や施設が不足していた当時、カテーテルでも透析ができるようにして多くの命がすくわれた。在宅透析の考えもはやくから提唱し、透析を身近で簡便にしようと考えていた方だ(「透析を慢性腎不全のインスリンにする」と言っていたそうだ、追悼記事のLancet 2014 383 508より)。お悔やみ申し上げる。


2.初めての鎖骨下静脈カテーテル


 現在では鎖骨下静脈に透析カテーテルを挿入することは避けられる(狭窄を起こすため;同側にシャントをつくると上肢の浮腫がいっそう増悪する)。鎖骨下静脈への中心静脈カテーテルは、患者さんにとって快適なのでICUブックのロマノ先生はイチオシしている(気胸リスクは内頚静脈でも免れないという立場だ)が、エコーがつかえないし圧迫止血もできないから行われる機会は減っているとおもわれる。

 その鎖骨下静脈カテーテルをはじめて報告したのは、ロベール・オーバニアック先生(写真はこちらのサイトより)。報告したのは、フランス語の雑誌だ(Presse Med 1952 60 1456と、Sem Hop Paris 1952 28 3445)。彼は当時フランス領だったアルジェリアにうまれた医師で、よく「オーバニアック先生は戦場で鎖骨下カテーテルを挿入した」と紹介される。しかし正確にはちがうみたいだ。




 彼は大学の解剖学教室にいたときに軍医としてイタリア戦線に向かった。そして、たしかに1944年2月、地雷で両腕がもげ、肩からふっとばされ肺尖部が露出しているアメリカ兵を診察した。そして彼はショックを治療するために残されていた太い静脈に管をいれ血漿を輸血した。しかし「鎖骨の下(sous-claviculairer)から入れたけれども、鎖骨下静脈(sous-clavière)にいれたのではない、あれは腕頭静脈だった」という彼の文章がこちらのフランス語サイトに紹介されている。

 真相がどうであれ、彼は終戦後もアルジェリアで鎖骨下静脈への穿刺を実験し、ついに患者さんに試し成功した。これが、結核にたいしてパラアミノサリチル酸(PAS、NEJM 1950 242 859に報告あり)を安定して点滴するルートとしてさかんにつかわれた。体動によって影響されない場所なので患者さんへの負担もすくなかった。


 結局、第五共和政の大統領に就任したドゴールが1962年にアルジェリアの独立を承認し、48歳のオーバニアック先生はマルセイユに移った。2007年7月に交通事故で亡くなるが、その右胸には治療のため鎖骨下静脈カテーテルが入っていたという。合掌。




 ふだん何気なくみるメール(オープン・フォーラム)や、お仕事の一コマから、このようなお話につながる。これからも好奇心をもって扉や窓をあけてみよう。





2017/08/01

あたらしい造影剤をもとめて

 もしあなたがCTを撮ってこんな写真がみえたら、びっくりするかもしれない(Vasc Specialist Int 2015 31 67、以下の文章もこれを参考にしています)。



 大動脈の中に気泡が!?

 これは、CO2を大動脈に注射した写真。CO2は酸素の28倍溶けやすいので、血管内に注射してもすぐに血中に溶け込む(といっても、CO2として溶存するのはわずかで、多くHCO3-になる)。それで、すくなくとも静脈内と横隔膜より下の動脈であれば、塞栓が問題になることはないそうだ。

 この原理を利用して、CO2血管造影が、とくに腎障害や造影剤アレルギーで血管造影が必要な場合にわが国ふくめ世界で試みられているようだ。造影剤を極力減らすうごきは以前にもあって、たとえばシャントPTAも最近は造影剤を薄めたりエコーガイド下でしたりする。

 CO2造影は、CO2がさらさらしているので細いカテーテルでよい、さらさらしているので流れにそって細いところも流れやすい、ガスで浮き上がるのでたとえば臥位で腹部大動脈から流せば腹腔動脈など上向きの分枝を流れやすい、などの利点がある。

 いっぽう、腸管ガスがあるとじゃまになる、DSA(degital subtraction analysis)で流れたところが透明にうつることもあり体動があるとよい写真が撮れにくい、などの弱点もある。いまのところ、神経毒性と不整脈のおそれがあるため脳血管や冠動脈にはもちいられない。浮くのが便利と書いたが、裏を返せば、CO2が頭や脊髄に流れるおそれがあるのでうつぶせや頭を高くするのは禁忌だ。

 心配なのは、空気が混入していても見た目には分からないので空気塞栓のおそれがあることだ。それを防ぐために、シリンジを引っ張っても抜けない(写真はCO2-Angioset®)、チュービングシステムをCO2で充填する、などの工夫がなされている。




 また、知らないうちにCO2ボンベから過量のCO2が入ってしまうのも恐ろしい。そのために活栓などで工夫している(写真はAngiAssist®)。CO2は空気よりは重いが、ガス漏れすればカテ室で酸欠になるかもしれない。放射能にせよCO2にせよ、「空気のような存在」はよほど気をつけないと事故の危険があり、「空気混入報知器」みたいなものも同時に開発してほしい。



 しかし無害な液体造影剤がなかなかみつからない(MRIのほうはガドリニウムに替わるものも開発されていたと思う)のだから、CO2血管造影が確立してきているのは、造影剤がつかえない人たちにとって朗報と思う。今後、これがヨード造影剤にかわる第1選択になるかどうかはわからない。十分に安全対策した特別なシステムと施設で経験豊富なスタッフがやれる体制がとれるかどうかと思う。