2013/04/24

A2型

 A抗原のある腎(A型、AB型)を抗A抗体のある患者さん(B型、O型)に移植する、あるいはB抗原のある腎(B型、AB型)を抗B抗体のある患者さん(A型、O型)に移植することをABO不適合移植という。ただしこれにはいくつか付帯事項があり、ひとつはA2型(とA2B型)の腎だ。

 A2型は、H抗原をA抗原に変換する(先っぽのL-fucoseにN-acetylgalactosamineを付ける)A2 transferase活性が弱く、A抗原をあまり細胞膜上に表出できない。だからA2型の腎はBまたはO型で抗A抗体価のひくい患者さんに、A2B型の腎はB型で抗A抗体価のひくい患者さんに、血漿交換もrituximabもなく移植できる。

 それ自体はずっと前から知られており、成績はABO適合移植とそれほど変わらないらしい(Transplantation 1998 65 256)。しかしUNOSはA2型とA2B型腎の取り扱いを各移植施設に任せているのでまだまだこの組み合わせは少なく(Transplantation 2010 89 1396)、O型とB型の移植待ち時間を短縮させるためにも全国レベルで実施すべきと言う人もいる(Clin Transplant 2012 26 489)。

 ただし、A2型はアジア系に大変稀だ。A2型は0%という論文もある(AJT 2007 7 1181の表3、ただし出典がない)し、A型の1/500-1/1000という話もある。B型の患者さん(B型はAfrican AmericanとAsianに多い)が欧米で他ethnicityのドナーから腎移植を受ける時には関係あるだろう。


[2020年6月16日追記]A2型・A2B型の腎グラフトを生体移植されたO型・B型レシピエントを追跡したところ、グラフト生存率は思っているより低かったという報告が、アメリカ移植会議(American Transplant Congress、ATC)で発表された。




 報告は、米国の移植レジストリーSRTRに登録された、2000年から2018年までに304年のA2不適合生体腎移植について、A2適合群とグラフト生存率を比べたところ、原因を問わないグラフト生存率は不適合群よりも低かった(HR 1.30、患者死亡例を除外するとHR 1.60。pはそれぞれ0.04と0.004)。




 ではどうするか?グラフト生存率は低かったが患者生存率は遜色なかった(1・5・10年生存率は不適合群で99・93・79%なのに対して、適合群では98・92・79%)ので、「やむなし」と考える方もいるかもしれない。




 しかしPKD(paired kidney donation、こちらも参照)をすれば、A2型もA型のように適合させられるかもしれない。報告したジョンス・ホプキンス大学のチームはそれを推奨している。

 あるいは、A2型もA型のように免疫抑制や血漿交換の前処置をするかどうか。グラフト機能低下がA2不適合による免疫的機序なのだとすれば、現状の「前処置なしで安全に移植できる(Kidney Res Clin Pract 2015 34 170)」から「少しはやってもよい」に変わっていくかもしれない。


 なお、この発表は本来ならば、5月31日ののポスター・セッションC、「Kidney Living Donor: Selection」53番目の予定だったが(こちらも参照)、完全バーチャルとなった。今年は米国腎臓学会もバーチャルで、8月延期の日本腎臓学会も大半がバーチャル。残念ではあるが、貴重な学びの機会と前向きにとらえたい。



ジャミロクワイ『ヴァーチュアル・インサニティ』
(出典はこちら