心不全の患者さんの低Na血症をコンサルトされて、スタッフが「tolvaptan 15mgを使おう」という。私はスタッフの考えには反対で、どうなる事かと思って様子を見ていた。この薬がナトリウム濃度を上げることは間違いないだろうが、この症例では利尿剤を増やすだけで同様の効果が出るように思われたし、一錠300ドルするとかいうのに(ヨーロッパではhepato-renal syndromeだの低Na血症だのによく使われるそうだが)患者さんが内服しつづけられるとも思えなかったので、私はスタッフの考えには反対だった。
SALT1、SALT2(NEJM 2006 355 2099)、そしてそのフォローアップであるSALTWATERスタディ(JASN 2010 21 705)をみても、mortalityはoutcomeに入っていないし、とにかくナトリウム値を上げること、それにより低ナトリウム血症の症状が取れることがこの薬の売りのようだ。低ナトリウム血症患者のmortalityを規定するのはナトリウムそのものではなく寧ろ原疾患(肝不全、心不全、SCLCなど)ということだろう。
さておきこの薬は患者さんに素晴らしい水利尿効果をもたらし、患者さんは「これはsuper pillだね」と言っていた。そのぶん口渇も悪くなったが、水制限もなんとか守り、ナトリウム値は丁度良くあがった。しかし、この薬を飲み続けることは現実的でないので、結局その翌日からは利尿剤を増やして様子を見ることになった。そこで今度はfurosemideの低ナトリウム血症における役割が議論の的になった。
私は「furosemideは尿を希釈させ相対的に水排泄を助ける」と習った。「furosemide下では尿がだいたいhalf normal salineになる」という話も聞いた。しかしfurosemideがナトリウム濃度を下げることも経験したし、「furosemideはナトリウム排泄を増やし血漿ナトリウム濃度を下げる」と信じる人が多いことも知っている。それで利尿剤を増やしたあと尿ナトリウム濃度と浸透圧がどうなるか楽しみにしていたら、尿Naが77mEq/l(36から増えた)、尿浸透圧は300mOsm/kg(340から減った)という結果で、血漿ナトリウム値は122-124mEq/lでほぼ変わらなかった。
ここから言えるのは、「furosemideで尿が希釈される」「furosemideでNa排泄が増える」「furosemideで尿はhalf normal salineくらいになる」というどれも正しいが、それぞれの程度次第でこの薬が血漿ナトリウム濃度に与える効果は変わるということだ。しかしこの例では、どうして尿Naが77しかないのに尿浸透圧が300もあるのだろう。尿中尿素が高いのだろうか、しかし血漿BUNは9しかないが。まあ折角だから尿中尿素でも調べてみよう。