2024/07/26

PTHと尿細管のカルシウム調節

  PTHはどのようにカルシウムを再吸収するのだろうか。定説は「遠位ネフロンに作用する」であるが、もう少し詳しく分かりつつあるようだ(Acta Physiologia 2023 238 e13959、図の出典)。

 腎臓にはPTH受容体のサブタイプPTH1Rがある。In situ hybridizationによれば、足細胞、近位尿細管(主に直部)、TAL、DCTに分布している。定説と異なり、集合管には分布していないという。また、血中を流れるホルモンであるから、内腔側ではなく間質側に分布している。

 近位尿細管でPTHがどのようにCa再吸収に関わるかは、未解明である。NHE3を介したNa再吸収を抑制することはよく知られているため、それにカップリングしたCa再吸収も抑制しそうなものであるが、逆に増加させたという報告もある。Naに依らない、細胞間のClaudin2などに対する別の作用があるのかもしれない。

 TALでPTHがCa再吸収を増加させることはよく知られているが、この現象は皮質のTALで見られるという。近位尿細管と異なり、ここではPTHがCaが流れるための電位差と細胞間のCa透過性の両方を作り出していることが分かっているが、それぞれの機序は未解明である。

 電位差については、PTH受容体が生み出すcAMPがNKCC2チャネルを活性化するのではないかと推察される(バソプレシンは、そのようにして髄質のNKCC2を活性化させる)が、皮質のTALはPTHの有無にかかわらず常に活性化されているため、別の機序があるのかもしれない。

 また細胞間の透過性については、cAMPによるClaudin-16の(217位のセリン)リン酸化が推察されているが、直接の証拠はないうえ、それだけで短時間で再吸収が増加するかには疑問もある。逆に、Claudin-16を閉じるClaudin-14を不活性化する可能性も指摘されている。

 DCTでは、Caは細胞内を通って再吸収される。PTHは、内腔側のTRPV5、細胞内のCalbindin 28K、そして間質側のNCX1の発現を増加させることがわかっている。なかでもPTHが直接作用するのはTRPV5で、protein kinase Aによる開放確率の増加、protein kinase Cによるendocytosisの抑制などが知られている。


移植後の高カルシウム血症

 腎機能が低下すると、①ビタミンDが活性化されずにカルシウムの吸収が低下し、②リンが尿に排泄されず、低カルシウム血症と高リン血症が起きる。活性型ビタミンDの低下、低カルシウム血症、高リン血症はいずれも③副甲状腺ホルモン(PTH)を増加させる。その結果、破骨細胞が刺激されて骨からカルシウムが流出し、血管などが石灰化する。いわゆる、CKD-MBDである。

 では、腎臓を移植するとどうなるか?

 ①ビタミンDが活性化されるようになり、カルシウムの吸収が増加し、②リンが尿に排泄され、低リン血症が起きる。③副甲状腺ホルモンは、副甲状腺から自律的に分泌されるので、なかなか減少しない。副甲状腺ホルモンには尿中のカルシウムを再吸収する作用もあるので、①と③を合わせて移植後に高カルシウム血症がみられることがある。

 頻度は15%(Transplantation 2016 100 184)、25%(Front Med 9 821884)などさまざまであるが、PTHやCaが正常化しない患者は正常化する患者に比べて生命予後・グラフト予後が不良であったという報告もある(Diagnostics 2024 14 1358)。

 そのため、ビタミンD、CaSRアゴニスト、デノスマブ、副甲状腺摘出術などが試みられる。ただし、これらの介入によりPTHは下がるが、骨密度・骨折リスク・腎グラフト予後・生命予後などが改善したという報告はほとんどない。手探りである。


(出典はFront Med 9 821884)


2024/07/20

維持免疫抑制薬としてのベラタセプト

  3.切替(conversion)

 CNIベースの維持免疫抑制レジメンで拒絶が起きないのはよいが、残念ながら腎機能低下・さまざまな心血管系イベント・悪性腫瘍などの副作用があり、それらは「拒絶さえしなければよいだろう」と無視できるものではない。そんな時にはCNI-sparingレジメンが考慮され、筆者が以前米国にいた2011年にはもっぱらmTOR阻害薬が用いられていたが、今の米国はbelataceptが主流である。

 こうした使用はCNIを続けることが望ましくない場合やde novo DSAが出現した場合に限って症例ごとに退避的に行われる"rescue therapy"がほとんどであり、エビデンスの質は後方視になりがちで高くない。それでも、eGFRやグラフト予後の改善が見られたという報告や、急性細胞性拒絶に有意差がなかったという報告は散見される。切替が術後何年も経って行われることも影響しているだろう。

 なお切替方法は施設・医師・患者ごとにまちまちであり、よく保険が通るなと思うほどであるが、一応準拠するレジメンはある。それは"per protocol"の切り替えを行った多国籍の第3相RCT(JASN 2021 32 3252)で、belataceptは5mg/kgを2週間ごと5回行い、以後は4週間ごとというものだ。CNI(90%がtacrolimus)は4週間で漸減終了した。

 結果は24か月でグラフト予後に有意差はなく、eGFRは切替群で有意に高く(55.5 v. 48.5 ml/min/1.73m2)、de novo DSAは切替群で有意に低く(1% v. 7%)、急性細胞性拒絶は切替群で有意に高かった(8% v. 4%)。

4.CNI with belatacept

 ここまでくると、誰もが①CNIとbelataceptの「いいとこどり」はできないか?、②Belataceptで拒絶する患者のリスク因子は何か?などと考えたくなるだろう。そんなわけで、①については「CNI+belatacept」のレジメンをよく見かける。Belataceptは5mg/kgだが、ローディングは3回なこともあるし、維持量も1-2か月に1回などまちまちである。また、tacrolimusの目標トラフは通常4-6ng/mlのところを3-5ng/ml、といった具合である。

 要は"little bit of both"である。こうなってくると、もはや前向きに有効性を評価することはできないが、医師裁量が広く使いやすくなったとも言える。個人的に心配なのは、「ステロイドとMMFとtacrolimusとbelataceptだと4種類(quad)になってしまう」と言って、割とあっさりMMFが中止されることである。なんとなく、MMF+CNI+belataceptのほうが拒絶しにくくステロイドの副作用も減らせて一石二鳥、と思ってしまう。

5.Patients at risk

 前項②については、免疫学の深みにはまってしまうので、これまた「Thymoで導入したから安心して切り替えられる」とか経験則に基づきがちであるが、せっかく抗CD28の治療と分かっているのだから、T細胞のサブセットやマーカーによってbelataceptで拒絶しやすい群を同定できないかという試みは行われている。

 たとえば、移植前に「CD28+、CD8+のTEMRA細胞(ナイーブT細胞に見られるはずのCD45RAが、いちど消えた後で再び発現している段階)が3%以上」、「CD57+(NK細胞にも見られるマーカー)、PD1-のTEM細胞(effector memory T cell)が多い」などの群である。この辺りの理解が深まると「それなら抗〇〇抗体を併用すれば拒絶が防げるのでは?」といった話にもなってくるが、今はまだ実用的ではない。

 なお、免疫学の深みもさることながら、よく知られたbelataceptの禁忌はEBV陰性である。HIV感染、CMV血症なども慎重投与である。術後のFSGS再発などで血漿交換を行っている場合にも、belataceptは抜けてしまう。また、COVIDワクチンは、belataceptを打ってしまうとその効きがとても悪くなる。

6.おわりに

 筆者は「もうこれは(いろいろ問題もあるけど)やるもんでしょ」という治療に対して、「本当にそうだろうか、それ以外のよりよい方法があるのではないか、全員とは言わないが、他の方法でうまくいく状況と患者がいるのではないか?」と考えてしまうタイプである。その代表がステロイドと透析だった。CNIもまた、40-50年の時を経て「素晴らしい薬だけれど・・問題もある」という場面を迎えていると感じる。

 こういう薬や治療は、それはそれで確立しているわけだから、全員がいきなり乗り換えるような新しい治療は生まれにくい。それでも、「何かあるんじゃないか、きっとあるはずだ」と考え続けていれば、徐々に変わっていくと思う。※筆者はPrograf®(tacrolimus)、MeltDose technologyで徐放化に成功したEnvarsusXR®、Nulogix®(belatacept)の製薬会社と、利益の相反を持たない。


(Bella Notte、出典はこちら



導入免疫抑制薬としてのベラタセプト

 1.背景

 ①抗原提示、②共刺激、③サイトカインがT細胞を活性化させる三つの柱である、という仮説を"three signal hypothesis"と呼ぶ。そして、②の代表がCD28-CD80/86(T細胞側‐抗原提示細胞側の順、以下同じ)、CD154-CD40である。

 抗CD154モノクローナル抗体は血小板のCD154と交差して血栓の副作用が多く止めになった。その後Fc部分が問題と分かり、Fab部分に似るが抗体ではないTn3という蛋白をアルブミンに結合させたdazodalibepが開発され治験中である(NCT04046549)。

 CD28をターゲットにした薬は、CD80に結合してCD28-CD80シグナルをオフにする分子、CTLA-4に着目して作られた。第一世代のabataceptはCTLA-4と抗体のFc部分を結合させた薬で、皮下注射でリウマチ等に有効なのは素晴らしいが、非ヒト類人猿では移植の有効性が確認できなかった。

 ※なお、abataceptもbelataceptが使用できなかった際(流通の問題やコロナ禍)の使用経験では有効が確認されており、belataceptから切り替える治験が行われている(NCT04955366)。

 Abataceptに2か所修正を加えてCD80により強く結合するようにした第二世代の薬が、belataceptである。残念ながら点滴の薬で、基本は1か月に1回ある。そのため、ペグ化したりCTLA-4‐CD80の作用は阻害しないようにしたりと工夫した第三世代の薬、FR104(NCT04837092)やLulizumabが治験されている。

2.BENEFITとその後

 2010年に発表された試験で、シクロスポリン群に比して術後のeGFRが高く保たれたがACR(急性細胞性拒絶)は有意に多くかつ重度であったことはよく知られているが、とにかくこれを受けて2011年に米国と欧州でbelataceptは認可された。

 同試験はbelatacept群をmore intensive dose(MI)とless intensive dose(LI)に分け、LIが認可の用量となった。それは、10mg/kgをDay 1、Day 5、Week 2、Week 4でローディングしたあとWeek 8とWeek 12にうち、そこからは5mg/kgを4週ごとというものである。

 しかし、血栓の多い抗凝固薬を使いたい人がいないように、拒絶の多い免疫抑制薬を使いたい人もあまりおらず、betalaceptを導入に使う施設はほとんどない。認可当初から意識的に使っているEmory大学でも、tacrolimusと組み合わせて、用量も「5mg/kgを術中と1ヵ月後、以後毎月」とBENEFITとは異なるレジメンになっている(KI Rep 2023 8 2529)。

 Belatacept使用中の拒絶は術後6ヵ月以内が多い。そのため、さきほどのEmory大学レジメンではtacrolimusを術後11か月用いるようにしている(9か月目からで毎月1/3ずつ漸減して終了する)。

 むしろ、belataceptの美しさは、①eGFRが保たれる、②糖尿病・心血管系イベントなどCNIの副作用を低減できる、③DSAを減らせる、などにある。そのため、使い道としては維持レジメンのほうが向いている。また、③については、AMR(抗体関連拒絶)の治療や脱感作にも試みられている。

 そこで次回は、維持療法・CNI sparing agentとしての役割について書こうと思う。


(la Bella y la Bestia、出典はDisney+)