患者さんに治療のゴールを聴くのは、時間とエネルギーを要することだ。ある施設では一回に90分かけるという。医師ひとりではできない。患者さん、家族、看護師、ソーシャルワーカー、場合によっては栄養師やリハ療法士など他業種が責任を分け合って行うチームワークだ。
1.まず病気についての信念、目標、価値観を聴く。そして、well-beingについての考えを聞く。そして、将来の希望についてじっくり聴く。たとえば透析中の希望は移植を受けて透析から離脱することかもしれない。なるほど、それはよい希望ですね。では、移植が受けられなかったらどうありたいですか?透析しながら今の生活を維持したい。なるほど、それはよい希望ですね、では、透析が無理になったらどうありたいですか…?
聴きながら、痛みがないことだったり、家族がそばにいることだったり、孫の結婚式に行くことだったり、本を書き上げることだったり、いろいろな人生の目標や希望が見えてくるだろう。それをじっくり聴くことが大事だ。そのうえで、いつか来る死を前に、身体的にも精神的にもスピリチュアルにも安らかな「大往生」をどうしたら迎えられるか考えていく。
2.しかしいきなり「どんな死に方」についてなんて、聴くのも聴かれるのも苦痛だ。だから、いままで誰か親しい方の最期を経験なさいましたか?そしてそれはどうでしたか?と聴く。人のことならいくらか話しやすい。すると、たいていは「あれは大往生だった、私もあのようでありたい」か「あれは可哀相だった、ああはなりたくない」というどちらかの例が挙がるものだ。
3.そのうえで、生命維持治療について話をする。1.と2.がなければ、3.は空虚だ。もっとも、おおくの場合時間がないから急性期にいきなり3.をしなければならない(から医療者も家族の感情的にとても疲れてしまうわけだが…)。4.話をまとめる、5.ニーズをどう満たすか、ギャップをどう埋めるかについて考え、フォローアップ計画をたてる。
私は、この話を透析室で患者さんが透析を受けているときに周りの患者さんもいる前でするのに抵抗を感じた。しかし、壇上の(米国、カナダの)演者たちに質問したら、意外にも透析室でやっているらしい。透析日でない日に来てもらい個室でやることもあるが、そのオプションを示しても患者さんが「透析中でよい」と言う場合が多いそうだ。「その話、今度わたしにもしてほしい」となることもあるという。
(注:後日フロアの人達とこの話をしたら、やっぱりプライバシーのない透析室でこの話をするのはawkwardという方が多かった。)