米国内科学会誌の人気記事、On Being a Doctorは多くの場合に心温まる患者さん(とその家族)との関わりが書かれているから好きだ。同時に、どんどん忙しくなる業務のなかで追いまくられ、患者さんと意味ある時間を過ごせずにやりがいを失い燃え尽きつつある医師達が、そんなときでも医の原点を守ろうとしている灯火のように思えて悲しくもある。
先週は二つの記事があった。ひとつはend-of-life議論をする時に、家族に「あなたのお父さん、夫について教えてください」と始める医師の話だ(Ann Int Med 2013 158 215)。病状について(何度となく答えてきた)答えを力なく話す家族を「すみませんが」とさえぎり、「病気の話をするまえに、患者さんのことをもっと知りたいのです」と言う。
「病気も診るが患者も診ろ」「病気は病態生理の観点だけでなく社会心理(スピリチュアル)の観点からも診ろ」と言われるが、実際にどのような診療や態度を指すのかは不明瞭だ。でも患者さんに即したストーリーを読むとそれがよく分かる。この話は、家族が患者さんの人生を振り返り、病気の意味といま最善の治療ゴールを見つめなおすことができた。
いま医学部二年生に問診を教えているが、彼らは生活歴をかなりしっかりと聴取する。時間がたっぷりあることと、まだ何が大事か優先付けられないせいもあるが、患者さんに症例としてではなく人として接しているからでもあろう。臨床実習で擦れてしまっても、それを忘れずにいてほしい。「酒、タバコ、ドラッグ」だけが生活歴ではないのだから。