クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2012/06/29
ユリア 3/3
副作用は、急激なNaレベルの上昇だが、これはバプタンでも同じことだし、osmotic myelinolysisが起きたという報告はいまだない。胃が荒れることがある(ので、以前使ったことのあるうちのスタッフは胃粘膜保護薬を併用していたらしい)。あとは、塩とちがってvolume overloadにもならないし、尿毒症にもならないし、furosemideと違って低K血症にもならない。
そんなわけで安全で安価で有効な薬ユリアだが、まさに「良薬口に苦し」。苦みが唯一の難点だ。ベルギーでは、85%位の患者さんが飲み続けられるらしい。米国では、どうにも合わないらしい。ただうちのスタッフが患者さんに使っていた時の経験では、みんな苦いけど結構いけたらしい。ドイツ系移民が多いところだからだろうか。
ここまでユリアを勧めるからには、最後に「そもそもマイルドな低Na血症って治療する必要あるの?」という疑問に答える必要がある。というのも、ことmortalityについては「患者さんは低Na血症と共に亡くなるのであり、低Na血症によって亡くなるわけではない」からだ(CJASN 2011 6 960)。症状についてはどうか。これまたベルギーの同じグループが研究した論文がある(Am J Med 2006 119 71 e1)。
一つ目の研究は、retrospective case-controlで、control群のほうがacute illnessが多かったにも関わらず低Na血症の群でより転倒が多かった(adjusted odds ratioは67、95%CI 7-607)。二つ目の研究は、マイルドな慢性SIADHの患者さんに治療を止めたり再開したりして異なるNaレベルでtandem walkさせたら、低Na時にはふらふらだった。これは、普通の患者さんに約1Lのビールに相当するアルコールを摂取させた群と比べてもずっとふらふらだった。こんな楽しいスタディをするベルギー、私は研修先を間違えたのだろうか…。
この話はスタッフとフェローに好評だった。やはり、皆が知っていることを話しても面白くない。こういう新しい(古きを温めるのも含めて)ことで、臨床診療を変えうることを話すと刺激的だ。実際には私がコンサルトで経験したSIADHの症例を冒頭に挙げて、聴衆が身近に治療選択について考えられるように仕掛けした。論文を批判的に考察する際に"take a grain of salt"(英語の慣用句)と言ったら、低Na血症の話をしていただけに偶然にも受けた。ある先生は"or urea!"と言っていた。おしまい。
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