2012/03/29

見方が変わった

 Grand Roundで、ドイツからの興味深い論文が紹介された(NDT 2007 21 1248)。急性尿細管壊死による急性腎不全により透析(通常透析あるいは持続透析)を必要とした約420の入院患者の予後を調べたものだ。彼らが試したかったのは「急性尿細管壊死では可逆的な腎機能の回復が見込まれる」という仮説だったので、もともと腎機能の悪い人や他の原因による腎不全は除外されている。

 結果、約420人の患者さんのうち47%は入院中に亡くなった。残りの生きて退院できた人達は、一人も透析を必要としていなかった。退院後一年たった調査(98%で追跡することができた)で、退院できた人の33%が亡くなった。一年後の調査で慢性透析導入されていたのはたったの一人だった。なお急性尿細管壊死の原因は60%がischemia、33%が敗血症、7%がnephrotoxinだった。

 著者の結論は「もともと腎機能が正常だった人達が急性尿細管壊死を起こすような重い病気にかかっても、生き残ったならば多くの場合に彼らの腎機能は(透析を必要をしない程度に)十分回復する」というものだ。私の結論は「透析が必要なまでの重症な急性尿細管壊死にかかった人達は、透析が必要なくなるまで腎機能が回復しない限り生きて病院を出ることはない」というものだ。

 多臓器不全の患者さんに集中治療室で透析をまわしながら、予後に関して「腎機能が廃絶しても透析でなんとか生きられる、ただ他の臓器が助からないことには…」と思っていた。でもこの論文を読んで「腎機能が回復する位の人でないと他の臓器の回復も見込まれず、いくら透析で腎臓だけ肩代わりしてもダメ」という見方に変わった。


2012/03/23

感心した

先日のRenal Grand Roundで発表したフェローに感心した。彼女は臨床のなかで生じた疑問、しかも答えが簡単にでない疑問を流してしまわずに、既存のエビデンスを深く解釈して現段階での理解を明らかにした。不確定な領域で息の長い議論を展開する様子は、模範となった。私はついつい答えが分かっているものを学んでそれをおもしろく分かりやすく伝える方に流れてしまうから。

 彼女の疑問は、私も診療に加わったある患者さんから生まれた。患者さんは腎炎でnephrotic-rangeのタンパク尿が出ており、結果として肺塞栓症になった。ここで「ネフローゼ症候群の患者さんに塞栓症のriskが高い」という表層的な知識だけで終わらせないのが彼女の素晴らしいところだ。

 「ネフローゼ症候群のなかでもどれが多いか?」「リスク因子は?」「塞栓症というが肺塞栓、深部静脈塞栓、腎静脈塞栓、軽症から致死的なのまであるがどれが多いのか?」「誰が予防を受けるべきなのか?」など踏み込んだ質問を生み出した。そして新鮮な(2012年の)エビデンスを取って来てこれらの質問を当てはめながら検証した。このように質問に対する答えを探すように論文を読むのは批判的な考察力がつく有益な方法だ。

 このやり方だと、一つ目の論文(KI 2012 81 190)にしてもまずタイトルを読むなり「idiopathic glomerulonephritisっていうがどういうこと?primaryってこと?例えば癌に関係した膜性腎症は除外されたってこと?」という突っ込みが入れられる。論文を読む限り著者は癌の有無に関係なく膜性腎症がFSGS、IgA腎症に比べて塞栓症(PE、DVT、腎静脈塞栓症)が多いと言いたいらしい。

 またこの論文のunivariable analysisでは他にタンパク尿の程度とアルブミン濃度の程度はともにリスク因子であったが、二つ目の論文(CJASN 2012 7 43)では後者のみがリスク因子だった。タンパク尿の程度がリスク因子として統計的に有意でなかったことは、この号の雑誌のeditorial(CJASN 2012 7 3)でも驚きとともに取り上げられていた。

 彼女のパワーポイントスライドは素朴だが、内容がthoughtfulで小手先の仕掛けなどなくても聴衆を引き込む力があった。生のデータをスライド一杯に張り付けるのはフォントが小さくなりスライドがbusyになるので私は嫌いだが、皆が一生懸命みるので内容を吟味するには却って有効なのかもしれない。

 治療方針やエビデンスが確立していない内容を題材にしただけあって、彼女は最後に「皆さんどうしてますか?」と聴衆(スタッフ達)に質問することも出来た。それによってスタッフの経験を聴くことができて有益だった。議論の末にに塞栓予防をしないというinformed decisionをした人が一週間後に致死的な塞栓症で帰ってきたこともあるという。Riskはindividualizeしなければならない。

beta-D-glucan

他科の先生から質問を受けるのはおもしろい。英語で"think out of the box"とは「ありきたりの考えではない、変わった角度や立場からの考え」という意味だが、そんな感じだ。先日も内科ICUで「透析膜によって血中のbeta-D-glucan濃度があがることがあるというが本当か?」という質問を受けた。beta-D-glucanは真菌細胞壁の成分なので、この血中濃度が高い場合には真菌感染を疑うが、speficicではない検査だ。
 調べてみると、なぜか日本の論文ばかり出て来た。一つのabstractを読むと(Nephron 2001 89 15)、話の発端はセルロース由来の材質にはbeta-D-glucanが含まれているということらしい。それでこのグループはセルロース由来の透析膜で透析されている患者さんと非セルロース由来(synthetic polysulfone)の透析膜の患者さんでbeta-D-glucanの濃度を測ったら前者で高く後者で低かった。
 相談をうけた症例ではGambro社のPrismaflexというCVVHDF機械を使っていたが、調べてみると膜の材質はacrylonitrile and sodium methallyl sulfonate copolymerとのことだった。見るからに非セルロース系だ。というわけで、beta-D-glucanは透析膜のせいではなく、他の原因、わけても真菌感染を考えなければならない。こういう話をしていると、自分が医者というか生体工学の人みたいに思える。

captopril renogram

数か月に一回、renovascular grand roundという会があって、腎血管に関するテーマを学ぶことができる。こなだはrenal artery stenosisの話になった。まずエコー(ドップラー)所見について。動脈の収縮期スロープが急なほどよく流れているといえる。数値としてacceleration index(⊿v/⊿t[m/sec^2])があり、3m/sec^2以下が診断の目安だ。

 ほかにはPSV(peak systolic velocity)を調べる。腎動脈基部の流れが大動脈より著しく速い場合には狭窄を疑う(reno-aorto ratio、RAR3.5以上が目安)。しかし超音波はまったく正常なのに実際angiogramをしたら腎動脈が99%狭窄、広げたら腎機能が見違えるように回復したというような例はいくらもある。

 他にCTA、MRA、captopril renogramもあるが、どれも完璧な検査とはいえない。Captopril renogramはこの会で初めて知ったが、おしゃれな検査だ。患者さんにACE阻害薬を内服してもらうと、狭窄があればその腎ではefferent arterioleの収縮が起こらずnephronのfiltering pressureがさがってGFRが低下する。それで検査の感度があがるというわけだ。

2012/03/17

Chimerism

 移植後は、免疫抑制剤を調節して感染症と拒絶反応のはざまで戦わなければならない。それならいっそレシピエントの免疫系をドナーの免疫系にすり替えてしまえば、移植腎に拒絶反応がおこることもなく免疫抑制剤をのまなくてもよくなるのではないか?という考え方がある。

 この場合を、一つの身体に二つのシステムが共存するので、ギリシャ神話の神獣chimeraにあやかりchimerismという。移植腎はいいかもしれないが、ドナーの免疫系がレシピエントの他の細胞をアタックするのではないの?(これをgraft-versus-host disease、GVHDという)という心配もある。

 Bostonのグループの仕事が2008年NEJMに載った(NEJM 2008 358 353)。かなり毒性の強い薬と放射線でレシピエントの骨髄を根絶やしにして、そこにドナーの骨髄を静注する。被験者のレシピエントはみな若く、5人中4人が遅くとも術後一年で免疫抑制剤が要らなくなった。

 残りの1人は、元々PRAが高かった。しかし奇跡的に妹とのcross matchが陰性で腎&骨髄移植に踏み切った。驚くべきことに根絶やしになったはずの本人の免疫系が術後にanti-donor HLA antibodyを作りはじめ、術後10日に免疫性拒絶反応が起きた。血漿交換、ATG、rituximabにも関わらず腎臓は戻らず、その後べつの家族から二回目の移植を受けて腎機能は通常の免疫抑制剤で維持されている。

 そしてこないだやはりBostonのグループの仕事が発表された(Sci Transl Med 2012 4 124ra28)。これはfacilitating-based hematopoietic stem cellという、骨髄由来でCD8陽性だがTCRを欠く細胞を使っている。要するにprecursor dendritic cellのことらしいが、これを使うとtoleranceが導入されやすいらしい。

 ここから先は免疫学の知識がないと何のことやらさっぱりなので、もう少しtransplant nephrologistの先生に学んで帰ってこよう(revisit)と思う。ともかく若くてsensitizeされていないレシピエントで、HLAが1-5/6 matchのliving donor transplantには有効なようだ。ボストンでは治療の一つとして確立されているのかもしれない。

2012/03/11

Cure for hypertension

 Gastric bypass手術をすれば体重が減るだけでなく糖尿病や高血圧の薬がいらなくなる。腎移植をすれば透析が要らなくなるだけでなく、多くの場合に高血圧の薬が減り他の薬も減る。このように手術のほうが内科医の治療なんぞより断然に効果的ということはあるが、ここにまた別の例がある。
 これは正確には手術ではないが、renal sympathetic denervationという治療だ。Ardianという会社(Medtronicsに手付金8億ドル+commercial milestone paymentsで買収されたが)の開発したSimplicityというデバイスは、カテーテルで腎動脈にアプローチしてradiofrequency ablationにより腎にむかう交感神経を遮断することができる。これによりレニン産生の低下、尿細管での体液貯留の改善、血管収縮をおさえるなどの機序で血圧が低下するという。
 実際に欧米、豪州(とNZ)でSYMPLICITY HTN2とよばれる試験が行われ(Lancet 2010 376 1903)、3つの降圧剤(利尿剤を含まなくてもよい)を処方通り飲んでも血圧が下がらない人達にこの治療をしたところが6か月後に収縮期血圧がmeanで32mmHgさがった。衝撃的な結果だ。
 もっともGFRが45ml/min以下の患者さんは除外されているが。副作用として心配された腎機能悪化や腎血管狭窄もみられなかった(1例で腎に関係ない動脈硬化病変の悪化がみられただけ)。2年間フォローアップしたSYMPLICITY HTN1スタディ(Hypertension 2011 57 911)でも、フォローアップの率は少ないながら血圧低下は持続していた。神経が腎臓にまた伸びてくるのではという理論的な懸念は、現実には起きていないようだ。
 米国ではまだ認可されていないが、さっそくSYMPLICITY HTN3スタディが組まれており来年三月にも完了する予定だという。その何年後かに日本でも認可されているかもしれない。この研究グループは成果に自信をもっていて「高血圧はcureできる」と豪語している。そんな日が本当にくるのだろうか。

Oxalate nephropathy

 先日、oxalate nephropathyについての講義があった。講義したのは、なんとレジデント時代の先輩だった(うちのスタッフ枠に応募し、面接の一環で講義していた)。この人は一緒にいた当時は威張ったところがあったが、そのあとMayoで修行しただけあって、レクチャの様子といい質問を受ける様子といい、あふれる知性に謙虚さが同居する様子で、「変わったなあ」と感心した。

 さて内容だ。Oxalateは腸管から吸収される分とendogenousに作られる分がある。腸管からの吸収には脂肪酸、カルシウムなどが関係しているが、それ以外にもSCL26A familyと呼ばれるトランスポーターや、oxalobacter formigenesという細菌などが関係していることが分かった(関係文献:Nature Clinical Practice Nephrology 2008 4 368)。

 Endogenousなほうは、glyoxylateからLDHによってoxalateになる(関連文献:JASN 2001 12 1986)。Glyoxylateはperoxisomeとcytosolのあいだを往き来できるが、peroxisomeではglyoxylateが出来過ぎないように、alanine + glyoxylate → pyruvate + glycineという反応が起きている。これを司る酵素がalaine/glyoxylate aminotransferase(AGXT)で、主に肝臓に存在している。補酵素はvitamin B6。

 Cytosolでも、glyoxylateが全てoxalateにならないようにglyoxylate → glycolateという反応が起きている。これを司るのがglyoxylate reductase(GR)だが、この酵素には他の活性(hydroxypyruvate reductase, HPR)もあって、合わせてGRHPRと呼ばれる。これも主に肝臓に存在している。

 AGXTの異常による高oxalate血症をprimary hyperoxalosis type 1(PH1)、GRHPR異常によるものをPH2という。確定診断には肝生検、DNA検査などが必要になる。治療は、尿路結石がチョコチョコでているうちは支持的でよい(食事、補水、PH1には大量Vitamin B6療法)が、腎機能が低下するとそうではない。

 というのも、PH1、PH2の患者さんではGFRが30ml/minを切ると身体でどんどん作られるoxalateが行く場を失い、どんどん溜まる。これをsystemic oxalosisと言って、calcium oxalateが骨など(基本的に全ての臓器)に沈着し痛み、貧血、神経症状などが起こる。だからoxalateを除くため早期に透析導入する(場合によっては長時間透析や持続透析が必要)。

 腎移植は成績が良くない、というのも身体中にcalcium oxalateが大量に溜まっている限り、そして酵素異常のために肝臓がどんどんoxalateを作り続ける限り、せっかく移植した腎もすぐさまoxalate nephropathyに掛かってしまうからだ。なので肝腎同時移植が推奨される。oxalateの血中濃度が戻るには時間がかかるので、大量の輔液とalkali citrateで腎を洗い流す必要がある。


[2020年1月6日追記]高シュウ酸血症には二次性もあり、脂肪酸やbile saltが吸収されない患者さんではenteric hyperoxaluriaが起こりcalcium oxalateの結石ができやすい。カルシウムが脂肪酸に捕捉されてそのまま吸収されずに流出してしまうことと、小腸(回腸末端)で吸収されずに流れてきたbile saltにより大腸の小分子透過性が亢進することが主因という。

 ・・そしてそれが、NEJMの人気コーナー、"Clinical Problem Solving"の先週号で取り上げられた(doi:10.1056/NEJMcps1809996)から、もはや世界の常識になってしまった(写真はテネシーでデビューしたガーナ出身の歌手・Ruby Amanfuによる1998年のファーストアルバム、"So Now The Whole World Knows")!




 症例は、ベースのCrが1.4mg/dlだった55歳女性が、数日間の食思不振や倦怠感のため受診したところ、Cr 11.8mg/dlであったという。腎前性・腎後性腎障害を除外されたあと、CVVHDFを行いながら腎生検したところ、シュウ酸カルシウム結晶がメザンギウムに沈着し、周囲に軽度の炎症を伴っていた。

 それだけなら非特異的だが、BMIが43kg/m2で、数ヶ月前から肥満治療薬・オルリスタット(リパーゼ阻害薬、日本では未承認)を開始された病歴が鍵になった。

 さらに、尿中シュウ酸排泄が1.06mmol/d(正常値は0.04-0.5)なこと、一次性高シュウ酸血症を疑わせる代謝異常がみられず(尿中glyoxalate・glycerate・hydroxy-1-oxoglutarateは正常)、遺伝子異常もみられなかった(上記のAGXT・GRHPRだけでなく、PH3の原因遺伝子HOGA1も正常)ことから、二次性の診断にいたった。

 本例はオルリスタットを中止してビタミンB6を投与したが腎機能は戻らず、腹膜透析依存となった。オルリスタット投与開始後は頻回に腎機能をフォローするなどの予防・早期診断が望まれる。さらに知りたい方は、レビュー論文(NDT 2016 31 375、World J Nephrol 2015 4 235など)も参照されたい。


 ・・それにしても、タイトルを"When the Cause Is Not Crystal Clear"とつけるあたり、アートだ(こちらも参照)。Cで頭韻を踏み、さらにクリスタル・クリア(とても明らかなことを意味する英語イディオム、下図も参照)と、結晶のクリスタルを掛けている。さすが、英国の著者だ。


(出典はこちら


2012/03/04

Transplant ID 2/2 後編

BKウイルスは、90%以上の人達が小さい時に感染するが、その後は(どういうわけか)腎臓でアリエッティのようにこっそり暮している。宿主の体調が悪い時などにひそかに血中や尿中にでてくることもあるが、asymptomatic sheddingとよばれ問題を起こすことはまずない。

 しかし免疫抑制が強すぎると、BK nephropathyといって腎臓が冒され、病理学的にはmarked nuclear enlargement in tubulesやinflammatory infiltratesを起こす。こうなると、70%の場合に移植腎の機能が失われる。

 もっとも個人差があるのでこの薬をどれだけ飲んだらダメとかは言えないのだが、高リスクなのは高齢の男性だ。治療は①に免疫抑制を弱める、②にcidofovir(しかしこの薬には腎毒性がある)、③にleflunomide、④にfluoroquinolone、それにIVIGを使うこともある。

 移植患者の汎血球減少は、臨床上とてもよく遭遇するが、ウイルス(CMV、HHV-6、parvovirus B19、West Nile Virus、etc)と薬剤(MMF、ST合剤、gancyclovir、sirolimus、interferon、etc)の他にもPTLD、fungal infection(histoplasmosis)などを考えなければならない。

 Histoplasmosisは、なぜか頚部痛や髄膜症状を呈することが多く、しばしば腰椎穿刺でCSF analysisをしなければならないらしい。鏡検ではnarrow-based budding yeast(coccidiomycosisがbroad-basedなのと対照的)。治療後、経験的にいわば"fungal lysis syndrome"とでも言うべきサイトカイン血症をきたすそうだ。

Transplant ID 2/2 前編

移植後感染症に関するレクチャ・後編があり、CMV、BKウイルス、そして汎血球減少症について習った。量が多いからまずCMVについて記す。CMVはより強い免疫抑制を要する膵腎・心・肺移植などで頻度が高いが、腎移植後の患者にも起こる。donorからもらう場合、recipientの既感染が再活性化する場合があり、donorとrecipientのstatusによってimmunoprophylaxisの種類と期間が異なる。

 より問題になるのはdonor statusで、donorがCMV(+)ならrecipientが陽性であれ陰性であれハイリスクと考えられ、うちの施設ではvalganciclovirを三か月にacyclovir 800mg QIDを三か月投与する。Donor(-)でRecipient(+)ならacyclovir 800mg QIDを三か月投与する。Donor(-)/Recipient(-)が低リスク群で、HSVのprophylaxisにacyclovir 200mg BIDを三か月投与する。

 さてCMVの感染症にも程度があって(英語ではspectrumというが)、症状のないウイルス血症で終わることもあれば、各臓器を障害したり、disseminated infectionをきたすこともある。肝移植患者には肝障害を、肺移植患者には肺臓炎を起こすなど、immuno-milieu(CMVが好む免疫学的な環境)があるようだ。だが症状として最もおおいのは胃腸炎、下痢である。

 さらにCMVは、このような直接の障害を起こすだけでなく、immunomodulation、すなわち免疫系を狂わせて間接的に他のウイルスに掛かりやすくしたり、移植臓器の機能不全(rejection)を起こしたり、あるいはPTLDに掛かりやすくしたりする(CMV感染に掛かるとPTLDのリスクが7倍上がるという)。

 治療は、①に免疫抑制を少なくする、②に抗ウイルス剤(経口valganciclovirは、 L-valyl ester of ganciclovirでbioavailabilityが高いので、IV gancyclovirとほぼ同等に効く)、③にIVIG。抗ウイルス剤を2-3週間投与して、maintenance therapyに切り替えて、そこからどうするかは一定した治療ガイドラインがない。大体の場合、血中のCMV PCRが陰転化して1-2か月でやめるらしい。

2012/03/03

Transplant ID 1/2

移植後の感染症に関するレクチャ・前編があり、移植後の各時期における注意事項を習い、そのあと各論を習った。総論では、①移植後4週間まで、②移植後6カ月まで、③移植後6カ月以降におおまかに分けて考えた。①ではtechnicalな問題(手術に伴うもの)、nosocomialな問題(院内感染など)、ドナー臓器の感染(contamination)、それにレシピエントの移植前からの感染症などが問題になる。

 ②はもっとも免疫抑制が掛かる時期なので、opportunisticな感染、それに①のようなドナー側にあった感染やレシピエントに元々あった感染のrelapseが問題になる。具体的にはCMV、EBV、HSV、肝炎ウイルス、HHV6-8、JCウイルス、BKウイルス、ヒストプラズマ、coccidiomycosis、TB、pneumocystis、トキソ、アスペルギルスなどだ。③は、安定期と言えるが、患者さんの全身状態が悪かったり、拒絶反応に伴う治療などで重度の免疫抑制を要したりすると②のような問題がでてくる。

 さて、免疫抑制患者は上述のような変わった病原体にしか掛からないのかと言うとそんなことはない。免疫抑制患者に最も多い肺炎はcommunity-acquired pneumoniaである。そしてしばしば重症で治りにくい。肺炎球菌について調べた人がトロントにいて(Am J Transplant 2007 7 1209)、invasive pneumococcal diseaseのincidenceは移植患者で146/100,000 person/yr、一般の人々の間では11.5/100,000 person/yrだからとても多い。

 免疫抑制患者が感染症にかかりやすいのは無論だが、すべての症状が感染症によると決めつけてはいけない。感染性の肺炎とおもったらsirolimusによるinterstitial pneumonitisだった、ということもある。下痢にしても、感染(C diff、CMV、bacterial、cryptosporidium、viral gastroenteritis、UTIなど)だけでなく、薬剤によるもの(MMF、tacrolimus、sirolimus、antibiotics)や他の原因(PTLD、GVHD、IBD、etc)を考えねばならない。

 なお尿路感染症が下痢を起こすのはとくに腎移植患者にみられ、これは移植腎が結腸に近いため炎症が波及しやすいからと考えられている。Cryptosporidiumは検査を何度も繰り返さないと見つからない場合があり、治療にはnitazoxanideを用いるがしばしば難治性で苦労するらしい。

膵は生きている

 23年前に膵腎同時移植をしたが、数ヶ月前に移植腎の機能が廃絶して透析導入になった人の膀胱に1リットルの液体が溜まっていた。膀胱カテーテルを挿入すると、水のような液体が一日に3Lもでる。じつは腎臓がはたらいているのか?しかし透析をしなければ血液中に老廃物が確実に溜まって行くので、そんなはずはない。

 指導医がさりげなく尿アミラーゼを測ると非常な高値で、23年前の移植は膵を膀胱につなげる術式だったことがわかった。これは合併症が多く、いまでは廃れて膵を腸につなげる術式に代わられている。しかし一日3リットルも膵液が出るか?少しは尿なのか?と思って尿電解質とクレアチニンを調べてみた。

 すると尿クレアチニン[2017年7月追加:ここの記載、書きかけだったのか失われてますご了承ください]。以後この膵液量を日々観察すると、患者さんが絶食の時には少なめ(800-1000ml)、食べている時には多いなど、膵液らしい振る舞いをした。尿と混ざらない純粋な膵液が膀胱にたまると、膀胱が消化されてしまう心配があるので残尿(尿じゃないので「残尿」と言うのも変だが)がたまらないように注意した。